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2431) Jリートの不動産鑑定評価は大丈夫か

 Jリートのエスコンジャパン投資法人の運用会社であるエスコンアセットマネジメントが、2022年7月15日金商法第42条第1項の違反として金融庁より3ヶ月の業務停止処分を受けることが発覚した。

 金商法とは金融商品取引法という法律のことを云う。その第42条1項は、下記の条文である。

(権利者に対する義務)
第四十二条 金融商品取引業者等は、権利者(次の各号に掲げる業務の区分に応じ当該各号に定める者をいう。以下この款において同じ。)のため忠実に投資運用業を行わなければならない。

一 第二条第八項第十二号に掲げる行為を行う業務 同号イ又はロに掲げる契約の相手方

二 第二条第八項第十四号に掲げる行為を行う業務 同号に規定する有価証券に表示される権利その他の政令で定める権利を有する者

三 第二条第八項第十五号に掲げる行為を行う業務 同号イからハまでに掲げる権利その他同号に規定する政令で定める権利を有する者

 金融商品取引業者は、42条1項の1号から3号に規程する権利者の為に忠実に投資運用業務を行わなければならないという条文である。

 エスコンアセットマネジメントの運用業務は、42条1項に違反する業務を行っていると監督官庁の金融庁が判断したということである。

 では、エスコンアセットマネジメントは、どういう違反行為をしていたのかと思い、業務委託しているJリートのエスコンジャパン投資法人のホームページに何らかのことが公告されているのでは無かろうかと思い、同投資法人のホームページを訪れた。

 エスコンジャパン投資法人のホームページに、2022年7月15日付として、「資産運用会社に対する行政処分に関するお知らせ」(以下「お知らせ」とする。)という見出しで、行政処分の内容とその原因について記してあった。

 それを読んで、私は驚いた。

 Jリートの資産である不動産鑑定評価額は、その様なやり方で求められているのかと知り、Jリートの投資法人の発表されている資産評価額が果たして信用して良い金額と云って良いのか、甚だしく不信感を抱いた。

 前記「お知らせ」の中に「行政処分の原因となる事実」という章がある。その章は、3節に分かれて事実が記述されていた。

 1節は「不動産鑑定業者の独立性を損なう不適切な働きかけ」であった。

 そこには次のごとく述べられている。

 「本資産運用会社(エスコンアセットマネジメント・・筆者記入)は、親会社(日本エスコン・・筆者記入)等の利害関係者が保有する不動産を本投資法人(エスコンジャパン投資法人・・筆者記入)に取得させる際には、第三者である不動産鑑定業者に対して、取得させようとする不動産の鑑定評価を依頼し、算定された鑑定評価額を上限として当該不動産の取得価格を決定している。」

 ここまでの記述は、アセットマネジメント会社の業務として当然のことであり、何ら問題は無い。

 私が驚いたのは、次からの文章の内容である。文章は下記のごとく続く。

 「しかしながら、本資産運用会社は、不動産鑑定業者から提示された鑑定評価額に係る中間報告又は概算額が親会社の売却希望価格に満たなかった3物件の不動産について、親会社の売却希望価格を優先し、親会社の売却希望価格を伝達するなどしたうえで、鑑定評価額が当該売却希望価格を上回るものとなるよう、算定を依頼した不動産鑑定業者に対し、鑑定評価額を引き上げるための働きかけを行っていた。こうした行為は、不動産鑑定業者の独立性を損なう不適切な働きかけであると認められる。」。

 「不動産鑑定業者から提示された鑑定評価額に係る中間報告又は概算額」とあるが、鑑定評価額は中間報告とか概算額で決められるものでは無い。

 実地調査し、建築上の法規制の状態を調べ、周辺取引事例を調べ、地価公示価格との均衡を計って土地価格を求める。そして建物の建築費、建物の損耗の程度を見極めて建物価格を求め、土地価格と建物価格から積算価格を求める。

 そして総収益及び必要諸経費を計算してから純収益を求め、適正な還元利回りを探って、収益価格を求める。

 積算価格と収益価格の両価格を再検討して鑑定評価額を決定する。

 鑑定評価額はそうした過程を得て求められ、決定されるものであり、中間報告、概算額の金額などで決められるものではない。

 積算価格、収益価格を求めた段階でほぼ鑑定評価の計算作業は終わっており、後は、鑑定書を書きあげる作業に入る。

 「中間報告又は概算額が親会社の売却希望価格に満たなかった物件」は、「親会社の売却希望価格を伝達」し、「不動産鑑定業者に対し、鑑定評価額を引き上げるための働きかけを行っていた」というのである。

