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53)オオタカ保護と山林価格

 オオタカ保護のため、宇都宮の市民団体「オオタカ保護基金」(遠藤孝一代表)が、那須岳の麓の山林8,500uを購入した。(日経2002.8.6)
 購入金額は580万円と言う。
 u当り価格は、
     5,800,000円÷8,500u=682円
である。反当り(10アール当たり)価格は682,000円である。この価格は高いのか、安いのか、妥当なのか。  オオタカ保護の買収山林は、那須岳の麓の山林という。那須の別荘地域にあると考えると、那須の別荘地はu当り7,000円程度の売り物件がゴロゴロしている。別荘素地の価格は別荘地の価格の10%が経験則である。
 これに道路減歩、道路築造費、水道の引き込み、管理費、金利、販売業者利益、リスク等が加わって販売価格は素地価格の10倍の価格になるのである。これを高いと考えたら自分で開発行為の許可申請を行い、道路を造り、水道を引き込む工事を自前でやることである。
 別荘地素地の価格は、
      7,000円×0.1=700円
である。u当り700円、反当りでは700,000円である。

 各県が地価公示価格と一体運用する目的で、毎年7月1日時点の土地価格(県基準地価格)を発表している。その中で林地価格も発表されている。
 栃木県発表の栃木県林地20地点の価格は、10アール当り85,000円〜9,900,000円である。価格に随分と幅がある。林地と言っても別荘地素地の宅地見込地や山奥の林業用林地があるためである。
 林地の地域による分類形態として、都市近郊林地、農村林地、林業本場林地、山村奥地林地の4つに区分されている。
 都市近郊林地とは、市街地の近郊にある林地である。宅地見込地の要因が含まれ、林地価格としては最も高い。
 農村林地とは、農村集落周辺の林地である。里山と称されるものである。
 林業本場林地とは、林業を経営目的とする林地である。
 山村奥地林地とは、山村奥地にある林地である。
 林地価格は林地類型が下位になるほど安くなる。
 栃木県の林地基準地価格には、山村奥地林地の価格は無い。  平成13年(2001年)発表の栃木県林地の基準地価格の平均価格は、次の通りである。10アール当りの価格である。千円未満切捨。

   地域類型            平均価格           標準偏差
  都市近郊林地        5,667,000円         2,997,000
    農村林地               686,000円           292,000
  林業本場林地         111,000円            22,000
       平均              2,592,000円
 栃木県の林地基準地の価格から考えると、買収山林は那須岳の麓ということであるから、地域類型を農村林地とすれば、その栃木県の平均価格は反当り686,000円であるから、買収山林価格もその辺りの価格ということになる。

 別荘地の素地価格から見ても、また林地基準地価格から見ても、買収価格反当り682,000円はまことに妥当な価格ということになる。
 誰が不動産鑑定したのであろうか。

 製品製造業企業は環境対策の一つとして二酸化炭素の削減に努めようとしている。それは京都議定書によって、日本は2010年頃に1990年比6%の二酸化炭素の排出削減を約束していることも影響している。
   世界各国は二酸化炭素の排出権の売買を認め、日本でもそれが行われつつある。既にトヨタは数年前にオーストラリアにユーカリの樹を植樹し、二酸化炭素の排出権を得ようとしている。
 トヨタが植えるユーカリは5,000haである。
 コスモ石油は去年6月(2001年6月)に、オーストラリアの植林会社と280万トンの二酸化炭素の排出権のオプション取引を行った。
 樹木の二酸化炭素の吸収能力は樹木の種類によって異なっていると思うが、石油会社の説明では、20万トンの二酸化炭素を吸収するには58,000haの森林が必要という。森林1ha当り3.4トンの二酸化炭素吸収量である。
 二酸化炭素の排出権はトン当たり1,000円程度で売買されているという。
   環境庁は二酸化炭素の削減の普及の政策として、1kg当り50円で二酸化炭素を買い上げる制度を来年度(2003年度)よりスタートさせるという。(読売2002.8.9)

