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焼き鳥『鳥貴族』の平成30年7月期の有価証券報告書を読んでいたところ、リスク事項の記載の9頁に次のごとくの記載があった。
「賃貸借による店舗展開について
当社の本社事務所及び直営店舗はそのほとんどが建物を賃借しており、賃貸借契約に対して保証金等を差し入れています。2018年7月31日現在の敷金及び差入保証金の残高は1,773,849千円となっており、総資産に占める比率は9.4%であります。
当社は新規に出店する際の与信管理を徹底しておりますが、賃貸人の財政状態が悪化した場合、差入保証金(敷金・保証金)の一部または全部が回収不能となることや賃借物件の継続的使用が困難となることが考えられます。その場合、当社の財政状態または業績に影響を及ぼす可能性があります。」
差入れ保証金について、「賃貸人の財政状態が悪化した場合、差入保証金(敷金・保証金)の一部または全部が回収不能となる」と記している。
これは、建物賃貸人が倒産し、その所有する賃貸建物が競売にかけられた場合、競落人は、賃借人が建物賃貸人に預けていた保証金を賃借人に返却する義務は無いという現在の法律家の考え方による結果である。
「現在の法律家の考え方」とは、最高裁判所の判決によるものである。
私は、この考え方には断固として反対する。
保証金は賃貸借契約によって生じるものであり、保証金の授受は、金銭消費貸借契約によって生じたものでは無い。
保証金は、賃借人が場所を独占使用する為の「場所的利用の価値の対価」であり、建物の賃貸借が続く限りは、その賃借人の権利は喪失されるものでは無い。
『鳥貴族』の30年7月期現在の店舗数は、665店舗である。
『鳥貴族』の30年7月期の有価証券報告書では、差入れ保証金等は、1,773,849千円である。
1店舗当りの差入れ保証金等は、
1,773,849千円÷665店舗=2,667千円
2,667千円である。
1つの例を出して、保証金及び店舗賃貸借がどうなるのか説明する。
ある建物に『鳥貴族』が、保証金2,667千円を差し入れて営業しているとする。そして、その店舗の貸し主である建物所有者が、経営破綻して倒産したとする。
倒産後、その建物は競売に掛けられ、第三者がその建物を取得したとする。
そうした場合、『鳥貴族』が前賃貸人に差し入れていた2,667千円は、返却される事無く、ゼロ円となる。
そして新建物所有者から、賃貸借を続けたいのであれば、保証金を差し入れろと請求されることになる。
そんな不合理なことがあるのかと賃借人は、立腹して、保証金を支払わないでいると、店舗を明け渡せと新賃貸人から要求されることになる。
これが、現在の日本の差入れ保証金に対する法理論である。私はとんでもない法理論であると思う。
『鳥貴族』の有価証券報告書のリスク表示は、こうしたリスクがあると云うことを株主に説明しているのである。
賃借人の法的保護がないがしろにされている為に、新宿の新宿通りに面する一等地のビルの賃借人が、自分の賃借権を守るために、賃借ビルの外壁に「明認方法」をせざるを得ないのである。
保証金については、著書『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』で記述していることから、後日それを転載したい。
上記のごとく、賃借人の差入れ保証金を保護しない法理論を作りだした昭和51年3月4日の最高裁の判例とはどういうものか。
その最高裁判例を下記に記す。
****
最高裁判例
事件番号 昭和47(オ)1289
事件名 引受債務請求
裁判年月日 昭和51年3月4日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集等巻・号・頁 民集 第30巻2号25頁
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 昭和45(ネ)3390
原審裁判年月日 昭和47年8月30日
判示事項
建物(ビルディング)の貸室の賃貸借契約に際し賃借人から建物所有者である賃貸人に差し入れられた保証金の返還債務が右建物の所有権を譲り受けた新賃貸人に承継されないとされた事例
裁判要旨
建物(ビルディング)の貸室の賃貸借契約に際し賃借人から建物所有者である賃貸人に差し入れられた保証金が、右契約成立の時から五年間これをすえ置き、六年目から利息を加えて一〇年間に返還する約定のいわゆる建設協力金であり、他に敷金も差し入れられているなど判示の事実関係のもとでは、右建物の所有権を譲り受けた新賃貸人は、旧賃貸人の右保証金返還債務を承継しない。