 不動産鑑定業者は、それに従っていたと云うことになると、一体不動産鑑定評価とは何だということになる。

 先に不当に高い価格が決まっていて、その価格を最もらしい屁理屈を付けて不動産鑑定書という名称の書類で適正価格ですょと云って、投資家を信用させていたと云うのか。

 2節は、「不適切な不動産鑑定業者選定プロセス」という題の文章である。

 次のごとく綴られている。

 「本資産運用会社は、親会社からの取得となる複数物件の不動産鑑定評価を依頼する際、親会社の売却希望価格を上回る鑑定評価額を得ることを企図して、複数の不動産鑑定業者から不動産鑑定評価に係る概算額を聴取」すると述べる。

 複数の不動産鑑定会社に鑑定を依頼することは結構なことであるが、鑑定評価はタダでできるものでは無い。それ相当の対価の支払が伴う。

 着手金を受け取る鑑定業者もいる。

 鑑定評価を依頼して,途中で鑑定はもう必要が有りませんと一方的に鑑定業者に告げた場合、鑑定作業にかかっていた場合は、それに見合う報酬対価を依頼者に要求する。

 この資産運用会社は、それを支払っていたのであろうか。

 「複数の不動産鑑定業者から不動産鹿定評価に係る概算額を聴取」とあるが、概算額と云う鑑定評価額はない。

 鑑定作業を行わない限り、鑑定評価額がどれ程になるか分からない。

 不動産鑑定会社は、「概算額」と称して、どういう金額を運用会社に報告していたのであろうか。

 そして節の文章は、以下のごとく続く。

 「そのうち最も高い概算額を提示した不動産鑑定業者 (以下「当該不動産鑑定業者」という。 )の鑑定報酬額が、概算額を聴取した他の不動産鑑定業者と比して最も廉価になるよう、当該不動産鑑定業者と交渉していた。」

 これは何?

 鑑定評価額の金額の提示と報酬料の提示を不動産鑑定業者に要求し、最も高い鑑定評価額を提示した鑑定業者に鑑定を頼み、その鑑定業者の報酬料を、最も低い報酬料の金額に値切ると云うことをやっていたのか。

 それに不動産鑑定業者は応じていたのか。

 鑑定価格額は最も高く、鑑定報酬料は最も安くという論理なのか。

 その様な条件で作られた不動産鑑定書及び鑑定評価額などに信頼性など無い。

 運用会社に不動産鑑定業者は意のままに操られていたのか。

 読むのも馬鹿らしくなって、読むのを辞めようと思ったが、後少しの文章であるから読むことにした。

 節の文章は、以下のごとく続く。

 「さらに、本資産運用会社は当該不動産鑑定業者による概算額が最も高かったことを伏せたうえで、当該不動産鑑定業者の鑑定報酬額が最も廉価であることを理由に、当該不動産鑑定業者を鑑定評価の依頼先として選定していた。これは、親会社の売却希望価格で本投資法人に取得させることを最優先とした不適切な不動産鑑定業者選定プロセスであると認められる。」

 その他の不動産鑑定業者は、鑑定報酬料を支払ってもらっているのか。
 
 こうしたやり方が、エスコンアセットマネジメントのみの行為であるのか、Jリートの運用会社の一般的なやり方なのか。

 Jリートの不動産鑑定業者は、「ノー」と云えば良いのに、何故「ノー」と云うことが出来ないのか。

 鑑定評価額を適正な価格と信じて投資している投資家は、NAV倍率で、Jリートの売買される価格が高いか、安いのか判断して、投資している。

 このNAV倍率の基本になるのが、Jリートが保有している物件の資産価格であり、それは全て不動産鑑定士によって不動産鑑定評価された適正な時価である。

   NAV倍率とはどういうものかと云えば、


   NAV=Jリートの保有不動産の時価 − 借入金や投資法人債などの負担

   NAV倍率=投資口価格÷1口当りNAV
である。

 株式投資で云う「株価純資産倍率」と同じである。

 「ジャパンリート不動産投資情報ポータル」(http://yahoo.japan-reit.com/list/rimawari/)の2022年8月3日現在のNAV倍率の低いJリート、高いJリートの投資法人は下記である。
           (低い投資法人 )             NAV倍率
      1位  大江戸温泉      0.61
            2位  いちごホテル          0.73
            3位  エクセレント          0.77
            4位  グローバル・ワン   0.81
      5位  サンケイリアル        0.81

