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2173)晴海オリンピック選手村土地価格は特定価格にはならない

1.はじめに

 ネットをいじくっていたところ、東京都監査委員の回答文書なるものが目に飛び込んで来た。

 何の監査委員の回答文書であろうかと、少し興味が湧き読み始めて見た。

 その監査委員の回答文書は、東京都民の有志が、中央区晴海の東京オリンピック選手村土地約13.4万uの払い下げ価格が129億円余とあまりにも安い価格であることから、東京都監査委員に監査請求したものに対する回答文書(以下「回答書」とする。)であった。

 安い土地価格と云うが、どれ程の土地価格か計算して見た。

        12,900,000,000円
            ────────── = 96,269円/u                    
          134,000u
 u当り96,000円である。

 東京中央区の土地価格が、u当り9.6万円とは、随分と安い価格である。

 底地でもu当り30万円はする。

 ネットで東京都監査委員の回答書がオープンにされているとは私は知らなかった。

 興味ある人は、コラム最後尾に回答書のアドレスを記しておきますから、読んで見て下さい。

 回答書を読んだが、回答書は随分と手前勝手な判断をしていると思われた。

 監査委員の土地価格についての判断は、土地価格への価格形成の無知から不動産鑑定評価を侮辱する考え方が覗われ根本的に間違っている。

 不動産鑑定の専門家の立場として、不動産鑑定評価の侮辱と無知による行政判断を見捨てて置くことも出来なく、かつ不動産鑑定評価の侮辱と無知に積極的に協力する不動産鑑定士及び不動産鑑定業者の存在を許すことは出来ず、回答書の間違いについて指摘論述する。

2.回答書の構成

 回答書の構成は、下記の3編構成となっている。

      第1編 請求の受付
            第2編 監査の実施
            第3編 監査の結果

 第3編が最も重要であり、それは、
      1章 事実関係の確認
      2章 監査対象局の説明
      3章 関係人の調査
      4章 不動産鑑定調査会社からの意見聴取
      5章 判断 
      6章 結論
の6章で、結論が出されている。

3.回答書は特定価格を考えているのではないのか

@ 回答書の3編1章7節(24頁)
 
 第3編の1章の事実関係の確認の(7)節において、回答書は次のごとく述べている。

「(7) 不動産鑑定評価基準等について

ア 鑑定評価によって求める価格の種類  国土交通省では、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たっての統一的な基準として、「不動産鑑定評価基準」(以下「鑑定基準」という。)及び「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」(以下「運用上の留意事項」という。)を定めている。

 鑑定基準では、鑑定評価によって求める価格について、「不動産の鑑定評価によって求める価格は、基本的には正常価格であるが、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により (略)特定価格 (略)を求める場合があるので、依頼目的に対応した条件を踏まえて価格の種類を適切に判断し、明確にすべきである。なお、評価目的に応じ、特定価格として求めなければならない場合があることに留意しなければならない。」としている。

 また、正常価格とは、「市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格」のことをいい、特定価格とは、「市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することとなる場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格」のことをいうとされている。」

A 回答書の3編5章2節(62頁)

 第3編の5章の判断の(2)節において、回答書は次のごとく述べている。

 「(2)本件土地の譲渡価格について

本件土地は、東京大会時に、選手用宿泊施設等として一時使用するための住宅棟と、東京大会後に地域の生活を支える機能を備えた商業施設及び道路などの都市基盤を一体的に整備することを前提とした用地であり、本件調査委託における調査価額もこのことを前提として査定をしている。

 ところで、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たっての統一的基準である鑑定基準では、不動産の価格は、基本的には、その不動産の最有効使用を前提として把握される価格 (正常価格)を標準として形成されるが、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により、特定価格 (法令等による社会的要請を背景とする下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することとなる場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格)等として求める場合があるとされている。このことからすると、選手村要因を前提とした本件土地の調査価額は、最有効使用を前提とした価額とは条件が異なるため、単に市場価格との比較だけをもって判断することはできない。」

