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1.はじめに
賃貸マンションを経営していく場合の、公租公課、維持管理費等の必要諸経費はどれ程であろうか。
賃料収入に占める必要諸経費の割合について考察する。
2.必要諸経費とは
必要諸経費とは、賃貸目的の不動産が賃貸収入を得るために必要とする諸経費をいう。収入に対応しないものは、経費にはならない。
賃料の鑑定評価においての必要諸経費として『不動産鑑定評価基準』は、次の7つを規定している。
イ,減価償却費
ロ,公租公課
ハ,修繕費
ニ,管理費
ホ,火災保険料
ヘ,空室損失
ト,貸倒引当金
空室損失、貸倒引当金は、収入に対応するものでないことから、必要諸経費にはならないが、改正鑑定評価基準(26年改正鑑定評価基準国交省版P33)は、今回も経費として載せていることから、止むを得ず載せるが、実務の処理では、両項目ともゼロ円計上としている。
3.データ
Jリートに賃貸マンションに特化した投資法人の一つとして、日本賃貸住宅投資法人(東京都港区新橋6丁目16番12号、山根正喜代表執行役員)がある。
賃貸マンションに特化しているその投資法人の有価証券報告書のデータを援用して分析する。投資法人の決算は6ヶ月ごとである。
日本賃貸住宅投資法人の平成28年3月期、9月期合算の総売上高は、160.7億円で、そのうち主力の賃貸料収入は、138.3億円である。
ワンルームマンション、ファミリーマンションの賃貸が中心で、所有賃貸マンションの棟数等は、下記である。平成28年9月期末現在である。
所有棟数 197棟
賃貸可能戸数 13,151戸
賃貸可能面積 532,423.84u
総資産 223,278百万円
4.日本賃貸住宅投資法人の売上高等
投資法人の決算は、先に述べたごとく6ヶ月毎である。
直近の2期(平成28年3月期、平成28年9月期)の損益計算書より、事業収益と事業費用を記す。下記である。
|
平成28年3月期
|
平成28年9月期
|
合計
|
賃貸料収入に対して
|
A 賃貸事業収益
|
千円
|
千円
|
千円
|
|
賃貸料
|
6843661
|
6987641
|
13831302
|
|
共益費
|
440454
|
458549
|
899003
|
|
駐車場収入
|
293635
|
299700
|
593335
|
|
附帯収入
|
56436
|
54469
|
110905
|
|
その他賃貸事業収入
|
309536
|
333459
|
642995
|
|
計
|
7943722
|
8133818
|
16077540
|
|
|
|
|
|
|
B 賃貸事業費用
|
|
|
|
|
物件管理委託費
|
470924
|
473821
|
944745
|
0.068
|
公租公課
|
446281
|
504610
|
950891
|
0.069
|
水道光熱費
|
156666
|
143163
|
299829
|
0.022
|
修繕費
|
309126
|
397175
|
706301
|
0.051
|
保険料
|
20067
|
19484
|
39551
|
0.003
|
営業広告費等
|
210566
|
215622
|
426188
|
0.031
|
信託報酬
|
98543
|
76473
|
175016
|
0.013
|
減価償却費
|
1668207
|
1715666
|
3383873
|
0.245
|
その他賃貸事業費用
|
74956
|
80653
|
155609
|
|
計
|
3455336
|
3626667
|
7082003
|
|
|
|
|
|
|
C 賃貸事業損益(A−B)
|
4488386
|
4507151
|
8995537
|
|
5.各項目経費の売上高に対する割合
必要諸経費の各項目費用の賃料収入に対する割合を求めてみる。
@ 物件管理委託費
944,745千円
───────── = 0.068
13,831,302千円
A 公租公課
950,891千円
───────── = 0.069
13,831,302千円
B 水道光熱費
299,829千円
───────── = 0.022
13,831,302千円
C 修繕費
706,301千円
───────── = 0.051
13,834,302千円
D 保険料
39,551千円
───────── = 0.003
13,831,302千円
E 営業広告費
426,188千円
───────── = 0.031
13,831,302千円
F 信託報酬
175,016千円
───────── = 0.013
13,831,302千円
G 減価償却費
3,383,873千円
───────── = 0.245
13,831,302千円
まとめると、下記である。
物件管理委託費 6.8%
公租公課 6.9%
水道光熱費 2.2%
修繕費 5.1%
保険料 0.3%
減価償却費 24.5%
