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東京駅発の上越新幹線で、越後湯沢駅のプラットホームに降りた。
旅行鞄を抱えた多くの人々が、一緒に下車した。
越後湯沢駅は随分と多くの人々が降りる大きな町だなあと思いつつ、階段を下り改札口に向かった。
改札口の外に出た人は、先にいたかもしれないが、私が改札口を出る時点においては私一人であった。
私の歩く足が遅いのであろうかと思いながらも、改札口を出る人の少なさに疑問を感じて後ろを振り返ると、旅行カバンを抱えた多くの人々は、右の方向に急ぎ足で進んでいく。
その右方向の壁には、「ほくほく線」という文字と方向が書かれていた。
越後湯沢駅に降りた人の大半は、ほくほく線に乗り換えて、富山・金沢の方向に向かう人々で、湯沢町を訪れる人々では無かった。
越後湯沢駅の新幹線口の駅前広場には、人はいなく閑散としていた。
客待ちの空タクシーが、いつ乗る人が現れるのかじっと待っていた。
これが、夏の湯沢町の状態なのかと知った。
新幹線のトンネルを出て、目に入る越後湯沢の風景は異様である。
20階を超える白っぽいリゾートマンションが林立する。
中には32階建ての建物もある。
両側を急峻な山に囲まれた狭い盆地に、そして盆地に入りきらず山裾までにも高さ60メートル前後のマンションが無秩序に無数に建っている。
その姿は、写真で見るアメリカの西部の荒野に大きく育つサボテンの群生のごとくである。
2007年8月、夏の真っ盛りに越後湯沢に来た。避暑の休暇で来たのではない。
リゾートマンションの一室の価格評価に来たのである。
評価するリゾートマンションの一室も、そうした林立する建物の中の一つにあった。
管理人に身分を明かし、来訪の目的を説明し、マンションの管理状態等を聞いた。町の景気の状況も聞いた。
町役場、不動産業者等の聞き込みの調査、売買事例等を見て回った。
越後湯沢のリゾートマンションの価格下落は甚だしかった。
平成2年のバブル時の越後湯沢のリゾートマンションの価格は、坪当り200万円程度であった。
それは、リクルート発行の『週刊住宅情報(首都圏版)』平成2年8月15日・22日号p236掲載の越後湯沢の、平成2〜3年新築のリゾートマンションの売広告を見れば分かる。
同頁に下記の売物件広告が掲載されている。
A 湯沢駅徒歩10分
2170万円〜6716万円
坪当り231万円〜242万円 (中間値)237万円
B 湯沢駅車5分
2422万円〜4023万円
坪当り190万円〜224万円 (中間値)207万円
C 岩原
1490万円〜2278万円
坪当り124万円〜141万円 (中間値)133万円
D 苗場
1460万円〜5202万円
坪当り162万円〜191万円 (中間値)177万円
E 苗場
1819万円〜5077万円
坪当り160万円〜193万円 (中間値)177万円
(注) 中間値は、低値と高値の平均値で、著者の計算によるものである。
A・Bのデータは湯沢駅勢圏にある。
A・Bのデータの中間値の平均値は、
(237万円+207万円)÷2≒222万円
坪当り222万円である。
D・Eのデータは苗場にある。
D・Eのデータの中間値の平均値は、
(177万円+177万円)÷2=177万円
坪当り177万円である。
平成2年の上記価格が、現在では如何ほどであろうか。
前記A・B・C・D・Eの各リゾートマンションの中で、売り出されている売物件を調べると下記のごとくである。
A 坪当り 24.8万円
B 坪当り 26.2万円
C 坪当り 10.7万円
D 坪当り 10.2万円
E 坪当り 10.8万円
A・Bの現在の売価格の平均は、
(24.8万円+26.2万円)/2≒25.5万円
坪当り25.5万円である。
D・Eの現在の売価格の平均は、
(10.2万円+10.8万円)/2≒10.5万円
坪当り10.5万円である。
平成2年の価格からの価格変動は、
A・Bが 25.5万円÷222万円=0.115
D・Eが 10.5万円÷177万円=0.06
である。
越後湯沢のリゾートマンション価格は、湯沢地区が平成2・3年の新築当初価格の12%、苗場は6%の価格になってしまったと言うことになる。
具体的には、専有面積40平方メートルのリゾートマンションで考えると、湯沢駅に近いリゾートマンションは、
25.5万円×40÷3.30578≒310万円
という金額になる。
湯沢駅よりおよそ25km程度離れている苗場のリゾートマンションは、
