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1755) 還元利回り、期待利回りの求め方

1, 期待利回りと還元利回り

 期待利回りとは、賃貸借に供する不動産の純賃料を求めるために基礎価格(土地建物の価格)に乗じる割合である。

 即ち、下記公式の

      
            基礎価格(土地建物の価格) × 割合 = 純賃料

の「割合」が期待利回りと称されるものである。

 還元利回りは、

                 純賃料
          ────────── = 還元利回り                       
       土地建物の価格

である。

 還元利回りと期待利回りは、貨幣の表裏の関係がある。

 当該不動産(土地建物)の期待利回りは、先に分かるものでは無い。

 還元利回りは、当該土地建物価格は分かり、純賃料も分かることから求めることが出来る。

 それ故、還元利回りを求めて、還元利回りと期待利回りとは貨幣の表と裏の関係があるという関係を使用して、求められた還元利回りを当該土地建物の期待利回りであると判断する。

2,還元利回り・期待利回りの留意点

 @ 還元利回り・期待利回りは、対象不動産の所在する地域の土地価格、賃料そして対象建物の個別性によって形成されるもので、複合不動産それぞれで利回りの値が異なるものである。

 還元利回り・期待利回りを求めるのに、地域要因を異にする他の地域と比較して求めることは、大変難しいものであり、やらない方が良い。行った場合、比較の結果の妥当性を担保するものが必要である。

 銀座の期待利回りが4%であるとして、この銀座の期待利回りと比較して、草加の商業地の期待利回りを7%であるとする賃料鑑定書を見たが、とても適正であると云えるものでは無い。

 不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」とする)は、不動産の価格に関する11の原則を規程する。

 即ち、不動産の価格は、11の価格原則に従って形成されているというのである。

 その11の原則とは、需要と供給の原則など経済学でも認められている価格形成の原則である。

 その原則の中に、競争の原則、代替の原則がある。

イ、競争の原則

 鑑定基準は競争の原則について、次のごとく云う。

 「不動産については、その利用による超過利潤を求めて、不動産相互間及び他の財との間において競争関係が認められる。したがって、不動産の価格は、このような競争の過程において形成される。」(平成26年改正鑑定基準国交省版P13)

ロ、代替の原則

 鑑定基準は代替の原則について、次のごとく云う。

 「代替性を有する二以上の財が存在する場合には、これらの財の価格は、相互に影響を及ぼして定まる。不動産の代替可能な他の不動産又は財の価格と相互に関連して形成されている。」(平成26年改正鑑定基準国交省版P12)

