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1.はじめに
ゴルフの情報出版会社である一季出版株式会社が、『平成29年版 ゴルフ場企業決算年鑑(全国95社115コース収録 平成27年4月〜28年3月期決算)』(平成29年1月20日発行)を発行している。
平成27年4月〜平成28年3月までに決算のあったゴルフ場経営会社95社の貸借対照表、損益計算書を載せた書物である。
そこに掲載されているゴルフ場の財務諸表を分析していて、一つのゴルフ場の固定資産税がいささか高すぎるのでは無かろうかと思われ、それについて論述したい。
そのゴルフ場会社は小金井ゴルフ株式会社であり、ゴルフ場の名前は「小金井カントリー倶楽部」である。
当事者とは関係無い門外漢の不動産鑑定士が口出すべきで無いと云われる人もいるであろうが、職業柄興味があり分析してみる。
2.小金井カントリー倶楽部の所在等
@ 所在と環境
「小金井カントリー倶楽部」は、上場企業の幹部、社員や国家公務員が沿線に多く住むと云われるJR中央線の駅の中の一つである「武藏小金井」駅の北方約1,600mの距離にある。
同ゴルフ場の南隣接地は、桜の名所である都立小金井公園であり、周辺は多くの上場企業の社宅、戸建住宅が建ち並んでいる。
A 都市計画の用途地域
小金井カントリー倶楽部の全敷地は、都市計画法の用途地域は、第1種低層住居専用地域(建蔽率30%、容積率50%)に指定されているほかに、「小金井公園」という都市計画公園・緑地の用途に指定されている。
B 面積
椿ゴルフのホームページの「小金井CC・コース案内」によれば、面積は49.5万uである。
ゴルフ場予約サイトのYahoo!予約の「ゴルフ場ガイド」では、47.7万uである。
同じゴルフ場予約サイトの楽天GORAの「コースガイド」では、47万uである。
一つのゴルフ場で、どうして面積が異なるのか私には分からないが、椿ゴルフのホームページに記されている49.5万uを、小金井カントリー倶楽部の面積とする。
3.固定資産税と課税標準額の推定
@ 小金井カントリー倶楽部の固定資産税
小金井カントリー倶楽部を運営する「小金井ゴルフ株式会社」の平成27年12月期の決算によれば、租税公課として213,936千円が計上してある。
租税公課は、土地建物の固定資産税、都市計画税である。
A 推定課税標準額
小平市の固定資産税の税率は固定資産税1.4%、都市計画税0.24%である。両税の合計は、1.64%である。
都市計画税は0.3%の税率の都市が多いが、小平市の都市計画税率は0.24%である。
固定資産税等の税額を0.0164で除せば、課税標準額が求められる。
ここで云う固定資産課税標準額とは、課税する不動産の価格を指す。
213,936千円÷0.0164=13,044,878千円
小金井カントリー倶楽部の固定資産税の課税標準価格は、130億4487万円である。
これより、小金井カントリー倶楽部の適正な時価(適正な価格に同じ)が、130億4487万円以下であれば、固定資産税213,936千円は違法と云うことになる。
何故違法と云うことになるのかと云うことは、下記の最高裁の判例があるからである。
4.最高裁の固定資産税の判例
固定資産課税標準価格の適正な時価について、最高裁判所は平成15年6月26日(民集57巻6号723頁、判タ1127-276)に次のごとく判示した。
「適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される。」
そして適正な時価をオーバした部分は、違法であると判示した判決である。
この「適正な時価」については、鑑定コラム1506)「適正な時価とは」で論述している。
5.小金井カントリー倶楽部の土地価格
@ 小規模住宅画地の価格
小金井カントリー倶楽部の周辺は、上場企業の社宅のほか個人の小規模住宅土地利用が多い。
国土交通省が発表する地価公示価格の平成30年1月1日時点の小平市の住宅地の平均価格は、u当り225,300円である。
小金井カントリー倶楽部の敷地がバス通りで分断されており、その沿道部分の土地価格は高い価格になるが、その要因は考えないこととする。
小金井カントリー倶楽部の小規模住宅地の価格を、地価公示価格の小平市住宅地の平均価格のu当り225,300円とする。
A大規模画地価格の修正
イ、12,000uの画地の修正率
小金井カントリー倶楽部の画地規模は49.5万uである。
小規模画地(200uの標準画地)の住宅地の価格と地積の関係は、鑑定コラム1811)「住宅地 3,000u〜12,000uの土地価格修正評点」で分析されている。
