○鑑定コラム
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最近(2004年11月)、東京の賃貸ビルの価格に異常高が見られる様になった。
1年前には還元利回り4%に近い賃貸ビルの価格は、あまり見られなかったが、1年後の現在(2004年11月)には、還元利回り4%前半のものが見られるようになった。
本鑑定コラムの179)
「ある投資法人の購入ビルの利回り」
にも、4%に近い利回りのビルがある。その記事で、標準偏差1倍の範囲としての下限の還元利回りは4.1%と記した。
2002年5月に発表した同鑑定コラム28)
「日本プライムリアルティ投資法人のリート」
の記事での、賃貸ビルの東京7件のビルの還元利回りは、4.0%〜6.5%で、平均5.5%であった。
還元利回りは確実に低下しつつある。つまり、それは賃貸ビルの価格は高くなっていると云うことを示す。
良いビルとか、良い立地環境であるからという購入者の言い分は当然あるであろうが、還元利回り4%の価格は、バブル化に近い水準の価格と思わざるを得ない。
以前は、減価償却費を経費に入れて純収益を考えていたが、現在は減価償却費を経費に入れず、キャシュフローで計算された純収益で求められた還元利回りである。上記の4%もそうした利回りである。つまり4%の中には減価償却費という経費勘定であるものが入っていると言うことである。
それ故、減価償却費を経費として計上した場合、純収益はその減価償却費の額相当が少なくなる。即ち純収益は小さくなる。
土地建物は分母を構成し、分子は純収益であり、それより求められたものが還元利回りである。
分子である純収益が小さくなれば、還元利回りは低い数値になるのは当然の理である。
減価償却費を考えた場合、利回りはどれ程になるか計算してみる。
賃貸ビルの総収入を1.0とする。賃貸ビルのキャッシュフローの必要諸経費は0.3〜0.35程度である。0.35とする。この場合の純収益は、
1.0−0.35=0.65
である。
減価償却費を必要諸経費に含めた場合の賃貸ビルの経費項目割合は、次のごとくである。
必要諸経費全体を1.0とする。
減価償却費 0.360
公租公課 0.359
維持管理費 0.101
修繕費 0.163
火災保険料 0.017
(『賃料<家賃>評価の実際』p291 清文社)
減価償却費を除く公租公課等の必要諸経費を「その他経費」とすると、減価償却費とその他経費の割合は、
減価償却費 0.360
その他経費 0.640
となる。
減価償却費は、その他経費に対して、
0.36÷0.64≒0.562
である。
減価償却費がその他経費に加算されると、必要諸経費は、
1+0.562=1.562倍
となる。
先にキャッシュフローの賃貸ビルの必要諸経費率は、35%であるとした。
これに減価償却費が加算されると、必要諸経費割合は、
0.35×1.562=0.546≒0.55
0.55となる。
総収入は1.0であるから、純収益は、
1−0.55=0.45
となる。
即ち、キャッシュフローの場合の純収益は0.65であったが、減価償却費を経費に含めると、純収益は0.45になってしまう。
純収益は、
0.45÷0.65≒0.692
に減じてしまう。
利回り4%は、
4%×0.692=2.768≒2.8%
2.8%になるのである。
それでも2.8%の利回りであるから、国債の利回りと較べても充分な利益と思われるかもしれない。
しかし、これは借入金の支払利息を考えていない状態の場合の利回りである。
現実の不動産取引にあっては、100%自己資金で不動産を購入する人はまずいない。金融機関からの借入金を考える。
借入金の割合を70%とする。その金利を3.1%とする。
3.1%×0.7=2.17≒2.2%
2.2%が借入金の利子負担である。
全額自己資金負担の場合の利回りが2.8%であった。ここより借入金の利子負担を控除すれば、
2.8%−2.2%=0.6%
0.6%の利益にしかならない。
0.6%の利益で何十億円と言う資金を投下して事業を行うメリットはあるのであろうか。
借入金利が少し上がれば、或いは総収入である賃料が下落すれば、もしくは空室率が大きくなれば、その賃貸ビル事業はたちまちにして赤字のマイナス事業になってしまう。
バブル経済崩壊後15年の時間を掛けて、土地価格は下がった。
賃料も下がったが、賃貸ビル事業は6〜8%の利回りになって、やっと不動産価格は落ち着いたと思ったら、私募債フアンド、リート業者のやみくもと思える高値の賃貸ビルの購入によって、利回りは一気に低下し、「いつか来た道」を再び歩み始めようとしている。
日銀は相も変わらず不動産と言うものを小馬鹿にして、金利を上げると生産業の倒産企業が続出するという目に見えない幻影におびえて、優柔不断の姿勢を続け、低金利政策を続行している。
昭和の59年、60年の頃の日銀の金融政策を思い出して欲しい。後日、その時の金融政策は失敗であったと、当の日銀マンが反省を込めて論文を書いたのでは無かったか。
現在、再び同じことが繰り返されようとしている。
今回は不動産のフアンド化という衣を装って、忍び込もうとしている。
上記に引用した鑑定コラムは下記をクリックすれば繋がります。
鑑定コラム179)
「ある投資法人の購入ビルの利回り」
鑑定コラム28)
「日本プライムリアルティ投資法人のリート」
不動産ファンドバブル崩壊についての記事は、下記にあります。
鑑定コラム507)
「不動産業の業況の分水嶺は2007年7月だった」
鑑定コラム2520)「日銀長期金利をやっと上げる」
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