 期待利回り、還元利回りも価格、賃料から求められるものであるから、11の価格原則の影響下にある。

 銀座の商業地の期待利回りと草加の商業地の期待利回りは、競争の関係にあるであろうか。

 銀座の土地価格と丸の内、新宿の土地価格とは、競争関係にあると云うことは充分立証し、その関係を認めることは出来る。

 だが、草加の商業地の土地価格が、銀座の商業地の価格と競争関係にあるであろうか。

 両商業地の地域要因、価格水準が異なりすぎて、とても競争関係にあると認めることは困難であろう。

 次に、銀座の商業地の期待利回りと草加の商業地の期待利回りは、代替の関係にあるであろうか。

 銀座の商業地が買えなかったから、草加の商業地を代替に買うということを一般の人は行うであろうか。商業要因が異なりすぎて行わないであろう。

 以上2つの価格原則から検討すれば、銀座の商業地と草加の商業地とは、競争、代替の関係には無いということになる。

 銀座の商業地の期待利回りが4%であるから、草加の商業地の期待利回りは7%であると求めている当該不動産鑑定書の期待利回りは、論理が成り立たない期待利回りであろう。

 しかるに、その賃料鑑定書は適正であると、裁判官は判断して判決を書いていた。

 あきれてものも云えなかった。

 こんな賃料の判決をしていては、裁判の信頼を無くするだけである。

 裁判官ょ、もっと賃料について勉強してくれないかと云いたくなる。

   A 賃料の評価の場合の期待利回りは、減価償却後の期待利回りを使用する。

 減価償却費が必要諸経費に含まれている利回りを使用する。

 平成26年改正鑑定基準は、何を考え違いをしたのか、必要諸経費から減価償却費をハズしてしまった。

 この改正基準の新しいやり方で賃料評価していると、地代の賃貸事業分析法を行う時に大失敗をする。一度裁判鑑定で失敗を味わうことだ。

 相手側代理人弁護士から、無能な不動産鑑定士であるごとく徹底的に批判され、鑑定書の内容を厳しく叩かれる経験を味わえば、二度と失敗の経験はしたくないと思うであろう。

 地代の賃貸事業分析法での失敗を避ける為に、賃料評価においては、常に必要諸経費には減価償却費を入れて行っていた方がよい。

 B 積み上げ期待利回りは、各リスクの証明が必要であり、それが出来ない時は、やらない方が良い。前記と同じく相手側代理人弁護士から厳しく突っ込まれる。

 例えば、下記のごとくの求め方である。

         国債利回り         1.5%
                  リスクプレミアム      2.5%
                  流動性欠如プレミアム    1.3%
                  資産の安全性プレミアム   1.0%
               ───────────────────               
                      計                      6.3%

として6.3%の期待利回りであった。

 初めて不動産鑑定書を見た人は、期待利回りとはこうして求めるのかと感心するかもしれない。つまり一見もっともらしく見えるのである。

 しかし、その割合の根拠、算出を説明するものは一切ない。

 いきなり数値が突然出てきて、その期待利回りで賃料が計算されている。

 国債の利回りはともかくとして、プレミアムの利率として採用している2.5%、1.3%、1.0%の実証的データ分析による説明が全くなされていない。

 何故2.5%なのか。
 何故1.3%なのか。
 何故1.0%なのか。
 何に対しての%なのか。

 そうした事の証明を要求される。

 それが出来れば行ってもよいが、今迄それらを証明している鑑定書を私は見たことが無い。

 現在の鑑定評価理論は、残念であるが、それら数値が理論分析して立証されている段階には至っていない。

 建物の古さ、経年によるリクス値は、理論分析されて立証されている。

 上記の期待利回りの求め方は、期待利回りを都合よくデッチ挙げているのではないのかの批判を激しく浴びる。

 C 期待利回りの値を最もらしい文言による求め方の表現は止めた方が良い。

 下記の例のごとくである。

 (例A)

 「不動産投資家調査」((財)日本不動産研究所調査)等の公表資料を中心に一棟の事業用投資物件の売買事例等を参考とし、JR**駅周辺地区における事業用賃貸物件に対し投資家が通常要求する償却後期待利回りを4%と判断した。」

 (例B)

 「対象不動産の投資対象としての危険性・流動性・管理の困難性・資産としての安全性、昨今の金融市場の推移・動向、(財)日本不動産研究所が実施している「不動産投資家調査」による期待利回りの水準等を総合的に考量して、対象不動産の期待利回りを5.0%と査定した」

 こうした文言の羅列から、4%とか5%の期待利回りが求められるとは思われない。

 具体的に証拠として挙げ、それからどの様にして4%、5%の期待利回りを求めたか述べる必要があろう。

 不動産鑑定は不動産鑑定士の意見であり、判断であると云われるが、その判断意見は、データ数値に基づいて、客観的に論証されるものでなければならない。

 不動産鑑定評価は、実証科学であるという認識を持つ必要性がある。

3, 還元利回りを求める算式

    還元利回り=標準粗利回り×(1−必要諸経費率)

4, 標準粗利回り

@ 粗利回り

 年間賃料収入を、その収入を生み出す土地・建物の不動産の価格で除いたもを粗利回りと呼ぶ。必要諸経費を含んだ賃料を土地・建物の価格で除した利回りである。

                               年間賃料収入
       粗利回り =───────────                     
                            土地価格+建物価格

