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177)発電所の売買利回り5%

 不動産と言っていいのか、建造物と言っていいのか分からないが、広く不動産と考えて、珍しい売買を日本経済新聞(2004年7月23日)が伝える。

 東北電力が、福島県が所有運営する4つの水力発電所を売買取得するという記事である。その記事によれば、4つの水力発電所は小谷(会津若松市)、真野(飯舘村)、日中(熱塩加納村)、庭坂(福島市)の4つである。

 4つの水力発電所の最大発電出力合計は7600kwと言う。

 売買価格は30億円である。
 発電出力1kw当りの価格は、
      3,000,000,000円÷7,600kw=394,736円≒400,000円
40万円となる。

 発電所の価格は、発電出力1kw当り40万円と把握できる。

 東北電力が、30億円で取得する4つの水力発電所の投資利回りは、何%になるであろうか。以下に勝手に推測分析してみる。

 4つの水力発電所の最大発電出力合計は7600kwであるから、1年間の総発電量は、
     7600kw×24時間×365日=66,576,000kwh
である。

 東北電力の平成16年3月期の決算書によれば、
    電気事業収益     1,439,698百万円
    発電量        745億4700万kwh
である。

    1,439,698百万円÷745億4700万kwh=0.193百万円/万kwh
である。
 これより、電力代は1kwh当り19.3円である。

 4つの水力発電所の電力売上高は、
   19.3円×66,576,000kwh=1,284,916,800円≒1,285百万円
となる。

 東北電力の売上高・営業利益は、平成16年3月期の決算書によれば、
    売上高    1,447,607百万円
    営業利益    167,068百万円
である。
 営業利益率は、
      167,068百万円÷1,447,607百万円≒0.115
11.5%である。

 取得する4水力発電所も、東北電力の経営によって、同じ利益率が確保されるとすれば、4水力発電所の電力売上高は1,285百万円であるから、この金額に東北電力の営業利益率を乗ずれば、
      1,285百万円×0.115=147.8百万円
営業利益は、147.8百万円である。

 4発電所の売買取得価格は、30億円であるから、
      1.478億円÷30億円=0.0493≒0.05
である。

 発電所の投下資本利回りは5%と言うことになる。

     1/0.05=20
 20年間での投下資本の回収である。

 購入価格と売上高との関係を見ると、売上高は12.85億円であるから、
    30億円÷12.85億円≒2.3
売上高の2.3倍が購入価格である。
 発電所の価格は、その発電所の年間発電売上高の2.3倍の価格と言うことになる。

 福島県が築造した4つの水力発電所は、用地買収、立木補償、立退補償、ダム築造費、発電機設備費等の多額の建設費・築造費がかかっている。
 その原価及び簿価が如何ほどかは知る由もない。

 購入者の東北電力が、売却側の原価・簿価を考慮して取得価格を決めたかどうか分からないが、価格決定の最大の要因は、その発電所からどれ程の収益が上げられるかであろうから、その収益性の面から価格決定されたのでは無かろうかと私は推測する。
 何故かならば、採算の合わない買い物は、合理的経済人は行わないハズであるから。
    
 4つの発電所の建設コストがどれ程多額であっても、それらは全く関係無いとして売買価格決定にそれは考慮されず、収益からのみで30億円の金額が決められたとすると、このことは、不動産鑑定でいう原価性から価格分析する原価法(積算価格)は、その存在性、説得力性は全くないということになる。

 とすると、この価格決定現象は、なんだか以前、本『鑑定コラム』の30) 「熱海ビーチラインの証券化」 で書いた有料道路の価値の把握に似ていることになる。

 熱海ビーチラインは、通行料を担保にしてファンド化した。
 電力会社も、発電所の電力収入を担保にしてファンド化出来るのでは無かろうか。その方が資金回転が早くなり、会社経営は身軽になり、より効率の良い経営が出来るのでは無かろうか。
 
 日本の水力発電所の売買価格は1kw当り40万円であったが、世界の発電所の売買価格は一体いくら位であろうか。

 三井物産が、英国の電力会社と共同で、アメリカのエジソン・ミッション・エナジー社所有の米国以外の13発電所の購入を行った。(三井物産HPプレスリリース 2004年7月30日)

