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1.はじめに
鑑定コラム1747)「京都右京区の住宅地の土地還元利回りは2.2%である」でも述べたが、総合還元利回りを構成する土地還元利回り、建物還元利回りの求め方について述べる。
不動産鑑定士の中には、土地還元利回りと建物の還元利回りは同じで、そして総合還元利回りと土地還元利回りは同じであると主張する不動産鑑定士もいるようであるが、3つの還元利回りは異なり、還元利回りの数値はそれぞれ異なると私は思っている。
2.土地還元利回りと建物還元利回りの値は異なる
@ 米田、門脇の論説
不動産鑑定評価の大先輩である阿部淳、米田敬一両氏は、それぞれの著書で、期待利回り(還元利回りに同じ)の値を述べられていることを、拙著『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』P59(プログレス 2017年2月)に記している。
下記である。
「期待利回りの割合数値として、阿部淳先生は、『不動産の実務相談室』(不動産法研究会・阿部淳監修、有斐閣、1974年)P234に次の割合を示している。
土地の期待利回り 5 〜 6%
建物の期待利回り 8 〜 15%
米田敬一先生は、『増補不動産鑑定評価と実践』(港出版、昭和43年)P258で期待利回りを「普通8〜12分位で考えている」といい、282頁の賃料の鑑定書の具体的内容の説明で、「土地の利潤を6%、建物利潤を8%とし」といい純賃料を求めている。
両先生とも土地・建物の期待利回りを、それぞれ独立して把握している。
しかし、土地の期待利回りがどうして5〜6%であり、建物の期待利回りの8〜15%がどの様にして求められるのかの説明はない。」
両先生とも、土地の期待利回り(還元利回りに同じ)と建物の期待利回りは異なると認識されている。
A 不動産鑑定評価基準
不動産鑑定基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ)は、還元利回りを求める方法として4つの手法を挙げるが、その中の一つに「土地と建物に係わる還元利回りから求める方法」がある。そのことについて、鑑定基準は次のごとく述べる。
「この方法は、対象不動産が建物及びその敷地である場合に、その物理的な構成要素(土地及び建物)に係わる各還元利回りを各々の価格構成割合により加重平均して求めるものである。」(平成26年改正鑑定基準国交省版P30)
鑑定基準は、土地、建物に係わる「各還元利回り」と云う。このことは、土地と建物の還元利回りは、異なっていると云うことを示している。
土地建物の還元利回りが同じであるならば、土地建物の価格構成割合による加重平均で求めることの必要性は無い。これは土地建物の還元利回りが異なっているために行う行為である。
B 上記2つの検討から、土地還元利回りと建物還元利回りの値は異なると判断出来る。
3.土地還元利回りと建物還元利回りとは何故異なるのか
土地と建物の還元利回りが、何故異なり、建物の還元利回りが土地還元利回りよりも高いかについて、拙著『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』P62(プログレス 2017年2月)で、次のごとく記している。
「建物の期待利回りは、土地の期待利回りより何故高いかについては、私は建物の経済的耐用年数が来た時に、建て替えるため即ち再取得するための資金の積み立て額が必要であり、その金額の利回り相当分が土地利回りよりも高いと考える。」
建物の還元利回りは、建物再取得するための資金の積み立て額が必要であり、その金額の利回り相当分が土地利回りよりも高いと私は考える。
4.償還基金率
建物再取得するための資金の積み立て額相当分の毎年の利率を求めるには、償還基金率を用いれば良い。
償還基金率とは、n年後1円にするために毎期末に預託すべき率をいう。
耐用年数n年の建物の取得価格を、n年後に再取得するために、年利率rで年末に一定額を償却額とし積立てる場合に使用する率が償還基金率である。
償還基金率の算式は
r
───────────
(1+r)のn乗 −1
但し、r:利率
n:年数
である。年金終価率の逆数である。
例えば、取得金額3000万円の建物があったとする。20年後に再取得する為の毎年の償却額を求める。
利率は5%とする。利率5%、期間20年の償還基金率は0.030243である。
年間償却額は
3000万円 × 0.030243 = 90.73万円
と求められる。
利率5%、期間20年の年金終価率は33.065954である。
90.73万円に年金終価率を乗ずると
90.73万円 × 33.065954 = 3000.0万円
となり、毎年90.73万円を年利5%で20年積立てると確かに3,000万円になる。
5.土地還元利回りと建物還元利回り
総合還元利回りは、土地還元利回りと建物還元利回りによって構成されている。
それ故、土地還元利回り、建物還元利回りは、総合還元利回りより求めることが出来る。
土地の還元利回りをXとする。
建物の還元利回りは、
X + 償還基金率相当
である。
償還基金率を求める利率は、建物の経済耐用年数の平均償却率の利率を採用する。
例えば、建物の経済的耐用年数を40年とすれば、平均償却率は、
1/40 = 0.025
0.025である。
この0.025を償還基金率を求める利率とする。
償還基金率は、利率0.025、期間40年の値より求める。
償還基金率は0.015である。
建物の還元利回りは、X+0.015である。
総合還元利回りと土地建物価格、土地建物個別還元利回りの間には、次の関係式が成り立つ。
土地価格×土地還元利回り+建物価格×建物還元利回り
─────────────────────── = 総合還元利回り
土地価格+建物価格
上記算式に土地価格、建物価格、総合還元利回りの数値を代入すれば、土地還元利回りは求められる。
求められた土地還元利回りに償還基金率相当を加算すれば、建物還元利回りが求められる。
具体的数値を入れて説明すれば、下記である。鑑定コラム1747)の京都右京区の例で説明する。
土地価格は、52,650,000円である。
建物価格は、53,280,000円である。
土地建物価格の合計は、105,930,000円である。
総合還元利回りは3.0%である。
52,650,000×X +53,280,000×(X+0.015)
────────────────────────── = 0.030
105,930,000
これを解けば、
X=0.022
である。
土地の還元利回りは、2.2%である。
建物の還元利回りは、
2.2%+1.5%=3.7%
である。
これが土地還元利回り、建物還元利回りの求め方である。
土地還元利回り、建物還元利回りが、単独でいきなり求められるものではない。
土地還元利回り、建物還元利回りは、総合還元利回りが先にあって、その総合還元利回りから求められるものである。3つの還元利回りは密接に繋がっているのである。
まとめると、
総合還元利回り 3.0%
土地還元利回り 2.2%
建物還元利回り 3.7%
である。 上記各利回りは、総合期待利回り、土地期待利回り、建物期待利回りでもある。
鑑定コラム1758)「倉敷・岡山の土地還元利回り、建物還元利回り」
鑑定コラム1755)「還元利回り、期待利回りの求め方」
鑑定コラム1754)「岡山県内の市区町の2DK家賃(平成30年1月)」
鑑定コラム1742)「京都右京区のマンションの還元利回りは3.0%」
鑑定コラム1734)「1月末の京都は寒かった」
鑑定コラム19)「還元利回りの求め方」
鑑定コラム1756)「倉敷のマンションの還元利回りは2.8%」
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