東京オリンピックの晴海選手村は、都市再開発法による第一種市街地再開発事業によってつくられたものである。
この事業を行う前の土地価格(従前土地価格)の金額が少しおかしいのでは無いかと思われる。
この晴海選手村の再開発事業は、東京都が埋め立てた17.8ヘクタールという広大な土地である。土地所有者は東京都一人である。
このことを根拠にしてかどうか分からないが、日本一の地方公共団体である東京都が、個人施行で事業を行い、個人施行に与えられている数々の再開発事業の特典である特例事項を適用し、1600億円余の土地価格を129.6億円で、マンション業者が組成した特定建築業者に都有地の売却を敢行した。
個人施行の事業とした最大の目的は、公有地の土地の売却には議会の承認が必要であるが、それをすり抜ける為に個人施行とし、法律の曲解を行って、都議会の承認を避けて都有地を約1/10の価格で売却する事であった。都議会も随分となめられたものである。
この事については、鑑定コラム2175)「個人施行者の再開発事業には都市再開発法108条2項の適用はない」で詳述している。そちらを読んで欲しい。
都市再開発法は、個人施行の市街地再開発事業とはいえ、権利変換計画の作成までは免除していない。
権利変換計画とは何かというと、再開発事業を行う場合、再開発ビル或いはマンションを建設し、再開発の区域内の土地・建物等の権利者は、再開発事業前に所有していた土地建物の価格に同等である再開発ビル或いはマンションの床及びそれに対応する土地持分を、事業者から取得する。この権利変換処分の計画が権利変換計画である。
再開発事業前に所有していた土地建物の価格を、再開発後の建物等に置き換える事であることから、当然再開発事業を行う前の土地建物の価格を把握していなければならない。
土地のみの場合は、その土地価格を把握していなければならない。この再開発事業を行う前の土地建物の価格を従前土地建物価格という。再開発後の価格を従後土地建物価格という。
従前土地建物価格と従後土地建物価格の間には、差額が生じる。この差額を保留床といい、これを売却して開発工事費にあてる。
晴海選手村の場合は、再開発事業前の状態は、更地状態であるから土地価格となる。
施行者の東京都が平成28年4月に作成し、東京都に提出した同市街地再開発事業の権利変換計画書によれば、宅地、雑種地、公衆道路地目の177,879.08uの従前土地価格は、12,960,000,000円である。u当り72,858円である。
この従前土地価格129億6千万円の価格がどの様にして求められたかは全く不明である。不動産鑑定評価は行われていない様である。
都市再開発法80条第1項は、宅地等の価額は「近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して算定した相当の価額とする。」と規程するが、個人施行の事業においては、この80条の適用が免除されている。
とはいえ、再開発事業後の建物価格等の配分に直結する従前土地価格を合理的根拠なく決定して良いとは法は書いていないし、許していない。
一方、対象地を5つの画地に分割し、開発法という手法のみで求めた不動産鑑定書(鑑定会社は鑑定評価書では無く価格「調査報告書」であると主張しているが、私は不動産鑑定士が価格として評価したものは名称に係わらず鑑定書であると考えており、鑑定会社の発行した調査報告書は鑑定書である。)があり、その求められた宅地の価格は、宅地面積133,906.26uで12,960,000,000円である。
分譲マンションを想定して求めていることから、この土地価格は従後土地価格と判断される。
従前土地価格と従後土地価格とは129.6億円と同額である。
従前土地の中には地目公衆道路とあるが、道路など造られていない。電気、水道、下水道、都市ガスも無い。一面の原っぱである。それはその当時撮られている航空写真を見れば分かる。
その一面原っぱの状態の土地価格が、巾員20〜50メートルの舗装道路が造られ、電気、水道、下水道、都市ガスが埋設された土地の価格と同じとはいささかおかしいでは無かろうか。
巾員20〜50メートルの舗装道路を造り、水道、下水道、都市ガス管を埋設する工事をするには、それを造る工事費が必要である。その工事費相当を控除したのが従前土地価格と考えられるものでは無かろうか。
本件の造成後の土地価格を鑑定評価している不動産鑑定書では、評価の条件として、「対象不動産の造成工事が完了し、道路等の公共インフラ設備は整備されているものとしての価格等調査」と記してある。
この不動産鑑定書の評価条件記載事項より、土地の従前土地価格は、道路等の公共インフラ設備の工事がされていない価格ということになる。
ということになると、原っぱ状態の従前土地価格と、道路等の公共インフラ設備が整備された状態の従後土地価格が、同額の129.6億円であるということは不自然であり、間違いということになる。
間違いであると云うことを、言葉だけでなく具体的に数値を使って、下記で立証する。
鑑定コラム2174)「土地価格の鑑定評価手法には原価法という手法もある」の記事で、晴海選手村の市街地再開発事業についての監査請求に対する東京都監査委員会の回答書による事業概要が記されている。
公共施設の概要は、
・補助第314号線 延長約 210m
・区画道路4路線 延長約1,570m
であり、公共施設工事費 約188億と監査報告されている。
道路等築造に188億円必要ということである。
従後土地価格は129.6億円であった。この土地価格は公共施設工事が出来上がった状態の土地価格である。
従前土地価格は、公共施設工事が必要な状態の土地であるから、その金額を控除すれば求められる。
129.6億円−188億円=▲58.4億円従前土地価格は、マイナス58.4億円という価格になる。現実には土地価格にマイナス00円ということは無いことから、マイナス58.4億円という価格はない。