私が鑑定コラムで、空室損失は必要諸経費で無い、それは収入項目で考えるものだという内容の記事を書いた。
その記事を読んだ不動産鑑定士の幾人から、
「田原さん、平成22年の地価公示価格から、空室損失、共益費は収入項目に計上することになります。」
と云う電話やメールを頂いた。
ある人からは、
「田原さんが長年主張されていたことが、やっと認められた様です。
正論に対して、国交省も動かざるを得なくなったのではないですか。
田原さんの功績は大きいですよ。」
と持ち上げる。
鑑定コラムを読んだ不動産鑑定士の方からの情報提供で、私は初めて知ったのだが、国土交通省が、毎年発表している地価公示価格の収益還元法の求め方が、平成22年から大きく変わるようである。
平成22年の地価公示価格からと云うことは、平成22年1月1日時点の地価公示価格からと言うことで、平成21年10月の現在、その評価作業は既に始まっているのである。
それまで経費項目に入れていた「空室損失相当」が、収入項目に入ることになった。
授受されている共益費は、収入としてみることになった。
1.空室損失は必要諸経費では無い。収入項目で考えるものである。
2.共益費は通り抜け費用ではない。授受している共益費は収入として見るべきである。
という2点について、強く主張してきたのは、私のみでは無い。心ある不動産鑑定士は主張してきた。
しかし、その主張を国土交通省は、「厳」として認めなかった。
「国交省に対して、間違いであると地価公示価格の評価員はどうして云わないのか。」
と私は、地価公示価格の評価を行っている不動産鑑定士に云った。
だが、その答は、さわらぬ神にたたりなしというのか、
「田原さんの主張はよく分かる。
田原さんは云えるかもしれないが、自分は国交省に対して間違っていると言えない。国交省のやり方に従う。」
という返事である。
私を風よけ、弾よけ、楯にしょうとするのか。
そして私を悪者にして、自分はいい子になろうとするのか。
田原の意見は少数意見であるとか、そういうことを言うのは反主流派の人であるの類の批判もあった。
不動産鑑定評価に主流派、反主流派は無いであろうと私は思うが。
空室損失は経費で無いと云うこと、共益費は通り抜け費用で無く収入であるということを「厳」として認めなかった国交省が、認めた。
一体何があったのか。説明を求めたくなる。
共益費が収入に入ることは、それは、共益費は実質賃料に入るということである。
今回の地価公示価格の収益還元法の求め方の変更で、国交省の地価調査課は、「共益費は実質賃料に入る」と云うことを、はっきりと認めたことになる。
共益費は実質賃料に含まれないと主張して、賃料評価していた不動産鑑定士、そして、その誤った主張を誤りと分からずに「共益費は実質賃料に含まれない」という判決文を書いた裁判官は、取り返しのつかない誤判断をしたことになる。
国交省が地価公示価格の収益還元法の収入項目、費用項目の内容を変えたことの影響は、甚だ大きく、公的鑑定評価の全てに及ぶことになる。
財務省の財産鑑定評価、国交省の地方建設事務所の用地買収の鑑定評価、都道府県の行う用地買収の鑑定評価、市町村の行う用地買収の鑑定評価も全て、新しい収益還元法に変更されることになる。
今回変更改訂されたことは、当たり前のことが当たり前になったことに過ぎない。
しかし、この当たり前のことが当たり前になるまでに、約40年かかっているのである。
当り前のことを当り前にせよと主張した私は、大変迷惑を受けた。批判され、嫌な思いをさせられた。
よく国交省地価調査課は、空室損失は収入項目に、授受共益費は収入にと改訂してくれた。
その行為に感謝する。
鑑定コラム579)「空室損失は経費ではない」
鑑定コラム574)「共益費は実質賃料に入らないという誤った判決」
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