賃貸マンションの賃料収入に対する各項目経費の割合は、利用価値があると、私は思う。
a 公租公課は6.9%であるから、土地の固定資産税・都市計画税が7%になったら、それは健全な賃貸マンション経営が出来なくなると判断される。
6.9%は土地のほかに建物の公租公課も含まれていることから、土地だけの公租公課が賃料収入の7%になったら、その土地固定資産税の課税額はおかしいと云うことになろう。
土地の固定資産税は高すぎるのでは無いのかと云って、区市の固定資産税課に対して、不服申立の有力な根拠資料になる。
b 公租公課+水道光熱費
公租公課 6.9%
水道光熱費 2.2%
計 9.1%
公租公課と水道光熱費で、賃料収入の約10%である。
所有の賃貸マンションの公租公課と水道光熱費は、所有者は分かるから、それを合算して、その合計の10倍が適正な賃料ということになる。
もし、現行賃料が8倍とか8.5倍の水準であったら、増額請求出来る可能性があろう。
c 修繕費は、賃貸収入の5.1%である。
良く実質賃料をXとして、修繕費を0.03X等として計算している賃料鑑定書を目にする。
実質賃料が分からなければ、修繕費が分からないというおかしな鑑定書である。賃料収入は分かるのであるから、それに5.1%を乗じれば、修繕費は求められる。
何も実質賃料をXになぞとする必要性は無い。
d その他の経費項目割合も利用価値が充分あると、私は思う。
6.経費率
@ 日本賃貸住宅投資法人の経費率
売上高に占める必要諸経費の割合を経費率と呼ぶこととする。
算式は下記である。
必要諸経費
────── = 経費率
売上高
日本賃貸住宅投資法人の経費率は、平成27年10月1日〜平成28年9月30日までの2期、一年間の売上高等で計算すると、
7,082,003千円
──────── = 0.440
16,077,540千円
44.0%である。
必要諸経費は、減価償却費3,383,873千円が入っていることから、上記経費率は、減価償却費込の割合である。
減価償却費を含めない必要諸経費の場合は、
3,698,130千円
──────── = 0.230
16,077,540千円
23.0%である。
日本賃貸住宅投資法人の減価償却前経費率は、23.0%と求められた。
A 著書『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』の経費率
2017年2月に発行した著書の『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』(プログレス)のP99に減価償却費を含めた貸マンションの必要経費率を
貸マンション 0.35
としている。
一方、P104で「総支出に占める必要諸経費の割合」として、貸マンションの必要諸経費を下記のごとく記している。
貸ビル 貸マンション アパート
減価償却費 0.355 0.521 0.610
修繕費 0.163 0.150 0.148
維持管理費 0.101 0.082 0.070
公租公課 0.359 0.225 0.155
損害保険料 0.017 0.018 0.014
総支出の必要諸経費に占める割合は0.521である。減価償却費を除くその他の必要諸経費の割合は、
1 − 0.521 = 0.479
である。
減価償却費を含めない経費率は、
0.35×0.479=0.1676≒0.17
17%である。
B 経費率
賃貸マンションの減価償却費を含めない経費率として、
日本賃貸住宅投資法人 23.0%
改訂増補の著書 17.0%
と同じ賃貸マンションの経費率として、大きな数値の違いが出て来た。
これはどうしたことであろうか。
両経費率を比較検討すると、改訂増補著書には含めていない項目が、日本賃貸住宅投資法人の必要諸経費には含まれている。
それは日本賃貸住宅投資法人の必要諸経費には「物件管理等委託費」という費用項目が含まれている。
これは投資法人の所有する賃貸マンションを実質管理しているのは、不動産会社であり、その不動産会社の費用である。
投資法人は、実質的にはペーパー会社のようなものであって、所有賃貸マンションを自らが管理運営などしていない。それら運営は全て関連の不動産会社が行っている。
日本賃貸住宅投資法人の場合は、株式会社シカリ・アセット・マネジメントという会社である。
この「物件管理等委託費」が、1年間で、
470,924千円+473,821千円=944,745千円
である。
売上高に占める割合は、
944,745千円
──────── ≒ 0.059
16,077,540千円
5.9%である。
この割合を23.0%より減じると、
23.0%−5.9%=17.1%
17.1%となる。
改訂増補著書の17%の割合に近い数値となる経費率の開差の原因はこれで分かった。
賃貸マンションの管理運営は、マネジメント専門の不動産会社に管理委託する場合が最近多くなって来ている。
このことを考えると、
17%〜23%
が妥当と思われる。
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