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1580)裁判を混乱させる収益・経費両方計上の空室損失

 店舗賃貸ビルの不動産鑑定書があった。価格の妥当性で、当事者は、双方代理人弁護士を立てて争っている。

 その不動産鑑定書は、積算価格と収益価格とが求められていた。

 賃貸不動産であるから決定価格は、収益価格が採用されていた。

 その収益価格に、2つの収益価格があった。

 直接還元法(永久還元法、以下同じ)の収益価格と、DCF法の収益価格である。

 直接還元法の収益価格とは、初年度の純収益を還元利回りで除して求める価格である。

 DCF法の収益価格は、各年の純収益を割引率(ほぼ還元利回りの値に同じ)を使用して、価格時点に割り戻した現在価値の総和である。

 直接還元法、DCF法いずれの収益価格も、価格算出のデータである賃料データは、純収益と必要諸経費に分かれる。

 必要諸経費の項目は、直接還元法、DCF法いずれの手法による場合でも、同じで無ければならないが、その不動産鑑定書では驚くべきことがなされていた。

 直接還元法の必要諸経費には、空室損失として500,000円が費用計上されていた。

 DCF法の必要諸経費には、空室損失は必要諸経費には計上されていなかった。その代わり、運営収益(純収益)の項目に、空室損失として500,000円がマイナス計上されていた。

 つまり、下記である。

  直接還元法・・・経費に計上
  DCF法・・・・・ 経費に計上しない。収益の項目にマイナスとして計上

 同じ空室損失が、同じ不動産鑑定書で、ある時には経費項目に、ある時には収益項目に計上して扱われている。

 当然、求められている2つの収益価格の必要諸経費は異なる。

 当事者に質問すれば、どちらに計上してもプラス、マイナスの違いに過ぎなく、結果として求める純収益は同じになるから良いでは無いかという主張が返って来るであろう。

 しかし、その考え方は間違っている。

 結果の純収益が同じであるから良いではないかと云うものでは無い。

 当該鑑定書を読む裁判官、代理人弁護士は、目を白黒させる。

 裁判官は、次のごとく思うであろう。

 「直接還元法とDCF法とで、必要諸経費が異なっているではないか。

 同じビルの必要諸経費が異なることはおかしいでは無いか。そんなことは無いであろう。

 理解が困難である。

 手法によって必要諸経費が異なるという考え方そのものが、おかしいでは無いか。

 この鑑定書そのものが信用出来ない。」
 
 代理人弁護士は云うであろう。

 「不動産鑑定士は分からない求め方をする。

 専門家の判断であるから尊重したいが、こんな求め方を尊重する訳には行かない。こうした求め方が不動産鑑定業界で正当の求め方として認知され、罷り通っているのか。」

 不動産鑑定評価基準では、各論第3章の必要諸経費の項目の中に、空室損失は入っていない。空室損失は、運営収益の項目に計上されている。(26年改正鑑定評価基準国交省版P59)

 一方、総論第7章では、必要諸経費の項目には空室損失が入っている。(26年改正鑑定評価基準国交省版P33)

 鑑定評価基準そのものが、各論と総論で空室損失の計上扱い方が異なっており、混乱をきたしている。混乱の原因は、鑑定評価基準にあり、話にならない。

 私は前から、空室損失は経費ではない。収益項目の売上高の修正要因として考えるべきものと主張して来た。

 その理由は、賃料の必要諸経費は、賃料収入を得るための必要とする経費である。

 収益に対する費用性という性質を持つものである。

 公租公課や修繕費は、賃料収入に対する費用性がある。

 空室損失に賃料収益に対する費用性があるのであろうか。

 空室損失には賃料収益に対する費用性という性質は無い。それ故、空室損失は必要諸経費の項目にはならない。

 空室損失が必要諸経費であるとすると、空室が増えれば増えるほど必要諸経費が増えることから、それに伴い賃料は高くなることになる。

 現実にその様なことが生じていることは無い。

 空室が増えれば賃料収入が減ることから、賃料を減額してでも収入を得ようとする。

 しかし、本コラム記事に取り上げたごとく、未だに空室損失を必要諸経費に計上して価格を求める鑑定書がある。

 なお驚くことは、同一人が同じ鑑定書の中に、2つも行う必要性も無いにも係わらず、2つの収益価格を求め、一方は経費に空室損失を計上し収益価格を求め、他方では収益に空室損失を計上して収益価格を求めている。

 同一人が相矛盾することを行っている。

 その様な鑑定を適正な鑑定と云うことは出来ないであろう。

 この鑑定書によって、裁判は混乱し、不動産鑑定士の信用はガタ落ちである。

 求め方が間違っていると指摘すると、間違い無く、「私は鑑定評価基準に則って鑑定評価しており、間違っていない。間違いと云う方が鑑定評価基準違反の考えである。」と、自分の鑑定の正当性を主張するであろう。しかしこの主張が果たして通るであろうか。

 現行鑑定評価基準の空室損失の扱いは、裁判を混乱させ、不動産鑑定士の信用を失墜させるだけである。

 国交省土地鑑定委員会、国交省地価調査課、日本不動産鑑定協会連合会は、この様な収益価格を求めることを許す鑑定評価基準をこのままに放置しておいて、何の利益があるだろうか。マイナスが増加するだけでは無かろうか。

 早急に鑑定評価基準の改正を求む。




**** (追記) 2016年12月14日 午後9時50分

 このコラムを書いてると、びっくりするニュースが飛び込んで来た。

 今日本で、サッカークラブチームのW杯の試合が行われている。

 欧州の優勝チームと南米の優勝チームが世界一を決めるとして、トヨタが日本で主催していたトヨタ杯が、その後6大陸の優勝チームの大会に変わった。

 日本は開催国枠で、鹿島アントラーズが出場している。

 今迄出場枠で出ても2回戦でことごとく負けていたが、今回鹿島が南米代表のナシオナル・メデジン(コロンビア)を3-0で破ったと云うニュースが、この原稿を書いている最中に、私の耳に飛び込んで来た。

 鹿島アントラーズ良くやった。小笠原満男苦労が実った、素晴らしいぞ。

 決勝は、レアル・マドリード(スペイン)とクラブ・アメリカ(メキシコ)の勝者が、アントラーズと対戦することになる。

 恐らくレアル・マドリードが、アントラーズの対戦相手になるであろう。

 鹿島は、ジダンが監督で、クリスチアーノ・ロナウドが率いるチームと世界一を争うことになる。

 日本のサッカーは、そこまで強くなった。


****追記 2016年12月23日 クラブワールドカップの結果について
 クラブワールドカップの結果については、鑑定コラム1582)「柴崎あっぱれ レアル・マドリードから2ゴール」に、記事にしてあります。

  鑑定コラム1133)
「何度言えばわかるであろうか 空室損失は経費では無いと」

  鑑定コラム184)「空室損失は家賃の必要諸経費なのか」

  鑑定コラム347)「『不動産鑑定評価基準』はダブルスタンダードなのか」

  鑑定コラム579)「空室損失は経費ではない」

  鑑定コラム589)「平成22年地価公示から空室損失・共益費は収入項目に」

  鑑定コラム1242)「これが改正鑑定評価基準なのか」

  鑑定コラム1582)「柴崎あっぱれ レアル・マドリードから2ゴール」


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