○鑑定コラム


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ

2611) (開発法価格+家賃=鑑定評価額)という不動産鑑定評価額は無い

1.はじめに

 東京オリンピック晴海選手村土地不当廉売事件(以下「晴海選手村土地事件」と呼ぶ).は、現在東京高裁で争われている。

 1審での晴海選手村土地事件は、原告住民側の敗訴であるが、その判決は、1審裁判官は不動産鑑定評価についての知識が全く無いということを露呈してしまった。

 裁判官の不勉強を、自らが表明したごとくである。

 その裁判官の不動産鑑定評価の知識の無さと判決の間違い及び不動産鑑定評価額の間違いについて述べる。

2.東京都及び都側鑑定会社の云うオリンピック選手村要因の胡散臭さ

 晴海選手村土地は13.39万uある。

 都側の不動産鑑定会社は、選手村建物建設は「オリンピック要因」という特殊な要因であり、それは土地価格に大きく影響を与えると主張し、土地取引事例比較法を行わず、至近に存在する基準地価格(その後地価公示地となる)との規準も行わず、開発法(その開発法も間違っている)のみで土地価格を求め、適正な土地価格の10%以下の129.6億円が、オリンピック要因を考えた晴海選手村土地13.39万uの適正な土地価格であるという土地価格調査報告書を東京都に提出した。その調査報告書は、実質的には不動産鑑定書である。

 東京オリンピックは2021年7月23日〜8月8日、東京バラリンピックは2021年8月24日〜9月5日の間に開かれた。

 2021年9月初旬に、東京オリンピック・東京パラリンピックは終了した。

 オリンピック選手村の役目は、それで終了した。

 東京都及び都側鑑定会社が主張するオリンピック要因は、オリンピック・パラリンピックが終了したことから無くなったと云える。

 ところが、晴海選手村土地の5-5街区T棟(50階建 733戸)、5-6街区T棟(50階建 720戸)は、オリンピック・パラリンピックが終了した2021年12月27日付で建築確認申請が許可されている事から、オリンピック・パラリンピックが終了してから着工し建設される。竣工は2025年10月頃である。

 5-5街区T棟(50階建 733戸)、5-6街区T棟(50階建 720戸)の建物の建つ土地は、都側鑑定会社の調査報告書では、オリンピック選手村要因の及ぶ評価対象土地として土地価格が求められている。

 オリンピックが終了し、選手はいないのに選手村宿舎として使うのであろうか。その様なことはあり得ないであろう。実現不可能である。

 とすると東京都及び都側鑑定会社が主張するオリンピック選手村要因は、甚だいい加減なものであると云うことになろう。

 オリンビック・パラリンピックが終了してから着工し建設される50階建2棟、1453戸の分譲マンションはオリンピックとは全く関係が無い。

 オリンピック終了後に、オリンピックと全く関係無い50階建マンション2棟が建つことをオリンピック選手村要因と主張する論理は、論理として通用しない。

 この様な、東京都及び都側鑑定会社の主張するオリンピック選手村要因の存在で土地価格が著しく低くなるという主張の正当性など全く無い。

3.不動産鑑定評価額129.6億円の金額の内訳

 都側鑑定会社の調査報告書(実質は不動産鑑定書)は、P3で鑑定評価額を129億6千万円と記す。

 この金額は、晴海選手村の土地の価格であると思いがちであるが、そうでは無い。土地価格+家賃の金額である。

 土地価格に家賃を加算した金額が不動産の価格になるものでは無い。その様な金額は不動産鑑定評価と云えるものでは無い。

 内訳を記すれば、下記である。


街区 開発法価格   掲載頁数
5-3街区 710000000 96
5-4街区 1170000000 100
5-5街区 4060000000 104
5-6街区 2720000000 108
5-7街区 950000000 112
:計 9610000000  
       
鑑定評価額 12960000000  
       
差額 3350000000  


 開発法による土地価格は、96億1千万円である。

 鑑定評価額129億6千万円との差額33億5千万円は、オリンピック組織委員会が大会期間中に宿舎として借り上げる家賃の現在価値である。

 開発法の価格が不動産鑑定の土地価格である。それに家賃を加算した金額を不動産鑑定評価額としている。

    開発法価格+家賃=不動産鑑定評価額
と云う求め方の鑑定評価である。

 家賃加算については、都側鑑定会社の調査報告書P88〜90に記述してある。

 家賃は不動産では無い。不動産価格と家賃とは種類が異なり、全く別物である。

 民法86条1項は不動産について、次のごとく規定する。

 「土地及びその定着物は、不動産とする。」

 不動産は、土地及びその定着物を云い、家賃は土地ではなく、土地の定着物でも無い。  不動産の価格とは、土地の価格そして、土地に定着する物の価格をいう。

 家賃は不動産の価格では無い。

 上記から考えて、不動産の価格である開発法の価格に、不動産価格で無い家賃を加算した金額を不動産鑑定評価額とする事は間違いである。

 開発法価格に家賃を加算して、求められた価格が不動産鑑定評価額という算式論理は成り立たない。

 例えて云えば、長さ96.1m、重さ33.5kgを加算するごとくのものである。

    96.1m+33.5kg=129.6

 上記算式の右辺の129.6はどういうものであろうか。何を意味するものであろうか。

 都側鑑定会社の
   開発法価格96.1億円+家賃33.5億円=土地鑑定評価額129.6億円
という算式は、
        96.1m+33.5kg=129.6
の算式と同じということである。

 その様な算式は、算式として成立しなく、その算式で求められた129.6億円の正当性は全くない。

 何の価格か分からない129.6億円である。

 何の価格かわからないものを適正な土地価格であると主張する方がどうかしている。その様な、どうかしている計算式で求められた訳の分からない金額など受け入れられる筈が無かろう。

 都側鑑定会社の鑑定評価額そのものが論理的に破綻している。

 96.1m+33.5kg=129.6という論理が破綻している考え方で求められている都側鑑定会社の129.6億円の調査報告書の鑑定評価額は、不動産鑑定評価として失格、失当である。

 96.1m+33.5kg=129.6という論理が破綻している考え方で求められている鑑定評価を適正と判決した1審判決は失当も甚だしい。


  鑑定コラム2587)
「晴海選手村土地控訴審採用意見書の『中古マンション値づけ法』の駅距離修正率への激しい批判について」

  鑑定コラム2613)「「家賃が土地価格だとした誤りになぜ気づかなかったのか」西田紘一氏寄稿」

  鑑定コラム2614)「土地公租公課より見た晴海選手村土地価格の異常安」

  鑑定コラム2616)「晴海選手村の市街地再開発事業には都市再開発法108条2項は適用出来ない」

  鑑定コラム2621)「資産評価政策学会 2023年度シンポジュウムの論者の一人として参加して」

  鑑定コラム2650)「「国内で森林を所有する民間企業ベスト4」の鑑定コラム380)がアクセス1位に 令和5年10月1日アクセス統計」



フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