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1.実務修習のテキスト
不動産鑑定士になるためには、2次試験を合格したのち、国交省が認可する実務修習を経て、口頭試問等の試験に合格しなければならない。
以前は2次試験後、鑑定実務を鑑定事務所で数年経験して、3次試験を受けて、合格して不動産鑑定士になったが。
現在は実務修習は、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会が行っている。
実務修習にはテキストがある。
『実務修習・指導要領テキスト』(以下「テキスト」と呼ぶ) という書物である。
そのテキストのまえがきに次のごとく記されている。
「本指導要領は、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会(以下、本会)が不動産の鑑定評価に関する法律第14条の9第1項の規定による国土交通大臣の認可を受けた実務修習業務規定に基づき実施する実務修習業務の中の一課程である実地演習及び講義のための教材として、本会の実務修習運営委員会においてまとめたものです。」
そしてテキストの内容については、「本指導要領の作成に当たっては十分な検討を行っています」 と記す。
テキストには、7つの評価類型が記載されている。
その類型の中に「継続賃料」の鑑定評価内容が書かれている。
2.鑑定コラム1708)
2017年11月8日に鑑定コラム1708)「まだ横行している必要諸経費が3つもある鑑定書」を発表した。
このコラム記事は、田原塾の2017年3月会に話した講話内容を、8ヶ月後の2017年11月の鑑定コラム記事として、公表したものである。
そのコラム記事は、積算賃料をXとおいて、必要諸経費を
「4,350,000円 + 0.11X」
とする求め方は間違っているという内容のコラム記事であった。
同じ建物、同じ価格時点で3つの必要諸経費が存在する賃料鑑定など無いと結論付けるコラムである。
3.2016年11月1日発行のテキスト
鑑定コラム1708) に記した積算賃料をXと置く求め方は、ひょっとすると実務修習のテキストに記されているのではなかろうかと思い、鑑定士協会連合会に行き現在実務修習に使用しているテキストを購入した。
2016年11月1日発行のテキストを購入した。
その継続賃料の章を見て、私は驚いてしまった。
鑑定コラム1708)と数値が異なるが,全く同じ求め方が記されている。
下記にそれを記す。
@ 積算賃料の必要諸経費
テキストP262(以下テキスト文言を省略し、頁数のみ記す) に、積算賃料の算式が記されている。
「年額実質賃料 X」として、「空室等による損失相当額を0.04X」とする。
そして必要諸経費等を、
「9,935,000円+0.04X」
と記す。
積算賃料(年額)は、
「価格時点の基礎価格 期待利回り 必要諸経費
859,900,000円 × 4.9% +(9,935,000円+0.04X)
=積算賃料X」
という算式を記す。
そしてX≒54,239,688円と求める。
積算賃料54,239,688円と求められたことから、必要諸経費はどれ程かを求めると、
9,935,000円+0.04×54,239,688円=12,104,588円
12,104,588円円である。
積算賃料の必要諸経費は、12,104,588円である。
この金額が当該建物の価格時点の必要諸経費であるから、この金額を利回り法、スライド法で使用する必要諸経費の金額として採用しておれば、問題は発生しなかった。
しかし、テキストは、そうしなかった。
テキストは、利回り法、スライド法の必要諸経費に「9,935,000円+0.04X」を採用したために、問題が生じてしまった。
A 利回り法の必要諸経費
利回り法の算式は、P270に、下記のごとく記されている。
「価格時点の基礎価格 継続賃料利回り 必要諸経費
859,900,000円 × 4.5% + (9,935,000円+0.04X)
=利回り法による試算賃料X」
そしてX≒50,656,771円と求める。
利回り法賃料50,656,771円と求められたことから、必要諸経費はどれ程かを求めると、
9,935,000円+0.04×50,656,771円=11,961,271円
11,961,271円である。
利回り法の必要諸経費は、11,961,271円である。
B スライド法の必要諸経費
スライド法の算式は、P271に、下記のごとく記されている。
「価格時点の基礎価格 変動率 必要諸経費
35,133,000円 × 110% + (9,935,000円+0.04X)
=スライド法による試算賃料X」
そしてX≒50,605,521円と求める。
スライド法賃料50,605,521円と求められたことから、必要諸経費はどれ程かを求めると、
