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2719) 「家賃の期待利回りの求め方」千葉県不動産鑑定士協会講演レジュメ

 2024年2月26日に千葉県不動産鑑定士協会(会長不動産鑑定士佐藤元彦氏)の依頼による講演を行った。

 講演の内容は「家賃の期待利回りの求め方」と「システム賃料について」について3時間の講演であった。

 その講演レジュメを3回に分けて鑑定コラムに掲載する。

****



研 修 講 演 テ キ ス ト




1部:「家賃の期待利回りの求め方」

2部:「システム賃料について」




講師

不動産鑑定士

桐蔭横浜大学法学部客員教授

田 原 拓 治



令和6年2月26日


主催:千葉県不動産鑑定士研究会

共催:(一社)千葉県不動産鑑定士協会ほか



1部:「家賃の期待利回りの求め方」


第1  はじめに

 令和元年の研修会においても還元利回りの求め方で話をした。

 今回は家賃の期待利回りの求め方であるが、私の考え方は、還元利回りと期待利回りは、貨幣の表・裏の関係にあり、その値は、
     還元利回り=期待利回り
であるとしており、同じことを述べることになることから、求め方の最も重要な点に絞って話したい。

 不動産鑑定評価において還元利回り・期待利回りは大変重要な項目です。

 期待利回りを直接求めることは甚だ困難であることから、還元利回りを求め、それを貨幣の表裏の関係から、期待利回りとするという考え方で話します。

 話の内容は、著書『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』(プログレス 2017年2月 以下「著書」と呼ぶ)で還元利回り・期待利回りについて記述されている部分、又、私のホームページの鑑定コラムの中の還元利回り・期待利回りについて記述されている部分に重複します。

第2 こうした還元利回りの記載で理解出来るのか

 不動産鑑定書の還元利回り・期待利回りは重要であり、その根拠について詳しく、分かり易く述べるべきである。不動産鑑定評価基準(以下「鑑定基準」と呼ぶ。)の規程を記し、実務修習テキスト、一般不動産鑑定書が、還元利回りについて、どの様に記述しているか記す。

1.鑑定書は分かり易く書けという鑑定基準の記述
 鑑定基準は、鑑定書の記述について、次のごとく規定する。

 「鑑定評価報告書は、鑑定評価書を通じて依頼者のみならず第三者に対しても影響を及ぼすものであり、さらには不動産の適正な価格の形成の基礎となるものであるから、その作成に当たっては、誤解の生ずる余地を与えないよう留意するとともに、特に鑑定評価額の決定の理由については、依頼者のみならず第三者に対して十分に説明し得るものとするように努めなければならない。」(平成26年改正鑑定基準 国交省版P39)

 鑑定評価書は、不動産鑑定評価の知識のある人のみが読むというものでは無い。

 不動産鑑定評価の知識が全く無い人々が読む場合が圧倒的に多い。
 それ等の人が読んで理解出来る様に、鑑定評価書の内容は記述しなければならない。

 何故掛けるのか、何故割るのかという説明が必要になる位である。

 計算は、別表のエクセルによる計算表に書いてあるから、そちらを読めという不動産鑑定書が甚だ多いが、鑑定書を読む人に計算させるという態度は、専門家としてとるべきものでは無いと私は思う。

 別紙のエクセル計算表で良いと思っているのであれば、それは随分と傲慢で 横柄な考えであると私には思われる。

2.鑑定協会連合会の実務修習テキストの記述

 不動産鑑定士になるための「実務修習・指導要領テキスト」(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 編集・発行)の貸家及びその敷地の評価例における還元利回りについての記述は、下記である。全ての実務修習・指導要領テキストを調べた訳で無く、私の手許にあるテキストからの転載である。

 @ 第4回(2009年) P223

 「還元利回りは、同一需給圏内にある対象不動産の取引における還元利回り、不動産投資家調査等をもとに5.3%と査定した。」
と記す。

 その同一需給圏内の取引の還元利回りの実例の表示は無い。
 不動産投資家調査の還元利回りの例示も無い。
 それ等の例示が全く無く、どの様にして5.3%と判断、決定したのか。

 A 第11回(2016年) P91

 還元利回りについて、「類似の不動産の取引事例との比較から求める方法を採用し、割引率との関係や不動産投資家調査の結果も参考にして、還元利回りを5.5%と査定した。」
と記す。

 そして割引率について、長々と次のごとく記す。

  イ、類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
 「同一需給圏におけるJ-REIT物件の鑑定評価における割引率を参考に対象不動産の個別的要因を勘案のうえ、5.2%と査定した。」
 と記して、[同一需給圏におけるJ-REIT物件の鑑定評価における割引率等] の表題で割引率と還元利回りの3事例が提示されている。

 事例は、「鑑定評価における割引率等」として例えば事例Aでは、
        割引率  5.2%
        最終還元利回り  6.0%
        還元利回り  5.5%
と云うごとくである。

 取引事例の還元利回りで無く、鑑定評価で採用した事例である。
 項目題では「類似の不動産の取引事例との比較から求める方法」と名打っているが、取引事例と比較した割引率、還元利回りは出て来ない。