200uの標準土地価格の評点を100とした場合、12,000uの規模の価格評点は68である。修正率で考えると0.68である。
ロ、200,000u以上の画地の修正率
東京都固定資産評価基準の画地補正表C地区の中高層普通住宅地・低層普通住宅地Uによれば、画地規模の修正率は、次のとおりである。
10,000u超〜11,000u未満 0.97
11,000u以上〜12,000u未満 0.96
12,000u以上〜13,000u未満 0.95
190,000u以上〜200,000u未満 0.73
200,000u以上 0.73
これから12,000uと200,000u以上の価格割合は、
0.73÷0.95≒0.77
0.77である。
ハ、大規模地積要因の修正率と価格
上記価格評点(修正率)をまとめると、下記である。
200u 100
12,000u 68
200,000u以上 68×0.77=52
200uの小規模画地の価格が225,300円であるから、
225,300円×0.52=117,156円
49.5万uの土地価格は、u当り117,156円と求められる。
ニ、1万uまで規模価格修正がないという固定資産税評価基準は間違っている
上記分析において、東京都固定資産税評価基準を採用したが、同基準においては、画地規模の価格修正は10,000uを超えた土地に対して行われている。
1万u以下の土地については、規模価格修正がなされていない。
この点について、東京都にもし理由を聞けば、間口修正・奥行逓減修正で行っているから、規模の修正は必要ないという返事がなされるものと思われる。
間口修正・奥行逓減修正と大規模地積修正とは要因が異なり、要因修正が代用出来る関係には無い。
C地区の奥行20mで1万uの土地価格の修正率は、1.0である。
つまり間口10m、奥行20mの地積200uの土地単価と、奥行20mの地積1万uの土地単価とが同じである。200uの土地を買う人と200u50画地分の1万uを買う人は同じであろうか。
200uと1万uの売買土地市場が異なり、購入者層が全く異なるということが完全に無視されている。
市場が異なり、購入者層が異なれば、価格水準が異なるという不動産価格の経済現象の理解が零である。
こうした考え方で、現在の固定資産税の価格が決定されているのである。
国税庁が広大地・地積大土地に対する税務価格評価の考え方を、2018年(平成30年)1月1日より、はっきりと適用変換した。面積が増大するに伴い価格単価が減額するという実態に即した考え方を取り入れた。
三大都市圏では500u以上、三大都市圏以外は1000u以上の土地価格には、その規模に応じて価格減という考え方が取り入れられた。
取り入れられた規模格差補正率の算式は、下記である。
A×B+C
──────── ×0.8
A
三大都市圏の場合、A、B、C は下記である。
A B C
500u以上1000u未満 0.95 25
1000u以上3000u未満 0.90 75
3000u以上5000u未満 0.85 225
5000u以上 0.80 475
500uの土地の補正率を求めると、下記である。
500×0.95+25
───────── ×0.8= 0.8
500
1000uの土地の補正率を求めると、下記である。
1000×0.90+75
───────── ×0.8= 0.78
1000
3000uの土地の補正率を求めると、下記である。
3000×0.85+225
───────── ×0.8= 0.74
3000
5000uの土地の補正率を求めると、下記である。
5000×0.80+475
───────── ×0.8= 0.716
5000
上記土地面積と価格修正率をまとめると、下記である。
500uの価格修正率 0.80
1000uの価格修正率 0.78
3000uの価格修正率 0.74
5000uの価格修正率 0.716
上記より、土地面積が増えれば、土地価格が減額されるということが分かろう。
国税庁の規模大土地評価には、三大都市圏では、500uを超える土地価格には減額する考え方がとりいれられた。
固定資産税は、1万u以上の土地規模しか価格減を認めないという考え方は、土地価格形成の現実の在り方を無視した考え方であり間違っており、修正されるべきものである。
平成25年7月12日、最高裁第二小法廷((平成24年(行ヒ)第79号) 千葉勝美裁判官裁判長、竹内行夫裁判官、小貫芳信裁判官、鬼丸かおる裁判官)は、東京高裁の固定資産評価審査決定取消事件について、破棄差戻判決した。その判決の補足意見として裁判長の千葉勝美裁判官は、次のごとく述べる。
