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2736) 学生に不動産鑑定士の倫理規定を急遽話す

1.共同通信の記事のコピーを見せて学生に話す

 桐蔭横浜大学の不動産鑑定評価の講義で、今迄不動産鑑定評価における倫理規定について話した事は無かった。

 不動産鑑定評価の概念、専門用語の説明、更地価格の求め方、賃料の求め方、回帰分析の求め方等鑑定評価の実践についての講義内容ばかりであった。

 著書の『賃料<家賃>評価の実際』(清文社 2001年)、『賃料<地代・家賃>評価の実際』(プログレス 2005年)、『改定増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』(プログレス 2017年)、そして大学の講義用の教科書として書きあげた『考論 不動産鑑定評価』(プログレス 2021年)のいずれにも、不動産鑑定評価を行う不動産鑑定士の責務と倫理規定について記述して来なかった。

 大阪夢洲の地代評価において、大阪市から地代鑑定を依頼された4不動産鑑定会社が、3社が土地価格、地代利回り、地代の3つの項目で一致する鑑定書を提出(一鑑定会社は近似の数値)し、大阪市の市有地賃貸借契約の差止め訴訟の原告である住民側原告団が、2024年5月27日に、不当鑑定であると地代評価に関与した10人の不動産鑑定士を、大阪府不動産鑑定士協会に措置請求(6月中に8人の不動産鑑定士が、5都県の鑑定士協会に追加措置請求されるとの事)した。

 この事を、共同通信は、全国の新聞社に配信し、全国の新聞は共同通信発として報道した。

 今迄にも、不当鑑定で措置請求された不動産鑑定士はいた。しかし、予定者も含めて一度に不動産鑑定士18人の措置請求は今迄に無かった。

 不動産鑑定評価制度が出来て、初めての事態である。

 この様な事が発生したことから、鑑定評価を教える教官として、学生にその事実を伝え、不動産鑑定評価を行う不動産鑑定士の責務と倫理規定について講義せざるをえなくなり、共同通信の配信記事のコピーを示して学生に話した。

 不動産鑑定士になった場合、決して不当な鑑定評価を行ってはいけないことを話した。

2.「不動産鑑定評価に関する法律」という法律

 不動産鑑定評価についての法律は、「不動産鑑定評価に関する法律」という法律がある。

 その法律の第5条に(不動産鑑定士の責務)に関する規程がある。

第五条 不動産鑑定士は、良心に従い、誠実に第三条に規定する業務(以下「鑑定評価等業務」という。)を行うとともに、不動産鑑定士の信用を傷つけるような行為をしてはならない。



 不当な鑑定評価を行った場合は、第40条に(不当な鑑定評価等についての懲戒処分)に関する規程がある。

 その第40条の規程は、下記である。

第四十条 国土交通大臣は、不動産鑑定士が、故意に、不当な不動産の鑑定評価その他鑑定評価等業務に関する不正又は著しく不当な行為(以下「不当な鑑定評価等」という。)を行つたときは、懲戒処分として、一年以内の期間を定めて鑑定評価等業務を行うことを禁止し、又はその不動産鑑定士の登録を消除することができる。不動産鑑定士が、第六条又は第三十三条の規定に違反したときも、同様とする。

2 国土交通大臣は、不動産鑑定士が、相当の注意を怠り、不当な鑑定評価等を行つたときは、懲戒処分として、戒告を与え、又は一年以内の期間を定めて鑑定評価等業務を行うことを禁止することができる。

3 国土交通大臣は、不動産鑑定士が、前二項の規定による禁止の処分に違反したときは、その不動産鑑定士の登録を消除することができる。



 不当鑑定は、不動産鑑定士だけが処罰されるだけでなく、不動産鑑定書を発行した不動産鑑定業者も処罰される。

 第41条に(不動産鑑定業者に対する監督処分)という規程がある。

 第41条の規程は、下記である。

第四十一条 国土交通大臣又は都道府県知事は、その登録を受けた不動産鑑定業者が次の各号のいずれかに該当するときは、その不動産鑑定業者に対し、戒告を与え、一年以内の期間を定めてその業務の全部若しくは一部の停止を命じ、又はその登録を消除することができる。