10.5万円×40÷3.30578≒130万円
の価格になる。
これは売価格である。同じ様な売物件は200件以上あり、実際の売買成立となると金額は下がろう。20%ダウンとすると、
A・Bは 310万円×0.8≒250万円
D・Eは 130万円×0.8≒100万円
という金額になる。
バブル経済崩壊後の越後湯沢のリゾートマンションの価格下落は凄まじい状態を通り越して、悲惨な状態である。
これはバブル経済崩壊という要因も大きく影響しているが、これに追い打ちを掛けているのが、スキー観光客の大幅な減少である。
新潟県観光振興課発表による新潟県内のスキー観光客数を記すと、下記の通りである。
昭和58年 871万人
昭和59年 859万人
昭和60年 1043万人
昭和61年 1015万人
昭和62年 1061万人
昭和63年 1085万人
平成元年 1229万人
平成02年 1445万人
平成03年 1579万人
平成04年 1597万人
平成05年 1491万人
平成06年 1391万人
平成07年 1395万人
平成08年 1227万人
平成09年 1097万人
平成10年 1072万人
平成11年 1033万人
平成12年 939万人
平成13年 918万人
平成14年 869万人
平成15年 776万人
平成16年 620万人
平成17年 594万人
スキー観光客のピークは、平成4年の約1600万人である。それだけの観光客があったにもかかわらず、平成17年には約600万人にまで減少してしまった。
減少は留まることなく減り続けている。どこまで新潟県のスキー観光客は減り続けるのであろうか。
湯沢のリゾートマンションが、湯沢地区で250万円、苗場地区で100万円の価格であれば、現在その価格で確実に売りさばけるかというと、その保証は全く無い。
それは、更に悪いことにリゾートマンション所有者の個人破産、企業倒産による換金売りが止めどめ無く発生し、安い価格の物件が投げ売りのごとく出てくる現実があるためである。
東京都心の土地価格は、平成2年のバブル時と同じ道を歩んでいるが、同じ平成2年のバブル時に価格高騰を引き起こした越後湯沢のリゾートマンションは、東京都心の地価とは全く反対の状況にある。
固定資産税の未納、滞納が生じているものと充分予測される。
加えて、すでに発生しているかどうか私は知らないが、固定資産課税評価額の高額さによって、時価を超えた固定資産評価額の課税の不法性ということによる納税者側からの行政訴訟が発生することも充分ありうる。
荒野のサボテンのごとくの姿を残す供給過剰の越後湯沢のリゾートマンションは、これからどういう道を歩むであろうか。
*** (追記) 平成25年9月1日 湯沢のリゾートマンションの価格は下がっている ***
新潟の湯沢のリゾートマンションの価格を調べて見た。
その調査の中の2つのデータについて述べる。
1つは、上越新幹線越後湯沢駅より徒歩3分に建つリゾートマンションの売り価格の推移である。
平成2年に建築されたSRC造17階建てで、300戸程度の居室を持つリゾートマンションである。平均居室面積は43uである。
このリゾートマンションの2005年から2013年までの売り物件の平均価格は、下記である。
u万円 件数 標準偏差 変動係数%
2005年 11.5 7 0.449 3.9
2006年 13.9 12 3.453 24.8
2007年 12.8 24 2.347 18.3
2008年 11.6 36 1.236 10.7
2009年 11.0 14 1.739 15.8
2010年 10.2 41 1.703 16.7
2011年 9.5 70 2.492 26.2
2012年 9.9 45 1.986 20.1
2013年 8.6 21 1.835 21.3
変動係数とは、
標準偏差
────── × 100
平均値
で求めた数値である。平均値に対する標準偏差の割合である。
2013年は1月〜8月までの売り物件の平均である。
湯沢のリゾートマンションは、平成2年〜4年の平成バブルの時に建設された時の分譲価格が最高値であり、それ以後は価格は大幅に下落している。
新築分譲時の価格の10〜15%の価格にまで落ち込んでいる。
上記分析したマンションの価格を見ると、
2005年 u当り 11.5万円
2006年 u当り 13.9万円
2007年 u当り 12.8万円
の価格推移が見られる。
