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1.借地権付建物の賃料鑑定書の賃料
借地権付建物の賃料評価の鑑定書を見た。裁判所の鑑定人不動産鑑定士による鑑定書であった。
その賃料鑑定は、基礎価格を借地権付建物価格を基礎価格にして求められていた。
土地部分の基礎価格は、更地価格に借地権割合70%を乗じて求められた価格であった。
求められている新規賃料は、
積算賃料 422,350円
比準賃料 635,150円
である。
2.一審判決
借地権付建物の賃料の基礎価格は、例え借地権であっても、得られる家賃は、所有権上の建物の賃料と同じであるから、自用の建物及びその敷地の価格が基礎価格である。
私は、その様な意見書を貸主側の代理人弁護士を通じて裁判所に意見書を提出した。
判決は、「鑑定の結果は、裁判所が選任した不動産鑑定士により公平、中立的な立場で実施されており、その鑑定手法や内容に格別不合理な点は見当たらないから、これを採用することが相当である。」と判示する。
そして、「原告らが本件建物の敷地を所有していると仮定して、査定するべきであるとの趣旨を述べるようであるが、鑑定では、本件建物の価格と本件建物の敷地の借地権価格とを念頭に本件貸室の基礎価格を見積もる一方、地代を含めて必要諸経費等を見積もっているのであって、考え方は一貫しており、上記の点をもって、鑑定の手法や内容が不合理であるとはいえない。甲号証は、その他にもるる述べているが、いずれも採用の限りではない。」
と云う判示で、私の意見は「その他にもるる述べているが、いずれも採用の限りではない。」と云う言葉で全面否定されて、事実上敗訴である。
3.3つの価格及び賃料の等価性
不動産の価格及び賃料分析は、不動産の所有する特性から、3つの側面から検討、分析されて求められる。
一つは、不動産を形成、構成する原価(コスト)の面からの分析で、求める方式を原価方式と呼び、手法を価格では原価法と呼ぶ。求められる価格を積算価格と呼ぶ。賃料での手法は積算法と呼び、求められる賃料を積算賃料と呼ぶ。
二つは、不動産の市場性を反映する分析で、求める方式を比較方式と呼び、手法を価格では取引事例比較法と呼び、求められる価格を比準価格と呼ぶ。賃料での手法は賃貸事例比較法と呼び、求められる賃料を比準賃料と呼ぶ。
三つは、不動産が生み出す収益からの分析で、求める方式を収益方式と呼び、手法を価格では収益還元法と呼ぶ。求められる価格を収益価格と呼ぶ。賃料での手法は収益分析法と呼ぶ。求められる賃料を収益賃料と呼ぶ。
賃料の収益賃料は、事業の売上高より原価、販売管理費を控除して純収益を求め、その純収益の中の不動産に帰属する収益を求め、それに必要諸経費を加算して求める。
この収益分析法は、売上高が事業経営者の経営力に影響される面が多く,かつ不動産に帰属する純収益の把握が難しいため、一般的にはあまり行われていない。
この3つの価格・賃料は、理論上は一致すると云われている。資料の不足等によって現実には一致しないが、だからといって、3つの価格・賃料が大きくかけ離れて存在すると云うことは無い。
最近、東京地裁、東京高裁の賃料判例に現れた新規賃料の比準賃料/積算賃料の割合を分析した論文が発表された。統計学上許容される出現率5%以上の有意水準の割合がどれ程であるかについての論文が発表された。
4.比準賃料/積算賃料の値が出現率5%以上の有意水準にある値
その論文によれば、東京地裁、東京高裁の賃料訴訟判決に現れた新規賃料の比準賃料/積算賃料の値が、有意水準である出現率5%以上の割合は、
0.805〜1.110
である。
このことについては、鑑定コラム2419)に、「新規賃料の積算賃料と比準賃料の賃料額の関係について」の課題で論文が公開発表されている。
不動産鑑定の理論専門雑誌「Evaluation」にも投稿し、いずれ近いうちに専門誌に掲載されると思われる。
5.当該裁判鑑定の新規賃料の比準賃料/積算賃料割合
当該裁判鑑定の新規賃料の比準賃料/積算賃料の割合は、下記のとおりである。
635,150円
─────── = 1.503
422,350円
1.503である。
鑑定結果として信頼出来る比準賃料/積算賃料の割合範囲は、0.805〜1.110である。
当該裁判鑑定の比準賃料/積算賃料の割合は、1.503であり、有意水準の範囲である0.805〜1.110から大きくかけ離れている。
有意水準の1.11に対して35%(1.503÷1.110=1.35)もかけ離れている新規賃料を適正な賃料と認めることは不可能である。
当該裁判鑑定は、賃料判例の判例違反となり得る。
6.当該裁判鑑定の新規賃料の出現率
有意水準の出現率は5%で、この場合のZ値(出現確率分布率)は1.96である。
データの平均をμ、標準偏差をσ、変数をXとすると、分布率Zは、
X−μ
Z=──────
σ
で求められる。
東京地裁、東京高裁の9判例、12事例による分析の、比準賃料/積算賃料の平均値μは、0.958である。標準偏差σは0.078であった。
当該裁判鑑定から求められる割合(X) は、1.503である。
1.503−0.958
Z=──────── = 6.98≒7.0
0.078
Z値7.0の正規分布値は、正規分布値の計算によれば1.28E-12である。
これは下記の値となる。
1
1.28 × ─────
1012
1
1.28 × ────────────────
1,000.000,000,000
1兆分の1.28の分布出現率である。
統計学上許容される出現率の割合は5%(100分の5)以上である。
新規賃料が、比準賃料635,150円、積算賃料422,350円の分布出現率は1兆分の1.23である。
この様な出現率は統計学上から見て許容される割合では無い。
当該裁判鑑定が適正であると云えるものでは無く、云う方がどうかしている。
どうしてこの様な信頼性が全くない数値の鑑定が出現したかと云えば、基礎価格に借地権付建物価格を使用して、更地価格に借地権割合70%を乗じて基礎価格を求めているためである。
この面からも、借地権付建物価格を基礎価格にして求める手法は間違っていると立証される。
鑑定コラム2419)「新規賃料の積算賃料と比準賃料の賃料額の関係について」
鑑定コラム2290) 「まだ、借地権付建物価格を基礎価格にする不動産鑑定士がいる」
鑑定コラム2431) 「Jリートの不動産鑑定評価は大丈夫か」
鑑定コラム2438) 「借地権付建物賃料基礎価格についての2022年実務修習テキストの記述」
鑑定コラム2440) 「借地権付建物の賃料を求める基礎価格についての考え方の推移」
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