(高い投資法人 )   NAV倍率       1位  産業ファンド     1.40 2位  ヘルスケア&メディカル  1.36 3位  三菱地所物流 1.34 4位  日本プロロジス    1.33       5位  CREロジ     1.28

 NAV倍率が投資口購入の投資判断の一つの指標になっている。NAV倍率のJリート一口価格に与える影響は大きい。

 エスコンアセットマネジメントの行為が罷り通っていれば、Jリートの団体である一般社団法人不動産証券化協会にとっては、甚だ居心地が良い。

 自らがそのやり方を変えようとするはずが無かろう。

 そうしたやり方は、投資家を騙す行為であるから辞めるべきであるということを主張すれば、主張する人に対して「お前、少しおかしいでは無いのか。」と非難し、足を引っ張ろうとするのでは無かろうか。

 そうで無ければ、エスコンアセットマネジメントの行為が、金融庁が摘発する今回迄続くハズが無かろう。

 自らにとって旨味十分の不正と思われる行為を、自らが辞めるハズが無い。

 エスコンジャパン投資法人は、株主訴訟を起こされたらどうする。知りませんでしたで逃げ切る積もりなのか。

 負けたら、その損害を不動産鑑定会社に負わせる裁判を起こすことになるか。
 
 アセットマネジメント会社のご要望価格の不動産鑑定評価額を記した不動産鑑定会社及び不動産鑑定士は、投資家から損害賠償請求訴訟をおこされることになるかもしれないょ。

 ご要望価格の鑑定評価など安易にやっていると、不動産鑑定評価の仕事とは、そうした事態にもなり得るという職業であるということを再認識せよ。

 今回の金融庁の措置は、一般社団法人不動産証券化協会に対する厳しい警告であろう。

 一般社団法人不動産証券化協会は、金融庁の摘発を契機に、今迄の旨味十分の不正と思われるアセットマネジメントの行為姿勢を自ら正さなければならない。

 不動産証券化の不動産鑑定評価を行っている不動産鑑定業者そして所属する公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会も、今回の事件を契機にアセットマネジメント会社のご要望価格の不動産鑑定評価額を記した不動産鑑定書など発行すべきでは無いし、発行を許すべきでは無い。

 そうした鑑定行為をした鑑定業者及び不動産鑑定士に対しては厳しい姿勢を取るべきであろう。

 当然、それは不動産鑑定の監督権を持つ国土交通省地価調査課にも云えることである。

 「エスコンアセットマネジメントの行為は特別である。俺たちはそんなことをしていない。」と反論する人は必ず居るであろうが、私にはエスコンアセットマネジメントだけの特別の行為とは思われない。

 現在のJリートの資産評価額に甚だしく不信感を私は持つ。

 鑑定コラム2419)「新規賃料の積算賃料と比準賃料の賃料額の関係について」で述べた新規賃料の妥当性を知るために、東京地裁・東京高裁の鑑定人の賃料評価データ12例より、新規賃料の比準賃料/積算賃料の平均割合及び標準偏差を求め、有意水準5%以上の出現率の割合は0.805〜1.110と分析した。

 不動産鑑定の3価格は等価であるという大原則から、Jリートの資産の鑑定評価で大多数の人々が適正であるという鑑定評価を選び、その鑑定評価の収益価格と積算価格の関係割合(収益価格/積算価格)と標準偏差を求め、上記鑑定コラム2419)のごとくの有意水準5%以上の出現率の割合を導きだし、その割合から外れた鑑定評価は不可とする検証方法をつくるべきでは無かろうか。

 収益価格は、還元利回り次第でいかような価格も求めることが出来るという怖い評価手法であることをもっと知っておく必要があろう。それを防ぐために、上記手法の導入が必要と私は思う。
 

  鑑定コラム2429)
「エスコンアセットジャパンに関係する不動産鑑定会社 しっかりしないのか」

  鑑定コラム2419)「新規賃料の積算賃料と比準賃料の賃料額の関係について」

  鑑定コラム2445)「Jリートのエスコンジャパンリート投資法人の金融庁への業務改善報告」

  鑑定コラム2517)「エスコンジャパンリート投資法人に、資産運用会社が6億66百万円の損害賠償支払を約束」


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