  ロ、金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
「最も一般的と思われる投資の利回りとして、「10年国債の応募者利回り」の過去3年間の平均値を採用し、不動産投資に特有の不確定要素(リスクプレミアム)等に関して検討を加え、○.○%と査定した。」

 過去3年の10年国債の応募者利回りの数値の記載は無い。
 不動産投資に特有のリスクプレミアムの数値の記載は無い。
 数値の記載が無くて、どうして○.○%という数値が求められるのか。

  ハ、不動産投資家調査の結果
 「平成○年5月時点の○○○調べの不動産投資家調査によると、○○地区のAクラスビルに投資する場合の内部収益率は○.○%である。」

 ○○地区のAクラスビルと、評価するビルは同じなのかという疑問が発生するのでは無かろうか。

 B 第16回(2021年) P205

 還元利回りについて、「類似の不動産の取引事例との比較から求める方法を採用し、割引率との関係や不動産投資家調査の結果も参考にして、還元利回りを5.5%と査定した。」

 以下、第11回(2016年)と全く同じである。

3.一般不動産鑑定書・文言の羅列によるもの

 @ 1行で終わるもの

 「期待利回りを5.5%とする」の類のごとく利回りの5.5%の根拠の説明は一切無い。一行で終わりである。

 どうして5.5%なのか。これでは5.8%でも4.5%でも6.5%でもよいでは無いのか。何故5.5%で無ければならないのか。その説明が必要であろう。

 A 類似の事例表示のもの

 「類似の取引事例に係わる取引利回りの実勢、投資対象としての評価不動産の個別性等を総合的に勘案のうえ、還元利回りを6%とする。」

 類似取引事例の利回りと記しているから、その類似の取引事例利回りの記載があるのかと鑑定書を見ても、類似の取引事例利回りの記載は全く無い。

 B 「不動産投資家調査」を表示したもの

 「「不動産投資家調査」((財)日本不動産研究所調査)等の公表資料を中心に一棟の事業用投資物件の売買事例等を参考とし、JR**駅周辺地区における事業用賃貸物件に対し投資家が通常要求する償却後期待利回りを4%と判断した。」

 公表資料の利回りがどれ程かの提示も無い。
 参考としてと言う一棟の事業用投資物件の売買事例のデータ提示も無い。
 日本不動産研究所の「不動産投資家調査」は、減価償却前の利回りである。

 証拠提示も無い文言の羅列のみによる利回りを妥当と認めよ云われても、それをそうですかと認めることは出来ないであろう。

 C リスク文言を羅列したもの

 「対象不動産の投資対象としての危険性・流動性・管理の困難性・資産としての安全性、昨今の金融市場の推移・動向、(財)日本不動産研究所が実施している「不動産投資家調査」による期待利回りの水準等を総合的に考量して、対象不動産の期待利回りを5.0%と査定した」

 対象不動産の危険性等はどれ程のものか、その割合を具体的根拠を示して説明しなければ、この利回りを妥当であると認めることは出来ないであろう。

 昨今の金融市場の推移と云うが、その推移データの提示が無く、鑑定書を読む人には推移がどうなっているか全く分からない。

 D 基準の還元利回りの求め方の項目を並べたもの

 「類似の不動産の取引事例、借入金利水準、建物の利回り水準、割引率を総合的に勘案して、対象不動産の還元利回りを4.2%と求めた。」

 類似の不動産の取引事例の還元利回りは何パーセントなのか。
 借入金利水準は何パーセントはなのか。
 建物の利回りは何パーセントなのか。
 割引率は何パーセントなのか。

 鑑定書を読む人には、それ等の数値が書かれていないためさっぱり分からない。

 その分からない数値から、どうして、どの様にして4.2%という数値が求められるのかという疑問が湧いてくるであろう。


4.リスク数値の説明が出来ずにリスク数値を加算して求める還元利回り

 価格及び賃料の鑑定書で、積み上げ利回りによる還元利回り・期待利回りを使用して価格・賃料を求めている鑑定書に出会う。

 例えば、以下のごとく求められている還元利回り(期待利回りに同じ。)である。

       国債利回り  非流動性リスク     管理困難性リスク
    1.5%  +  2.0%     +   2.5%    = 6.0%
 還元利回りを6.0%と求める。

 国債利回りは、カントリーリスクを反映したものとして認める。

 分からないのは、非流動性リスク2.0%、 管理困難性リスク2.5%である。

 どのようにして、このリスク値が求められたのか。

 リスク数値を証明した論文があるであろうか。

 論文があれば、著者名と論文名を書くべきであろう。

 私の不勉強であるかも知れないが、不動産鑑定評価の還元利回りに採用するリスク要素の数値を客観的に論じ証明した論文は見たことが無い。


第3 還元利回り・期待利回りの求め方

1.還元利回り・期待利回り

 還元利回りは、純収益を還元して元本価格を求める利回りである。期待利回りと表裏一体の関係にある。価格を求める時に使用されるものである。

 求める算式は、
         純賃料÷還元利回り=土地、建物の価格
である。

 これに比し、期待利回りは賃料を求める時に使用される利回りである。

 求める算式は、
         土地、建物の価格×期待利回り=純賃料
である。

 2つの算式を見ればわかるが、還元利回り・期待利回りは、純賃料とその元本である土地、建物の価格の間を取り持つ利回りであり、割る場合(価格を求める)が還元利回り、掛ける場合(賃料を求める)が期待利回りである。

