○鑑定コラム


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ

2386) 晴海選手村土地不当廉売事件の都側の鑑定評価は地価公示法違反である

1.判決

 東京オリンピック晴海選手村土地不当廉売事件の判決(東京地方裁判所 平成29年(行ウ)第388号 義務付け等請求事件 判決日令和3年12月23日)が、2021年12月23日になされた。

 判決は、被告東京都側の提出の不動産鑑定書(判決は「本件調査報告書」と呼ぶが)を全面的に認め、「不合理であるということはできない。」と云って東京都側勝訴の判決である。

 しかし、判決は、東京都側提出の不動産鑑定書(以下「甲不動産鑑定書」と呼ぶ)を盲目的に信じ込んで追随した内容で、5画地の価格の求め方をそっくり写し、その求め方に不合理は無いと判示するけれども、その鑑定書の求め方は、不動産鑑定評価基準に甚だしく違反するものである。それを「不合理であるということはできない。」と判示して、適法であるとする判決を認めることは出来ない。

2.地価公示法違反の鑑定書

 上記に付いては、稿を改めて論述するが、鑑定評価基準違反以上に重要視されなければならないのは、地価公示法違反の鑑定書であるということである。

 裁判官は法律家である。法律に適法しているのかどうかを先ず吟味するのが先であろう。その吟味を全く行わず、法律に違反している不動産鑑定評価を適法と判断するべきものではなかろう。控訴審もそれを許すのであれば、法律違反は、上告理由になる事から、最高裁判所の判断を仰ぐことになろう。

 甲不動産鑑定書が法律に違反しているとは、どういうことか。

 それは、甲不動産鑑定書は、土地価格を求めるのに、地価公示価格との規準及び均衡の鑑定作業を全く行わずに土地価格を求めているということである。

3.地価公示法

 地価公示法(昭和四十四年法律第四十九号)と云う法律がある。その目的等は次のとおりである。

 「(目的) 第一条 この法律は、都市及びその周辺の地域等において、標準地を選定し、その正常な価格を公示することにより、一般の土地の取引価格に対して指標を与え、及び公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等に資し、もつて適正な地価の形成に寄与することを目的とする。

(標準地の価格の判定等)

第二条 土地鑑定委員会は、都市計画法(昭和四十三年法律第百号)第四条第二項に規定する都市計画区域その他の土地取引が相当程度見込まれるものとして国土交通省令で定める区域(国土利用計画法(昭和四十九年法律第九十二号)第十二条第一項の規定により指定された規制区域を除く。以下「公示区域」という。)内の標準地について、毎年一回、国土交通省令で定めるところにより、二人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行つて、一定の基準日における当該標準地の単位面積当たりの正常な価格を判定し、これを公示するものとする。

2 前項の「正常な価格」とは、土地について、自由な取引が行なわれるとした場合におけるその取引(農地、採草放牧地又は森林の取引(農地、採草放牧地及び森林以外のものとするための取引を除く。)を除く。)において通常成立すると認められる価格(当該土地に建物その他の定着物がある場合又は当該土地に関して地上権その他当該土地の使用若しくは収益を制限する権利が存する場合には、これらの定着物又は権利が存しないものとして通常成立すると認められる価格)をいう。

(不動産鑑定士の土地についての鑑定評価の準則)

第八条 不動産鑑定士は、公示区域内の土地について鑑定評価を行う場合において、当該土地の正常な価格(第二条第二項に規定する正常な価格をいう。)を求めるときは、第六条の規定により公示された標準地の価格(以下「公示価格」という。)を規準としなければならない。

(公示価格を規準とすることの意義)

第十一条 前三条の場合において、公示価格を規準とするとは、対象土地の価格(当該土地に建物その他の定着物がある場合又は当該土地に関して地上権その他当該土地の使用若しくは収益を制限する権利が存する場合には、これらの定着物又は権利が存しないものとして成立すると認められる価格)を求めるに際して、当該対象土地とこれに類似する利用価値を有すると認められる一又は二以上の標準地との位置、地積、環境等の土地の客観的価値に作用する諸要因についての比較を行ない、その結果に基づき、当該標準地の公示価格と当該対象土地の価格との間に均衡を保たせることをいう。