B 調査報告書という不動産鑑定書の記載の価格の種類

 不動産鑑定業者が発行している調査報告書という名称の不動産鑑定書には、価格の種類について次のごとく記載されている。

 「不動産鑑定評価基準に則らない価格調査であるため、不動産鑑定基準にさだめる価格等の種類は表示しない。」

 価格の種類を表示していない。

 それ故どういう価格を求めたのかと追求された場合に、責任回避する方策を行っている。

C 回答書は特定価格であることをにおわしている

 不動産鑑定評価の求める価格について、原則は正常価格である。それ故、価格の種類にわざわざ触れる必要性は無い。

 それにも係わらず、回答書は、事実の確認の箇所と、判断の箇所の2箇所で、正常価格の他に「特定価格」の用語の説明を行い、「選手村要因を前提とした本件土地の調査価額は、最有効使用を前提とした価額とは条件が異なるため、単に市場価格との比較だけをもって判断することはできない。」と監査委員会の判断を示している。
 
 この事から、回答書は、選手村の土地価格は選手村要因を反映した土地価格であり、正常価格よりも乖離してもよいという考えを示している。

 つまり選手村の土地価格は選手村要因は特別な要因であると認め、特別要因を持つから土地価格は正常価格からかけ離れた安い価格でもよいと考えている。

 正常価格からは離れても良いという事を許されているのは、特定価格であるから、選手村の土地価格は特定価格に属するといわんばかりである。

 しかし、この回答書の判断は間違っている。

 選手村であるという要因は、特定価格の要因には成らない。

 選手村は特定価格の要因には成らないから、土地価格は正常価格からかけ離れてもよいと云うことには成らない。選手村の土地価格は、正常価格で求められなければならない。

 特定価格の要因は厳格であり、簡単に特定価格を求めてよいと云うことには成らない。その事は不動産鑑定評価の価格の種類の内容を知れば理解出来るであろう。

 不動産鑑定評価の価格の種類について理解している人が少ないことから、それについて以下で述べる。

4.不動産鑑定評価の価格の種類

 不動産鑑定評価で求める価格は、4つしかない。正常価格、限定価格、特殊価格、特定価格の4種類である。それぞれの価格の説明をする。

@ 正常価格

 正常価格の規定については、回答書が不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」とする。)を引用して記述しているが、鑑定基準は次のごとく規定する。

 「正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P16)

 市場価値を表示する適正な価格を正常価格という。不動産鑑定評価で求められる価格の殆どが正常価格である。

A 限定価格

 限定価格について、鑑定基準は次のごとく規定する。

 「限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。

 限定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。

(1)借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合
(2)隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合
(3)経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P16)

 市場が限定されており、併合・分割の場合に正常価格より乖離する価格を云う。

 限定価格を求める場合は、例が示してあるごとく然う然う(そうそう)あるものでは無い。

B 特殊価格

 特殊価格について、鑑定基準は次のごとく規定する。

 「特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。

 特殊価格を求める場合を例示すれば、文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物又は現況による管理を継続する公共公益施設の用に供されている不動産について、その保存等に主眼をおいた鑑定評価を行う場合である。」 (平成26年改正鑑定基準 国交省版P17)

 特殊価格とは市場性を有しない文化財とか宗教建築物等の価格を云う。限定価格よりもなお評価する機会は少ない。

C 特定価格

 特定価格について、鑑定基準は次のごとく規定する。

 「特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することとなる場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。

 特定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。

(1)各論第3 章第1 節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
(2)民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
(3)会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P17)

 特定価格の例示として、Jリートの鑑定価格、民事再生法による鑑定価格、会社更生法による鑑定価格が示されている。

 特定価格とは、法令等に基づいている事によって例外的に求められる価格を云う。「法令等」で求めてもよいと決められていることが条件である。

 この「法令等」については、平成26年改正鑑定基準を解説した『要説不動産鑑定評価基準と価格等調査ガイドライン』(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会監修 鑑定評価基準委員会編著 住宅新報社 2015年10月30日)P119に次のごとく解説されている。

 「法令等とは、法律、政令、内閣府令、省令、その他国の行政機関の規則、告示、訓令、通達等のほか、最高裁判所規則、条例、地方公共団体の規則、不動産鑑定士等の団体が定める指針 (不動産の鑑定評価に関する法律第48条の選定により国土交通大臣に届出をした社団又は財団が定める指針であって国土交通省との協議を経て当該団体において合意形成がなされたものをいう。以下同じ。)、企業会計の基準、監査基準をいう。」

