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1621)柏崎市 61億円でガス事業売却

 新潟で泊まったホテルの朝、ホテルのレストランで朝食をとりながら、日本経済新聞を読んでいた。

 新潟地方経済版を開いた時、一つのヘッドラインに目が止まった。

 「北陸ガス 柏崎市から61億円でガス事業買収」の見出しであった。

 内容は、新潟市や長岡市で都市ガス事業を行っている北陸ガス株式会社が、柏崎市、刈羽村で都市ガス事業を行っている柏崎市から、そのガス事業を買い受けるという内容のものであった。

 売買価格は、約61億円であり、柏崎市ガス事業の2015年度の売上高は、約29億円であると、2017年3月24日の日本経済新聞は報じている。

 都市ガス事業の民営化である。

 売上高に対する売買価格の倍率は、
 

                    61億円
                ─────  = 2.1                                 
                    29億円

2.1倍である。

 「2.1倍・・・、待てょ、高いのでは無いか?」

と私は、記事を読んで思った。

 営業利益を7%とすると、29億円の売上高では、

             29億円×0.07=2.03億円

の営業利益である。

 この営業利益金額で、購入価格61億円を回収するには、

            61億円÷2.03億円≒30

30年かかる。30年間利益0円で、投下資本の回収のみである。その間設備の更新費という新たな投下資本を必要とする。

 その様な経済行為を、経済人は行うであろうか。

 北陸ガスと柏崎市ガス事業の財務諸表はないか調べて見た。

 北陸ガスは平成28年3月期、柏崎市ガス事業は平成27年3月期の財務諸表が、ネットで公表されており得られた。

 下記である。単位百万円。

                      北陸ガス         柏崎市ガス事業

    売上高   33,393   3,178 営業利益   1,349   ▲247 有形固定資産   34,730 9,280

 柏崎市ガス事業は売上高31.78億円であるが、営業損失は▲2.47億円である。有形固定資産は92.8億円である。
 
 北陸ガスは売上高333.93億円、営業利益は13.49億円である。営業利益率は、

                      13.49億円
                  ─────── = 0.040                          
                     333.93億円

 この営業利益率で考えると、北陸ガスが売上高29億円(日経記事の29億円を採用して論じる。以下同じ)の柏崎市ガス事業を引き受けた場合、北陸ガスの経営方針に従うことになり、4.0%の営業利益の確保が義務づけられることになる。

 そうした場合の予想される営業利益は、

                29億円×0.04= 1.16億円

である。

 購入金額61億円の回収年は、

            61億円÷1.16億円≒53

53年となる。

 53年という長期間の投下資本の回収という買収は、企業経営上大丈夫か。

 北陸ガスの売上高と有形固定資産の関係を見る。

 売上高に対する有形固定資産の割合は、

                    34,730
                 ───── = 1.04                                 
                    33,393

1.04である。

 有形固定資産が時価評価されているとすれば、それは市場価値を現しており、売買価格相当ということになる。

 北陸ガスの会社規模を中規模の都市ガス企業とみなせば、中規模のガス事業の売買価格は、有形固定資産額相当と云うことになる。大規模の東京ガスについては、後記で分析する。

 柏崎市ガス事業の適正な売買価格は、どれ程かと云えば、購入者である北陸ガスの営業利益率を採用して営業利益率4%とすれば、その金額は1.16億円である。その25年分とすると、

         1.16億円×25≒29億円

29億円程度と判断される。

 柏崎市ガス事業の有形固定資産は、92.8億円であるが、売上高より検討すれば、甚だ過大であり、売上高程度の29億円程度の資産価値と判断される。
 
 日本の都市ガス事業会社の第一人者である東京ガスの財務諸表は、下記である。単位百万円。


売上高 営業利益 営業利益率 有形固定資産 有形固定/売上高 売上高/有形固定
2012年3月期 1754257 77075 0.044 1105587 0.630 1.587
2013年3月期 1915639 145633 0.076 1140003 0.595 1.680
2014年3月期 2112117 166044 0.079 1195487 0.566 1.767
2015年3月期 2292548 171753 0.075 1264979 0.552 1.812
2016年3月期 1884656 192008 0.102 1264979 0.671 1.490
平均 1991843 150503 0.075 1194207 0.603 1.667


 2012年から2016年の平均の数値は、

    売上高   1兆9918億円
        営業利益       1505億円
        営業利益率       7.5%
        有形固定資産   1兆1942億円
        売上高に対する有形固定資産倍率      0.603
        有形固定資産に対する売上高倍率   1.667

である。

 有形固定資産に対する売上高倍率は、有形固定資産倍率である。
 
 北陸ガスの営業利益率4.0%、有形固定資産倍率1.04は、中規模都市ガス事業会社としては、妥当な水準では無かろうかと思われる。

 なお、企業の設備投資は、売上高の20%が限度である。

 今回の北陸ガスの柏崎市ガス事業買収の61億円は、

                  61億円
              ─────  = 0.183                                 
                  333億円

売上高の18.3%の規模であり、企業経営としては、妥当な範囲である。

 北陸ガスは、適正価格29億円のガス事業を、61億円と倍の価格で取得した。

 この高値買いは、営業地盤の拡大という理由が、強くあったものと思われる。

 売り主の柏崎市ガス事業側が、有形固定資産92.8億円あるから、それは税金で造ったものであり、その金額で無いと売却出来ないといくら主張しても、購入者の北陸ガス側は、企業経営上の投下資本の経済経験則の限度額の縛りから、92.8億円はとても飲めなく、ギリギリ譲歩して18.3%の61億円で合意したということであろうか。但し、これは私の勝手な推測である。


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