○鑑定コラム
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2014年8月20日に、報道各社(日本経済新聞8月20日2:00、ウオール・ストリート・ジャーナル8月20日4:07JST、朝日新聞8月20日10:29)は、アメリカの金融大手であるシティグループが、日本のリテール部門(個人部門)の業務を売却すると報じた。
私は、金融に携わっている訳ではないことから、このニュースを聞いても、シティグループが日本の業務部門の一つを手放すのか、買うばかりで無く、売却の当事者にもなるのかと思っていた。
何故売却するのかの理由の推測などせずに、このニュースを殆ど忘れかけていた。
2014年8月28日の日本経済新聞夕刊の『ウオール街ラウンドアップ』の記事で、アメリカ駐在の西村博之記者が、下記のごとく伝えていた。
「先週、米バンク・オブ・アメリカは、住宅ローン担保証券の不正販売絡みで166億ドルの罰金等の支払に応じた」
アメリカの金融機関は、上記事件の莫大な罰金等の支払例から見るごとく、リスク管理と法令遵守の担当者を大幅に増やす動きとなりつつある。
西村記者は続ける。
「シティグループは、その要員を2011年比で約3割、8000人も増やし、3万人とする。
収益が減るなか費用はかさみ、日本の個人取引部門の売却に傾いたのもうなずける。」
と記す。
なるほど、シティグループが、日本の個人部門を売却するという動機は、そこにあったのかと分かった。
そして、西村記者は続ける。
「シティ日本法人は、法人取引の部門を合わせても従業員は2000人足らず。昨年の純利益は1300万ドルで」
と報じる。
シティ日本法人の昨年(2013年)の純利益(経常利益)は、1300万ドルと報じる。 2014年8月28日のレートは、1ドル=103円である。
1300万ドルを、日本円に換算すると、
13,000,000ドル×103円=1,339,000,000円
13億3900万円である。
シティ日本法人の経常収益(一般企業の売上高に相当)は、2009年が1121億円、2013年は683億円と朝日新聞は報じる。
このことから、シティ日本法人の経常利益率(一般企業の営業利益率)は、
13.39億円
────── =0.0196 ≒ 0.02
683億円
2.0%である。
シティ日本法人の経常利益率が、2.0%と求められたが、この利益率が妥当かどうか検討する。
銀行の決算用語は、一般の製造・販売業の決算用語とは、少し異なっている。
一般企業 銀行
売上高 → 経常収益
営業利益 → 経常利益
一般企業の売上高に相当するものが、銀行では経常収益の用語となっている。
一般企業の営業利益に相当するものが、銀行では経常利益の用語となっている。
以下、経常収益、経常利益の用語を使用して論じる。
銀行の経常利益率は、三菱東京UFJ銀行の平成23年3月(これ以降は公表されていない)が、
経常利益 849,766百万円
──────────────── = 0.274
経常収益 3,209,835百万円
27.4%である。
三井住友銀行の平成26年3月期が、
経常利益 1,432,332百万円
──────────────── = 0.309
経常収益 4,641,880百万円
30.9%である。
財務省の『法人企業統計年報(平成24年度)』(財政金融統計月報738号 P187)によれば、資本金10億円以上の銀行414社の総集計は、
経常利益 5,478,341百万円
──────────────── = 0.234
経常収益 23,384,843百万円
23.4%である。
銀行の経常利益率は、23%〜30%である。
これに比し、シティ日本法人の経常利益率は2.0%である。
利益率が甚だ低い。
この利益率では、アメリカのシティグループの本部が、売却を決定するのも理解出来る。
シティ日本法人は、個人部門の業務売却は入札にして行うと云う。
では、その売却価格は如何ほどであろうか。
銀行の売買価格を推定してみる。
企業評価している公認会計士、証券会社アナリスト、M&Aの専門家がおり、企業評価の門外漢である私が価格分析することは、おこがましいかもしれない。
しかし、民事再生法の企業が所有する日本全国に散らばっている全不動産の価格を調査し、又M&Aの買収先企業の所有する全不動産の価格を職業として調査しており、企業再生、企業買収の裏方で動いている立場からの価格分析も、否定されるべきものでは無いと私は思うが。
今迄に銀行の売買事例3つ、証券会社の売買事例1つを鑑定コラムで記事にした。
鑑定コラム113) あおぞら銀行
鑑定コラム118) みずほ銀行香港法人
鑑定コラム312) みちのく銀行モスクワ法人
鑑定コラム583) 三井住友銀行の日興コーデアル取得
日興コーデアルも金融機関であり、銀行の取引に同じとみなす。
4つの銀行等の売買価格と、経常利益の関係を分析する。
4つの売買事例の内容がどういうものかは、各鑑定コラムを読んで、知っていただきたい。ここでは説明を省略する。
データの数値は、下記である。
売買価格 経常利益
@あおぞら 2070億円 102.7億円
Aみずほ香港 737億円 39.3億円
Bみちのくモスクワ 70億円 4.86億円(注1)
B住友三井 日興 5450億円 353.15億円(注2)
(注1) 経常利益は2.65億円であるが、近い将来の売上高の増加が確実に見込まれると予想され、4.86億円とする。
(注2) 経常利益は196.85億円であるが、前期の経常利益の水準を考え、353.15億円とする。
