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2462) 実務修習テキスト家賃評価例の実質賃料をXとする求め方は止めょ

1.はじめに

 またかと思いながら、賃料の鑑定書で、実質賃料をXとして求める鑑定書を見た。これで何度見ることか。 その賃料の求め方は根本的に間違っていることについて述べる。

2.積算賃料をXとする賃料鑑定書

 実質賃料をXとする鑑定書とは、家賃の鑑定書で、積算賃料をXとして、必要諸経費の空室損失費を0.04Xとか、或いは維持管理費を0.1Xにして、実質賃料を求める類の鑑定書である。

 空室損失の0.04の根拠は半月分の割合のようである。

 1ヶ月は 1÷12=0.083 である。その半月は 0.083÷1/2=0.0416≒0.04  となり、0.04である。

 維持管理費の0.1は根拠不明である。

3.同一建物の同一時点で必要諸経費は一つである

 積算賃料或いは実質賃料をXとして求めるやり方をすると、同一建物の同一価格時点で、新規賃料の場合と継続賃料の場合で必要諸経費が異なるという現象が生じる。

 同じ建物の同じ価格時点で新規賃料と継続賃料で、必要諸経費が変わる筈が無い。又、継続賃料の利回り法とスライド法においても必要諸経費が異なるという現象が生じる事は無い。

 同一建物の同一価格時点で一つの必要諸経費であるにもかかわらず、3つの必要諸経費が生じるというおかしな賃料鑑定書を見ることがある。

 鑑定書を書いている本人は、それが全く分からず、指摘しても自分の間違いを認めたくないのか、算式は間違っていないから適正であると主張してくる。

 不動産市場経済において、同一建物の同一価格時点では、必要諸経費は一つであるということが全く分かっていない。

 そして逆に、間違いであると指摘する私の考え方について、田原鑑定士の考え方の方がおかしく、ゆがんだ考えを持ったおかしな不動産鑑定士であり、ゆがんだ考えの主張は受け入れられないと反論してくる。

 何件か、同じ求め方の鑑定書に遭遇すると、どうもその原因は、日本不動産鑑定士協会連合会が、実務修習で使用している実務修習の指導要領テキストにその様な家賃評価例があるのでは無かろうかと思い、実務修習の指導要領テキストにあたると、やはり同テキストにその求め方が行われている。

 間違いを広めているのは、あろう事か、不動産鑑定士の団体である日本不動産鑑定士協会連合会のようである。

4.2022年実務修習の指導要領テキストの家賃評価例

@ 評価例の建物構造等

 借地権付建物の基礎価格の考え方の変遷を調べるために、士協会連合会発行の最新の実務修習テキスト2022年版を手に入れたので、家賃評価例の個所を見て見た。

 2022年実務修習の指導要領テキストを見ると、家賃評価例は、評価例の最後の例として、同テキストのP389〜420に掲載されている。

 評価例の案件は、鉄筋コンクリート造9階建延べ床面積5,430uの1階店舗300uの継続賃料を求める評価例である。

A 積算賃料

 同テキストのP408で、積算賃料をXとする。必要諸経費のうちの空室損失を0.04Xとする。

 公租公課、修繕費、維持管理費、損害保険料、貸倒引当金、空室等による損失相当額の必要諸経費を

         9,935,000+0.04X
とする。

 積算賃料は、
      基礎価格    859,900,000円
            期待利回り   0.049
      必要諸経費      9,935,000+0.04X
として、下記の算式とする。

        859,900,000円×0.049+(9,935,000+0.04X) = X

 この算式を解いて、積算賃料Xを、年額54,239,688円と求める。

 月額積算賃料を、
      54,239,688円÷12≒4,520,000円
と求める。

 テキストは、積算価格を求め、比準賃料に説明を進める。

 ここで立ち止まって、評価建物の必要諸経費を求めようとしない。

B 比準賃料と新規賃料

 比準賃料を月額4,500,000円と求める。

 積算賃料4,520,000円、比準賃料4,500,000円とより、新規実質賃料を4,500,000円とする。

C 継続賃料の利回り法賃料

 そして継続賃料の分析に入る。

 差額配分法の賃料を4,180,000円求め、次にP416で利回り法の賃料を求める。

 利回り法の実質賃料をXとする。
      基礎価格    859,900,000円
            継続賃料利回り   0.044
      必要諸経費      9,935,000+0.04X
として、下記の算式とする。

        859,900,000円×0.044+(9,935,000+0.04X) = X

 この算式を解いて、利回り法の実質賃料Xを、年額49,761,042円と求める。

 月額利回り法の実質賃料を、
      49,761,042円÷12≒4,150,000円
と求める。

D スライド法賃料

 従前賃料合意時点(直近合意時点)からのスライド法変動率を10%とする。

 P417でスライド法を求める。スライド法の実質賃料をXとする。
      直近合意賃料の純賃料  34,557,000円
            スライド法変動率    1.10
      必要諸経費      9,935,000+0.04X
として、下記の算式とする。

        34,557,000円×1.10+(9,935,000+0.04X) = X

 この算式を解いて、スライド法の実質賃料Xを、年額49,49,945,521円と求める。

 月額スライド法の実質賃料を、
      49,49,945,521円÷12≒4,160,000円
と求める。

E 継続賃料(実質賃料)

 上記より、
   差額配分法賃料 月額 4,180,000円
      利回り法賃料  月額 4,150,000円
      スライド法賃料  月額 4,160,000円
であるから、継続賃料の実質賃料を月額4,170,000円と求め、これより保証金運用益を差し引いて、月額支払賃料を、4,120,000円と求める。