 期待利回りと還元利回りは、貨幣でいえば表と裏の関係にあると云える。

 期待利回りは賃貸借期間に対応する利回りであるが、還元利回りは当該不動産が消滅するまでの全期間に対応する利回りである。

 両利回りは、地域と個別性で形成される。

 当該不動産が属する地域の土地価格、地域で形成されている賃料、当該建物の建築年数等の個別性、そして契約内容の個別性を反映して形成されるものであり、各建物ごとに還元利回り、期待利回りは異なって形成されてしかるべきものである。

 還元利回り・期待利回りは、土地建物の価格と家賃の純賃料より求められるものであり、総合還元利回り・総合期待利回りを云う。

 土地還元利回り(土地期待利回り)、建物還元利回り(建物期待利回り)は、それぞれの総合利回りから求められるものであり、土地還元利回り(土地期待利回り)、建物還元利回り(建物期待利回り)が、独立して求められるものではない。

 土地還元利回り4.4%と言った場合、総合還元利回りがその前に求められているものであり、総合還元利回りが求められていなくて、土地還元利回りが先に独立して存在するものではない。


2.還元利回り=標準粗利回り×(1−必要諸経費率)の証明

 還元利回りを求める算式の1つとして、
      還元利回り=標準粗利回り×(1−必要諸経費率)
がある。

 上記算式は、どの様にして算出されるのか。その証明を行う。

 @ 粗利回り・標準粗利回り
 年間賃料収入を、その収入を生み出す土地・建物の不動産の価格で除した利回りを粗利回りと呼ぶ。必要諸経費を含んだ賃料を土地・建物の価格で除した利回りである。

 土地に建つ建物が、その土地に許容される容積の建築面積を持つ建物の場合の利回りを「標準粗利回り」と呼ぶこととする。

 下記算式である。

年間賃料総収入      標準粗利回り= ────────────    ・・・@式    土地価格+建物価格

 A 必要諸経費率
 必要諸経費率とは、年間賃料総収入に占める必要諸経費の割合である。


必要諸経費 必要諸経費率= ──────────── ・・・A式    年間賃料総収入

 B 純収益
 純収益とは、年間賃料総収入から必要諸経費を差し引いた金額を云う。
             年間賃料総収入−必要諸経費=純収益     ・・・B式

 C 還元利回り
 還元利回りとは、純収益を土地建物価格で除した割合をいう。


純収益       還元利回り = ────────────    ・・・C式   土地価格+建物価格

 D 還元利回りと標準粗利回り、必要諸経費率の関係
 C式にB式を代入する。

年間賃料総収入−必要諸経費       還元利回り =───────────────  ・・・D式 土地価格+建物価格

 A式を変型する。
            必要諸経費=   年間賃料総収入×必要諸経費率 ・・・E式
 D式にE式を代入する。

 年間賃料総収入−年間賃料総収入×必要諸経費率   還元利回り = ──────────────────────                土地価格+建物価格
年間賃料総収入 年間賃料総収入 = ────────  − ──────── × 必要諸経費率 土地価格+建物価格 土地価格+建物価格 ・・・F式

   年間賃料総収入
 ─────────── 
    土地価格+建物価格

は、 標準粗利回りであることから、F式は、

  還元利回り=標準粗利回り−標準粗利回り×必要諸経費率・・・G式

となる。

 G式を変型すると、

    還元利回り=標準粗利回り(1−必要諸経費率)  ・・・H式

となる。

 即ち、還元利回りは、

    還元利回り=標準粗利回り×(1−必要諸経費率)

の算式で求められることになる。


3.標準粗利回り算式

 @ 標準粗利回りの算式
 標準粗利回りは、下記の算式であると、前記した。

年間賃料総収入      標準粗利回り= ────────────    ・・・@式    土地価格+建物価格

 そして、上記標準粗利回りの算式より、下記算式が導き出される。

      標準粗利回り

   u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率修正 ×経年賃料修正率×容積率×賃貸面積率 = ───────────────────────── ・・A式      土地単価+建物工事費単価×容積率×償却修正率

 A 標準粗利回りの算式の証明

 上記@式からA式への変換成立を、下記によって証明する。

 最初は、新築の建物で保証金の授受のない簡単な条件で考える。

  イ,標準粗利回り@式の分子の「賃料収入」

   賃料収入 = 賃料単価 × 12 ×共益費修正率× 建物の賃貸面積

 建物賃貸面積は、土地面積に容積率を乗じたものに賃貸面積率を乗じたものである。

    建物賃貸面積 = 土地面積 × 容積率 × 賃貸面積率

 よって賃料収入は次式に書き替えられる。

   賃料収入=賃料単価×12×共益費修正率×土地面積×容積率× 賃貸面積率

  ロ,標準粗利回り@式の分母の「土地価格+建物価格」

    土地価格 = 土地単価 × 土地面積

    建物価格 = 建物工事単価 × 建物面積

    建物面積 = 土地面積 × 容積率

であるから、分母は次式に置き換えられる。
    土地価格 + 建物価格

     =土地単価 × 土地面積 + 建物工事単価 × 土地面積 × 容積率

=土地面積 ×(土地単価 + 建物工事単価 × 容積率)

