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1242)これが改正鑑定評価基準なのか

 日本不動産鑑定協会連合会は、平成26年5月改正、26年11月施行の改正不動産鑑定評価基準の講習会を東京・大阪等で開いている。

 多くの不動産鑑定士が講習会に参加している。

 改正新基準は、かなりの部分が改正された。

 私が法廷で、代理人弁護士から裁判所の鑑定人として行った鑑定書の内容について、証人喚問を受けて、苦い思いを味わった中の一つである更地価格の求め方が変わった。

 更地価格の求め方が変わると云うことは、画期的なことであり、重大なことである。

 何故かと云えば、不動産の不動産たるものは土地であり、不動産鑑定にあっても、土地が中心に存在する。

 その価格は、不動産鑑定の中心、根本的のものである。

 その中心的、根本的なものの求め方が部分的にとはいえ、変わると云うことは、不動産鑑定全体に及ぶことになり、画期的な出来事である。

 本来ならば、中心的、根本的なものは変えるものでは無く、変えられるものでは無い。

 何度かの鑑定基準の改訂がなされたが、更地の求め方は、昭和44年統一基準にされてから変更されていない。

 更地価格は、不動産鑑定の中心的、根本的なものと考えているから、当初基準作成時に充分議論し、検討し、理論的にも考察されて決められたものであるから、適正であり、それ故、その求め方は変えることはしないという考え方が底辺に流れている。

 変える必要がないほどしっかりした論理性のある求め方という自負があったのではなかろうか。

 しかし、今回、変更せざるを得なくなった。

 其れは何故か。

 時代の流れと云う言葉で片付けられるものでは無い。

 堅牢と思われていた更地価格の求め方の論理性は、実は堅牢の論理性に守られていなく、理論的にも不備であったのである。

 それが故に変更せざるを得なくなったということである。

 旧基準の更地価格の求め方は、

 「更地並びに自用の建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする」

であった。

 改正新基準では、

 「更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする」

となった。

 変わったのは、「自用の建物及びその敷地」が、「配分法が適用できる場合における建物及びその敷地」に変わったのである。

 たかがそれだけの文言が変わっただけなのか、それがそんなに重要な変更なのかと思われるかもしれないが、それが大変重要な変更内容を意味するのである。

 旧基準では、複合不動産では、「自用の建物及びその敷地」の取引事例しか、事例採用出来ず、「貸家及びその敷地」の取引事例は、更地の事例として採用することは出来なかったのである。

 銀座の土地評価にあって、更地の取引事例など無く、複合不動産では、殆どが貸ビル、即ち貸家及びその敷地の取引ばかりである。

 旧基準では、貸ビルの取引事例が事例採用出来ないのである。

 貸ビルの取引事例を使用して、土地価格の鑑定書を発行したところ、東京地裁の裁判の法廷で証人喚問され、代理人弁護士から「田原鑑定は基準が認めていない貸ビルの取引事例を使用して土地価格を求めており、明白な鑑定評価基準違反をしている。信用性は全く無い」とやられたのである。

 苦い証人喚問を味わった。

 このことについては、鑑定コラム20)「ある法廷にて」で述べている。

 貸家及びその敷地の取引事例の土地価格が、事例として使用出来るようになったことは大変よいことである。

 更地価格の求め方が部分的とはいえ重要な部分が変わったことは、不動産鑑定評価の根本理論が変わったことに等しいのである。

 そうであるのにも係わらず、改正不動産鑑定評価基準の不動産鑑定士の講習会においては、そのことに全く触れずに、他のことの説明がなされている。

 催されている講習会とは、改正された重要な個所を周知徹底させるために開かれているのでは無いのか。

 更地価格の求め方の変更は、私は上に述べたごとく大変重要な個所と思うが、講師が言及しないということは、重要な個所では無いというのであろうか。

 私には理解しがたい、不思議な講習会である。

 その他多くの改正された点があるが、どうもまだ改正されない個所もある。

 その一つを指摘する。

 賃料の必要諸経費に、貸倒引当金(基準用語では「貸倒れ準備費」)と空室損失(基準用語では「空室等による損失相当額」)が計上されている。(国交省版改正鑑定基準P33)

 空室損失、貸倒引当金は、賃料収入の中で考えるものであって、費用では無い。

 DCF法の収益・費用の項目において、貸倒引当金(基準用語では「貸倒れ損失」)と空室損失(基準用語では「空室等損失」)は、運用収益の項目に入っており、運用費用の項目には入っていない。(国交省版改正鑑定基準P59)

 同じ不動産鑑定評価基準の中で、同じ要因項目が、一方では、費用項目に入っており、他方では収益項目に入っている。

 相矛盾している。

 整合性が全くとれていなく、論理が破綻している。

 ダブルスタンダードである。

 論理が破綻しているダブルスタンダードの基準など、基準足り得ない。

 用語も統一されていない。

 何を考えて、鑑定評価基準の改正をやっているのか。


  鑑定コラム20)
「ある法廷にて」

  鑑定コラム579)「空室損失は経費ではない」

  鑑定コラム1133)「何度言えばわかるであろうか 空室損失は経費では無いと」

  鑑定コラム68)「賃料と改正鑑定基準」

  鑑定コラム1273)「鑑定基準に「賃貸事業分析法」という新しい地代手法が導入された」

  鑑定コラム1552)「賃貸事業分析法の具体的な求め方」


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