○鑑定コラム


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ

293) 売上高の28%がホテルの賃料という鑑定書

 地方のある都市ホテルの賃料が、売上高の28%という不動産鑑定書が送られてきた。あまり他人の鑑定書を批判したくないが、あまりにも度を超えたひどさであり、不動産鑑定士が同じ失敗を繰り返さない様にと思い取り上げる。

 ホテルの賃借人が人を介して、裁判所の不動産鑑定の家賃ではホテル事業をやっていけないから見てくれと、賃料の不動産鑑定書が送られてきたのである。

 その鑑定書の家賃は、積算法と収益分析法で求められており、収益分析法の賃料が積算法の賃料より遙かに高く、その高い収益分析法の賃料を重視して賃料を決定していた。

 決定賃料を当該ホテルの売上高で割ってみると、売上高の28%という割合に相当する賃料である。

 その鑑定書は、裁判所の鑑定人による鑑定評価であり、一審判決は鑑定賃料に何の疑問も挟まず、裁判官は、そのまま適正な賃料と認めるとして判決に採用してしまった。

 賃借人側は、こんな高額な家賃では商売を続けて行くことは困難になってしまうため、居たたまれず高裁に控訴した。

 ホテルの売上高の28%もの高い家賃がどうして求められたのかと思い、鑑定書を読んでみた。

 その鑑定書はとんでもない求め方で決定賃料を求めていた。

 ホテルの売上高を100%とする。
 ホテルの原価・販管費を72%と計算する。

 この原価・販管費の72%の数値は不動産鑑定士が、何を考えて居るのか、企業提出の損益計算書を勝手にいじくって得られたものである。
 不動産鑑定士は企業経理のエキスパートか。企業の経理専門の人が作成した損益計算書を、不動産鑑定士は勝手にいじくるべきものではない。既にここで規を越えている。

 残りは営業利益となり、
     100%−72%=28%
である。

 この営業利益28%の金額を当該ホテルの家賃として求めているのである。

 冗談ではないであろう。
 上記営業利益はホテル事業の企業収益である。この企業収益がどうしてホテルの家賃に相当することになるのであろうか。

 企業収益全額が家賃として、土地建物の所有者に配分、持って行かれたら、ホテルを経営する企業は、資本に配分する利益、経営に配分する利益そして本社経費はどこから捻出すれば良いのか。

 営業利益28%という数値は、企業価値を求める場合のものであり、家賃を求める不動産配分利益の数値ではない。

 企業収益を全て家賃とすれば、家賃はとんでもない高い金額となる。

 もともとホテルの営業利益28%という把握が間違っており、高すぎる。
 その様な高い営業利益をホテル事業は生む業種ではない。

 ビジネスホテルで客室数31以上のホテルの売上高総利益率は86.0%で、営業利益率は4.3%(標準偏差10.8)である。(「小企業の経営指標」2004年版p162 国民生活金融公庫総合研究所編 中小企業リサーチセンター)
 優良なビジネスホテルの営業利益率は、標準偏差1倍としても、
     4.3+10.8=15.1%
である。
 営業利益が売上高の28%というホテルなど、とてもあり得ない数値である。

 そもそも売上高総利益率86.0%ということは、販管費と営業利益が、
     100%−86.0%=14.0%
であるということである。

 販管費と営業利益をひっくるめて14.0%である。この数値から見ると、当該鑑定書の営業利益28%という数値は、異常なホテルの数値と言い得る。

 あるビジネスホテルを全国チェーン展開しているホテル業者の場合、土地所有者にホテル建物を建てて貰い、その建物を借りてホテル経営を行う場合の家賃は、投下資本(建物建設費)の15〜20%である。

 土地価格と建物価格の割合を25対75とする。
 ホテルの家賃を、上記割合の上限の投下資本(建物建設費を建物価格相当とみなす) の20%とすると、土地・建物価格に対する家賃割合は、

       20%×0.75=15%

となる。

 ホテルの有形固定資産の回転率は1.0倍程度である。
 有形固定資産を形成するものを、土地・建物価格と概略考えるものとする。
 とすると、

      売上高=有形固定資産×1.0=土地・建物の価格×1.0
                   =土地・建物の価格
となる。

 ホテルの土地・建物価格に対する家賃割合は、15%と前記で求められているから、ホテルの売上高に対する家賃割合は、

        15%×1=15%

ということになる。

 以上の分析から、ある全国チェーンでビジネスホテルを展開するホテル業者のホテルの家賃は、売上高の15%と分析される。

 これから考えると売上高の28%のホテルの鑑定家賃は、ホテル経営を全く無視した、非現実的な賃料と言える。この賃料を適正賃料と言えるものなのか。

 さて、高裁の裁判官には、一審のホテル賃料の判決が、非現実的な不当判決と果たして判るか否か。


 ホテルについては、次の鑑定コラムの記事があります。

  鑑定コラム 3)「ホテルの売買事例」

  鑑定コラム 44)「ホテルオークラ神戸の売買価格」

  鑑定コラム 85)「ホテルの経営配分利益割合」

  鑑定コラム 211)「ある都心一流ホテルの投下資本売上高倍率は0.43」

  鑑定コラム 218)「330億円のホテルの売買」


  鑑定コラム 262)「21億円のホテルの売買」

  鑑定コラム 266)「ホテルの稼働率77.4%」

  鑑定コラム 557)「リゾートホテルの家賃は売上高の13%」

  鑑定コラム1067)「売上高の2.8倍のホテル価格」

  鑑定コラム1068)「実質賃料、新規実質賃料、実際実質賃料」

  鑑定コラム32)「企業収益還元法」

  鑑定コラム1949)「東京等のビジネスホテル宿泊料金の分析を終えて」

  鑑定コラム2618)「鵜野和夫先生の訃報、お別れ会への記事アクセスが上位に 令和5年7月1日アクセス統計」

  鑑定コラム2768)「1年前の令和5年7月1日の鑑定コラムアクセス統計との比較」


フレーム表示されていない場合はこちらへ トップページ

田原都市鑑定の最新の鑑定コラムへはトップページへ

前のページへ
次のページへ
鑑定コラム全目次へ