 上記で求められた分子、分母より、標準粗利回り算式は、次の式に置き換えられる。

    標準粗利回り算式

賃料単価×12×共益費修正率×土地面積×容積率×賃貸面積率     = ────────────────────────────     土地面積 ×(土地単価 + 建物工事単価 × 容積率)

 ここで、分子、分母の土地面積は消却されるから、利回り算式は次式となる。

   賃料単価×12×共益費修正率×容積率×賃貸面積率     算式 = ────────────────────────      土地単価 + 建物工事単価 × 容積率

  ハ,賃料収入は賃料のみでなく、保証金の運用益、償却額があり、かつ空室率も考えなければならない。新築以外の建物の場合、経年に伴い賃料は下落することから、その賃料修正も考えなければならない。

 これら要因による修正を分子に行う。

 保証金は一般的には 賃料の何ヶ月分として金額が決められ、それに金利を乗じると運用・償却額が求められるから、u当り賃料×12に、修正率を乗じることによって処理出来る。

 空室の発生は賃料の修正であり、空室率修正率をu当り賃料×12に乗じることによって処理出来る。

 建物が古くなると、その経年に応じて賃料が安くなる傾向がある。これもu当り賃料×12に修正率を乗じることによって処理出来る。

 保証金の運用償却額、空室率、経年賃料減額の各修正率を、それぞれ運用償却修正率、空室修正率、経年賃料修正率とし、u当り賃料×12の賃料を修正する率とするならば、分子は次の式に書き替えられる。


   u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率×容積率×賃貸面積率×経年賃料修正率

 一方、分母の建物価格は経年に伴い建物価格は安くなり、この経年に伴う建物減価を償却率とすれば、建物工事単価×容積に償却修正率を乗じることで処理出来る。

 分母は次の式に書き替えられる。

    土地単価 + 建物工事費単価 × 容積率 × 償却修正率

 以上の分子、分母をまとめれば、

 標準粗利回り

 u当り賃料×12×共益費修正率×運用償却額修正率×空室率修正×経年賃料修正率×容積率×賃貸面積率 =─────────────────────────────────        土地単価+建物工事費単価×容積率×償却修正率

と求められる。

 以上により、標準粗利回り@式からA式の変換は証明される。


4.必要諸経費率

 必要諸経費率は、賃料総収入に占める必要諸経費の割合である。

 下記算式で求められる。

必要諸経費 ──────── = 必要諸経費率   賃料総収入

 必要諸経費に減価償却費を含めたものが、償却後必要諸経費であり、求められる必要諸経費は、償却後必要諸経費であり、それを利用して求められた期待利回り、還元利回りは、「償却後期待利回り、償却後還元利回り」である。

 一方、必要諸経費に減価償却費を含め無いものが、償却前必要諸経費であり、求められる必要諸経費は、償却前必要諸経費であり、それを利用して求められた期待利回り、還元利回りは、「償却前期待利回り、償却前還元利回り」である。

 必要諸経費率は、減価償却費込みで、おおよそ下記の割合である。


   ショッピングセンター     32.3%(著書P75) 貸事務所    36.4%(著書P72) 丸ビル        35.3%(著書P468) 27.5%(減価償却含まない P468) 賃貸マンション(日本賃貸住宅投資法人)   44.0%(鑑定コラム1647 *注) 賃貸マンション 35%(著書P99)    賃貸アパート 38%(著書P99)

 *(注) 物件管理委託費5.9%が含まれる。
(注) 著書とは『改訂増補 賃料<地代・家賃>評価の実際』(プログレス 電話03-3341-6573 2017年2月10日)である。

C 標準粗利回り算式による求め方
 計算の具体例を示す。

 土地面積150u、建物延床面積750u、賃貸面積525u、土地単価200万円/u、建物新築工事費25万円/u、建物価格18.75万円/u、支払賃料5,000円/u、共益費750円/u、保証金運用益131,250円(運用利率0.5%)、礼金の授受なし、保証金の償却なし、空室率5%とする。

 上記設定条件の建物の粗利回りを標準粗利回りの算式に当てはめて求める。

    a,土地単価      u当り 2.000,000円
    b,建物工事費     u当り 250,000円
     187,500     c,償却修正率 ──── = 0.75 250,000
    d,u当り賃料     5,000円
750 e,共益費修正率 ──────= 0.15 …… 1.15 5,000
131,250 f,運用償却額修正率──────────≒0.004 ……1.004   31,500,000
(注)分母は、年間支払賃料である。5,000×525×12=31,500,000

    g,空室率修正     0.95
    h,経年修正      経年修正は無いとする。  1.0
750     i,容積率 ── = 5.0 150
525     i,賃貸面積率 ── = 0.7 750