一 この法律又はこの法律に基づく国土交通大臣若しくは都道府県知事の処分に違反したとき。

二 不動産鑑定業者の業務に従事する不動産鑑定士が、前条の規定による処分を受けた場合において、その不動産鑑定業者の責めに帰すべき理由があるとき。



 そして、不動産鑑定の不当鑑定について特殊な条文として、不当な鑑定であると疑いに足りる事実があれば、誰でもその鑑定書を添えて、国土交通大臣もしくは知事に対して措置請求出来るという特殊な条文がある。

 その条文は第42条の(不当な鑑定評価等に対する措置の要求)という規程である。

 42条は、下記である。

第四十二条 不動産鑑定士が不当な鑑定評価等を行つたことを疑うに足りる事実があるときは、何人も、国土交通大臣又は当該不動産鑑定士がその業務に従事する不動産鑑定業者が登録を受けた都道府県知事に対し、資料を添えてその事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる。



3.『不動産鑑定評価基準』の規程

 その鑑定評価が不当鑑定であるか否かの判断は、旧建設省(現国土交通省)事務次官通知として出された『不動産鑑定評価基準』に則って、鑑定評価されているかである。

 『不動産鑑定評価基準』違反の鑑定評価をすると、「不動産鑑定評価に関する法律」の懲戒規程が適用される事から、『不動産鑑定評価基準』は、次官通知であるが、法律とほぼ同じであると、私は以前から云っているのである。

 一方、『不動産鑑定評価基準』は、不動産鑑定士の責務としてどの様に述べているのか。それについては、平成26年改正鑑定基準国交省版P3〜4頁で次のごとく述べている。その部分を以下に転載する。


 「第4節 不動産鑑定士の責務

 土地は、土地基本法に定める土地についての基本理念に即して利用及び取引が行われるべきであり、特に投機的取引の対象とされてはならないものである。

 不動産鑑定士は、このような土地についての基本的な認識に立って不動産の鑑定評価を行わなければならない。

 不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価を担当する者として、十分に能力のある専門家としての地位を不動産の鑑定評価に関する法律によって認められ、付与されるものである。

 したがって、不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価の社会的公共的意義を理解し、その責務を自覚し、的確かつ誠実な鑑定評価活動の実践をもって、社会一般の信頼と期待に報いなければならない。

 そのためには、まず、不動産鑑定士は、同法に規定されているとおり、良心に従い、誠実に不動産の鑑定評価を行い、専門職業家としての社会的信用を傷つけるような行為をしてはならないとともに、正当な理由がなくて、その職務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならないことはいうまでもなく、さらに次に述べる事項を遵守して資質の向上に努めなければならない。

(1)高度な知識と豊富な経験と的確な判断力とが有機的に統一されて、初めて的確な鑑定評価が可能となるのであるから、不断の勉強と研鑚とによってこれを体得し、鑑定評価の進歩改善に努力すること。

(2)依頼者に対して鑑定評価の結果を分かり易く誠実に説明を行い得るようにするとともに、社会一般に対して、実践活動をもって、不動産の鑑定評価及びその制度に関する理解を深めることにより、不動産の鑑定評価に対する信頼を高めるよう努めること。

(3)不動産の鑑定評価に当たっては、自己又は関係人の利害の有無その他いかなる理由にかかわらず、公平妥当な態度を保持すること。

(4)不動産の鑑定評価に当たっては、専門職業家としての注意を払わなければならないこと。

(5)自己の能力の限度を超えていると思われる不動産の鑑定評価を引き受け、又は縁故若しくは特別の利害関係を有する場合等、公平な鑑定評価を害する恐れのあるときは、原則として不動産の鑑定評価を引き受けてはならないこと。



