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2016年(平成28年)1月22日、東京赤坂見附のホテルニューオータニのこぢんまりした一室で開かれた田原塾の新年会を兼ねた今年初めの講話を加筆して記す。
1.はじめに
中小企業庁が発表している『中小企業の経営指標』(同友館)、『中小企業の原価指標』(同友館)の損益計算書、財務諸表の数値を使って、私は店舗の売上高に対する家賃割合についての研究論文を発表した(『Evaluation』創刊号p46、「売上高に対する家賃割合」清文社 2000年8月)。
巷間、飲食店の家賃は「売上高の10%〜12%」といわれているが、その論文で、
レストラン 11.1%
中華料理 10.4%
そばうどん 13.0%
鮨 10.7%
の家賃割合を理論的に導き出し、経験則の歩合家賃割合を証明した。
「一日の売上高が家賃」(1ヶ月の稼動日を26日とすると1÷26=3.8%)という業種は、肉屋、魚屋、八百屋といった毎日の食生活に欠かせない店舗であった。これも経験則で巷間いわれている業種と一致した。
以下で、その求め方を説明する。
2.家賃割合の求め方
上記店舗の売上高に対する家賃割合をどの様にして求めたのか。
その求め方を、前記論文の内容を簡略化して説明する。
代表業種分析として、野菜・果実小売業とした。
使用したデータは、中小企業庁が調査発表している『中小企業の原価指標』平成12年版(『原価指標』とする。)、『中小企業の経営指標』平成12年版(『経営指標』とする。)(中小企業診断協会、株式会社同友館、平成12年3月)によった。
@ 野菜・果実小売業の損益計算書
『原価指標』P356の損益計算書(原価及び構成比率表)は次のごとくである。健全企業11社の平均値のデータである。
区分
|
原価額千円
|
構成割合%
|
(売上原価)
|
|
|
売上原価
|
94666
|
73.5
|
|
|
|
(販売費)
|
|
|
販売員給料手当
|
9690
|
7.5
|
支払運賃
|
545
|
0.4
|
支払荷造費・荷造材料費
|
418
|
0.3
|
支払保険料
|
0
|
0
|
車輌燃料・修理費
|
453
|
0.4
|
販売員旅費・交通費
|
118
|
0.1
|
通信費
|
254
|
0.2
|
広告・宣伝費
|
799
|
0.6
|
その他販売費
|
1311
|
1
|
小計
|
13588
|
10.5
|
|
|
|
(管理費)
|
|
|
|
|
|
役員給料手当
|
5971
|
4.7
|
事務員給与手当
|
1863
|
1.4
|
福利厚生費
|
1732
|
1.3
|
減価償却費
|
1093
|
0.9
|
交際・接待費
|
478
|
0.4
|
土地・建物賃借料
|
2548
|
2
|
保険料
|
295
|
0.2
|
修繕費
|
174
|
0.1
|
光熱水道料
|
979
|
0.8
|
支払利息割引料
|
346
|
0.3
|
租税公課
|
690
|
0.5
|
従業員教育費
|
59
|
0
|
その他管理費
|
1908
|
1.5
|
小計
|
18136
|
14.1
|
|
|
|
総計
|
126190
|
98.1
|
|
|
|
利益
|
2392
|
1.9
|
|
|
|
売上高
|
128582
|
100
|
A 選択データ値
上記損益計算書より、分析に必要な次の数値・割合を選択する。
イ、売上高
売上高は128,582千円である。
ロ、減価償却費
建物、設備資産の減価償却費である。建物の減価償却費が必要であるが、それのみの分析は行われていないため、設備資産を含める減価償却費のデータ採用する。あとで設備資産を分離するために一工夫する。
0.9%
ハ、賃借料
損益計算書の表示は「土地・建物の貸借料」とあるが「賃借料」と呼ぶことする。
土地もしくは建物の賃借料あるいは機械装置のリース料の金額である。
個々別々の企業の損益計算書では、賃借料は何の賃借料であるか分かるが、『原価指標』では何の賃借料であるか分からない。
ある企業は地代であったり、ある企業は家賃であったり、ある企業は設備リース料であったりする。
データ企業の全てが借地の企業ばかりとは考えにくい。また設備のリースばかりとも考え難い。賃借料の中心は家賃であろうと思われる。
しかし、データ企業の全てが借家企業であるとは考え難い。借家企業もあろうが、過半以上は自用企業であろうと思われる。賃借料は借家企業が負担する家賃であろう。
借家の場合、建物の減価償却費は生じない。それ故、借家の場合、賃借料を減価償却費相当及び借家企業の固定資産税・都市計画税と考える。
2.0%
ニ、保険料
建物の火災保険料とみなす。 0.2%
ホ、租税公課
土地・建物の固定資産税・都市計画税である。
利益が出ている場合には事業税が入っている可能性があることから、健全企業で計上されている租税公課の額は採用せず赤字企業の租税公課の額を採用る。その額を健全企業の売上高で除して、租税公課の売上高に対する割合を求める。
