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85)ホテルの経営配分利益割合

 ホテルの評価で現在頭を痛めている。
 ラブホテルとかモテルではない。
 一流観光地の客室数60室、収用人員200名程度のSRC造7階建のホテルの鑑定評価である。業績は大変良いホテルである。ホテルの業績が悪くなって、銀行の融資債権が不良債権化したから鑑定評価するというごとくの、今はやりの不良債権化がらみの鑑定評価ではない。

 ホテルの鑑定評価では、土地建物の価格を積み上げて求める原価法によって求めた価格など、何の説得力もない。その価格でホテルを買う人など誰もいない。いたとしたら、その人はド素人である。

 原価法で出した価格が、適正な鑑定評価額であると評価したら、プロのホテル事業者から笑われてしまう。「貴方本当に不動産鑑定の専門家ですか」と。

 ホテルの売上高より、不動産に属する利益を求めて、ホテルの土地建物の価格を求めようとしている。
 だが、ホテルの純収益のうち、経営に配分される利益の把握で行き詰まってしまった。ホテルの経営配分利益を合理的にどの様に求めるべきか、その経営配分利益率はどの位が適正か。頭を痛めている。

 ホテルの適正な経営配分利益はどの位かを立証した論文を目にしたことはない。
 仕方がないから、全て自分で考え導き出さねばならない。しんどいことであるが、1つの求め方を以下に示す。

 『中小企業の原価指標(平成14年版)』(中小企業庁編、中小企業診断協会発行、同友館)のP413にホテルの原価及び構成比率がでている。

  売上高        492,515千円
    売上原価              225,246千円
    営業費                247,445千円
 そのうち
  減価償却費       34,470千円
  賃借料                 29,103千円
  保険料                  2,064千円
  租税公課               10,193千円
   小計                  75,830千円

    役員給料手当           18,420千円
    純収益                 19,824千円
である。
     売上高 − 売上原価 = 粗利益
 とすると、粗利益は、
  492,515千円−225,246千円=267,269千円
である。

 家賃は、減価償却費、賃借料、保険料、租税公課を集計した費用75,830千円に、家賃修正率1.087を乗じた額と推定される。

 家賃修正率の1.087は、次のごとく求められる。
     営業費割合50.3% −(広告宣伝費1.9%+車輌・修理費2.1%)
     =46.3%(この割合が管理費割合である。)
         原価割合45.7% + 管理費割合46.3% = 92.0%
 これの逆数の、
             1
                   ──── = 1.0869 ≒ 1.087                      
                      0.92
と求められる。

 売上高4.92億円のホテルの家賃は、
        75,830千円×1.087≒82,427千円
である。
 即ちホテルの家賃は、売上高の17%(8242万円÷49251万円=0.167≒0.17)ということである。

    営業費−(役員給料手当×0.3+家賃)=家賃等を除く営業費
とする。(注)役員給料手当のうち30%は経営に配分されるものとする。
 家賃等を除く営業費は、
    247,445千円−(18,420千円×0.3+82,427千円)=159,492千円
である。
 修正営業利益は、
    粗利益 − 家賃等を除く営業費 = 修正営業利益
の式で求められる。
 修正営業利益は、
        267,269千円−159,492千円=107,777千円
である。

 ここまでの分析数値を得て、やっと経営配分利益を求めることが出来る。
 経営配分利益は次式で求める。
    経営配分利益=修正営業利益−(法人税等+資本配分利益+家賃)
         =107,777千円−(19,824千円×0.5+19,824千円×0.13+82,427千円)
           ≒12,861千円
     (注)法人税等は純収益の50%、資本配分割合は13%とする。
 経営配分利益の売上高に対する割合は、
           12,861千円÷492,515千円≒0.026
2.6%である。
 修正営業利益に対する割合は、
         12,861千円÷107,777千円=0.119
                     ≒0.12
である。

 以上をまとめれば、ホテルの経営配分利益は、
    @ 売上高の2.6%か、
    A 純収益の12%
ということである。

 経営不振の旅館に女将を派遣するサービス業が現れたと、ずっと前に新聞に記事が出ていたことを思い出した。
 それは、経営不振の旅館に女将を派遣して、旅館再建を請け負うという内容のものであった。(日経2001年12月16日)
 別府大分で女将一人を派遣して成功し、今後10人ほどの経営ノウハウを身につけた女将を経営不振の旅館に派遣するという。
 経営指導料は、旅館の売上高の10%程度を上限として取得するという。

 この経営指導料は、よく考えれば、旅館の企業収益還元法を行う時に経営に配分される利益の性格を持つ金額と考えられうる。
 即ち、旅館の経営配分利益は売上高の10%が上限ということである。
 本件のホテルの分析では売上高の2.6%と分析された。
 上記旅館の記事の10%は、いささか高いが、しかしこれも旅館の企業収益還元法を行う時に、経営配分利益をどの位にするかという場合の一つの実証データになるのではないかと思う。


<追記>平成28年1月25日 数値を一部訂正

  鑑定コラム 44)「ホテルオークラ神戸の売買価格」

  鑑定コラム  3)「ホテルの売買事例」

  鑑定コラム 211)「ある都心一流ホテルの投下資本売上高倍率は0.43」

  鑑定コラム1067)「売上高の2.8倍のホテル価格」

  鑑定コラム32)「企業収益還元法」


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