 上記諸数値を算式に代入する。

  5,000×12×1.15×1.004×0.95×1.0×5.0×0.7 標準粗利回り=───────────────────────≒ 0.078   2,000,000+250,000×5.0×0.75

 標準粗利回りは7.8%である。

5.還元利回り

 必要諸経費率を37%とする。標準粗利回りは7.8%と求められた。

 還元利回りは、
       還元利回り=標準粗利回り×(1−必要諸経費率)
の算式で求められる。

 上記算式に数値を代入すれば、

還元利回り=7.8%×(1−0.37) =4.914≒4.9%

還元利回りは4.9%と求められる。


6.批判

 @ 批判1 循環論であるという批判

  イ、循環論であるという批判
 上記算式を具体化した上記数値一覧において、u当り賃料5,000円は比較法によって求められた賃料である。それは賃貸事例比較法によって求められている比準賃料を採用していることから、田原鑑定の求めている期待利回りの求め方は間違っているという批判が、過去になされた。また現在でもなされている。

 その批判は次の様な内容のものである。

 「積算法と賃貸事例比較法は、各手法の適用において共通する価格形成要因に係る判断に整合性に留意しながら、それぞれ独立して新規賃料を求めるものであるから、積算法の適用過程において賃貸事例比較法の適用結果である比準賃料を用いることは明らかに鑑定評価手法における誤りである。」と。

  ロ、反論
 上記の還元利回り・期待利回りの求め方について、上記のごとくの批判がなされた。

 この批判に対して、次のごとく反論する。

  a. 鑑定基準の改正

 上記の批判は、平成26年5月1日に鑑定基準の改正により、退けられることになった。

  (改正前の鑑定基準)
 総論
 第8章
 第7節 鑑定評価方式の適用
「鑑定評価方式の適用に当たっては、鑑定評価方式を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、原則として、原価方式、比較方式及び収益方式の三方式を併用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により三方式の併用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。」

 (26年改正 下線の部分)
 第7節 鑑定評価の手法の適用
 「鑑定評価の手法の適用に当たっては、鑑定評価の手法を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係わる市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により複数の鑑定評価の手法の適用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。」(平成26年鑑定基準国交省版P38)

 下線の部分が26年改正鑑定基準の改正もしくは加筆された個所である。

  b. 基準改正の解説

 鑑定評価の手法が三方式にこだわらず、一つの手法に複数の方式を取り入れることになった鑑定基準の変更について、基準を解説する基本書物には次のごとくの説明がなされている。

 平成26年5月1日に鑑定基準の改正の重要方針の1つとして「不動産市場の国際化への対応」の項目が掲げられた。
 その項目の中の1つとして、鑑定基準の考え方が大きく変更となった。

 「鑑定評価手法に関し、原則として「3方式」を併用することを求めている改正前規定について、市場分析により把握した市場の特性を適正に反映した「複数の手法」を適用することを求める規定に変更」することになった。
(『要説 不動産鑑定評価基準と価格等調査ガイドライン』P29(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会監修、鑑定評価基準委員会編著、住宅新報社、2015年10月発行))

 この「複数の手法」を適用する規程の変更の解釈として同著P150で次のごとく解説する。

 「鑑定評価の方式は、価格を求める手法と賃料を求める手法に分類され、三方式それぞれの考え方を中心とした鑑定評価の三手法が規定されているが、これら各方式と各手法とは必ずしも一対一の関係にあるものではなく、一つの手法の中にそれぞれ三方式の考え方が輻輳して取り入れられて適用されるものであることに留意する必要がある。

 そのほかに、鑑定評価の三手法の考え方を活用した手法が、価格を求める手法と賃料を求める手法のそれぞれに固有の手法として規定されている。

 このように、鑑定評価の各手法を適用して求められた価格又は賃料は、それぞれの手法に共通する要因を反映したものであり、いずれもそれぞれ最終的に求めようとする価格又は賃料を指向するものであるから、これら共通する要因に係る判断の整合性について再吟味することによって適正な鑑定評価額を最終的に導き出すことができる。」

  ハ、13年の歳月を経て

   a. 2001年に発表した還元利回り・期待利回りの求め方の算式が、発表以後賛同を得る一方批判も受けた。

   b. 現在においても、鑑定基準が前記のごとく変更されたということが分かっていない複数の不動産鑑定士から、法廷で田原鑑定の期待利回りの求め方は鑑定基準違反であると激しく攻撃され批判を受けているが。

   c. だが、13年の歳月を経て、ようやく求め方の妥当性が認められたようである。

 日本不動産鑑定士協会連合会が、鑑定評価の三方式が、それぞれ一対一の関係にあるものではなく、一つの手法の中にそれぞれ三方式の考え方が輻輳して取り入れられて適用されるものであると鑑定評価の考え方の大転換を行った。