4.不動産鑑定評価基準と不動産鑑定評価

 不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価を行う。(不動産の鑑定評価に関する法律 3条1項)

 不動産鑑定士が鑑定評価を行う場合には、不動産鑑定評価基準に従って鑑定評価を行わなければならない。そのことは、国土交通省の『不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン』P2(国交省 平成26年5月1日一部改正)に次のごとく規定している。

 「不動産鑑定評価基準は、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たっての統一的基準であり、不動産鑑定評価制度の適切な運用に寄与し、もって不動産の適正な価格の形成に資することを目的とするものであることから、不動産鑑定士が不動産の価格等を調査するに当たっては、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価を行うことを原則とする。」

 不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ。)は、国土交通省土地鑑定委員会が制定し、国土交通省事務次官通達として発表されたものであり、法律ではない。

 事務次官通達であることから、それはあくまでも行政機関内部の命令伝達であり、その通達の解釈については司法の判断を拘束しないと云うのが原則である。

 しかし、鑑定基準は、国土交通省の事務次官通達であるが、法律に準じたものと解釈されると私は判断する。それは、以下の理由による。

 不動産鑑定評価を取り締まる法律は、「不動産の鑑定評価に関する法律」で、その第40条に不当鑑定についての懲戒処分規定がある。

 引用すれば、下記である。

 「(不当な鑑定評価等についての懲戒処分)

第四十条  国土交通大臣は、不動産鑑定士が、故意に、不当な不動産の鑑定評価その他鑑定評価等業務に関する不正又は著しく不当な行為(以下「不当な鑑定評価等」という。)を行つたときは、懲戒処分として、一年以内の期間を定めて鑑定評価等業務を行うことを禁止し、又はその不動産鑑定士の登録を消除することができる。不動産鑑定士が、第六条又は第三十三条の規定に違反したときも、同様とする。

2  国土交通大臣は、不動産鑑定士が、相当の注意を怠り、不当な鑑定評価等を行つたときは、懲戒処分として、戒告を与え、又は一年以内の期間を定めて鑑定評価等業務を行うことを禁止することができる。

3  国土交通大臣は、不動産鑑定士が、前二項の規定による禁止の処分に違反したときは、その不動産鑑定士の登録を消除することができる。」

 一方、国土交通省は、「不当鑑定評価等及び違反行為に係る処分基準」を公表している。
(https://www.mlit.go.jp/common/001205052.pdf)

 その公表処分基準によれば、不当な鑑定評価による懲戒処分の基準は、

    @ 価格等調査ガイドライン
    A 不動産鑑定評価基準及び留意事項
    B その他実務に関し遵守すべきと認められる事項

に照らして不当性の程度を判断して、「不動産の鑑定評価に関する法律」第40条の規定で懲戒処分するとしている。

 その懲戒処分の判断の中心的存在にあるのは、鑑定基準である。

 鑑定基準違反と認められる場合は、「不動産の鑑定評価に関する法律」第40条で罰するということである。

 鑑定基準違反に対して、「不動産の鑑定評価に関する法律」第40条が適用されて罰せられると云うことは、鑑定基準は、法律と同等のものということになる。

 つまり鑑定基準違反の行為は、法律違反と同等ということである。

 鑑定基準に不動産鑑定は従わなければならないと上記に書いた。何故従わなければならないのか。

 それは、鑑定基準に従わなければ、求められる価格・賃料の秩序が守られないためである。

 法律があるのは、社会秩序を守るためである。

 法律と鑑定基準は、秩序を守るというという点においては同じである。

5.鑑定基準と地価公示価格

 不動産鑑定評価を行う時には、鑑定基準に従って鑑定評価しなければならない。そして地価公示価格と規準しなければならない。

 このことについては、鑑定基準「第8章鑑定評価の手順」の「第9節鑑定評価額の決定」において、次のごとく規定する。

 「第1節から第8節で述べた手順を十分に尽した後、専門職業家としての良心に従い適正と判断される鑑定評価額を決定すべきである。  この場合において、地価公示法施行規則第1条第1項に規定する国土交通大臣が定める公示区域において土地の正常価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない。

