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140)遂に都市銀行本店も身売り

 東京丸の内にある「みずほコーポレート銀行」の本店の土地建物が、三菱地所に売却されることになった。(みずほコーポレート銀行ホームページ、2003年12月12日)

 みずほコーポレート銀行とは、みずほフィナンシャルグループの傘下にある銀行であるが、みずほ銀行とどう違うのか私にはよくわからない。
 従業員5,300人余、国内支店18、海外支店40を持つという。
 上場企業の大企業を顧客としており、海外業務やコーポレートファイナンスを主体とするという銀行と会社概要では述べているが、身近にあるみずほ銀行しか目にしないから、違いがよくわからない。

 社名の「コーポレート」(corporate)とは、「法人組織の」とか「共同の」という意味を持つ言葉である。
 コーポレートガバナンスとは、「企業統治」と訳されている。

 とすると、コーポレート銀行とは、法人企業相手の銀行、その法人企業が上場企業であるとすれば、上場企業を顧客とする銀行と言うことになる。
 そうした銀行が日本にも有ったのかと改めて知った。(追記 みずほコーポレート銀行は旧日本興業銀行である様だ)

 いずれにしろ、丸の内にあるみずほコーポレート銀行という都市銀行の本店の土地・建物が、第3者に売却された。

 売却価格は、ホームページのプレスリリースによれば864億円である。

 本店は、本店自身も営業行為を行って利益をあげているであろうが、多くは、各支店の営業利益のいくばくかが、本店経費として吸い上げられて存在しているものである。
 本店自身の売上高、業務純益が864億円に相当するというのではない。

 みずほコーポレート銀行本店の土地建物を講入する三菱地所は、特別目的会社(SPC)を設立し、ここが実質の土地・建物所有権者となるという。

 そしてみずほコーポレート銀行は、売却した本店を定期借家権で賃借して営業を続けるという。いわゆるSPCによるリースバックである。

 このSPCによるリースバックは、前にも述べたが、 「トヨタのカンバン方式」 の不動産版といえるものではなかろうかと私は思う。
 
 今まで銀行は、自社の所有土地建物であったため、賃料というものを支払う必要性がなかったが、これからは確実に「賃料」という経費負担がかかる。
 「賃料などたいした経費ではない。ゴミみたいの金額だ。」
と考えて、所有土地建物の時と同じ経営感覚で対応していたら、企業経営者は必ず苦い汁を味わうことになる。賃料を馬鹿にしてはいけない。

 本店が支払う家賃や本店勤務の人々の給与・経費は、地方・海外の支店が稼ぐ利益で賄われる。ここに各支店の企業利益のうち、「経営に配分される利益」の存在の必要性が出てくる。経営に配分される利益は、経営者の賞与のみではない。そんな小さい金額で収まるものではないと云うことがわかろう。

 各支店からの配分利益で、本店経費が賄い切れなければ、本店は家賃の安い場所のビルに移り、本店管理部門の社員を減らし、経営者の給与を減額する等のリストラを行わざるを得ないことになる。

 三菱地所が、みずほコーポレート銀行にどれ程の賃料で貸すかは、当時者同士でしか知る由はないが、以前本『鑑定コラム』6) 「丸の内土地還元利回り3.6%」 の記事の中で、三菱地所の丸の内地区の4つのビル計画より、総合還元利回りを平均4.0%と分析した。

 この割合を利用して賃料を計算してみる。
    864億円×0.04=34.56億円
    34.56億円÷12ヶ月=2.88億円
 これは純賃料である。いわゆるキャッシュフローである。

 賃料は、
    純賃料+必要諸経費
で構成されている。この必要諸経費割合は、賃料の25〜30%である。

 このことを逆にいえば、純賃料の賃料に占める割合は、賃料の75〜70%ということである。70%を採用する。

    2.88億円÷0.7=4.1億円

が月額賃料となる。

 建物面積は74,000平方メートルという。

 有効事務所面積比(レンタブル比)を、銀行のビルでゆったりと共用部分がとってあると考えて65%とする。
    74,000平方メートル×0.65=48,100平方メートル
    410,000,000円÷48,100平方メートル=8,524円
 平方メートル当り8,524円、坪当り28,200円と計算される。

 果たして実際の賃料はどれ程か。

 みずほコーポレート銀行の本店の賃料が、坪当たり28,200円かどうかはわからないが、この賃料を求めるに至った計算過程を、全く逆に行えば、864億円という価格が求められることになる。

 この、逆に行って価格を求める手法が、不動産鑑定評価で云う「収益還元法」と呼ばれるものである。

 私がよく云う「収益(賃料)あっての価格」というのは、多分に、この逆算手法である収益還元法による価格のことである。

 野っ原のど真ん中に100億円の金をつぎ込んでビルを建てても、そのビルからの収益が1億円しかなければ、そのビルの価格は土地も含めて、せいぜい10億円ということになる。

 これが、「収益あっての価格」ということの、ややオーバーな例による説明である。

 「10億円の価値しかないのに、何故、100億円の金をかけてビルを作ったのか。そんな非経済的なことを行う人がいるのか」
と思われるかもしれないが、そうした類のことが、不動産では至る所に、現実にあるのである。


銀行の売買に関する鑑定コラムの記事は、下記にあります。
  鑑定コラム113)銀行の売買価格はどの様に求めるのか
  鑑定コラム118)銀行の売買価格は利回り5%か
  鑑定コラム312)みちのく銀行モスクワ現地法人の売買価格

  鑑定コラム438)りそな銀行丸の内の東京本社ビル売却


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