 上記還元利回りの求め方が、その大転換の遠因の1つになっているかどうかは、私には分からないが、少なくとも今後裁判の法廷において、田原鑑定の還元利回り(期待利回り)の求め方は、不動産鑑定評価基準違反であり、その様な利回りの求め方は認められないものであると云う批判は、その批判こそが鑑定基準違反となることから、そうした批判は影を潜めることになろうとホッとしている。

 A 批判2

  イ、事件の概略
 東京の高度商業地の店舗の継続賃料の家賃増額請求の争いである。

 建物は昭和56年(1981年)築のSRC造7階建(地下2階)の建物のうち、地下1階・1階・2階店舗(賃貸借面積約1480u)の継続賃料の鑑定評価であった。

 価格時点は、令和3年(2021年)3月である。

 賃借人の依頼による賃料鑑定であった。

 私の鑑定は、土地価格u当り21,275,000円、建物価格u当り102,000円であり、期待利回りは3.8%である。

 その期待利回りの根拠は、前記還元利回りを求める算式によって、下記のごとく求めた。

 還元利回りを求め、この求められた還元利回りを期待利回りに採用した。


土地単価 円/u 21275000  
建物工事費 円/u 392250  
建物価格 円/u 102000  
建物償却率   0.26  
u当り賃料 円/u 23500  
共益比率   1.024  
運用償却額修正率   1.000  
空室率修正率   0.94  
経年賃料修正率   0.96  
容積率   7.37  
賃貸面積率   0.70  
必要諸経費率   0.38  
       
標準粗利回り   0.061032822  
還元利回り(総合)   0.03784035 0.038


  ロ、賃貸人側不動産鑑定会社の批判
 賃貸人側不動産鑑定会社は、私の上記還元利回りの求め方について、下記のごとくの批判がなされた。

   a. 独自の算定式で期待利回りを求めていること
 田原鑑定は、不動産鑑定評価基準にはない独自の算定式を用いて期待利回りを求めている。

   b. この算定式は循環論法であり、不適切である
 田原鑑定の算定式は循環論法であり、不適切である。

 積算法の命題は、「対象不動産の賃料を求める」ことであるところ、その過程において、「対象不動産の賃料を比準賃料と仮定」している。つまり、『ある命題の証明において、その命題を過程する論法』、即ち循環論法である。

   c. 空室率を計上している誤りがあること
 本契約は、昭和56年以降継続している契約であり、対象不動産について空室が発生したことも、発生する見込みもない。
 したがって、空室率修正は不要であり、不要な空室率を計上したことで算定式の分子が小さくなるため、期待利回りが過小に算定されている。

   d. 事務所の経年賃料修正率を採用する誤りがあること
 本契約は、店舗の賃貸借契約である。事務所賃料の下落率を採用する理由が無い。

   e. 実際の必要諸経費率を採用しない誤りがあること
 田原鑑定は、還元利回りの算式を次のとおりとする。
       粗利回り×(1−必要諸経費率)=還元利回り
 そしてこの必要諸経費率について、本建物並びに原告及び被告とも何ら関係もなく、また、2017年の著書から引用しているため価格時点とも合致しないであろう『三菱地所の減価償却後必要諸経費』を参考に38%を採用している。

 しかしながら、田原鑑定は、「各建物毎に期待利回りは異なって形成されてしかるべきものである」と期待利回りには個別性があることを意見している。

 そうであれば、上記算定式の重要な要素である必要諸経費率について、個別性がなく時期も異なる『三菱地所の減価償却後必要諸経費』を参考にすることは誤りである。

 そもそも、田原鑑定は本建物の減価償却後必要諸経費を「月額9,318,850円」と自ら算定しているのであるから、「月額9,318,850円」を分子に、また、「粗利回り」の算定式で採用している比準賃料「月額34,000,000円」を分母に算定すれば、本建物の減価償却後必要諸経費率は27.4%と容易に算定される。

 そして、『三菱地所の減価償却後必要諸経費』を参考にした38%と、田原鑑定が算定した減価償却後必要諸経費率27.4%を比較すると大幅に異なるところ、上記算定式からすれば、減価償却後必要諸経費率は小さいほど期待利回りが高いことになる。

 以上より、田原鑑定の期待利回りは、不相当に低く算定されていることは明らかである。

   f. 適切な期待利回りについて
 本算定式には、本建物のような階層別用途別の効用が異なる区分建物や建物の部分の賃料の算定には対応できない欠陥がある。

 そもそも、本算定式分子の賃料単価は、本件では、1階及び2階並びに地下1階と3階以上に比して賃料水準の高い階層の賃料単価である。

 しかしながら、分母の土地単価とは、全階層の価値を集約したものであるから、分子の賃料単価に比して、分母の土地単価が割安であるために割高な期待利回りが算定されることになるのである。

 反対に言えば、田原鑑定は本算定式の欠陥に気がつかないまま、高水準な利回りとなることを糊塗するために、意図して前記のごとく算定式の分子を小さくし、必要諸経費率を大きくしたほか、比準賃料自体も割安に算定した可能性も否定できない。

 したがって、田原鑑定に基づいて適切な期待利回りを算定することは不可能というべきである。

  ハ、批判2への反論
 6つの上記批判に対して、次のごとく反論する。

   a. aについて
 鑑定基準に田原算式の求め方は規程されていない。田原算式は不動産鑑定士田原拓治が、論理的に還元利回りを求めることが出来ないかと考え出した求め方である。

