地方のある都市ホテルの賃料が、売上高の28%という不動産鑑定書が送られてきた。あまり他人の鑑定書を批判したくないが、あまりにも度を超えたひどさであり、不動産鑑定士が同じ失敗を繰り返さない様にと思い取り上げる。
ホテルの賃借人が人を介して、裁判所の不動産鑑定の家賃ではホテル事業をやっていけないから見てくれと、賃料の不動産鑑定書が送られてきたのである。
その鑑定書の家賃は、積算法と収益分析法で求められており、収益分析法の賃料が積算法の賃料より遙かに高く、その高い収益分析法の賃料を重視して賃料を決定していた。
決定賃料を当該ホテルの売上高で割ってみると、売上高の28%という割合に相当する賃料である。
その鑑定書は、裁判所の鑑定人による鑑定評価であり、一審判決は鑑定賃料に何の疑問も挟まず、裁判官は、そのまま適正な賃料と認めるとして判決に採用してしまった。
賃借人側は、こんな高額な家賃では商売を続けて行くことは困難になってしまうため、居たたまれず高裁に控訴した。
ホテルの売上高の28%もの高い家賃がどうして求められたのかと思い、鑑定書を読んでみた。
その鑑定書はとんでもない求め方で決定賃料を求めていた。
ホテルの売上高を100%とする。
ホテルの原価・販管費を72%と計算する。
この原価・販管費の72%の数値は不動産鑑定士が、何を考えて居るのか、企業提出の損益計算書を勝手にいじくって得られたものである。
不動産鑑定士は企業経理のエキスパートか。企業の経理専門の人が作成した損益計算書を、不動産鑑定士は勝手にいじくるべきものではない。既にここで規を越えている。
残りは営業利益となり、
100%−72%=28%
である。
この営業利益28%の金額を当該ホテルの家賃として求めているのである。
冗談ではないであろう。
上記営業利益はホテル事業の企業収益である。この企業収益がどうしてホテルの家賃に相当することになるのであろうか。
企業収益全額が家賃として、土地建物の所有者に配分、持って行かれたら、ホテルを経営する企業は、資本に配分する利益、経営に配分する利益そして本社経費はどこから捻出すれば良いのか。
営業利益28%という数値は、企業価値を求める場合のものであり、家賃を求める不動産配分利益の数値ではない。
企業収益を全て家賃とすれば、家賃はとんでもない高い金額となる。
もともとホテルの営業利益28%という把握が間違っており、高すぎる。
その様な高い営業利益をホテル事業は生む業種ではない。
ビジネスホテルで客室数31以上のホテルの売上高総利益率は86.0%で、営業利益率は4.3%(標準偏差10.8)である。(「小企業の経営指標」2004年版p162 国民生活金融公庫総合研究所編 中小企業リサーチセンター)
優良なビジネスホテルの営業利益率は、標準偏差1倍としても、
4.3+10.8=15.1%
である。
営業利益が売上高の28%というホテルなど、とてもあり得ない数値である。
そもそも売上高総利益率86.0%ということは、販管費と営業利益が、
100%−86.0%=14.0%
であるということである。
販管費と営業利益をひっくるめて14.0%である。この数値から見ると、当該鑑定書の営業利益28%という数値は、異常なホテルの数値と言い得る。
あるビジネスホテルを全国チェーン展開しているホテル業者の場合、土地所有者にホテル建物を建てて貰い、その建物を借りてホテル経営を行う場合の家賃は、投下資本(建物建設費)の15〜20%である。
土地価格と建物価格の割合を25対75とする。
ホテルの家賃を、上記割合の上限の投下資本(建物建設費を建物価格相当とみなす) の20%とすると、土地・建物価格に対する家賃割合は、
20%×0.75=15%
となる。
ホテルの有形固定資産の回転率は1.0倍程度である。
有形固定資産を形成するものを、土地・建物価格と概略考えるものとする。
とすると、
売上高=有形固定資産×1.0=土地・建物の価格×1.0 =土地・建物の価格となる。