継続賃料の賃料評価において、判例にあらわれる利回り法についての解釈に、地価変動が激しい時には利回り法は採用出来ないという考え方が見られる。
このことについて、不動産鑑定実務理論雑誌『Evaluation』18号(プログレス 2005年8月15日発行)に「判例に見る継続賃料の利回り法」の課題の論文を書いた。
論文の要旨を抜粋し転載する。
取り上げた判例は東京地裁平成10年2月26日、平成8年(ワ)第24593号、建物賃料改定請求事件(金融法務事情1527ー59)である。
サブリースの賃料減額請求事件であり、主目的はサブリース賃料の減額の判断有無であり、利回り法については副次的なものであるが、利回り法の不採用を肯定している判例である。
利回り法の不採用を肯定してよいものかどうか疑問が生じ、その点が検討に値する判例である。
その判決で鑑定人不動産鑑定士が、
「利回り法については土地価格の推移を直接的に反映する手法であるから、本件においては最終賃料合意時から平成8年9月1日までに土地価格が異常な割合で下落していることからその手法を本件に用いることは不適切であることから利回り法による算出は行わない。」
と不採用にしたことを受けて、判決文も次のごとく判示する。
「平成4年10月1日から平成7年5月1日までの間に土地の価格は著しく下落したがそれに正比例して建物賃料額は下落していないことが認められることから、鑑定において利回り法を採用しなかったことは、相当であったというべきである。」と判示する。
しかし、この判断は誤りである。
土地価格が著しく下落しているからといって、利回り法が採用出来ないというものではない。その考えは利回り法の解釈を充分理解していない為に生ずる誤った考え方である。
土地価格が著しく下落している場合、あるいは上昇している場合にも利回り法は適用出来るし、適用の方法を誤らなければ、適正な利回り法の賃料は求められるのである。
利回り法とは、賃料のうち継続賃料を求める場合の1つの手法である。
利回り法の求め方は、裁判鑑定では折半法、スライド法と共に古くから行われていた手法である。
その古くから裁判鑑定で行われていた手法の求め方は、
価格時点の土地建物の価格×価格時点の不動産利回り
=利回り法の家賃
であった。
平成2年の『不動産鑑定評価基準の設定に関する答申』(平成2年10月26日 2国鑑委第25号 以下「鑑定基準」と呼ぶ)によって、利回り法の手法が導入された。
その「鑑定基準」では利回り法の求め方について、「利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である」という。
基礎価格とは、積算賃料を求める場合に、その賃料計算の基礎となる土地・建物の価格である。
「鑑定基準」は積算法に準ずるものとすると述べていることから、基礎価格は賃料算出の基礎となる土地・建物の価格ということになる。
必要諸経費等とは、「鑑定基準」は、これまた基礎価格と同じく積算法に準ずるものとすると述べていることから、次の費用項目をいう。
イ.減価償却費 ロ.維持管理費(維持費、管理費、修繕費等) ハ.公租公課 ニ.損害保険料 ホ.貸倒準備費 ヘ.空室等による損失相当額
価格時点の基礎価格×従前合意時点の継続賃料利回り +価格時点の必要諸経費等 =利回り法の継続賃料
価格時点の基礎価格×価格時点の継続賃料利回り +価格時点の必要諸経費等 =利回り法の継続賃料である。