2626) 晴海選手村土地控訴審判決 1審判決支持 住民側敗訴
第1 はじめに
2023年8月3日晴海選手村土地不当廉売事件(令和4年(行コ)第11号 義務付け等請求控訴事件)の東京高等裁判所の控訴審判決が101号法廷で言い渡された。
三角比呂裁判長は、住民側の控訴を全て棄却した。1審判決支持の控訴審判決を下した。住民側は再びの敗訴である。
判決は58頁に及ぶもので、その全部を手にしていない。その内に判決文を入手する予定であるが、判決の要旨のみ記すと下記である。
第2 判決の要旨
1.本件土地の譲渡契約締結に当たり、都市再開発法108条2項の適用を排除する理由はなく、東京都の財産の管理処分に関する法令の規定は適用されないことなどからして、その手続きは、都市再開発法等に則って行われたものと解され、特段違法、不当な点は認められない。
2.選手村要因が存在することを前提として、その価格が適正といえるか否かについて検討すべきである。そして本件土地の価格等の調査においては、上記条件の下では鑑定評価基準に則らない価格等調査を行うことができる場合に当たるとして、開発法のみを用いて本件土地の価格査定がされたものであって、同価格等調査における開発法の具体的適用方法は、選手村要因を反映した適正なものであり、その評価額にも特段不相当な点を認めることができないことからすれば、これを踏まえて決定された譲渡価格も相当といえる。
3.控訴人らは不動産鑑定士の意見書等に基づき、本件土地の価格調査やこれを踏まえて決定された譲渡価格につき、種々論難するが、いずれも前提を異にするものであり、採用することができない。
第3 反論
1. 判決は、「特段違法、不当な点は認められない」と判示して、晴海選手村市街地再開発事業に、都市再開発法108条2項の適用は可能と判示した。一審と同じである。
この判示は間違っている。
晴海選手村市街地再開発事業は東京都という地方公共団体が、地方公共団体として事業施行者になって行う事業で無く、東京都が「個人施行」者となって行う事業である。
108条2項は、「施行者が地方公共団体であるときは、施行者が第一種市街地再開発事業により取得した施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の所有を目的とする地上権、施設建築物の一部等又は個別利用区内の宅地の管理処分については、当該地方公共団体の財産の管理処分に関する法令の規定は、適用しない。」と規程する。
108条2項は「施行者が地方公共団体であるときは」とはっきりと施行者は地方公共団体であるときと明示限定がなされている。個人施行の施行者には適用されない法律条項である。
この事に関しては、鑑定コラム2616)「晴海選手村の市街地再開発事業には都市再開発法108条2項は適用出来ない」で記述している。
東京都は、れっきとした地方公共団体であるが、晴海選手村市街地再開発事業の施行者に関しては、東京都という「個人施行」者である。東京都という地方公共団体が施行者ではない。
このことは、平成29年7月18日付「監査結果」報告書P13で、「施行者 東京都(個人施行)」と明示されており、東京都が自ら云っていることである。それを「特段違法、不当な点は認められない」と判示し、認めない判決の方がおかしい。
控訴審も法律の解釈を再び間違えている。
最高裁に上告して最高裁判所の判断を仰ぐ以外方法は無かろう。上告の意義は大いにある。
2.選手村要因によって土地価格が減額しても良いという判示であるが、ではその選手村要因によって減額する金額とは幾らなのか。
東京都及び都側鑑定会社は、一切その金額がどれ程か明示しない。
それでいて、選手村要因があり、その要因を考えよと強く主張する。
開発法の価格が選手村要因を考えた適正な鑑定評価額であると判決も判示するが、ならば選手村要因を考え無い場合の土地価格は如何ほどで、選手村要因の金額は如何ほどであるから、選手村要因を考慮した土地価格は差し引き後129.6億円が適正な価格と主張・説明するべきである。それが論理性のある判断というものであろう。
私は、選手村要因は建物価格(建築工事費)に関係・影響するものであり、土地価格には影響を及ぼさないと、その理由を、国土交通省の課長通達である「土地価格比準表」において上物の建物、建築予定の建物によって土地価格を減額修正せよという項目は無いと、証拠を示して反論書に書いたが、それを控訴審裁判官は読んでいないようである。
選手村要因は建物価格(建築工事費)に関係・影響するものであることから、私の考えは、選手村要因の土地価格影響金額はゼロ円である。
東京都、都側鑑定会社は、選手村要因の金額は幾らであるか全く把握していない。金額を書いていない。
1審及び控訴審も、選手村要因の金額は幾らであるか全く把握していない。金額を書いて無い。
選手村要因の金額が幾らかを把握せずに、129.6億円(家賃33.5億円含む)が選手村要因を反映した適正な土地価格であると判示する控訴審判決は、非論理性も甚だしく失当である。
3.「控訴人らは不動産鑑定士の意見書等に基づき、本件土地の価格調査やこれを踏まえて決定された譲渡価格につき、種々論難するが、いずれも前提を異にするものであり、採用することができない」と控訴人の主張を全面否定する。
