○鑑定コラム


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859)明渡し立退料の鑑定

 借家権価格が明渡し立退料全部の金額と思っている不動産鑑定士がいる。

 借家権価格は、貸室賃借人の権利価格である。
 移転補償費は、貸室賃借人が賃借物件を明け渡す為の費用である。即ち、費消される類の金額である。

 借家権価格は権利の価格であり、費用では無い。

 明渡し立退料は、

  
   借家権価格+移転補償費(営業補償・移転費用)

で形成されるものである。

 これを移転補償費は、借家権価格に含まれていると解釈して、

    借家権価格=明渡し立退料

と思っている不動産鑑定士が多い。

 加えて、店舗移転補償に移転先の店舗の造作費を考えていない場合も多い。

 先の鑑定コラム836)「店舗明渡し立退料には移転先店舗の造作費は必要である」で述べたが、店舗の明渡し立退料の鑑定評価で、移転先の店舗造作費(厨房設備費を含む。以下同じ)の費用補償を無視した鑑定書を書き、貸主と一緒になって、店舗賃借人に店舗を明け渡せと貸主に力を貸す不動産鑑定士がいる。

 不動産鑑定士は、弁護士とはものの捉え方、立つ位置が違うことが分かっていない。

 賃借人は、現貸主が移転先の店舗造作費の金を出してくれなければ、移転したくとも出来ない。

 移転先の店舗造作費は、自己負担で行えという主張は、貸主側の一方的な主張であり、この主張に与する不動産鑑定士がいることは嘆かわしい。

 横浜の裁判所の明渡し立退料の鑑定評価を多く手がけている不動産鑑定士として、北村雅夫氏がおられる。

 北村雅夫氏が、明渡し立退料の不動産鑑定について論述されている論文がある。

 『立退料評価の問題点』(「Evaluation」bU P58 プログレス 2002年8月15日)という課題の論文である。

 その論文の中に、北村氏が実際に行った明渡し立退料の不動産鑑定書(P67)が掲載されている。
 この掲載不動産鑑定書は、明渡し立退料の不動産鑑定書の見本にしても良い内容の鑑定書である。

 その論文の中で北村氏は、明渡し立退料を、

    借家権価格+営業補償+移転費用

の3つの構成要件によって成りたつと述べられている。

 北村氏は、営業補償として、次の項目を挙げて、具体的に金額を示して説明される。

 @ 営業休止補償
 A 従業員休業補償
 B 得意先喪失補償
 C 内装費及び工作物等補償

である。

 最後の「内装費及び工作物等補償」は、店舗造作費のことである。

 店舗の明渡し立退料には、移転先の店舗造作費の補償が必要であると北村氏も、北村氏の鑑定書の実例で示されている。

 なお北村氏は、借家権価格を借家権価格割合方式で求められている。
 借家権価格割合30%を採用して求められている。

 この借家権価格の金額は、差額賃料2年分の金額の比ではない。

 北村雅夫氏の上記論文は、明渡し立退料の鑑定評価を行う時の良きテキストになると私は思う。
 一読されることを勧める。


  鑑定コラム851)
「飲食店舗の造作費は坪当り66万円」

  鑑定コラム836)「店舗明渡し立退料には移転先店舗の造作費は必要である」

  鑑定コラム1231)「立退料考1」

鑑定コラム1852)「判例に見る店舗明渡立退料」

  鑑定コラム1853)「鑑定基準の云う不随意の立退要求より生じる借家権価格」

  鑑定コラム1854)「借地権価格、借家権価格は「現在価値」で鑑定基準の統一を」

  鑑定コラム2124)「差額賃料の3年分は借家権価格ではない」

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