不動産鑑定基準が改正される。平成15年1月から新しく改正された新基準が施行される。
不動産鑑定基準とは、不動産鑑定評価する時の拠り所とすべきものであり、価格を求める手法、その手順、報告書の必要的記載事項等が記述されている。
現行不動産鑑定基準は平成2年に改正された。
バブル経済崩壊後の大幅な地価の下落、その後の不動産担保付不良債権の大量発生、不動産の投資フアンド化等に伴い、現行不動産鑑定基準は対応出来なくなってきた。そして同基準に対する批判も声高にされるようになってきた。
13年ぶりの不動産鑑定基準の改正は、土地建物を一体として捉え、収益性に重点を置いて評価する方針を打ち出した。そして収益還元法にDCF法を導入することにした。物件調査、市場分析を拡充し、評価の過程の説明を分かり易く行うことが要求されることになった。
土壌汚染も鑑定評価では考慮せよと言うことになった。
土壌汚染の導入を取り入れるという大胆な考え方があったならば、不動産鑑定に「レビュー」という制度の導入を考えても良かったのでは無いかと思う。
国土交通省の鑑定官と社団法人日本不動産鑑定協会の基準改正に携わった不動産鑑定士が協力して、全国の不動産鑑定士に基準改正の内容を知らせるために、2002年9月以降およそ1ヶ月半掛けて、全国の会場で研修講演を行った。
義務研修である。
と言って、受講しなかったからといってペナルティが課されるかというと、明確にはされないようである。
割引率や還元利回りの求め方が詳しく記述されているが、「借入金還元利回り」という用語が飛び出してきたのには驚いた。
還元利回りとは収益と価格の間を取り持つ割合と思っていたが、借金にも還元利回りがあるという。定期に支払う借金の元本分支払額に対する借金元本の割合を言うらしい。
新不動産鑑定基準は収益還元法に重点を置いて価格分析するという方針である。それはそれでいいことである。しかし収益還元法のもとになるべき賃料の理論整備、賃料の求め方、賃料資料はどうなって居るのであろうか。
収益還元法に使用する賃料は適正な賃料であると、どのように判定されるのか。それとも常に正しいとでも思いこんで居るのであろうか。継続賃料と新規賃料が混在しているビルの賃料をどう処理されるのか。当該ビルの継続賃料が適正賃料であるとどのようにして判断するのか。当該ビルの新規賃料が適正であるとどのように判定するのか。
継続賃料及び新規賃料は常に適正であり、適正な賃料データが常にどこかに数多く保存され、不動産鑑定のために誰かが常に即座にデータ提供してくれるとでも考えているのであろうか。
新築ビルの新規賃料、既存ビルの新規賃料、既存ビルの継続賃料、既存ビルに混在する継続賃料と新規賃料の場合の、それぞれの還元利回りはどうなるのであろうか。借地上の貸ビルの新規賃料と継続賃料の場合の還元利回りはどうなるのであろうか。いずれのビルの賃料の還元利回りも、全て同じとでも言うつもりであろうか。同じとするとリスクも同じと言うことになる。とするとその考えを担保する理論は?。現実の実態は?。
現行不動産鑑定基準の賃料分野の基準が、改正の必要のない完成された賃料理論体系とでも思っているのであろうか。賃料評価の実務において、現行の不動産鑑定基準は賃料の評価基準足り得ないと、私は賃料の鑑定書を書く度に実感しているが。
不動産鑑定評価の本質、本流は不動産に属する利益(賃貸不動産では賃料)の把握である。
収益あっての価格である。価格あっての収益ではない。価格あっての価格でもない。
価格より優先すべき収益分析をないがしろにしていることが、今回の不動産鑑定基準の改正は如実に物語っている。賃料の考察がものの見事にすっぽりと抜け落ちている。
賃料部分で改正された部分というのは、書くのも全く恥ずかしくなるが、「又は」を「若しくは」、「適正な」を「適切に」という文言が変わった程度である。これではあまりにもひどすぎるのでは無かろうか。
不動産鑑定評価基準についての記事は、下記鑑定コラムにも有ります。
鑑定コラム241)
「不動産鑑定基準とは」
本鑑定コラムには賃料に関する多くの記事があります。下記に一部紹介します。
鑑定コラム226)家賃より地代を求める家賃割合法
鑑定コラム214)共益費は賃料を形成しないのか
鑑定コラム231)保証金が100ヶ月とゼロの店舗支払家賃は同じなのか
鑑定コラム236)従前合意賃料は妥当な賃料だったか
鑑定コラム219)家賃評価の期待利回りは減価償却後の利回りである
鑑定コラム71)差額配分法と私的自治の原則
鑑定コラム101)基礎価格の再認識の必要性
鑑定コラム1242)「これが改正鑑定評価基準なのか」
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