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2381) オリンピック要因で土地価格は減価しない 

 東京オリンピックに参加する選手の宿舎として、東京都中央区晴海5丁目の13.39haの都有地に選手村を造る為に東京都は土地売却した。

 適正時価1611億円(1,200,000円/u)の土地価格を、東京都は129.6億円(96,800円/u)で売却した。適正時価の8.1%の価格である。

 その理由は、東京オリンピックの選手村を作る必要があり、その特別仕様によって建物の建築費がかかることから、土地価格は安くしても良いと云う論法である。

 オリンピック要因だから土地価格は安く売買しても良いという主張を、東京都は代理人弁護士を通じて、東京地裁の法廷で力説した。

 東京地裁の裁判官は、不動産価格及び不動産鑑定評価の知識に疎く、不動産鑑定評価の求める価格はどういうものかすら分かっていない。

 不動産鑑定評価で求める価格は、正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格の4つしかない。

 この4つの価格については、鑑定コラム2173)「晴海オリンピック選手村土地価格は特定価格にはならない」で記した。

 その中で、下記のごとく述べた。

 「オリンピックの選手村土地価格は、正常価格よりかけ離れた土地価格で評価するということを規程する法律、政令、東京都条例は無い。

 つまり、特定価格として正常価格とかけ離れた価格を求めて良いという法令等の根拠がないということである。

 特定価格とする法令等が無いとすると、限定価格、特殊価格になるかと云うと隣地買収でもなく、不合理な分割でもないから限定価格には成らない。神社仏閣の土地でも無いから特殊価格にも成らない。

 とすると残る正常価格に属さざるを得ないことになる。つまり晴海オリンピック選手村の土地価格は、特定価格では無く正常価格に属する土地価格と云うことになる。

 回答書は、晴海オリンピック選手村築造は特別な行事であるから、その土地価格はあたかも特定価格であるごとくにおわしているが、特定価格には属さない。正常価格で求めなければならない。」

 同じ東京都が、上記のオリンピック要因による土地価格の減価を否定するごとくの土地価格の判断を示した土地売買が分かった。

 つまり、裁判での主張、一審判決の結果と真反対の行動を起こしていたのである。

 晴海オリンピック選手村のど真ん中に学校用地が残されていた。

 その土地を東京都中央区が東京都から売買取得した。そのことに付いては、前記鑑定コラム2380)「裁判には勝ったけれど… ボロが出てきた「晴海フラッグ」問題 ウチコミ・タイムズ」で記した。
   
 4000戸余の分譲マンションが造られる事から、そこに入居する人々の子息の通う小学校・中学校が必要である。

 4000戸余の分譲マンションを作るのは市街地再開発事業であるから、本来はその事業者が学校を作るべきものであろう。

 学校用地を中央区に購入させ、学校を中央区の費用で建築させるのである。

 随分と虫の良い市街地再開発事業では無かろうか。

 中央区は、学校等用地として2つの土地31,385.05uを177億円で東京都から売買取得した。

          17,700,000,000円÷31,385.05u=563,963円≒564,000円/u

 上記を少し詳しく述べると、中央区が取得した都有地は、晴海4丁目と5丁目の2土地で、晴海4丁目土地は、晴海選手村と道路挟んで反対側の土地で、面積14,598.56u、金額77億5000万円である。u当り530,874円である。

 もう一つは晴海5丁目101番の土地で、面積16,796.49u、金額99億5000万円である。u当り592,386円である。この土地は晴海選手村のど真ん中に所在する土地である。

 この177億円の金額について、中央区の区議会の令和3年9月23日の企画総務委員会で、中央区の担当役人は、区議会議員の質問に対して、公開されている同区議会議事録によれば、次のごとく述べている。

****


1.副参事(計画・特命担当)
   まず、改めて東京都との交渉についてですけれども、本件の土地、都有地の売払い価格というものは、大前提として、東京都のほうが規則にのっとって財産価格審議会等の審議を経た上で決めるというところでございます。そうしたルールの中で、本区としては、本区の立場、状況あるいは施設の目的をしっかりと説明した上で交渉に臨んでいるところでございます。その中で、当然、最大限の配慮ということで、無償も含めて、区の負担が最大限ないように配慮してくださいというところもしっかりと主張してきたところでございます。

 また、具体的に、隣のオリンピックの開発地が幾らだとか、そうした交渉過程というのは、具体的交渉の中で、当然、議題や話合いの中には上ってきているとは思うんですけれども、あくまで区の建物、区が取得する土地の目的と区の置かれている状況を、東京都の価格決定のルールの中で、しっかりと主張していくところでございます。

 また、50%減額が特別な配慮なのかという点ですけれども、繰り返しになりますが、東京都が財産価格審議会等の議決を経て決める中で、本来ならば、そのままの価格でもいいところを、交渉の中で我々の主張が認められたと認識しております。主張したことによって、最大50%という金額に配慮されたものと。具体的に50%なのか、30%なのか、20%なのか、具体的な数字というのは、あくまで東京都側の判断にはなるかと思うんですけれども、その中で、我々が、それこそ招致以降、繰り返し繰り返し主張して、その状況状況に応じて強く主張してきた成果として、50%という結果になっているというふうに認識してございます。

