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2078)不動産業倒産年間447件が来る

 帝国データバンクの2020年3月の景気動向調査DI値が、2020年4月3日に発表された。

 2020年3月の不動産業の景気動向調査DI値(以下「不動産DI値」と呼ぶ)は、31.6である。

 前年同月比▲15.8、前月比▲10.4ポイント減である。2019年1月〜2020年3月までの帝国データバンクの不動産業DI値は、下記である。

        2019年1月   49.1
        2019年2月   47.5
        2019年3月   47.4
        2019年4月   48.7
        2019年5月   47.6
        2019年6月   48.3
        2019年7月   47.4
        2019年8月   46.5
        2019年9月   48.0
        2019年10月   45.9
        2019年11月   46.0
        2019年12月   44.2
        2020年1月   45.9
        2020年2月   42.0
        2020年3月   31.6

 不動産DI値31.6はどの程度の影響力を持つ数値かと云えば、過去の事件の時、不動産DI値の数値はどれほどであったかを知れば分かる。

          2008年9月   24.7  リーマン・ブラザーズ倒産
     2011年3月   30.6  東日本大震災

 不動産業が我が世の春を謳歌していた不動産フアンドバフルの2006年には、不動産DI値は56.8(2006年5月、2006年9月)と最高値を付けていた。それからリーマン・ブラザーズの倒産の24.7まで下がるが、DI値はそれに止まらず2008年12月の17.3まで下がる。

 2008年12月(平成20年12月)末は、トヨタ自動車が、9ヶ月前の2008年3月期の営業利益2.2兆円から2009年3月期予想は1500億円の赤字と発表した時である。

 不動産DI値は、最低の17.3を付ける。不動産フアンドバブル崩壊である。

 それ以降不動産DI値は、上向き2011年2月に36.0迄回復するが、2011年3月東日本大震災で打ちのめされ、30.6に下がる。4月に29.2迄下がるが、それ以降上向く。立ち直りは早い。

 安倍内閣の登場と黒田日銀の不動産業への超超金融緩和に伴い不動産DI値は、2018年3月に53.1を付ける。リートバブルである。それ以後徐徐に低下し、2020年2月の不動産DI値は42.0となる。

 長く続いたリートバブルはそろそろ終わりと思われたが、不動産DI値はだらだらと下落傾向の中にあったが、リートバブル崩壊に入ったとはなかなか感じられなかった。そうした状態の中で、2020年3月にいきなりドーンと31.6になる。

 これは云わなくても分かろう。

 2020年2月より東京を中心として猛威を振るって日本国民を生死の不安におとしめている中国武漢発の新型コロナウイルス感染症の影響である。

 国民の生命への不安と、予測される産業・経済の大打撃による不動産業への影響を折り込んだものである。

 リーマン・ブラザーズ倒産の発生した2008年、そして東日本大震災が発生した2011年の不動産業の年間倒産件数は、帝国データバンクによれば下記である。

              2008年   424件
       2011年   336件

 2019年1年間の不動産業の倒産件数は、鑑定コラム2029)に記したが、255件(前年比+2.8% 帝国データバンク調べ)である。

 2019年1年間の帝国データバンクの不動産DI値の平均値は、前記している2019年1月〜12月の数値から求めると47.2である。

 不動産DI値の平均値47.2で、不動産業の倒産件数は255件である。

 不動産DI値31.6と云う値がどの様な値であるかは、上記不動産DI値の平均値と不動産業の倒産件数を知れば分かろう。

 帝国データバンク発表の不動産DI値と同じく帝国データバンク発表の不動産業年間倒産件数との関係を分析してみる。

 不動産DI値は、上記2019年の平均値が47.2と求められるごとく、各年の1月〜12月のDI値の平均値とする。平均値の計算は田原による。

 2002年5月からのDI値しか分からないから、それ以後とする。2002年は8ヶ月の平均値とする。倒産件数は2002年年間件数とする。

 2002年以降の各年の不動産DI値、不動産業倒産件数は、下記である。


帝国データバンク    
不動産業倒産件数 景気動向DI値
2002年 672 30.0
2003年 591 34.0
2004年 526 46.8
2005年 360 50.9
2006年 368 55.7
2007年 375 51.4
2008年 429 27.8
2009年 488 23.6
2010年 353 28.4
2011年 336 33.5
2012年 348 37.5
2013年 300 47.9
2014年 319 47.5
2015年 270 48.5
2016年 261 47.7
2017年 271 50.0
2018年 272 49.7
2019年 255 47.2


 不動産業倒産件数を縦軸に、不動産DI値を横軸にして、上記データをグラフに図示すると、下記のグラフである。

 不動産DI値が小さい数値と云うことは、不動産業の売上高、利益等が少なく不動産業は不景気ということであり、不動産DI値が大きい数値と云うことは不動産業の事業はうまく行っているということである。

 バラツキがあるが、不動産DI値が小さいと不動産業の倒産件数は多く、不動産DI値が大きいと不動産業の倒産件数は少ないという傾向がはっきりとわかる。

 時系列で両者を見て行くと、タイムラグはあるが、不動産DI値の小さい値が出て来ると、1〜3年後には、倒産件数が増加してくる。不動産DI値の大きい値が出て来ると、1〜3年後には、倒産件数の減少となっている。