 これを「粗利回りの算式」と呼ぶとする。

A 標準粗利回り

 土地に建つ建物が、その土地に許容される容積の建築面積を持つ建物の場合の利回りを「標準粗利回り」と呼ぶこととする。

B 標準粗利回りの求め方の算式

 標準粗利回りは、次の算式で求められる。

 標準粗利回り=

 u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率修正×経年   賃料修正率×容積率×賃貸面積率 ─────────────────────────────────   土地単価+建物工事費単価×容積率×償却修正率

 上記算式を「標準粗利回りの算式」と呼ぶこととする。

 この標準粗利回りの算式を、粗利回りの算式より、次のごとく導く。

 最初は、新築の建物で保証金の授受のない簡単な条件で考える。

イ、標準粗利回り算式の分子の「賃料収入」

   賃料収入 = 賃料単価 × 12 ×共益費修正率× 建物の賃貸面積

 建物賃貸面積は、土地面積に容積率を乗じたものに賃貸面積率を乗じたものである。

 
    建物賃貸面積 = 土地面積 × 容積率 × 賃貸面積率

よって賃料収入は次式に書き替えられる。

   賃料収入=賃料単価×12×共益費修正率×土地面積×容積率× 賃貸面積率

ロ、粗利回り算式の分母の「土地価格+建物価格」

        土地価格 = 土地単価 × 土地面積

    建物価格 = 建物工事単価 × 建物面積
    建物面積 = 土地面積 × 容積率

であるから、分母は次式に置き換えられる。

    土地価格 + 建物価格

    =土地単価 × 土地面積 + 建物工事単価 × 土地面積 × 容積率
=土地面積 ×(土地単価 + 建物工事単価 × 容積率)

 上記で求められた分子、分母より、粗利回り算式は、次の式に置き換えられる。

    粗利回り算式=

賃料単価×12×共益費修正率×土地面積×容積率×賃貸面積率      ────────────────────────────     土地面積 ×(土地単価 + 建物工事単価 × 容積率)

 ここで、分子、分母の土地面積は消去されるから、利回り算式は次式となる。


                 賃料単価×12×共益費修正率×容積率×賃貸面積率
 粗利回り算式 =────────────────────────   
                    土地単価 + 建物工事単価 × 容積率

ハ,賃料収入は賃料のみでなく、保証金の運用益、償却額があり、かつ空室率も考えなければならない。

 新築以外の建物の場合、経年に伴い賃料は下落することから、その賃料修正も考えなければならない。

 これら要因による修正を分子に行う。

 保証金は一般的には 賃料の何ヶ月分として金額が決められ、それに金利を乗じると運用・償却額が求められるから、u当り賃料×12に、修正率を乗じることによって処理出来る。

 空室の発生は賃料の修正であり、空室率修正率をu当り賃料×12に乗じることによって処理出来る。

 建物が古くなると、その経年に応じて賃料が安くなる傾向がある。これもu当り賃料×12に修正率を乗じることによって処理出来る。

 保証金の運用償却額、空室率、経年賃料減額の各修正率を、それぞれ運用償却修正率、空室修正率、経年賃料修正率とし、u当り賃料×12の賃料を修正する率とするならば、分子は次の式に書き替えられる。

 u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率×容積率×賃貸面積率×経年賃料修正率
       
 一方、分母の建物価格は経年に伴い建物価格は安くなり、この経年に伴う建物減価を償却率とすれば、建物工事単価×容積に償却修正率を乗じることで処理出来る。

 分母は次の式に書き替えられる。

 
    土地単価 + 建物工事費単価 × 容積率 × 償却修正率

 以上の分子、分母をまとめれば、

 標準粗利回り=

 u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率修正×経年   賃料修正率×容積率×賃貸面積率 ─────────────────────────────────   土地単価+建物工事費単価×容積率×償却修正率