2.財政課長
 土地購入についてでございます。

 今、委員からるるお話しいただきまして、私どもも、特にコロナ禍における状況を考えますと、できるだけ安く取得したいという思いがありまして、思いは委員と同じと考えております。また、そうした思いからこそ、これまでも幾度となく東京都に対して様々な要請活動を行ってきたところでございます。

 今回、東京都から提示された177億円という金額は、実は50%減額がされている結果でございますけれども、コロナ禍においては決して安い額とは当然言えないと思ってございます。委員のおっしゃるとおり、本区といたしましても、財政負担軽減に向けた取組というのは、今後、様々な手段を講じながら、やっていく必要があるというふうに考えてございます。

 まず、その一つとして、今、考えてございますのは、今回の補正予算で計上しました特別区債の発行でございます。今回、晴海五丁目の用地取得として特別区債発行を予算化させていただいておりますけれども、実は、義務教育施設の用地を取得する際の財源として特別区債を発行した際には、今後生じる元金と利子の償還費について、都区財政調整制度での普通交付金で算定される仕組みとなってございます。今回の補正予算について、先ほど予算説明でもございましたけれども、89億5,500万円の特別区債の発行を予定してございます。この発行に伴って翌年度以降に生じる利子、そして、それ以降に生じる元金の償還費については、同額が財調制度の需要額として算定されることによって、実質的な区の負担が生じないということになります。また、晴海四丁目の用地取得あるいは建物の建設費についても、財調制度の特別交付金などの申請を、今、考えているところでございます。
(https://www.kugikai.city.chuo.lg.jp/kaigiroku.cgi/r03/kikaku20210928.html)

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 この中央区の担当者の答弁から、177億円は東京都から提示された金額であること、そしてそれは公共減額率として50%減額されている結果と云うことが分かった。

 晴海選手村のど真ん中にある晴海5丁目の学校等用地は、99.5億円(u当り592,386円)である。この金額は50%減額した価格と云うことから、減額する前の土地価格は、
       
                  592,386円÷0.5=1,184,772円≒118万円
u当り118万円ということになる。

 この土地価格は、原告住民側の提出不動産鑑定評価額が13.39万uを1611億円とした単価の価格u当り120万円に近似している。

 東京都が、中央区に提示した晴海5丁目の晴海選手村のど真ん中にある土地の更地価格は、118万円/uである。

 価格時点が異なることによる地価変動率の要因を考慮しても、両土地価格の開差は、それほど大きく無い。

 晴海5丁目の土地は、東京オリンピック開催の時には、選手の食堂等の建物敷地として使用された。オリンピック関係の土地として使用されていた。つまりオリンピック要因の土地である。

 118万円/uと120万円/uの価格で考えれば、オリンピック要因の土地価格減という要因は存在していないということになる。

 一方、同じ東京都で有りながら、法廷ではオリンピック要因があると声高に主張して、u当り96,800円が適正であるとし,一審裁判官もそれにつられてその金額が適正と判決する。

 中央区の購入価格は、東京都財産価格審議会等の審議によって決定された価格であると中央区側の担当者が述べている事から、この価格の方がオリンピック開催時に選手の食堂等に使われていた土地の適正価格に近いであろう。
 
 東京都財産価格審議会には、5人の不動産鑑定士が指名されているが、一人は、東京都からの依頼で問題の不動産鑑定書(提出者は調査報告書と云っているが)を提出した不動産鑑定会社に所属する不動産鑑定士であり、一人は当該市街地再開発事業の処分価格を審議し、適正と判断した処分運営委員会の委員である不動産鑑定士である。

 つまり、東京都財産価格審議会の5人の不動産鑑定士の内、一人は、中央区に売却する土地をぐるりと囲む画地の土地の平均価格がu当り96,800円が適正価格であると鑑定評価した鑑定会社の不動産鑑定士である。自分の所属している鑑定会社が96,800円/uが適正であると鑑定書を出しているのに、それを否定することが出来るのであろうか。

 次の一人は。中央区に売却する土地をぐるりと囲む画地の土地を、東京都が再開発事業継続の為に、特定業者に売却する時に、その売却価格が妥当か否かを審査する処分運営委員会の委員で、売却価格はu当り96,800円が適正であるとした委員である。その委員が96,800円/uを否定して、中央区に売却する土地の価格は118万円/uが適正であると意見出来るのであろうか。

 この二人の不動産鑑定士は、果たして財産価格審議会でどういう発言をしたか議事録が公開されていれば見たいものである。

 首をかしげたくなる2人の不動産鑑定士が委員としているが、東京都財産価格審議会では大半の委員が118万円/uの価格が処分価格として相当と判断したということである。

 東京都財産価格審議会が、晴海選手村のど真ん中の選手食堂等の建物敷地として使用された土地を118万円/uの価格が妥当と認めたことは、オリンピック要因を考えても土地価格は安くならないということの証明行為になる。即ちオリンピック要因は土地価格に影響しないということになる。

 「オリンピック要因で土地価格は減価しない」ということは、東京都自身が、土地売買という事実証拠によって、自ら証明してくれたのである。


  鑑定コラム2380)
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