 購入金額の総額は2420億円(22億米ドル)で、三井物産の持分負担は660億円という。
     660億円÷2420億円≒0.273
27.3%の持分割合である。

 13ヶ所の発電所は、ガス火力、石炭火力、水力、風力の4タイプであり、欧州・アジアに所在する。
 その総発電量は約540万kwで、三井物産持分は約160万kwという。

 つまり、160万kwの発電量を持つ発電所を660億円で購入したのである。
     660億円÷160万kw=4.125億円/万kw
 1kw当りの価格は、
     412,500,000円÷10,000kw=41,250円
4.1万円である。

 東北電力が購入した発電所の購入価格は1kw当り40万円である。
 三井物産がアメリカ電力会社より購入した発電所の金額は、その約1/10の4.1万円である。
 日本と世界との間に発電所の価格に10倍の開きがある。

 日本の電気代は甚だ高いと言うことは、ずっと以前から聞いていた。
 電気を大量使用するアルミニゥム産業は、欧米のアルミ会社に太刀打ち出来ないと聞かされた。

 電気代を国際比較すると、日本の電気代はどれ程高いのか。

 電気料金の国際比較については、手法やデータにより単純な比較は困難であると、もっともらしい理由を付けて日本の電力業界や管轄官庁は言い訳めいて言う。
 この、「手法やデータにより単純な比較は困難である」という文言は、あまり騒がれたくなく、知られたくなく、或いは比較分析はやりたくない場合に使う逃げの常套句である。
 その常套句を使い、揚げ句にはアメリカの電気代の方が日本より高いというデータを出す。頭のいい方が何をやるのか。読む人の判断を迷わさせる悪知恵を働かすのもいい加減にせいと言いたくなる。

 OECDが発表する電気代の国際比較は、家庭用と産業用で次のごとくである。(1999年 ドル/kwh)

               家庭用    産業用
 日本     0.213    0.143
  アメリカ      0.082        0.039
  フランス      0.121        0.044

 日本の電気事業連合会の調べでは、使用形態を統一したモデル料金比較として、次の通りと言う。 (円/kwh 家庭用は2001年9月 産業用は2002年2月)

               家庭用    産業用
 日本     23.18    13.65
  アメリカ      24.46         9.68
  フランス      13.17         6.37

 上記価格を日本の家庭用を100として、評点に置き換えて比較すると、次のごとくである。
                  ( OECD )                  ( 電気事業連合会)
               家庭用    産業用       家庭用   産業用
 日本     100.0    67.1         100.0    58.9
  アメリカ       38.5        18.3         105.5        41.8
  フランス       56.8        20.7          56.7        27.5

 電気事業連合会の数値は、アメリカの家庭用電気代は日本よりも5.5%高いと言う。
 一方、OECDは日本の家庭用電気代は、アメリカの2.6倍(100÷38.5≒2.6) と言う。
 どちらの数値を信じて良いか判断に迷うが、フランスの電気代の分析数値より見ると、OECDの分析値の方が信頼性が有りそうである。

 評点表から言えることは、アメリカの産業用電力は、日本の家庭用電力の18.3%の価格と言うことである。
   18.3÷100.0=0.183
 これだけの電気料金に格差が有れば、電力の塊と言われるアルミニゥム産業は、国際競争力を失うのは無理も無かろう。

 発電所の価格に10倍の価格差、電気代に5.5倍(100.0÷18.3≒5.5)の差が有ることが分かった。
 逆に、この電気代に5.5倍の差があると分かることによって、三井物産の海外の発電所の購入価格が、日本の1/10の価格の1kw当り4.1万円であるということも理解出来よう。

 しかし、海外の発電所を購入するのが三井物産であって、なぜ東京電力、関西電力、中部電力では無いのであろうか。


  鑑定コラム801)「中部電力10水力発電所を取得、利回りは9.9%」

  鑑定コラム800)「電気代は1kw当りいくらか」

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