 鑑定基準に載っていない求め方ということを捉えて見れば、独自の算式である。

 総賃料収入/土地建物の価格より求められる粗利回りの算式を、要因分析し、より論理的に科学的に求められる算式を導き出したのである。

 その田原算式が間違っていると批判し、足を引っ張ろうとするが、それ等の行為は、私から見ればやっかみ以外何者でも無い。田原算式が鑑定評価で邪魔なのか。

   b. bについて
 賃貸側不動産鑑定会社(以下「賃貸側鑑定」と呼ぶ)は、田原鑑定の還元利回りを求める算式(以下「田原算式」と呼ぶ)は、循環論法と呼び批判するが、積算賃料を求める為に、積算賃料を採用すれば、それは循環論法になるが、積算賃料と比準賃料とは全く性格が異なるものであり、賃貸事例比較法で求められた比準賃料を採用しても、それは循環論法にはならない。

 継続賃料を求める場合、積算賃料は当該建物の必要諸経費を求め、使用する。

 スライド法賃料及び利回り法賃料を求める時に、積算賃料で求められた同じ必要諸経費を使用して、それぞれの賃料を求める。
 この場合に、循環論法と言うであろうか。

 賃貸側鑑定の批判は失当である。

   c. cについて
 対象賃貸借は、昭和56年以降継続している契約であり、対象不動産について空室が発生したことも、発生する見込みもないことから、空室率の計上を間違いと批判するが、ビル全体の賃貸状況を考える必要性もある。

 期待利回りは、対象不動産の個別的要因を反映する一方、不動産賃貸市場の要因との整合性も必要である。

 積算賃料にも、不動産賃貸市場で形成されている要因を反映させ、整合させる必要がある。

 積算賃料に、不動産賃貸市場の形成要因を反映させ、市場と整合性を保つため、期待利回りに空室率要因を考える必要がある。

   d. dについて
 対象ビルは全階店舗では無い。事務所用途もある。

 地域のビル賃料は、事務所賃料によって形成されている。店舗賃料も事務所賃料の動向と無関係には形成されない。対象店舗賃料も事務所賃料の動向と無関係に存在していない。

   e. eについて
 賃貸側鑑定は、「個別性がなく、時期も異なる「三菱地所の減価償却後必要諸経費」を参考にすることは不適切である」と批判するが、期待利回りは対象不動産の個別的要因を反映させる一方、不動産賃貸市場の要因を反映させ、整合性を保つ必要がある。その必要諸経費率は適正な割合で無ければならない。

 賃貸ビルの一般的必要諸経費率として貸ビル業界の雄の一つである三菱地所の貸ビルの必要諸経費率を使用して、不動産賃貸市場の要因を反映させ、整合性を保っているのである。

 対象不動産の必要諸経費率が27.4%であれば、対象不動産のビル経営は健全で優れていることになり、それは良いことである。それは賃料は妥当と云うことに繋がる。妥当な賃料であれば、賃料値上げ要求の必要性は無くなるが。

 例えば、対象不動産の実際の必要諸経費が、月額1600万円であったすると、その場合の必要諸経費率は、
      1600万円÷3130万円≒0.51
51%となる。その必要経費率を使用して田原算式から求められる期待利回りは、0.03になる。以下である。


土地単価 円/u 21275000  
建物工事費 円/u 392250  
建物価格 円/u 102000  
建物償却率   0.26  
u当り賃料 円/u 23500  
共益比率   1.024  
運用償却額修正率   1.000  
空室率修正率   0.94  
経年賃料修正率   0.96  
容積率   7.37  
賃貸面積率   0.70  
必要諸経費率   0.51  
       
標準粗利回り   0.061032822  
還元利回り(総合)   0.029906083 0.030

 その時も実際の必要諸経費率であるから、その期待利回り0.03を使用して求めるべきであると言い張るであろうか。

   f. f.適切な期待利回りについて
 賃貸側鑑定は、「算定分子の賃料単価は、3階以上に比して賃料水準の高い、本件貸室(1階及び2階並びに地下1階)の賃料単価であるが、分母の土地価格とは全階層の価値を集約したものであるから、分子の賃料単価に比して、分母の土地単価が割安であるために割高な期待利回りが算定されることになるのである」と批判する。

 これに対して、下記のごとく反論する。

 地下1階〜2階の比準賃料は、月額34,000,000円(u当り23,500円)である。

 算式の賃料の個所にu当り23,500円と入力すれば、還元利回りは3.8%と求められる。

 田原算式の容積率の数値を見て欲しい。容積率7.37とある。これは建物の面積全体を指す。容積率7.37の地下2階から7階の建物の階層別効用比は、同じということを意味する。