 山林は二酸化炭素を吸収する能力がある。
 今迄山林の二酸化炭素吸収能力は、山林価格の査定の際には全く無視されてきた。しかし二酸化炭素の排出権の売買と絡んで、山林の二酸化炭素吸収能力は、今後山林価格に影響を与えて来るのでは無いだろうか。

 オオタカの保護のため、580万円の金を市民団体が善意で集めて山林を購入した。その購入費を少しでも回収する方法は無いものか。
 二酸化炭素の排出権を購入する企業がいるのであるから、購入山林の持つ二酸化炭素吸収能力を、二酸化炭素排出権として企業に売却する方法がある。

 人工林1本が50年で吸収する二酸化炭素は環境庁、林野庁の調査では700kgと言われる。年平均14kgである。

 東京都の分収造林で、八王子南浅川の「紀元2600年記念」深沢造林地の、樹齢52年のスギ、ヒノキ9.80haの立木4,918本が売出し処分された。(『東京の森林・林業』平成13年東京都産業労働局)
 これから1ha当りの成木の本数を知ることが出来る。
     4,918本÷9.80ha=501.8本≒500本
 1ha当りスギ・ヒノキの成木は500本である。20平方メートルに1本である。これらから1ha当りスギ・ヒノキ立木の二酸化炭素吸収量は、
      14kg×500本=7000kg=7トン
である。
 那須岳の山林が人工造林とは思われない。クヌギ・ナラの落葉樹では無いかと思われる。落葉樹とスギ・ヒノキの二酸化炭素吸収量の比率を私はあいにくと知らないが、半年の落葉期間を考え、スギ・ヒノキの半分の二酸化炭素吸収量とする。
      7トン×1/2=3.5トン/ha
 購入山林の面積は8,500平方メートルである。
      3.5トン×0.85=2.975=3トン
 那須岳購入山林の二酸化炭素吸収量は3トンである。
 環境庁は二酸化炭素を1kg50円(トン換算5万円)で買うという。甚だ高いが、これで計算すると、
      3トン×5万円=15万円
15万円の二酸化炭素排出権価格と言うことになる。
 山林の利回りは、
      15万円÷580万円=0.0258=2.6%
である。投下資本は39年で回収出来ることになる。
 但しこの計算は二酸化炭素1トン5万円という非常に高い価格を前提にしたものである。

 資金回収は僅かかもしれないが、製品製造業企業の環境対策とオオタカ保護等の自然環境保護運動とが、二酸化炭素の排出権で結び付くことに大きな意義がある。

 山林の鑑定評価に二酸化炭素の排出権を考えなければならないとなると、不動産鑑定は難しくなりそうだ。
 しかし、10年後にはそれはあたり前ということになるかもしれない。


 山林の価格についての記事は、下記の鑑定コラムにも有ります。
  鑑定コラム122) 「岐阜県の林地価格」


  鑑定コラム832)「六ヶ所村の山林」



 山林の二酸化炭素についての記事は、下記の鑑定コラムにも有ります。
  鑑定コラム380) 「国内で森林を所有する民間企業ベスト4」



 本鑑定コラムには山林価格に付いての多くの記事があります。鑑定コラムの中の山林価格に関しての記事を検索する場合には、グーグル或いはヤフーの検索窓に下記をコピーして貼り付け、検索実行すれば関連記事の一覧が表示されます。又「山林価格」の検索日本語の所の言語を替えて検索すれば、その関係の記事一覧が検索されます。

      山林価格 site:www.tahara-kantei.com


  鑑定コラム819)「三井物産の森が二酸化炭素排出権売買に」


  鑑定コラム839)「栃木県の林地価格は何故高い」


  鑑定コラム843)「日本の山奥の山林の平均価格はu当り43円」


  鑑定コラム1825)「2018年夏那須別荘地価格」


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