1.回答書が適正という土地価格鑑定手法
東京都民の有志が、中央区晴海の東京オリンピック選手村土地約13.4万uの払い下げ価格が129億円余とあまりにも安い価格であることから、東京都監査委員に監査請求したものに対する回答文書(以下「回答書」とする。)によれば、回答書が適正という土地鑑定手法の価格は、比準価格(手法名は取引事例比較法)、収益価格(手法名は収益還元法)、そして土地規模の大きい場合の開発法より求められる価格(手法名は開発法)の3つを挙げている。その事について回答書は下記のごとく述べる。
「(3)本件調査委託における鑑定評価の手法等について
宅地である更地の鑑定評価について、鑑定基準では、更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとされ、当該更地の面積が、近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、さらに開発法により求められる価額を比較考量して決定するものとされている。
本件土地については、約 13万uと広大な土地であること及び選手村使用に対応した住宅棟を整備し、事業完了まで長期間を有するなどの特殊要因があることから、比較できる取引事例は存在せず、取引事例比較法を適用することはできないとした判断は、妥当であり、本件調査委託において、本件土地の評価手法として開発法を採用したことは、鑑定基準の考え方に沿っており、適切であると考えられる。」(回答書 第3編5章(3)節 P62〜63)
採用した手法の開発法は適切であると回答書は云う。
しかし、約13万uと広大な土地であることから取引事例比較法が適用出来ないという回答書の記述は、鑑定コラム2158)「店舗賃料の25%が公租公課という鑑定書 東京のど真ん中区のある街区の話」で、日本全国にある国立大学の広大なキャンパス敷地が、取引事例比較法を使用して評価されたという事実の指摘によって適用出来ないという判断は失当となる。
そして、採用開発法の間違いについては、鑑定コラム2145)「収益還元法価格は開発法のベース価格にはならない」で致命的な間違いが指摘されている。
加えて、鑑定コラム2159)「出現率10万分の6の開発法の鑑定価格 」で出現率10万分の6の開発法の価格は、非現実的な価格である事が証明されて、適正な開発法の価格とはとても云えるものではないことが立証されている。
さらに、東京都から依頼されて鑑定評価した不動産鑑定士及び不動産鑑定業者が、土地価格を求める重要な手法の一つを見落としているものがある事から、回答書が云う「鑑定基準の考え方に沿っており、適切であると考えられる。」という判断は間違っている事になる。
その見落としている重要な手法については、下記の章で述べる。
2.土地価格の鑑定評価手法には原価法という手法もある
@ 原価法とは
東京都から依頼されて晴海選手村の土地を鑑定評価した不動産鑑定士及び不動産鑑定業者が、見落としている土地価格を求める重要な手法の一つとは原価法という手法である。
土地価格を求める手法の1つの原価法とはどういうものかと云えば、分譲宅地の価格を求める場合、素地の山林或いは田畑の価格に造成工事費と諸費用・利益を加算して求める手法である。
海を埋立て宅地を造成する場合にも適用される手法である。
A 鑑定基準の土地の原価法の規定
不動産鑑定評価は三手法で価格を求める。
原価法、取引事例比較法、収益還元法の3つである。
そのうちの原価法について、鑑定基準は、次のごとく規定している。
「原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を積算価格という。)。
原価法は、対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり、対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P23)
土地の再調達原価とは、埋立宅地造成後の宅地の場合には、その更地価格を云う。
鑑定基準は「対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる。」という。
既存市街地の土地には再調達原価を適用出来ないが、海を埋立て造成された宅地の更地価格は、再調達原価が適切に求めることが出来れば有効な手法であると鑑定基準は云う。
そして鑑定基準は土地の原価法について、次のごとく述べる。
「なお、土地についての原価法の適用において、宅地造成直後の対象地の地域要因と価格時点における対象地の地域要因とを比較し、公共施設、利便施設等の整備及び住宅等の建設等により、社会的、経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると客観的に認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算することができる。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P23)
埋立宅地造成工事後の時間が経過して、地域要因が変化した場合には、その熟成度に応じて価格修正せよと鑑定基準は云う。つまり地域の熟成により地価が値上がりしていれば、それに応じて価格修正せよということでもある。
晴海選手村の土地は、海を埋立て築造された土地である。その再調達原価から見た原価法の土地価格はどれ程かについて、次章で述べる。
3.晴海選手村土地の積算価格
@ 事業の概要
東京都監査委員の回答書第3編1章の事実関係の確認(13頁)によれば、開発事業の区域面積は約18万uという。
有効宅地面積は約13.4万uである。
13.4万u ────── = 0.744 18万u有効宅地率は74.4%である。残りの25.6%は道路・公園・小学校の公共用地と云うことになる。
(公共施設の概要) ・補助第314号線 延長約 210m ・区画道路4路線 延長約1,570m
(資金計画) 540億円
主な収入 一般会計 約380億 財産収入 約130億
主な支出 用地及び補償費 約319億 公共施設工事費 約188億
319億円+188億円=507億円である。
50,700,000,000円÷133,906.26u=378,623円378,623円である。
378,623円×1.03=389,982円≒390,000円積算価格は390,000円である。
390,000円×133,906.26u=52,223,441,400円≒522億円である。522億円が晴海選手村約13.4万uの積算価格と云うことになる。