5.実務修習・指導要領テキストの求め方は間違っている

 上記の実務修習・指導要領補習テキスト(以下「実務修習テキスト」と呼ぶ)の賃料評価の求め方はおかしいと思わないか。

 思わなかったら、きつい言い方であるが、賃料評価失格と思われた方がよい。

 根本的に賃料評価が分かっていないと自覚して、しっかりした不動産鑑定士の指導の元で、謙虚に賃料評価を基礎から勉強仕直しされた方がよい。訴訟の賃料評価をするなどとんでもないことである。

@ 積算賃料の必要諸経費

 上記実務修習テキストP408で、積算賃料をXとおいて、積算賃料を54,239,688円と求めた。

 必要諸経費は、 9,935,000+0.04Xとしたことから、新規賃料である積算賃料の必要諸経費は、
 
             9,935,000+54,239,688×0.04=12,104,588
12,104,588円である。

A 利回り法の必要諸経費

 上記実務修習テキストP416で、利回り法実質賃料をXとおいて、利回り法実質賃料を49,751,042円と求めた。

 必要諸経費は、 9,935,000+0.04Xとしたことから、利回り法実質賃料即ち対象建物の継続賃料の必要諸経費は、
 
             9,935,000+49,751,042×0.04=11,925,042
11,925,042円である。

B スライド法の必要諸経費

 上記実務修習テキストP417で、スライド法実質賃料をXとおいて、スライド法実質賃料を49,945,521円と求めた。

 必要諸経費は、 9,935,000+0.04Xとしたことから、利回り法実質賃料即ち対象建物の継続賃料の必要諸経費は、
 
             9,935,000+49,945,521×0.04=11,932,821
11,932,821円である。

C 同一建物の同一時点で必要諸経費が3つも存在するのか

 上記より、同一建物の同一時点で、下記の必要諸経費が求められた。
    新規賃料(積算賃料)         12,104,588円
        継続賃料(利回り法)         11,925,042円
        継続賃料(スラド法)         11,932,821円

 同一建物の同一時点では、新規賃料、継続賃料でも、必要諸経費は一つで同じでは無いのか。3つも出現することなど無いであろう。3つもあったら大変である。

 同一建物で同一時点の必要諸経費は一つである。新規賃料、継続賃料によって必要諸経費が異なると云うことなど無い。

 と云うことは、実務修習テキストの求め方が間違っていることになる。

 何処が間違っているかと言えば、最大の原因は実質賃料をXとおくからである。

 一歩下がって、Xとおいたとしたら、積算賃料で求められたXから、必要諸経費を求め、その必要諸経費を以後使用するのである。そうすれば同一建物で同一時点で必要諸経費が異なるという現象は生じない。

 本件で云えば、積算賃料でXは、54,239,688円と求められた。この求められた数値を必要諸経費の算式である 9,935,000+0.04XのXに代入して、必要諸経費を求める。
            9,935,000+54,239,688×0.04=12,104,588

 求められた12,104,588円を継続賃料の利回り法、スライド法の必要諸経費に採用するのである。そうすれば同一建物の同一時点の必要諸経費は一つであるという経済市場現象に反しない鑑定評価となる。

 実務修習テキストの求め方では、同一建物の同一時点で必要諸経費が3つあることになり、それは経済市場現象に反する現象である事から間違っていることになる。鑑定結果の支払賃料も間違っていることになる。

D 空室損失は経費項目では無い

 もう一つ実務修習テキストは間違った事を行っている。

 空室等による必要諸経費を必要諸経費に計上することが間違っている。

 10数年前までは、確かに空室等による損失相当額は、必要諸経費の構成項目であった。しかし、その項目は費用性が無いと云う批判指摘によって、収益項目に移された。不動産鑑定評価基準各論第3章の「証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価」の費用項目には空室損失は無い。空室損失項目は、収益項目に入っている。

 そして、平成22年から地価公示価格の評価において、空室損失は必要諸経費項目でなくなった。

 そうした事実があるのに、何故未だに空室損失を必要諸経費項目に入れて、実務修習テキストの鑑定例として使用するのか。

 士協会連合会の実務修習運営委員会は、早急に自分達の間違いを認め、実務修習テキストを改定せょ。

 2つの大きな間違いがあるにもかかわらず、間違った事を教えていて、恥ずかしいと思わないのか。

 裁判所鑑定人が、上記のごとく間違った求め方をしていた場合、その求め方は間違っていると意見書を書いても裁判官は、「裁判所が選任した鑑定人不動産鑑定士の鑑定は、公平、中立的立場で実施されており、その鑑定の手法や内容に格別不合理な点は見当たらないから、これを採用するのが相当である。」という裁判官が裁判鑑定の正当性を主張する際の判決の常套句によって意見書は蹴散らされてしまう。

 何度、裁判官の鑑定人鑑定を擁護する常套句で泣かされてきたことか。

 鑑定人不動産鑑定士ょしっかりせいと云っても、不勉強な鑑定人不動産鑑定士が多く、その多くが士協会連合会の間違った実務修習の指導要領テキストを金科玉条のごとくにして、同テキストと同じ文章文言の鑑定書を書いてくる。

 間違った鑑定書のためにどれ程の無駄な時間と労力と裁判費用が使われていることか、良く考えられたい。

 士協会連合会が、間違った鑑定書を見本とはいえ作成した本人であり、間違った鑑定を広めることなどしてはいけない。

 実務修習テキスト家賃評価例の実質賃料をXとする求め方は止めょ。


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