 評価額の決定においては、地価公示価格との規準及び均衡を行って価格決定しなければならない。

 地価公示価格が無い場合について、『要説 不動産鑑定評価基準と価格等調査ガイドライン』P296(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会監修 鑑定評価基準委員会 編著 2015年10月30日改題版第3回 住宅新報社)は、次のごとく記す。

 「また、鑑定評価額決定に当たって規準とすべき公示価格がない場合においては、国土利用計画法施行令第9条に規定する基準地の標準価格(都道府県地価調査)を十分参酌すべきであろう」

 評価対象地の近隣地域に入る北近接に、東京都基準地中央-3 がある。

 
 所在等は、下記である。
      基準地番号 中央-3
   所在    中央区晴海5-1-9(住居表示)
   基準地価格  u当り895,000円(平成27年7月1日時点)
   最寄駅   勝どき駅 900m
      規模等   地積4,158u、接面道路巾員20m、商業地域 建蔽率80%、
         容積率500%
 甲不動産鑑定書は、基準地中央-3を全く無視して、一言も触れていない。

 又、鑑定基準「第9章不動産評価報告書」の「第2節記載事項」「Z鑑定評価額の決定の理由の要旨」の5号に「公示価格と規準に関する事項」がある。(平成26年改正鑑定基準 国交省版P41)

 鑑定書の鑑定評価額の決定の理由の要旨の中で、地価公示価格との規準について記載しなければならない。

6.周辺にある地価公示価格

 平成28年1月1日時点において、評価地周辺に、次の地価公示価格が発表されている。

  ・地価公示番号 中央-3 勝どき3-4-19(住居表示) 勝どき駅200m
                          公示価格 u当り1,140,000円

  ・地価公示番号 中央5-13 勝どき4-2-14(住居表示) 勝どき駅120m 公示価格 u当り1,620,000円

 評価対象地は、中央区晴海5丁目に所在し、勝どき駅の南西方約徒歩13〜18分(甲不動産鑑定書P36)にある。

 徒歩1分=80mとすれば、勝どき駅より約1,000m〜1,400mの距離の位置にある。

7.甲不動産鑑定書と地価公示価格

 甲不動産鑑定書は、地価公示価格に全く触れていない。地価公示価格を無視して土地価格を求めている。

 調査報告書であって不動産鑑定評価では無いから、地価公示価格との規準及び均衡は必要無いという考え方であるかもしれないが、「不動産の鑑定評価に関する法律」2条は、不動産鑑定評価について、次の様に規程する。

「(定義)
第二条 この法律において「不動産の鑑定評価」とは、不動産(土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利をいう。以下同じ。)の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいう。

 不動産鑑定評価とは、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することと規程する。

 甲不動産鑑定書は、開発法という手法を使って、13.39haの土地の経済価値を129億6千万円(u当り96,800円)と金額表示する。この判断行為はまぎれもなく不動産の鑑定評価であろう。

 対象地周辺にある地価公示価格、中央-3、中央5-13の116万円/u、164万円/uと、対象地の96,800円/uとの規準及び均衡をどの様に取ったのかが、不動産鑑定評価を行った4人の不動産鑑定士と審査を行った2人の不動産鑑定士に説明責任が問われることになる。

 開発法1つで求めた土地価格がどれ程適正であると主張しても、それは自分の主観的主張にしかならず、それを担保する価格はどこにありますか。適正を担保する価格がないものを適正と客観的に認めることは出来ません。不適正な価格と判断せざるを得ませんということになる。

 鑑定基準が更地の土地価格を求める時に、原価法の積算価格、取引事例比較法の比準価格、収益還元法の収益価格を関連づけて決定せょと云っている。(平成26年改正鑑定基準 国交省版P43)

 このことは何を意味するのかと云えば、一つの価格では、適正である価格と云うことを担保するものが無くて適正と云うことが出来ないことから、複数の手法の価格を求め、それ等価格が互いに担保することによって適正な価格と云えることを意味するのである。

