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1581)借入金割合と金利で求める利回りに疑問あり

 還元利回り、期待利回りを、借入金割合と借入金利で求める方法がある。

 その求め方で求められた利回りで、価格や賃料を求めた鑑定書を多く見かける様になった。

 それは、次の様な利回りの求め方である。

 算式は、

      (借入金比率×借入金利)+(自己資金×自己資金期待利回り)
である。

 例えば、数値を次のごとくとする。

 借入金比率(割合)を60%とする。

 自己資金比率(割合)は、40%(100%−60%=40%)となる。

 借入金利を3%とする。

 自己資金期待利回りを5%とする。

 上記数値を算式に代入すれば、還元利回り、期待利回りは、次の通り求められる。

    (60%×3%) + (40%×5%) = 3.8%
 
 3.8%として、利回りが求められる。

 この3.8%で純賃料を割れば、収益価格が求められる。

 基礎価格に3.8%を掛ければ、純賃料が求められる。この純賃料に必要諸経費を加えれば、家賃(積算賃料)が求められる。

 この様にして、価格、賃料が求められるのである。

 私は、こうした借入金割合と借入金利で求める還元利回り、期待利回りの求め方に、甚だしく疑問を持つ。

 私は、利回りは、その不動産が所在する地域の地域要因(地価水準、賃料水準を含む。以下同じ)そして土地建物の個別性等が反映されて形成されるものであり、地域要因、個別性の要因を抜きにしては形成されるものではないと思っている。

 上記借入金割合と借入金利等で決められる利回りには、その不動産の所在する地域要因、個別性が全く反映されない。

 その求められる利回りは、日本全国どこでも同じであり、どんな地域に所在する不動産でも同じである。どんな賃料水準の地域でも同じである。どんな地価水準の地域でも同じである。

 そうした地域要因、個別性を無視して、地域要因、個別性が強い不動産の価格や賃料を求めるべきでは無いと、私は思う。

 ある貸ビルが、7.8億円で求められている不動産鑑定書があった。それは収益価格を採用した価格であった。

 還元利回りは、借入金割合、借入金利等の前記の例で示したものと全く同じやり方と数値で、3.8%と求められていた。

 その貸ビルの年間収入は3500万円である。

 中古ビルであり、経済的残存耐用年数は10年であった。

 必要諸経費は、525万円である。

 純収益は、

    
      3500万円−525万円=2975万円

である。

 では、この求められた不動産価格78000万円を是として、その不動産価格の60%を借入金とし、金利を3%として、78000万円が適正であるかどうか検討する。

 78000万円の金額は、3.8%の還元利回りで求められたものであり、その3.8%の利回りは、購入金額の60%を借入金とすると云って求められた利回りである。

 購入金額は、求められた78000万円となることから、借入金は、その60%ということになる。

 借入金60%の金額は、

               78000万円×0.6=46800万円

46800万円である。

 借入期間は、残存経済的耐用年数から、10年とする。

 金利は3%である。

 借入金(元金)と金利の返済は、住宅ローン返済でよく使われる元利均等償還とする。

 金利3%、期間10年の元利均等償還率は、0.11723である。

 これは金利3%、返済期間10年で、1円借りたら、毎年払う金額は0.117円ということである。

 本件の借入金60%46800万円を、元利均等で10年間で支払い終えるための毎年の支払額は、

           468,000,000円×0.11723=54,863,640円≒54,860,000円

である。

 ここで、78000万円と求めた鑑定書に戻る。

 その鑑定書の純収益(運営収益)は、2975万円である。

 上記純収益2975万円は、元利均等支払額である5486万円に満たない金額である。

 つまり、年間純収益で、借入金元金と金利を支払うことが出来ない。

 賃料総収入は、3500万円である。賃料総収入の金額ですら、借入金元金と金利が返済出来ないのである。

 この鑑定書では、何処の金融機関から借入を考えているのか知らないが、都市銀行では46800万円を貸し出さない。

 別の金融機関が貸し出したとしても、返済が滞ることから、2年目で設定抵当権による強制債権回収の法的処置がなされ、競売に付されることになる。

 借入金60%、金利3%から求められた3.8%の還元利回りは、借入金が返済出来ない事態を招くという甚だしく杜撰な想定の還元利回りということになる。

 その様な還元利回りで求められている収益価格及び鑑定評価額をいくら適正であると云っても、適正と認められないであろう。

 借入金割合、借入金利から求める還元利回りは、その設定条件で借入した場合、借入金が返済出来ない事態を招くことも有り得る。

 こうした求め方は、止めた方が良い。

 当該鑑定書の物件が裁判案件であり、代理人弁護士から、法廷あるいは準備書面で、次のごとく詰問されたらどうする。

 「鑑定書は、借入金割合を60%、借入金利3%として、還元利回りを3.8%と求め、その還元利回りで本件土地建物の価格を78000万円と鑑定評価した。

 借入金割合60%の金額は、金利3%で10年で返さなければならない。

 その年間返済の元利均等額は、対象賃貸ビルの年間賃料収入を遙かに超える金額である。

 これでは借入金を返済出来ない。

 鑑定評価は、売買する価格を求めるものである。

 78000万円では、購入した人は、不動産鑑定士が設定した条件では借入金の返済が出来ない。

 借入金が返済出来ないとなれば、その金額で購入することを止める。

 つまり、78000万円の金額は、売買出来ない不当に高い金額ということになる。

 これは、借入金割合60%、金利3%という設定が間違っていることである。そもそも借入金割合と借入金利とで、本件土地建物の還元利回りを求めることが間違いである。

 鑑定評価額は著しく不当である。」

 この様に代理人弁護士に、裁判の法廷で指摘され、鑑定評価額に疑義が出されたらどうする。

 借金も資産の内とは云うが、それは返済出来ることが充分見込める場合の話で、返済出来ないほどの借金の資産を含めて適正な鑑定評価額と云うことは無理であろう。


  鑑定コラム19)
「還元利回りの求め方」

  鑑定コラム270)「ススキノの利回り22%」

  鑑定コラム1523)「丸ビルの還元利回りは2.51%(28年3月)」


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