 上記、鑑定評価基準が説く責務をまとめて「鑑定五訓」と呼ばれているものがある。鑑定事務所の中には、事務室の壁に額に入って掲げられているところもある。

 下記である。


「鑑定五訓」

一. 良心に従い、誠実に鑑定評価業務を遂行しなければならない。

一. 専門職業家としての誇りと責任感を昂揚し、安易な妥協をしてはならない。

一. 自己の信念に基づいて行動し、公正中立の態度を堅持しなければならない。

一. 職務上知り得た秘密事項については、正当な事由なく他に漏らしてはならない。

一. 常に能力・資質の向上をはかり、自己研鑚につとめなければならない。



4.公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会のホームページ

 不動産鑑定士の各県士協会の連合した団体である公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会(以下「連合会」と呼ぶ)は、会員の不動産鑑定士の責務と倫理についてどの様に述べているか。連合会のホームページを見ると、以下のごとく述べている。
(https://www.fudousan-kanteishi.or.jp/greeting/)

(基本理念と運営方針)

  不動産は国民の生活と活動に欠くことのできない基盤である。

 不動産鑑定士は、専門職業家として、この不動産の適正な価格の形成に資するとともに、鑑定評価の実践をもって、社会の信頼と期待に応えなければならない。

 公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会は、所属会員がこの責務を果たし社会に貢献していくため、協会の運営に当って社会との共生に努めることを基本理念とし、次の事項を重点的な運営方針とする。

 ―鑑定評価の品質向上―不動産を取り巻く経済環境の変化に応じて、国民に高度で的確な不動産に係わる情報を提供していくため、常に鑑定評価の品質の向上を目指す。

 ―自律機能の強化―鑑定評価の信頼性を高めるため、法令遵守と職業倫理の確立に努めるとともに、内部統制による自律機能の強化を図る。

 ―地域社会への貢献―地域に密着した鑑定評価活動を通じて社会、特に地域社会に貢献する所属会員の活動を支援するため、地域組織の活性化に取り組む。

《 本会の自律自戒の状況 》

 本会は不動産鑑定士という国家試験に合格した不動産鑑定士等の集団であります。

 そして、日常の業務である鑑定評価は、社会に信頼され得る高い倫理性を持ったものでなければなりませんし、同時に社会に対する説明責任を伴うものであります。

 しかし乍ら、全国の会員の中には、誘惑に駆られ、これに背き、本会が定めた倫理規定に違反する者が生じております。その様な時、本会は、厳正な審査を経て、その案件に応じた懲戒処分を行い、自律能力を発揮しております。


 連合会は、自律として「倫理規定に違反する者が生じた時は、厳正な審査を経て、その案件に応じた懲戒処分を行い、自律能力を発揮しております。」と記す。

 今回の大阪夢洲の地代鑑定は、私は4鑑定業者の鑑定書を読み倫理規定違反と判断しているが、連合会はどう判断するのであろうか。連合会の厳正な審査とはどういうものか、見ていよう。

 私は今年度で桐蔭横浜大学の講義は終了し、客員教授の職を辞する。今年中に連合会等の結論が出れば、学生に報告したい。


  鑑定コラム2732)
「不動産鑑定士10人措置請求される 大阪夢洲地代鑑定」

 国土交通省不動産・建設経済局次長吉田誠氏の国会答弁の内容は、下記の鑑定コラムに記述してあります。

  鑑定コラム2502)「4不動産鑑定会社の内3鑑定会社の土地価格、利回り、地代が一致とは」

  鑑定コラム2735)「不動産鑑定士平澤春樹氏の鑑定オピニオンと鑑定コラム2732)のアクセス急増」

  鑑定コラム2764)「「不動産鑑定士10人措置請求される」の鑑定コラム2732)がアクセス1位に 令和6年7月1日アクセス統計」


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