「したがって、土地所有名義人が、独自の鑑定意見書等の提出により適正な時価を直接主張立証し登録価格の決定を違法とするためには、やはり、その前提として、評価基準の定める評価方法によることが出来ない特別の事情(又はその評価方法自体の一般的な合理性の欠如)を主張立証すべきであり、前掲最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決もこの考えを前提にしているものと解される。」
と述べているが、その評価基準そのものが間違っているとすれば、千葉補足意見は無意味となる。
東京都の固定資産評価基準の1万u以上の土地しか画地規模修正を行わないという評価基準は、間違っており修正されるべきものであり、修正されるべき時期に来ている。
現在このことについて、最高裁に上告して争っている。
最高裁がどういう判断をするか待っている。あっさり棄却か、或いは破棄差戻か。
B 都市計画公園・緑地の指定地域にある
小金井カントリー倶楽部の土地は、「小金井公園」という都市計画公園・緑地の地域指定にある。
都市計画の公園・緑地指定の地域の土地価格は、周辺の住宅地の価格に比して、価格修正され、その修正率については、鑑定コラム1815)「公園、緑地指定されている土地の価格修正率」で論述した。
その修正率は、0.103である。
C 小金井カントリー倶楽部の土地価格
大規模画地修正後の小金井カントリー倶楽部の土地価格は、u当り117,156円であった。
この価格に、上記公園・緑地の要因の価格修正すると、
117,156円×0.103=12,067円≒12,000円
u当り12,000円である。
面積を乗ずれば、
12,000円×495,000u=5,940,000,000円
59億4千万円である。
6.コース勘定
ゴルフ場のコース勘定は、44ゴルフ場の分析では、ヤード当たり111,000円である。このことについては鑑定コラム1814)「ゴルフ場コース勘定の平均は1ヤード11.1万円(1969年)」で分析している。
この築造平均年は1969年である。
現在までの土木総合建設工事費のデフレータは、国土交通省発表によれば、下記である。
1969年 29.5
2017年 110.6(注)
(注)2018年の指数の発表は無いことから2017年の数値を採用する。
110.6
111,000円×0.5 ×─── × 0.7 ≒146,000円
(注1) 29.5 (注2)
(注1)平坦なコースによる
(注2)割高な工事費による修正。減損会計になりうる。
小金井カントリー倶楽部のコースヤードは、6760ヤードである。
コース勘定は、
146,000円×6760ヤード≒987,000,000円
である。
7.建物価格
建物価格は、決算書の金額を採用する。791,800,000円である。
8.小金井カントリー倶楽部のゴルフ場の価格
上記より、小金井カントリー倶楽部のゴルフ場の価格は、下記である。
土地価格 5,940,000,000円
コース勘定 987,000,000円
建物価格 791,800,000円
計 7,718,800,000円
9.小金井カントリー倶楽部の固定資産税は高すぎる
小金井カントリー倶楽部の固定資産税は213,936千円であった。その固定資産税の課税標準価格は、130億4487万円であった。
上記で分析試算された小金井カントリー倶楽部のゴルフ場の適正価格は77億1880万円である。
130億4487万円
──────── =1.69
77億1800万円
固定資産税の課税標準価格は、適正時価の1.69倍である。適正時価を大きくオーバーしている。
ということは、最高裁の判決に従えば、現行の小金井カントリー倶楽部の固定資産税213,936千円は、最高裁の判決に抵触するものとなり、甚だしく高すぎると云うことになる。
上記結論は私が勝手に推測判断したものであり、必ずしもこれが適正であると主張するものではない。
小金井カントリー倶楽部は、日本一の名門ゴルフ場である。名門ゴルフ倶楽部は行政に文句を言わない。現行の固定資産税・都市計画税を支払い続けるということであれば、それはそれで良い。
鑑定コラム1813)「小金井カントリー 固定資産税2.1億円 売上高の30%」
鑑定コラム1811)「住宅地 3,000u〜12,000uの土地価格修正評点」
鑑定コラム1815)「公園、緑地指定されている土地の価格修正率」
鑑定コラム1506)「適正な時価とは」
鑑定コラム1814)「ゴルフ場コース勘定の平均は1ヤード11.1万円(1969年)」
鑑定コラム62)「ゴルフ場の減損会計」
鑑定コラム1820)「ゴルフ場の44社のうち営業利益を出しているのは26社」
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