下落していた価格が、2006年、2007年で一時反発して値上がっている。
これは、不動産ファンドバブルの影響ではなかろうかと推測する。
不動産ファンドバブルがはじけてから、再び価格下落の傾向になり、2013年8月現在では、u当り8.6万円になり、坪当り30万円の価格を切った。
u当り8.6万円は、新築分譲時の価格から見れば、甚だ安い価格である。
ではその価格で売れるかいうと、それは保証出来ない。
それは購入者よりも圧倒的に売却物件が多く、激しい下値競争が生じているためである。2011年に同じ1棟のマンションから70件の売り物件が出ている事実からそれが伺えよう。
東京にあっても一つのマンションから1年で70件もの売り物件が出た場合、それに全て購入者がつくということは甚だ困難であり、あり得ない。当然価格は暴落する。
もう1つの調査については、湯沢のリゾートマンションの競売落札価格についてである。
湯沢町の裁判所管轄は、新潟地方裁判所長岡支部である。
新潟地裁長岡支部の南魚沼郡のマンションの競売物件を調べて見た。
南魚沼郡のマンションと言っても、実質的には湯沢のリゾートマンションの競売物件ばかりである。
競落された湯沢町全体のリゾートマンションの件数は、
平成25年1月〜8月 28件
平成24年 39件
平成23年 36件
である。
今年(平成25年)1月〜8月に競落された物件のうち、上越新幹線越後湯沢駅から1kmの範囲の物件を選び、最低売却価格、落札価格等について、下記に記す。
所在
|
新幹線越後湯沢駅
|
最低売却価格円
|
落札価格円
|
面積u
|
築年
|
湯沢町大字湯沢
|
900メートル
|
10000
|
108000
|
26.89
|
平成2年
|
湯沢町湯沢二丁目
|
150メートル
|
40000
|
40000
|
19.34
|
昭和55年
|
湯沢町大字湯沢
|
900メートル
|
10000
|
150000
|
38.95
|
平成2年
|
湯沢町大字湯沢
|
600メートル
|
10000
|
350000
|
42.58
|
昭和54年
|
湯沢町大字湯沢
|
270メートル
|
1020000
|
1121000
|
37.83
|
昭和63年
|
湯沢町大字湯沢
|
900メートル
|
290000
|
232000
|
24.16
|
昭和62年
|
湯沢町大字湯沢
|
900メートル
|
10000
|
8000
|
38.95
|
平成2年
|
最低売却価格とは、裁判所が評価人不動産鑑定士に依頼して決めた価格で、この価格が競売の基準となる価格である。
上掲の最低売却価格として、10,000円のものが多い。
10,000円の価格?
湯沢のリゾートマンションが1万円で買えるのかと、1万円の価格を奇異に思われる人がいると思う。
これは、競売の適正な価格よりも管理費の滞納額が多く、滞納額を適正価格より差し引くとマイナスの価格になってしまう。
マイナスの価格を競売の最低売却価格とする訳には行かない。
備忘価格として、1万円の金額を付けているのである。
競売だから債務は全て無くなるのでは無いのかと思われるかもしれないが、管理費は優先債権であり、滞納管理費は競売によって債務ゼロの対象にはならない。落札者に請求が行く。
マンションの適正金額と管理費の滞納額の関係は、具体的には次のごとくである。
当該リゾートマンションの売買の適正価格は、
8.6万円×0.6≒5.2万円
とする。
8.6万円とは、前記の売り物件の平均価格を採用する。
0.6は、売り価格に対する実際の取引価格の修正割合である。益々市場は悪くなっていることから、0.8程度の修正では市場性を得ることは出来ないと思われ0.6の修正とする。
建物面積を30uとする。
5.2万円×30u=156万円
この価格が市場の取引価格である。
競売は強制的な換価であり、通常の不動産取引の価格とは市場が異なるとして、競売要因としての価格修正が行われる。
この修正率は0.6の競売修正が多いようである。
いわば早期売却要因といってもよい要因修正である。
この修正は、前記の売り価格の取引価格の修正とは異なる。
0.6と同じ割合になっているが、たまたま同じ割合になっただけである。
156万円×0.6=93.6万円
競売の基準価格は93.6万円である。
ここで、当該マンションの管理費の滞納は、下記のごとくであったとする。
管理費 月額20,000円 滞納額 960,000円(4年分)
