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2174)土地価格の鑑定評価手法には原価法という手法もある

1.回答書が適正という土地価格鑑定手法

 東京都民の有志が、中央区晴海の東京オリンピック選手村土地約13.4万uの払い下げ価格が129億円余とあまりにも安い価格であることから、東京都監査委員に監査請求したものに対する回答文書(以下「回答書」とする。)によれば、回答書が適正という土地鑑定手法の価格は、比準価格(手法名は取引事例比較法)、収益価格(手法名は収益還元法)、そして土地規模の大きい場合の開発法より求められる価格(手法名は開発法)の3つを挙げている。その事について回答書は下記のごとく述べる。

 「(3)本件調査委託における鑑定評価の手法等について

 宅地である更地の鑑定評価について、鑑定基準では、更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとされ、当該更地の面積が、近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、さらに開発法により求められる価額を比較考量して決定するものとされている。

 本件土地については、約 13万uと広大な土地であること及び選手村使用に対応した住宅棟を整備し、事業完了まで長期間を有するなどの特殊要因があることから、比較できる取引事例は存在せず、取引事例比較法を適用することはできないとした判断は、妥当であり、本件調査委託において、本件土地の評価手法として開発法を採用したことは、鑑定基準の考え方に沿っており、適切であると考えられる。」(回答書 第3編5章(3)節 P62〜63)

 採用した手法の開発法は適切であると回答書は云う。

 しかし、約13万uと広大な土地であることから取引事例比較法が適用出来ないという回答書の記述は、鑑定コラム2158)「店舗賃料の25%が公租公課という鑑定書 東京のど真ん中区のある街区の話」で、日本全国にある国立大学の広大なキャンパス敷地が、取引事例比較法を使用して評価されたという事実の指摘によって適用出来ないという判断は失当となる。

 そして、採用開発法の間違いについては、鑑定コラム2145)「収益還元法価格は開発法のベース価格にはならない」で致命的な間違いが指摘されている。

 加えて、鑑定コラム2159)「出現率10万分の6の開発法の鑑定価格 」で出現率10万分の6の開発法の価格は、非現実的な価格である事が証明されて、適正な開発法の価格とはとても云えるものではないことが立証されている。

 さらに、東京都から依頼されて鑑定評価した不動産鑑定士及び不動産鑑定業者が、土地価格を求める重要な手法の一つを見落としているものがある事から、回答書が云う「鑑定基準の考え方に沿っており、適切であると考えられる。」という判断は間違っている事になる。

 その見落としている重要な手法については、下記の章で述べる。

2.土地価格の鑑定評価手法には原価法という手法もある

@ 原価法とは

 東京都から依頼されて晴海選手村の土地を鑑定評価した不動産鑑定士及び不動産鑑定業者が、見落としている土地価格を求める重要な手法の一つとは原価法という手法である。

 土地価格を求める手法の1つの原価法とはどういうものかと云えば、分譲宅地の価格を求める場合、素地の山林或いは田畑の価格に造成工事費と諸費用・利益を加算して求める手法である。

 海を埋立て宅地を造成する場合にも適用される手法である。

A 鑑定基準の土地の原価法の規定

 不動産鑑定評価は三手法で価格を求める。

 原価法、取引事例比較法、収益還元法の3つである。

 そのうちの原価法について、鑑定基準は、次のごとく規定している。

 「原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を積算価格という。)。

 原価法は、対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり、対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P23)

 土地の再調達原価とは、埋立宅地造成後の宅地の場合には、その更地価格を云う。

 鑑定基準は「対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる。」という。

 既存市街地の土地には再調達原価を適用出来ないが、海を埋立て造成された宅地の更地価格は、再調達原価が適切に求めることが出来れば有効な手法であると鑑定基準は云う。

そして鑑定基準は土地の原価法について、次のごとく述べる。

 「なお、土地についての原価法の適用において、宅地造成直後の対象地の地域要因と価格時点における対象地の地域要因とを比較し、公共施設、利便施設等の整備及び住宅等の建設等により、社会的、経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると客観的に認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算することができる。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P23)

 埋立宅地造成工事後の時間が経過して、地域要因が変化した場合には、その熟成度に応じて価格修正せよと鑑定基準は云う。つまり地域の熟成により地価が値上がりしていれば、それに応じて価格修正せよということでもある。

 晴海選手村の土地は、海を埋立て築造された土地である。その再調達原価から見た原価法の土地価格はどれ程かについて、次章で述べる。

3.晴海選手村土地の積算価格

@ 事業の概要

 東京都監査委員の回答書第3編1章の事実関係の確認(13頁)によれば、開発事業の区域面積は約18万uという。

 有効宅地面積は約13.4万uである。


                    13.4万u
                ────── = 0.744                              
                    18万u
 有効宅地率は74.4%である。残りの25.6%は道路・公園・小学校の公共用地と云うことになる。