 開発法1つで求めた土地価格は適正であると主張することは、鑑定基準の評価精神を全く理解していない姿勢であり、鑑定基準を蔑ろにする行為で失当も甚だしい。許されるものでは無い。

 加えて、地価公示価格を全く無視した鑑定書では、尚更、不適正な鑑定評価と判断せざるを得ないであろう。

 甲不動産鑑定評価は、明白な地価公示法違反の鑑定評価である。

 それを法律違反の鑑定評価を適正であると判決していては、裁判所は法律を根拠にして違法か、違法でないのか判断する所と思っていたが、そうではないと云うことになると、一体何を根拠にして違法、適法を判断するのかと問われることになる。

 本件の一審判決は、間違い無く、裁判所の信用を低下させた。

 裁判官の信頼も大きく毀損させた。裁判官は、全く不動産の価格について疎く、不動産鑑定評価というものについての知識が無いと云うことを、世間に知らしめてしまった。

 本件の一審判決は、法律違反を黙認しており間違っている。

8.終わりに

 地価公示価格を全く無視した不動産鑑定書が大手を振って罷り通り、東京都民の1600億円余の財産が、一部不動産開発業者にタダ同然の10%以下の価格で譲渡されることの原因となった甲不動産鑑定書を、地価公示価格を発表している国土交通省の行政委員会である土地鑑定委員会は、何の行動も起こさず、見過ごすのであろうか。

 土地鑑定委員会はコケにされたのである。

 甲不動産鑑定書を不当鑑定として日本不動産鑑定士協会連合会に措置請求したところ、士協会連合会は、本件は裁判訴訟中であり、訴訟中の案件に付いては不当鑑定か否かの審査をすることは出来ないと、措置請求の受け取りを拒否したと聞く。

 何をしているのかと云いたくなる士協会連合会の行為である。

 さて土地鑑定委員会はどう動くことか。
 
 オリンピック要因をことさら大きく吹聴して土地価格を安く評価したが、2022年の1月、東京オリンピック開催時には選手の食堂等の建物敷地として使われていた土地を、中央区が学校用地として、東京都から購入した。その土地はu当り59.2万円余で売買された。その価格は、50%の行政減額率された価格であり、減額される前の土地価格は118万円/uであったと、中央区の区議会記録の公文書によって分かってしまった。

 このことに付いては、鑑定コラム2381)「オリンピック要因で土地価格は減価しない」で述べた。同コラムを読んで欲しい。

 オリンピック要因によって土地価格は低額にしてもよいと云う主張の化けの皮が見事に剥がされてしまった。

 オリンピック要因なぞで土地価格は下がらないということが、東京都自らの土地売却行為で分かってしまった。

 基準地中央-3の位置、中央区が東京都から購入した学校用地の場所の位置は、下記図を見れば分かります。図の画地A・B・C・D・Eの数値は、甲不動産鑑定書の鑑定評価額単価である。




晴海小学校用地



 東京オリンピック晴海選手村土地不当廉売事件の判決は、最高裁判所のホームページで公開されています。下記のアドレスです。

 https以下のアドレスをドラッグコピーして、自分宛のメールにアドレスをコピー貼り付けして、自分宛にメールを送信して、自分宛に来たメールの中のアドレスをクリックすれば、繋がります。

  https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/010/091010_hanrei.pdf



  鑑定コラム2380)「裁判には勝ったけれど… ボロが出てきた「晴海フラッグ」問題 ウチコミ・タイムズ」

  鑑定コラム2381)「オリンピック要因で土地価格は減価しない」

  鑑定コラム2382)「「不動産鑑定評価基準に則らない価格があってもよい」とする東京地裁判決に対する平澤春樹氏の意見」

  鑑定コラム2387)「開発法1手法の晴海選手村土地価格鑑定を適法とした判決は不当である」

  鑑定コラム2391)「晴海選手村の都側土地鑑定書の取引事例比較法不採用の条件設定は不当である」

  鑑定コラム2518)「晴海選手村土地の街区価格の均衡が見られない土地価格鑑定」

フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