修繕積立金 月額2,000円 滞納額 96,000円(4年分)
温泉使用料 月額200円 滞納額 9,600円(4年分)
町内会費 月額200円 滞納額 9,600円(4年分)
小計 1,075,200円
損害金 管理費等滞納額の損害金である。計算が複雑であることから
次の計算の金額とする。
1,075,200円×0.15=161,280円
管理費等の金額は、
1,075,200円+161,280円=1,236,480円
である。
先に当該マンションの競売基準価格は、936,000円と求めた。
競売基準価格と滞納管理費等の金額とを比較すると、
競売基準価格 936,000円
滞納管理費等の金額 1,236,480円
で、滞納管理費等の金額の方が高額である。
競売売却価格を、▲300,480円とする訳には行かない。
止むを得ず備忘価格として、10,000円の金額を最低売却価格として表示されるのである。
10,000円の金額がついているのは、上記の理由からで、逆に10,000円の最低売却価格がついていたら、滞納管理費等の金額が競売基準価格を上回っていると考えてよい。
なお、最低売却価格10,000円であるのに、8,000円で落札している物件がある。290,000円が最低売却価格で、232,000円で落札しているものもある。
これは最低売却価格の2割引(8掛け)価格までは落札可能価格とされているためである。
10,000円×0.8=8,000円
290,000円×0.8=232,000円
この2割引まで落札可能にすることに、競売の法律改正の際に、一人の不動産鑑定士が尽力した。
最高裁判所・法務省の官僚が勝手に法律で決めたのではない。
2割引まで落札可能決定は、一人の不動産鑑定士の献身的な努力によって法律化されたのである。
このことについて、多くの評価人不動産鑑定士が知らないことは残念である。
(鑑定コラム1116より転載)
*** (追記) 平成27年5月3日 湯沢のリゾートマンションの価格にもリートバブルの影響か ***
鑑定コラムの3ヶ月ごとの記事の統計で、新潟湯沢のリゾートマンションの鑑定コラム373)「越後湯沢のリゾートマンション価格は新築時の12%(2007年夏)」の記事が、2015年1〜3月の鑑定コラムアクセス1位となった。
同記事は、平成19年9月2日に発表した記事である。
マイナーな当ホームページの8年前に発表した記事に、3ヶ月で4000件近くのアクセスがあった。
湯沢のリゾートマンションは、湯沢のスキー利用者を対象に売り出されたマンションであり、それに関するコラム記事であることから、季節的な内容のものである。
それ故、スキーシーズンの1〜2月に読まれる内容のものであることは理解出来るが、記事発表後8年も経っているのに、他の記事を押さえてトップのアクセスになる事は驚きである。
記事が大きな電子掲示板サイトに載り、それがツイッター等で紹介されて、アクセスが増えたものと推定される。
大手電子掲示板サイトに載った裏には、東京のリートバブルの影響があるのでは無いかと私には思われる。リートバブルは、湯沢のリゾートマンションの価格にも影響を及ぼそうとしているようだ。
超超金融緩和に依って東京の不動産・マンションは、大幅に値上りしている。
金融は著しく緩和されている。
中古マンションでも住宅ローンはつくという噂もある。
そして、東京の中古マンションの価格が、4000万円近く(59.34万円×60u≒3560万円 鑑定コラム1303)「東京の中古マンション価格が値上りしている」)になりそうという噂が耳に入り、湯沢リゾートマンションは100万円以下で買えるという話を知れば、少し興味を持つ人が出て来るのではなかろうか。
そうした人々が、当方の鑑定コラムを訪れたのではなかろうか。
コラムアクセスの動機がどういうものか私には分からないが、8年前の記事が突然アクセストップになるのには、それなりの理由があるハズである。
鑑定コラム1303)「東京の中古マンション価格が値上りしている」
(鑑定コラム1339より転載)
湯沢温泉のリゾートマンションについての鑑定コラムに、下記のものがあります。
鑑定コラム43)「熱海・湯沢のリゾートマンション」
鑑定コラム1116)「湯沢のリゾートマンションの価格は下がっている」
鑑定コラム1339)「湯沢リゾートマンション記事がトップに」
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