倒産件数とDI値


       Y: 年間不動産倒産件数
              X: 不動産DI値

として、XYの関係式を求めると、下記である。

       Y=656.61−6.63X
                  相関係数r=0.55
                  標準偏差103

 上記算式より、次の事が云える。

 不動産DI値1単位の増は、不動産業倒産6.6件減に相当する。

 倒産件数の最大は656件である。

 上記算式から導き出される、不動産DI値と不動産業倒産件数の理論値は、下記である。

       不動産DI値       不動産業倒産件数 

         20             524          25             491          30             458          35             425          40             391          45             358          50             325          55             292          60             226

 2020年3月の不動産DI値は、31.6である。仮に1年間の不動産DI値の平均が31.6であったとする。

 上記算式のXに、31.6を代入すると、
              Y=656.61−6.63×31.6
                =447.102
                ≒447
倒産件数は447件と求められる。

 現在は不動産業の倒産件数は年間255件であるが、不動産DI値31.6が単月調査によって出されたと云うことは、年間平均31.6となり得る可能性も有り得る事を示す。それは近い将来不動産業の倒産件数が、年間447件になるということである。

 倒産件数が、年間447件になるということは、不動産業は、いつからと云う時期ははっきりと分からないが、遠く無い将来、不景気の嵐が吹き荒れる可能性が高いと云える。

 鑑定コラム1206)で、不動産ファンドバブルは平成19年(2007年)で弾け、不動産業の倒産は、平成21年(2009年)に最高の488件となった。この現象から、「バブル崩壊2年後に不動産業倒産は最高になる」と記した。

 現在のリートバブルの頂点は、帝国データバンクの不動産DI値より推定すると2018年3月の53.1である。リートバブルがいつ弾けるかと思いながらも一向に弾けず、ずるずると下降気味に2020年2月まで来た。

 2020年3月の新型コロナウイルスの蔓延により、学校閉鎖の強行政策、東京オリンピックの延期が引き金になり、感染症は益々拡大している。経済、産業への大影響が懸念される。そして不動産DI値が、いきなり前月比▲10.4ポイントの下落である。リートバブルの崩壊と読み取れる。

 不動産ファンドバブルの場合は、日銀の不動産業貸出額が10兆円を越えると急激に引き締まり、それと共に不動産業は不景気になり、不動産業の倒産が激増した。

 しかし、リートバブルの今回は、12.3兆円(2016年12月)の不動産業の貸出額となっても、日銀の不動産業貸出額は急激に引き締められなく、徐々である。

 この為、不動産業の倒産件数が前年比で増加したのは2019年からである。その倒産件数の増加件数も248件から255件と8件の増加の程度である。

貸出額ピークから3年経っても、リートバブルは崩壊しかかっているという状況はなかなか見受けられなかった。

 だが、2020年3月の不動産DI値の1ヶ月で▲10.4ポイントの下落は、過去最高の月間下落ポイントである。それだけ日本全国の不動産業者は景気は悪いと感じたのである。

 日銀の不動産業への超超貸出額があっても、その貸出額の恩恵を日本全国の不動産業者があまねく等しく享受しているわけでない。月間▲10.4ポイントの不動産DI値の発生は、リートバブルの崩壊が始まったことの証しと判断される。

 不動産フアンドバブルの崩壊の例に従えば、2年後の2022年が不動産業倒産のピークになって、477件の不動産業の倒産件数を記する事になる。

 果たして私の予測が当たるか否か。

 不動産DI値31.6の調査数値の存在は重い。新型コロナウイルス感染症の不動産業に与える影響は、甚だ大きいと分析される。

 採用した帝国データバンクの景気動向指数(景気DI)については、帝国データバンクが、その求め方について解説していることから、それを以下に転載する。



帝国データバンクの景気動向指数(景気DI)について


「1.TDB 景気動向調査の目的および調査項目

 全国企業の景気判断を総合した指標。国内景気の実態把握を目的として、2002年5 月から調査を開始。景気判断や企業収益、設備投資意欲、雇用環境など企業活動全般に関する項目について全国2 万3 千社以上を対象に実施している月次統計調査(ビジネス・サーベイ)である。

2.調査先企業の選定

 全国全業種、全規模を対象とし、調査協力の承諾が得られた企業を調査先としている。

3.DI 算出方法

 DI(ディフュージョン・インデックス〈Diffusion Index〉)は、企業による7 段階の判断に、それぞれ以下の点数を与え、これらを各選択区分の回答数に乗じて算出している。

  非常に良い            6
  良い                   5
  やや良い               4
  どちらともいえない     3
  やや悪い               2
  悪い                   1
  非常に悪い             0

 景気DI は、50 を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50 が判断の分かれ目となる(小数点第2 位を四捨五入)。また、企業規模の大小に基づくウェイト付けは行っておらず、「1 社1 票」で算出している。」(注 文章項目の見出し番号は筆者が付ける)


  鑑定コラム1156)「リーマンショック、トヨタ赤字、東日本大震災の賃料影響」

  鑑定コラム2029)「2019年の不動産業の倒産は255件、前年比+2.8%」

  鑑定コラム1206)「バブル崩壊2年後に不動産業倒産の最高が来る」

  鑑定コラム2085)「2020年4月TDB不動産業景気DI値 21.9」


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