と求められる。

ニ、この標準粗利回りの算式は、土地あるいは複合不動産の価格を評価する時の収益還元法の還元利回りを決定する時にも利用出来る。

 還元利回りのデータが整備されていない地域の不動産を評価する場合、還元利回りをどの様に決定すべきか判断に迷う時がよくある。

 u当り賃料は分かったが、当該不動産の収益還元法を適用する場合に、当該土地あるいは当該地域の還元利回りが不明である場合が多い。

 そうした場合に、上記標準粗利回りによって粗利回りの数値を求め、それより必要諸経費率による修正を行えば、当該不動産もしくは当該地域の標準的な還元利回りを求めることが出来る。

 上記標準粗利回りの算式は利用価値のある算式である。

ホ、上記算式を使って、下記の任意設定の条件で標準粗利回りを求めてみる。

    土地単価        u当り200,000円
    建物工事単価   u当り180,000円
        建物価格         u当り135,000円
    償却修正率       135,000円/180,000円=0.75
    u当り支払賃料    2,000円/月
    共益費修正率          1.05
    運用償却額修正率   1.01
      空室率                0.95
    経年賃料修正率    1.0
    容積率           300/150=2.0
    賃貸面積率(レンタブル比)    0.8
    必要諸経費率     0.35

 上の数値を@の公式に入れて計算する。

 (2000×12×1.05×1.01×0.95×1.0×2.0×0.8)÷(200,000+180,000×2.0×0.75)=0.0823
 
 標準粗利回りは0.0823と求められた。

5.還元利回り

 上記より、標準粗利回りは0.0823と求められた。

 必要諸経費率は0.35である。

 求められた標準粗利回り0.0823の数値と、必要諸経費率0.35の数値を、還元利回りを求める算式

      還元利回り=標準粗利回り×(1−必要諸経費率)

に代入する。

 還元利回りは、

      0.0823×(1−0.35)=0.053

5.3%と求められる。

 上記2つの算式を利用すれば、還元利回りは日本全国どこの物件でもほぼ求められる。

 この還元利回り(期待利回り)の求め方は、不動産鑑定評価基準が還元利回りの求める方法として挙げている4つの方法のうち(ア)の「類似の不動産の取引事例との比較から求める方法」(26年改正鑑定基準国交省版P30)を、より科学的に論理的に進化させたものである。

 鑑定書の内容の説明の時、「還元利回りはどのように求められましたか。」の質問にも論理的に説明できる。

 「それはあなたの個人的で独断的な判断理論ではないのか?。その求め方を担保するものは?。」という意地悪な質問に対しては、『賃料<家賃>評価の実際』清文社発行の本のp265に、不動産鑑定士の誰それが理論分析していると言って、理論担保の反論ができる。収益還元法および不動産鑑定評価額に対する信頼性は、これでぐっと増す。(この辺りはかなり我田引水ですが)

 パソコンに上記@Aの公式を一度覚え込ませておけば、あとは数値を打ち込めばたちどころに還元利回りは求められる。簡単である。

 ものは試し、一度利用されてみたら。

 上記還元利回りは、総合還元利回りのことをいい、その求め方である。

 総合還元利回りは、家賃(純家賃)還元利回りとも呼ばれる。

 還元利回りは、総合還元利回りの外に、土地の還元利回り、建物の還元利回りがある。

   (平成28年10月20日にホテルニューオータニの小さな部屋で開かれた田原塾の講話テキストに加筆して)


  鑑定コラム19)
「還元利回りの求め方」

  鑑定コラム1756)「倉敷のマンションの還元利回りは2.8%」

  鑑定コラム1757)「土地還元利回りと建物還元利回り」

  鑑定コラム1758)「倉敷・岡山の土地還元利回り、建物還元利回り」

  鑑定コラム1940)「還元利回り=標準粗利回り×(1−必要諸経費率)の証明」


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