 即ち、ビル全体がu23,500円の場合の状態のことを示し、その場合の還元利回りは3.8%ということである。

 他方、田原算式の元式は、

年間賃料総収入      標準粗利回り= ────────────       土地価格+建物価格
である。

 この算式は、その賃貸建物の土地建物に対する年間賃料総収入を意味する。

 求められる利回りは、その賃料を産み出す不動産の価格である。

 u当り23,500円を産み出す不動産はどこかと言えば、複数階のあるビルの中で地下1階〜2階の賃料である。

 であるから、3.8%の還元利回りは地下1階〜2階の還元利回りと云うことになる。

 u当り23,500円を産み出す不動産は、地下1階〜2階であるから、地下1階〜2階の土地建物価格を、階層別効用配分割合で求め、その価格を基礎価格にして、求められた3.8%の利回り(期待利回り)を乗ずれば、地下1階〜2階の純賃料が求められる。

 それ故、賃貸側鑑定が批判する「算定分子の賃料単価は、3階以上に比して賃料水準の高い、本件貸室(1階及び2階並びに地下1階)の賃料単価であるが、分母の土地価格とは全階層の価値を集約したものであるから、分子の賃料単価に比して、分母の土地単価が割安であるために割高な期待利回りが算定されることになるのである」は失当である。

 例えば、5階の賃料を求める場合、5階の賃料がu当り13,000円であるすれば、ビル全体の賃料が13,000円/uとして考えて求めれば、期待利回りは2.1%と求められる。13,000円/uの賃料利益を生み出すのは5階のみしか無いから、それは5階の利回りと云うことになる。

 5階部分の土地、建物の基礎価格を求め、その基礎価格に2.1%を乗ずれば、5階部分の純賃料は求められる。但し、他の条件が同じとした場合である。


土地単価 円/u 21275000  
建物工事費 円/u 392250  
建物価格 円/u 102000  
建物償却率   0.26  
u当り賃料 円/u 13000  
共益比率   1.024  
運用償却額修正率   1.000  
空室率修正率   0.94  
経年賃料修正率   0.96  
容積率   7.37  
賃貸面積率   0.70  
必要諸経費率   0.38  
       
標準粗利回り   0.033762838  
還元利回り(総合)   0.02093296 0.021


 同じごとく、1階店舗賃料がu当り33,000円であった場合の1階店舗の期待利回りを求めてみる。
 1階店舗の期待利回りは、5.3%と求められる。下記である。但し、他の条件が同じとした場合である。


土地単価 円/u 21275000  
建物工事費 円/u 392250  
建物価格 円/u 102000  
建物償却率   0.26  
u当り賃料 円/u 33000  
共益比率   1.024  
運用償却額修正率   1.000  
空室率修正率   0.94  
経年賃料修正率   0.96  
容積率   7.37  
賃貸面積率   0.70  
必要諸経費率   0.38  
       
標準粗利回り   0.085705666  
還元利回り(総合)   0.053137513 0.053

 5.3%を1階に配分される土地建物価格に乗ずれば、1階店舗の純賃料が求められる。5.3%と高い期待利回りと思われるかも知れないが、建物は築40年であり、建物価格は低額である。

 これらの実証より、賃貸側鑑定が云う、「本件貸室のような階層別用途別の効用が異なる区分所有建物や建物の部分の賃料の査定には対応できない欠陥がある。」という批判は当たらない。

 階層別によって、賃料が異なっている場合も、その異なっているフロアの賃料を田原算式の賃料欄に入力すれば、その賃料に対応する還元利回り(期待利回り)が求められる。その階の土地建物の価格を階層別効用配分割合で算出し、その土地建物価格(基礎価格)に求められた期待利回りを乗ずれば、その階の純賃料が求められる。

 つまり、田原算式は、賃貸側鑑定が批判するごとくの現象は生じなく、全ての階の賃料が異なっていても、その階毎の還元利回り(期待利回り)が求められる。

 一棟全体の利回りを知りたい時は、一棟全体の賃料の平均賃料を入力すれば、求められる。その時の基礎価格は一棟全体の土地建物価格である。本件で言えば容積率7.37の数値が算出される土地建物の価格である。

 賃貸側鑑定が言う「田原鑑定に基づいて適切な期待利回りを算定することは不可能というべきである」の批判は失当である。

 自分で言うのも手前味噌過ぎると思われるかも知れないが、田原算式は、還元利回り・期待利回りを求めるのに優れた算式であると言える。

 なお、貸主側鑑定の期待利回りは3.5%(償却前)で、土地価格はu当り31,800,000円であった。(田原鑑定は償却後の利回りで3.8%である。土地価格はu当り21,275,000円である。)

 貸主側鑑定の期待利回りの求め方は、地価公示価格の地区の基本利回りを考慮したと記すが、地価公示価格の期待利回りは新築建物の期待利回りである。

 本件建物は築40年である。築40年の建物の賃料期待利回りと新築建物の賃料の期待利回りとは同じでは無い。

 築40年の建物の賃料の期待利回りを求めるのに、新築建物の賃料の期待利回りを採用するべきものでは無かろう。

 現在東京地裁で争訟中である。

 以上


追記 2024年5月11日
 
 講演当初レジュメに「容積率7.37の地下2階から7階の建物の階層別効用比は、同じということを意味する。」の文言を加筆する。


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