2021年の4月中半から大学の授業が始まった。
新型コロナウイルス感染は未だ治まらず、三度目の緊急事態宣言されている状態では、大学の授業は対面授業とする事は難しく、2021年の今年も、昨年と同じくインターネットによる非対面授業となった。
少人数のゼミなどは、対面授業を行っているかもしれないが、私の講義の受講者は100人程度であり、席の間隔を開けると、それだけのキャパの教室は無く、オンラインの遠隔講義にならざるを得ない。
講義は不動産鑑定評価論である。
100分の講義レジュメを毎週作成し、そのレジュメを大学のホームページにアップし、受講する学生は、大学のホームページを訪れ、講義レジュメを読み、設問に答えるというオンライン講義である。
講義レジュメには必ず設問を付け、学生に答えさせる方法を採らせる事になっている。
そうしないと、学生が勉強しているかどうか分からないためである。
100分の講義レジュメは、それ以前の対面講義に使用していた講義ノートを基礎にし、既発行の著書、既発表の論文、小論文等を転載或いは要約して作成したが、今迄のしゃべっていた内容を文章化することは大変な作業で、毎週小論文2〜3本書きあげる様なものであった。
講義は始まったばかりであり、現在は不動産鑑定評価とはどういうものかそして不動産鑑定評価の専門用語の説明、そして現在の日本の土地価格はどういう状況にあるのかを知ってもらう段階の講義である。
どういう内容の講義か第3者には興味があると思われることから、第2回目の講義レジュメに付けられた課題を記す。難しい内容の課題ではない。腕試しと思って回答に挑戦されてみたらいかが。
課題1 不動産の種類について、
@ 分類する基本的な考え方は何か
A どういう種類に分類されるか
について述べよ。
課題2 宅地地域にある土地を何と呼ぶか。
課題3 宅地の類型5つについて、その内容を述べよ。
課題4 2020年1月1日時点の日本の最高地価はどこで、坪当り幾らか。
課題5 不動産のバブルについて、
@ 不動産のバブルとはどういう現象をいうのか。
A 現在を含めて3つの不動産のバブルがあったが、その名称と時期について答えよ。
B 不動産のバブルについてどの様に思うか考えを述べよ。
課題6 付加価値と国内総生産について、
@ 付加価値とはどういうものか。
A 付加価値を構成する項目を述べよ。
B 一国の付加価値を総計したものを何と呼ぶか。
C 現在(2019年12月末時点)の日本の名目国内総生産はどれ程か。
D アメリカの名目国内総生産は日本のおよそ何倍か。
課題7 土地価格と不動産業倒産件数とはどの様な関係にあるのか。
課題8 建物として認定される条件を述べよ。
課題9 不動産鑑定に必要な4つの時点について述べよ。
課題10 価格時点が関係する不動産の価格に関する原則は何か。
課題11 価格の種類として4つの価格があるが、それについて述べよ。
課題12 判決で云う「適正な時価」とはどういう価格か。不動産鑑定の正常価格との関係を述べよ。
課題13 地方自治体が公有地を売却する場合の価格は、どういう価格でなければならないか。
学生の回答を見て、課題11と13について、不動産鑑定評価が現実の社会経済の中で重要な役目をしていることを具体的に知り、かつ知識を深め、忘れられないように、次の様な「」の文章を付けて学生にフイードバックしている。
課題(以下「問」とする。)11の価格の4つの種類とは、正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格の4つである。そして問13の回答は、議会の承認を得た適正な対価である。この事を知って下記の学生へのフイードバックの文章を読んで欲しい。
「 問11と問13に大いに関するものとして、現在争っている裁判事件があります。
東京都が東京オリンピックの選手村を作るために、埋立都有地を適正土地価格の10%で、不動産業者、分譲マンション開発業者に売り払いました。晴海フラッグと呼ばれるマンション群の土地です。
土地価格の売り払い価格が安すぎるとして、住民が東京都を訴える晴海選手村土地低額売り払い訴訟が東京地裁で争われています。
訴えられている東京都の言い分は、オリンピックという特殊要因を考えろと原告側(住民側)に反論しています。
あたかもオリンビックは特殊であるから土地価格は特定価格になり、安くてもよいという主張です。
オリンピックに関する事業であるからと云って土地価格は特定価格になるものではありません。特定価格に成るには法律の規定が必要です。オリンピックに関係する土地は特定価格であるという法律はありません。
オリンピックに使う土地であるからと云って土地価格が安くなるものではありません。
加えてこの訴訟には、問13が絡んでいます。
東京都は都有地の売却価格について都議会の承認を得ていません。地方自治法237条2項違反の売却です。
東京都は、おかしな脱法行為の理屈をこねて、地方自治法237条2項違反では無いと主張しています。」
法律を学ぶ学生に、オリンピックに使う土地であるから、適正時価の1割の土地価格が適正価格であるとか、都議会の承認を得ない都有地の売却は適正であると教えられるものでは無い。
いずれ、開発法の求め方の講義をすることになろうが、その時、開発法の基本とする価格は収益価格であるとなど教えることは出来ないであろう。
鑑定コラム2173)「晴海オリンピック選手村土地価格は特定価格にはならない」
鑑定コラム1878)「公有地売却は議会の議決を」
鑑定コラム2145)「収益還元法価格は開発法のベース価格にはならない」
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