銀行の売買価格と、その経常利益を見ると、経常利益の多い物件の売買価格は高くなっている。
価格は、利益あっての価格という経済経験則が適用されていそうである。
銀行の売買価格と経常利益の間には、相関関係があるのでは無いかと推測される。
グラフの縦軸Yに銀行の売買価格、横軸Xに経常利益をとり、データ値をグラフに落として見ると、下記である。
XYの間には、極めて相関関係が高い線形代数の関係が認められる。
データの値から、両者XYの関係を分析すると、
Y=174.07+15.17X ・・・・・・(1)式
(16.5)
r=0.996
の関係が認められる。
上記(1)式は、定数項を無視するとすれば、経常利益1億円あたり、銀行の価格は15.17億円であるということである。
還元利回りは、
1/15.17=0.0659≒0.066
6.6%ということになる。
上記(1)式の定数項が174.07であるから、経常利益0円でも銀行の価格は174億円と云うことになるが、それでは具合が悪い。
経常利益1億円当り15.17億円価格が増加することから、174.07億円になるには、
174.07億円
─────── =11.47億円
15.17億円
11.47億円必要となる。
上記(1)式が適用出来るのは、X値が11.47億円以上の場合と判断出来る。
即ち上記(1)式が適用出来るX値の範囲は、11.47≦Xである。
では、X値が0億円から11.47億円までの間にある場合は、どうすればよいのか。
上記より切片である174.07億円が有効であるのは、X値が11.47億円以上の時である。
それ以下の場合には、切片の値は有効ではない。
切片を決める有効手段はないことから、(1)式の切片を0とした、
Y=0+15.17X
=15.17X ・・・・・・(2)式
の算式の採用が妥当と思われる。
分析データのみちのくモスクワの経常利益と売買価格は、再記すると、下記である。
経常利益 4.86億円
売買価格 70億円
経常利益Xは、11.47億円以下であるから、上記(2)式の適用となる。
計算すれば、Y値は、
Y=15.17×4.86=73.7
73.7億円と求められる。
売買価格70億円に近似の価格が求められる。
(2)式は、妥当な算式と証明される。
問題は、X値が11.47億円になった時、2つのX値が求められてしまうことである。
(1)式からは、
Y=174.07+15.17×11.47≒348億円
(2)式からは、
Y=15.17×11.47≒174億円
である。
(1)式と(2)式で求められた価格の差は、
348億円−174億円=174億円
である。
即ち、切片の174億円の開差が生じてしまうことである。
この場合、(1)式の値を取るか、(2)式の値を取るかは、経常収益、経常利益率、将来の収益性等の要因を考えて決めることになる。
以上から、X値が、0≦X≦11.47の間の算式は、
Y= 15.17X ・・・・・・(2)式
X値が、11.47≦Xの算式は、
Y=174.07+15.17X ・・・・・・(1)式
の算式となる。
算式が求められた。
求められた算式を使って、シティ日本法人の価格を求めてみる。個人部門の価格では無く、シティ日本法人全体の価格である。
シティ日本法人の経常利益は、13億3900万円である。
利益率は2.0%と甚だ低い。
経常収益は、693億円であるが、4年前までは1121億円あった。
経常収益の減少は、
693億円
───── = 0.618
1121億円
0.618である。
1121億円まで経常収益がもどることは無理としても、両金額の真ん中辺りまでの回復は可能では無いのか。
1+0.618
────── = 0.809≒0.81
2
経常利益も同様にアップすると考え修正する。
13.39÷0.81=16.53
16.53億円と修正される。
企業の経営母体が変更した場合、その企業の売上高は必ず減少する。
小売業の場合、10%程度である。
銀行の場合はどれ程の減少になるのか分からないが、小売業と同じ10%のダウンとする。
16.53億円×0.9=14.877億円
シティ日本法人の修正経常利益を14.877億円とする。
14.877億円は、X値である。
14.877億円は、11.47億円よりも大であるから、適用される算式は、(1)式となる。
(1)式のXに、14.877を代入すると、Y値は、
Y=174.07+15.17×14.877
=399.75
≒400
である。
シティ日本法人の価格は、400億円である。
但し、所有不動産の価格を調査して、所有不動産の価格が400億円近く、あるいは400億円を超えていた場合は、この要因を考える必要がある。
シティ日本法人のうち個人部門の経常利益が如何ほどか、私には分からない。 11.47億円よりも少額であれば、適用算式は(2)式となる。
仮に個人部門の経常利益が5億円であったとすれば、価格は、
15.17×5≒76億円
ということになる。
いくらの価格で、どこの銀行が落札するか。
鑑定コラム113)「銀行の売買価格はどの様に求めるのか」
鑑定コラム118)「銀行の売買価格は利回り5%か」
鑑定コラム312)「みちのく銀行モスクワ現地法人の売買価格」
鑑定コラム583)「三井住友FGが日興コーディアル証券を買収」
鑑定コラム1244)「銀行売買価格の還元利回りはどれ程か」
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