参照法条
借家法1条1項
全文
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人高芝利徳、同渡辺法華の上告理由第一点について
原判決の確定した事実関係は、次のとおりである。
1 上告人は、昭和三八年六月一五日訴外D(以下「D」という。)から同人所有の本件建物(ビルデイング)の二階部分一七六・八五平方メートル(以下「本件貸室」という。)を、期間昭和三八年七月一日から五年間、賃料一か月二三万〇〇五〇円、敷金一三八万〇三〇〇円、保証金六六四万四七〇〇円の約定で賃借し、上告人は昭和三八年七月一日までに右敷金及び保証金をDに差し入れ、本件貸室の引渡を受けた。
2 右敷金及び保証金に関する特約として、本件賃貸借契約の期間満了の際、上告人が本件貸室の明渡を完了し、かつ、右契約上の債務を完済したときは、Dは直ちに前記敷金及び保証金を上告人に返還しなければならず、ただ、上告人は、(イ) 右契約成立時から二年間はやむを得ない事情がない限り解約することができず、(ロ) 二年経過後は正当な理由がある限り解約することができるが、Dは、右(ロ)の場合には直ちに敷金及び保証金を返還しなければならないのに反し、(イ)の場合には、敷金については、直ちにこれを返還し、保証金については、本件貸室の次の入居者が決定し、その者から保証金が差し入れられるまで、六か月を限つてその返還を留保できる旨約された。
3 本件保証金に関する約定は本件賃貸借契約書の中に記載されていたが、右保証金は、Dが本件建物建築のために他から借り入れた金員の返済にあてることを主な目的とする、いわゆる建設協力金であつて、本件賃貸借契約成立のときから五年間はこれを据え置き、六年目から毎年日歩五厘の利息を加えて一〇年間毎年均等の割合でDから上告人に返還することとされている。
4 被上告人は昭和四三年五月九日競落によつて本件建物の所有権を取得し、同年六月五日その旨の登記を経由した。
5 建物の所有権移転に伴つて新所有者が賃貸人たる地位を承継するとともに、保証金返還債務も当然に承継するという慣習ないし慣習法が形成されていることの立証はない。
以上の事実関係に即して考えると、本件保証金は、その権利義務に関する約定が本件賃貸借契約書の中に記載されているとはいえ、いわゆる建設協力金として右賃貸借とは別個に消費貸借の目的とされたものというべきであり、かつ、その返還に関する約定に照らしても、賃借人の賃料債務その他賃貸借上の債務を担保する目的で賃借人から賃貸人に交付され、賃貸借の存続と特に密接な関係に立つ敷金ともその本質を異にするものといわなければならない。そして、本件建物の所有権移転に伴つて新所有者が本件保証金の返還債務を承継するか否かについては、右前記のような性格に徴すると、未だ新所有者が当然に保証金返還債務を承継する慣習ないし慣習法があるとは認め難い状況のもとにおいて、新所有者が当然に保証金返還債務を承継するとされることにより不測の損害を被ることのある新所有者の利益保護の必要性と新所有者が当然にはこれを承継しないとされることにより保証金を回収できなくなるおそれを生ずる賃借人の利益保護の必要性とを比較衡量しても、新所有者は、特段の合意をしない限り、当然には保証金返還債務を承継しないものと解するのが相当である。そうすると、被上告人が本件保証金返還債務を承継しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第二点及び第三点について
所論は、原審の認定にそわない事実又は独自の見解に基づき原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。所論引用の判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。
同第四点について
原判決は、上告人が現に本件貸室を占有していないこと及び上告人において民法二〇一条三項所定の期間内に占有回収の訴を提起していないことを理由に、上告人が本件貸室につき留置権を有しないと判断したものであつて、原判決の確定した事実関係のもとにおいては、右判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 下 田 武 三
裁判官 藤 林 益 三
裁判官 岸 盛 一
裁判官 岸 上 康 夫
裁判官 団 藤 重 光
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