9,935,000円+0.04×50,605,521円=11,959,221円
11,959,221円である。
スラド法の必要諸経費は、11,959,221円である。
C 3つの必要諸経費
上記より、下記3つの必要諸経費が求められた。
積算賃料の必要諸経費 12,104,588円
利回り法の必要諸経費 11,961,271円
スライド法の必要諸経費 11,959,221円
同一建物の同一価格時点で3つの必要諸経費が存在することはおかしなことである。
同一建物の同一価格時点で3つの必要諸経費が存在することなど無い。存在することが、そもそも間違いである。
とすると、テキストの評価例は、間違っていることになる。
D 積算賃料=継続賃料ではない
テキストは、Xを積算賃料の実質賃料と定義している。
利回り法の賃料を求めるのに、左辺は利回り法の算式であるが、右辺を「利回り法による試算賃料X」として、左辺、右辺を等号で結ぶ。
このことは、
継続賃料の利回り法賃料=利回り法による試算賃料X
である。
Xは、最初に積算賃料と定義していることから、上記算式の右辺の「利回り法による試算賃料X」は、意味不明の概念である。
「利回り法による試算賃料」は継続賃料であるから、それが積算賃料であるXになることはあり得ない。
もし、利回り法による試算賃料がXと同じであると云うことになれば、上記算式は、
継続賃料=積算賃料
となる。
継続賃料=積算賃料という算式は、不動産鑑定評価では、成り立たない算式である。
同じことはスライド法でもやっている。
スライド法の賃料を求めるのに、左辺はスライド法の算式であるが、右辺を「スライド法による試算賃料X」として、左辺、右辺を等号で結ぶ。
継続賃料のスライド法賃料=スライド法による試算賃料X
である。
Xは、最初に積算賃料と定義していることから、上記算式の右辺の「スライド法による試算賃料X」は、意味不明の概念である。
「スライド法による試算賃料」は継続賃料であるから、それが積算賃料であるXになることはあり得ない。
もし、スライド法による試算賃料がXと同じであると云うことになれば、上記算式は、
継続賃料=積算賃料
となる。
継続賃料=積算賃料という算式は、不動産鑑定評価では、成り立たない算式である。この考えは間違っている。
E 空室損失は経費ではない
テキストは、空室損失を賃料の経費項目と考え、0.04Xとして計上する。
空室損失は賃料の経費では無い。経費にすることは間違いである。
経費計上しなくてもよい空室損失を、実質賃料の4%とし、実質賃料が分からないから0.04Xという算式を作りあげている。
間違いの上に、なお間違いを重ねている。
空室損失を0円としておけば、何もXを使う必要性は無い。そうすれば同一建物、同一価格時点で、必要諸経費が3つも出現するということは生じなかった。
4.14年前の借地権価格は基礎価格というテキスト
今から14年前、借地権の貸ビルの家賃評価で、家賃の基礎価格を借地権価格であるとして求めていた賃料鑑定書が法廷に出された。
借地権価格は、賃料の基礎価格にはならないと反論したところ、相手側が、当時の鑑定協会が行っていた実務3次試験のテキストを証拠として提出してきた。
その14年前のテキストには、借地権の貸ビルの賃料の基礎価格は、借地権価格であると記されていた。
このことについては、鑑定コラム133)「借地貸ビルと所有地貸ビルで賃料に差があるのか」で論じている。
鑑定士協会連合会は、今回、14年前の借地権価格が基礎価格であるということと同じ様なことを、やっているようである。
5.結び
間違った求め方を、明日の不動産鑑定業界を背負う人に教えてはいけないであろう。
鑑定士協会連合会は、実務修習のテキスト(2016年11月1日発行)の継続賃料の章を見直した方がよい。
実質賃料をXとおいて、賃料求めることは止めた方が良い。
鑑定コラム1708)の最後に述べている、
「2+3=5が正しければ、5-3=2にならなければならない。逆も又正なりである。」
を、ここでも繰り返し云わなければならない。
5-3=2になるのが論理であるのだから、そうならないことは、間違っていることになろう。
鑑定コラム1708)「まだ横行している必要諸経費が3つもある鑑定書」
鑑定コラム133)「借地貸ビルと所有地貸ビルで賃料に差があるのか」
鑑定コラム639)「借地権付建物の基礎価格」
鑑定コラム633)「実務修習の継続賃料の求め方は間違っている」
鑑定コラム1841)「維持管理費等は実質賃料が分からなければ分からないものなのか」
鑑定コラム1842)「実務修習テキストの実質賃料をXとする求め方はやめよ」
鑑定コラム2528)「実質賃料Xはダメ5位、夢洲地代が13位に入る 令和5年1月1日アクセス統計」
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