2005年8月の初旬、軽井沢に行って来た。避暑・遊びでは無い。不動産鑑定評価の仕事である。
企業が軽井沢に美術館を持っているが、それを財団法人化するための美術館の土地建物の価格の評価の仕事である。
財団法人を設立するため財産提供する場合には、その財産の価値を証明するために不動産鑑定評価書を必要とする。
美術館の財団法人化のための不動産鑑定は、今回が初めてではない。
以前にも行った。
多くの人が、一度はきっとどこかで見たことのある、可愛らしい児童の姿を描いた画家の美術館の財団法人化のための不動産鑑定であった。
軽井沢銀座は賑わっていた。
しかし、地元の人の話を聞くと、モールが出来て、軽井沢銀座の人通りはそちらのモールにとられてしまい、かなり減ったという。
現地調査を終えたのち、久しぶりに軽井沢に来たこともあり、かって相当前に評価した軽井沢の土地を見に行った。
20年以上も前の話しである。
ある企業が中軽井沢の駅の北方近くにある一山を売り払うために、縁あって私に不動産鑑定してくれと頼んできた。
一山といっても1町歩、2町歩程度の半端な面積では無い。膨大な面積の一山である。
手入れの行き届いたカラマツ林の山である。聞けば電信柱の利用目的のために、何十年の年月をかけてカラマツを造林し、育成している山という。
県道を挟んで反対側は、西武の千ヶ滝の別荘地である。
カラマツを搬出するための林道を、長靴を履いて現地案内を受けた。
所有する企業にとっても、手放すのが惜しまれるカラマツ林の山林であった。
歩き出があった。
最有効用途は別荘地であるが、県道との間に介在する川に橋を架ける搬入路の築造、別荘地内の道路、水道の引き込み、排水等別荘地としてのインフラの整備が必要である。開発行為のため行政官庁の許可が必要であり、それらの予想される工事費、別荘開発業者の利潤、借入金利、販売価格そして販売期間、事業のリスク等の要因を充分考えて別荘地素地の価格を求めた。
あまりの規模大であるため、果たして対象地を購入する開発会社、不動産会社があるのだろうかと危惧した。
鑑定評価の依頼者は、
「田原さん、購入してくれる企業の心当たりはありませんか。」
と打診されたが、私は不動産鑑定を職とするものであり、不動産の仲介業など行っていない。
また、広大な山林を別荘地素地として購入し、開発分譲する企業との関わりも面識もないため、
「残念ですが、鑑定評価が専門であり、購入出来る企業の心当たりはありません。」
と返事した。
その後、どれ程の時間が経ったであろうか。案内をしてくれた人から売却出来たという報告を受けた。
そして、その山林に別荘地が造られ、その分譲広告が目に入った。
三井不動産の中軽井沢別荘地「三井の森」という名の別荘地の広告であった。
不動産業界の雄の会社が別荘地素地として買ってくれたのか。
カラマツ林の山が、多くの人々が夏の避暑地として過ごす中軽井沢「三井の森」別荘地に変わったのかと、広告を見ながら、しばし感慨に浸った。
別荘地事業は、一度に開発土地全部を分譲してしまわない。
すこしづつ、別荘地の市場状況を見ながら、長期に渡って別荘地分譲販売を行ってゆく。
現在も「三井の森」は8区画の土地を分譲中であった。
県道入口からかなり奥に入った山の上の方であるが、土地面積355坪で1950万円〜3400万円であった。随分と価格に幅があるが、傾斜度とか地形などのそれなりの理由があるものと思われる。平均価格は2625万円で坪当たり7.4万円である。
バブル時にはこんな価格でなく、もっとかなり高い価格水準であったと思われるが、2005年8月の夏の中軽井沢の「三井の森」の価格は、やや山の上の方で、坪当たり7.4万円程度が別荘地の価格水準のようだ。
20数年前に売却するために別荘地素地として評価し、その後売却されて、しっかりした道路築造と別荘地のインフラ整備された良好な別荘地に変貌したかってのカラマツ林の山を見てきた。
私の今迄の不動産鑑定人生において、記憶に残る別荘地の鑑定の一つである。
旧軽井沢の万平ホテルに立ち寄った。宿泊ではない。とても万平ホテルに宿泊する余裕など金銭的にも、時間的にも無い。樹木に囲まれた万平ホテルのガーデンステージで、せめて一杯のコーヒーをというつもりである。
夏とはいえひんやりとする空気の中のガーデンステージで味わう「ジョンのロイヤルミルクティー」は、鑑定評価の調査で駆けずり廻り、いささか疲れ、気ぜわしかった一日を忘れさせてくれるおいしさだった。
「ジョン」とは、ビートルズのジョン・レノンのことであるとホテルの人が教えてくれた。ジョン・レノンは万平ホテルで一夏を過ごしたのであろうか。
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