モデル業種の欠損企業の租税公課は1,066千円である。(『原価指標』P356)
租税公課の割合は、
1,066
────── = 0.8%
128,582
である。
B 必要諸経費
減価償却、賃借料、保険料、租税公課を野菜・果実小売業の土地・建物の「必要諸経費」とする。
0.9%+2.0%+0.2%+0.8%=3.9%
金額は
128,582千円×0.039=5,014千円
である。
C 原価・管理費割合
野菜・果実小売業の原価と、商売を行っていくための管理費の売上高に対する割合である。
73.5%+14.1%=87.6%
D 家賃
野菜・果実小売店舗の場合、128,582千円の売上高を得るためには、原価・管理費として、それの87.6%の金額を使っている。
その売上高を生み出すために使われている土地・建物の必要諸経費は、5,014千円の金額である。
野菜・果実小売の原価・管理費は、売上高の87.6%であり、その売上高を得るために使われている土地・建物も、その業種に使われているからには、その種の原価・管理費割合の中で売上高に貢献していると考えられる。
その貢献額が家賃であり、必要諸経費5,014千円を0.876で除せば、貢献する額即ち家賃が求められる。
5,014千円÷0.876=5,723千円
この家賃は、償却資産も含めた店舗の家賃である。そのため償却資産を控除する必要がある。
前記『経営指標』のP635に、野菜・果実小売の貸借対照表がある。健全企業1社の資産の部の固定資産の項に次の数字がある。
土地・建物 23,946千円
設備資産 6,190千円
設備資産とは償却資産である。
土地・建物と設備資産を合計した金額に対して占める土地・建物の割合は、
23,946
──────── =0.795
23,946+6,190
である。
先に求められた償却資産を含む家賃に、土地・建物の占める割合を乗ずる。
5,723千円×0.795=4,550千円
求める家賃は4,550千円である。
E 家賃割合
求められた家賃は4,550,000円である。
売上高は128,582,000円である。
家賃割合は
4,550,000
──────── =0.0354≒0.036
128,582,000
3.6%である。
野菜・果実小売店舗の売上高に対する家賃割合は、上記分析によって3.6%と求められた。
3.家賃割合の一覧表
上記と同じ分析によって求められた他の業種の売上高に対する家賃割合の分析結果を、『Evaluation』創刊号より以下に転記する。
業 種 家賃割合 %
スーパーマーケット 2.7
コンビニエンスストア 2.0
呉服服地小売 5.1
寝具小売 5.3
男子服小売 8.9
婦人子供服小売 6.6
靴小売 6.4
洋品雑貨小売 6.7
酒小売 2.9
食肉小売 3.6
鮮魚小売 3.5
野菜果実小売 3.6
菓子パン小売 7.0
米穀小売 1.5
自動車小売 2.2
自動二輪車小売 6.9
自転車小売 7.3
家具小売 5.6
家庭用電気器具小売 3.5
医薬品小売 4.0
化粧品小売 6.8
ガソリンスタンド 2.3
書籍雑誌小売 4.2
紙文房具小売 3.3
スポーツ用品小売 6.2
玩具娯楽用品小売 6.0
レコード楽器小売 7.0
カメラ写真材料小売 6.8
時計貴金属小売 8.1
メガネ小売 10.9
花小売 4.2
木材小売 3.6
建築材料小売 1.4
レストラン 11.1
中華料理 10.4
そばうどん 13.0
鮨 10.7
料亭 9.3
クリーニング 8.1
理容 11.1
美容 10.6
写真現像焼付 7.8
旅館 11.8
ホテル 12.3
映画館 11.8
4.小売店舗の家賃割合は5%
小売店の家賃割合は、平均何%であろうか。
上記分析の家賃割合のうち、小売店を抜き出して平均を求めると、5%となる。下記である。
コンビニエンスストア 2.0
呉服服地小売 5.1
寝具小売 5.3
男子服小売 8.9
婦人子供服小売 6.6
靴小売 6.4
洋品雑貨小売 6.7
酒小売 2.9
食肉小売 3.6
鮮魚小売 3.5
野菜果実小売 3.6
菓子パン小売 7.0
米穀小売 1.5
自動車小売 2.2
自動二輪車小売 6.9
自転車小売 7.3
家具小売 5.6
家庭用電気器具小売 3.5
医薬品小売 4.0
化粧品小売 6.8
ガソリンスタンド 2.3
書籍雑誌小売 4.2
紙文房具小売 3.3
スポーツ用品小売 6.2
玩具娯楽用品小売 6.0
レコード楽器小売 7.0
カメラ写真材料小売 6.8
時計貴金属小売 8.1
メガネ小売 10.9
花小売 4.2
木材小売 3.6
建築材料小売 1.4
平均 5.0
(2016年1月22日開催の田原塾講話テキストに加筆して)
鑑定コラム18)「店舗売上高と家賃割合」
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