 同頁の事業概要によれば、公共施設の概要、資金の計画は、下記である。

 (公共施設の概要)
  ・補助第314号線 延長約 210m
  ・区画道路4路線 延長約1,570m

 (資金計画)    540億円
   主な収入 一般会計 約380億         財産収入 約130億
   主な支出 用地及び補償費 約319億         公共施設工事費 約188億

A 用地費・造成工事費

 晴海選手村の土地は、これから公有水面の東京湾の一部を埋立て造るのでは無く、既に東京都によって埋立て造成され護岸整備もされている土地である。

 その費用は、上記の「用地及び補償費」で約319億円と事実認定されている。

 補償とは、当初は当該海面を利用して漁業している漁業組合の補償であろうが、造成後当該土地を利用していた人々の明渡立退のための補償であるかもしれない。用地費とは、公有水面の埋立工事費及び護岸整備費であるが、既に所有権等を得ていた人の所有権等取得の対価も含めたものかもしれない。この辺りは私は当事者で無いからはっきりとは分からない。いずれにしろ約319億円が事業用地取得の原価である。

 公共施設工事費とは、補助第314号線及び区画道路4路線の築造とそれに伴う下水道、上水道の工事費である。その費用は約188億円である。

 用地費・造成工事費は、
                 319億円+188億円=507億円
である。

B 積算価格

 上記で求められた用地費・造成工事費のu当り価格は、
           50,700,000,000円÷133,906.26u=378,623円
378,623円である。

 これに広告宣伝費、販売経費、金利、企業利潤を加算することになるが、東京都という公共団体の行う事業であるから、広告宣伝費、金利、利潤計上しないとする。販売も外部委託の仲介料のみとし、上記金額の3%の計上とする。
                378,623円×1.03=389,982円≒390,000円
 積算価格は390,000円である。

 埋立造成原価の507億円は、東京都監査委員が調査し発表している金額であることから適正である。それは鑑定基準が云う「再調達原価を適切に求めることができる」に相当する。

 「再調達原価を適切に求めることができる」場合に求められた土地価格については、鑑定基準は「有効」であると規定する。

 海面埋立工事及び護岸工事がいつ完了したか私は分からない。20年前に終わっていたとすれば、その後の工事費及び土地価格等の変動を考慮して価格時点の土地価格に修正する必要がある。

 取り敢えず、その要因は不明であることから脇に措くとすれば、求められる積算価格は、u当り39万円である。

   総額は、
        390,000円×133,906.26u=52,223,441,400円≒522億円
である。522億円が晴海選手村約13.4万uの積算価格と云うことになる。

4.不動産鑑定士及び不動産鑑定業者の見落しと傲慢さ

 晴海選手村の土地は、公有水面を埋立て造られた宅地である。造成工事完了してからの期間がどれ程かかっているのか私には分からないが、分かる範囲で造成工事費を調べるべきである。

 起業者である東京都からの海面埋立造成地の土地鑑定依頼であれば、海面埋立造成地の工事費等がどれ程かかったか原価を聴取して、積算価格を求めるのが不動産鑑定士及び不動産鑑定業者として当然行うべきことである。

 東京都監査委員は、鑑定評価した後の後日であるが、コストは507億円と調査し発表している事から、不動産鑑定評価の時点においても、鑑定依頼者である東京都に聴取すれば、その金額は分かったはずである。

 晴海選手村の土地評価を行った不動産鑑定士及び不動産鑑定業者は、当然行うべき手法の適用を怠った。専門家、専門業者として見落してはいけない要因を見落した。

 晴海選手村の土地評価を行った不動産鑑定士及び不動産鑑定業者は、有効な価格であるべき積算価格522億円を見落した。

 有効な価格であるべき積算価格522億円を見落して、129億円余の土地価格が適正な鑑定評価額と主張している。

 コストの面からの価格水準を反映する有効であるべき積算価格を完全に無視し、コストを大幅に下回る価格が適正な土地価格であると主張する不動産鑑定評価そのものが異常である。

 倒産した訳でもないのに、造成コストを大幅に割り込んだ価格で造成土地を売るのか。

 経済合理性というものが不動産の価格には働くのである。

 東京都及び東京都から鑑定依頼を受けた不動産鑑定士及び不動産鑑定業者は、求めた129億円余の価格は適正であると主張するが、鑑定基準が有効な手法による有効な価格であると認める522億円の積算価格との関係を合理的に説明出来るのであろうか。

 評価した不動産鑑定士及び価格証明の不動産鑑定書を発行した不動産鑑定業者は、その合理的説明をしなければならない。どの様な合理的説明がなされるのであろうか。

 合理的説明など出来ないであろう。

 だんまりを決め込んで、嵐の通り過ぎるのをじっと待つ作戦か。東京都不動産鑑定士協会、日本不動産鑑定士協会連合会、そして監督官庁の国土交通省も不当鑑定の処分を行うことに躊躇し、よう行わないことを見込んで。

 合理的根拠の全くない129億円余の不動産鑑定評価額を妥当であると監査判断する東京都監査委員の監査も、土地評価の手法には原価法と云う手法があることに気付かず節穴で、回答書の内容は失当である。




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