ここで書かれている「不動産鑑定士」とは、主として私のことである。
私の都側鑑定会社の鑑定批判に対して「いずれも前提を異にするものであり、採用することができない」と、あたかも私の主張意見が間違っているがごとく述べているが、裁判官のその主張・判断の方が間違っている。
私は、一般に行われている不動産鑑定評価の土地価格の求め方或いは鑑定評価基準を述べ、それに反している都側鑑定会社の求め方が間違っていると指摘しているだけである。
例えば都側鑑定会社は、調査報告書10頁で、「本件と同様に計画建物や開発スケジュール等が定められることを前提とした取引事例を収集し適切に要因比較することが困難であったため、取引事例比較法は適用しない。」と評価条件を設定して、土地取引事例比較法を行わないとする。
選手村要因と同様の計画建築物や開発スケジュール等が定められることを前提とした土地取引事例などある筈が無い。強いていえば、50数年前の1964年に開催された東京オリンピックでの土地取引事例となるが、果たしてあるかどうかも分からず、例えあったとしても、価格水準等が全く異なり、採用することは出来ない。
つまり事実上選手村要因の事例など存在しないのである。
そうした事例の存在が無いことを折り込んで評価条件を作り、事例が無いから取引事例比較法を行わないという論理は通らない。
実現性の無い条件を条件に仕立て上げて、その条件に該当する事例が無いから取引事例比較法を行わないという理屈は、人を欺く論理である。
そうした条件設定は、鑑定評価基準は、実現性の無いことを条件に設定してはいけないと規程している。
そのことを説明し、土地取引事例比較法を行わないことは間違いであると指摘しているのである。
都側鑑定会社の調査報告書への意見は、上記のごとく鑑定評価として間違っている事の指摘である。
その指摘意見が、「種々論難する」ということになり、「いずれも前提を異にするものであり、採用することができない」と云うことになっている。
「いずれも前提を異にするもの」と判示するが、都側鑑定会社が、鑑定評価基準や一般的な不動産鑑定評価の価格の求め方から見て、おかしな前提をつけて評価しているのである。それを擁護する裁判官の方がおかしいのではなかろうか。
東京オリンピック晴海選手村要因は、オリンピック・パラリンピックが終了してから建設される50階建の高層マンション2棟(1453戸)の建物の建つ土地は、都側鑑定会社の調査報告書ではオリンピック選手村要因の及ぶ土地として評価対象土地として土地価格が求められている。
オリンピックが終了し、選手はいないのに選手村宿舎として使うのであろうか。その様なことはあり得ないであろう。
オリンビック・パラリンピックが終了してから着工し建設される50階建2棟、1453戸の分譲マンションはオリンピックとは全く関係が無い。
オリンピック終了後に、オリンピックと全く関係無い50階建マンション2棟が建つことをオリンピックク選手村要因と主張する論理は、論理として通用しない。
そして都側鑑定会社がオリンピック選手村要因の存在で土地価格が著しく低くなると主張するにも係わらず、その選手村要因による土地価格減価額は具体的にどれ程なのかという肝心要の金額が求められていない。
率直簡単に云えば、主張する都側鑑定会社も分からないのである。分かれば金額を書くはずである。書かなければならない金額が書かれていないことは、それは金額は分からないという証拠となる。
選手村要因による土地価格減額金額が自らも分からなくて、都側は「選手村要因がある、選手村要因を考えろ、考えていない住民側の主張は間違っている」と攻撃する。
しかし、その攻撃主張は無意味なものである。
それは、そもそも選手村要因は、建物価格(建物建築工事費)の問題で、土地価格に影響しないのであり、金額で云えば土地影響額ゼロ円である。
存在しない選手村要因の土地価格減価が、あたかも存在するごとく主張して、人・物事を混乱させて、自分達の利益を計ろうとする行為は許される行為ではない。
1審、控訴審の裁判官は、見事に、都側の策略に引っかかり、「いずれも前提を異にするものであり、採用することができない」と判示する。
開発法の基本価格は分譲マンションの価格であるのに、収益価格を採用し、収益価格から開発法価格を求めると云う前提など認められるはずが無かろう。
そして、開発法の価格96億1千万円に家賃33億5千万円を加えた129.6億円が、晴海選手村の土地の適正な鑑定評価額であるとする不動産鑑定評価などないことから認められるはずが無かろう。
家賃がそのまま土地鑑定評価額になる事は無いし、開発法価格+家賃が土地の鑑定評価額になることなど無い。
その様な不動産鑑定評価を採用することが出来ると判示する裁判官もどうかしている。
裁判官は、争いの当時者の提出証拠を冷静に公平にかつ公正に吟味すべきものであろう。
4.本件控訴審の裁判官は、一審判決を守ることが使命であるごとく、一審判決に不利になる事は、全て不採用としている。
裁判官が、裁判官の職を放棄して、あたかも東京都の代理人弁護士の役目をしているがごとくである。
その様な裁判官の判断行為による判決を、公平で公正な判決と云えるはずが無かろう。
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