 特定価格は法令によって求めることが許されている場合に許される鑑定価格であって、法令の規定が無い限り求めることが許されない価格である。

 その事について、上記引用図書のP121で、特定価格は「例外的に求めるものである。無秩序に許容すると鑑定評価書の利用者等の利害を害するおそれがある。」と記述する。

5.晴海オリンピック選手村土地価格は法令に認められたものなのか

 上記で記述したごとく、不動産鑑定評価の価格の種類は4つであり、そのうちの限定価格、特殊価格、特定価格はその求められる価格条件が決められていて、不動産鑑定士や依頼者が勝手に価格の種類を決められるものではない。

 特定価格には、「法令で決められている」という特に強い使用制限が掛けられている。

 晴海オリンピック選手村土地価格は、求める価格の種類が、法令等で決められているのであろうか。

 晴海オリンピック選手村土地価格を求めている調査報告書という名称の不動産鑑定書にも、法令は記述されていない。

 もし、特定価格を求めてよいという法令に属しているのであれば、その法令を必ず記載するはずである。その記載は無い。

 記述してあるのは「不動産鑑定評価基準に則らない」という記述だけである。それは自分達が勝手に判断して決めているだけであり法令等では無い。鑑定基準はオリンピックの晴海選手村の土地価格は特定価格であると規定していない。

 オリンピックの選手村土地価格は、正常価格よりかけ離れた土地価格で評価するということを規程する法律、政令、東京都条例は無い。

 つまり、特定価格として正常価格とかけ離れた価格を求めて良いという法令等の根拠がないということである。

 特定価格とする法令等が無いとすると、限定価格、特殊価格になるかと云うと隣地買収でもなく、不合理な分割でもないから限定価格には成らない。神社仏閣の土地でも無いから特殊価格にも成らない。

 とすると残る正常価格に属さざるを得ないことになる。つまり晴海オリンピック選手村の土地価格は、特定価格では無く正常価格に属する土地価格と云うことになる。

 回答書は、晴海オリンピック選手村築造は特別な行事であるから、その土地価格はあたかも特定価格であるごとくにおわしているが、特定価格には属さない。正常価格で求めなければならない。

 建物の使用が特殊で建築工事費がかさむとか、仕様が特別だから工事費がかさむことから土地価格は安くても良いという考えの回答書のようであるが、それ等の費用高は建物工事費の問題で、それによって土地価格が下がるという事は無いし、またそうした考えで土地価格を求めることはしない。

 土地価格は近隣地域、或いは周辺地域が形成する土地価格と競争、代替、適合の原則に従って形成される。建物価格の工事費が高いから土地価格が安くなるという考え方で土地価格は形成されない。

 回答書は、不動産鑑定評価を侮辱する考えの回答を示した。

 監査委員の回答書アドレス
   
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/07/19/documents/16.pdf

 (注) クリックして「このコンテンツはフレーム内で表示できません」の文言が表示された場合、その同一画面の下に表示される「対処方法」の「このコンテンツを新しいウィンドウで開く」をクリックして下さい。コメントの画面が現れます。

(注2)
 読者から「このコンテンツは・・表示できません」の言葉等がありません。従って操作の仕様がない状態ですとの問い合わせがありました。

 その場合には、検索エンジンのグーグルによって検索して下さい。

 グーグルで、「東京都監査委員 回答書 晴海選手村」の文言で検索して下さい。

 検索結果として「晴海五丁目西地区の譲渡価格に関する住民監査請求結果|東京都」と2つ並んで検索されます。

 そのうちの

  www.metro.tokyo.lg.jp > tosei > press > 2017/07/19

の方をクリック選択して下さい。

 回答書の要約文章の画面が出ます。その要約文書画面の最下段に赤字で「PDF」で「※監査結果の全文について」がついています。

「別添「中央区晴海五丁目西地区の譲渡価格は違法・不当であり、損害の回復等必要な措置を講じることを求める住民監査請求(その2)監査結果」(PDF:792KB」)

の文面のものです。

 これをクリックすれば、回答書全文に繋がります。




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