大阪に所用があり、大阪の不動産鑑定士と話す機会が有った。
談笑している時に、大阪在住の不動産鑑定士が、
「大阪には、ここ2年間ほとんどタワークレーンが見当たらないが、東京には多くのタワークレーンが見られる。東京は不景気を脱して、好景気になりつつあるのだろうか。」
という類の話になった。
東京の現状を知っているということは、その不動産鑑定士は大阪から東京によく来ているのであろう。
確かに大阪の街の上空を見ると、新築ビル建築中の大型のタワークレーンが見かけられ無い。
美的センスを全く無視した、醜いタワークレーンの姿は見当たらない。ビルのスカイラインはすっきりしている。
これに比し、東京は不動産不況と言いながらもタワークレーンが結構見られる。 大型の新築ビルの建設が行われているのである。
東京とて建設業は不況の真只の中にある。
会社倒産、民事再生法の申請、銀行融資の不良債権の大幅カットなどを受ける会社が多く存在し、未だ不景気業種の代表の業種である。
そうした中にあって、建設業界の雄である会社の鹿島建設が増資を行った。
2003年10月に360億円の公募増資を行った。取引銀行割り当ての第三者増資ではなく、公募増資である。
その増資は何か。
借金返済の増資では無い。金の使い道が有った。
JR東日本、三井不動産、鹿島八重洲開発、国際観光会館、新日本石油の5社は、超高層ツインタワーの八重洲プロジェクトに着工した。(JR東日本、三井不動産HPプレスリリース 2004年9月10日)
東京駅の八重洲口側の北口出入口隣前に、大規模なビルを5社で造ろうとしている。超高層ツインタワーの八重洲プロジェクトである。
東京駅の八重洲口側の北口出入口と言えば、八重洲口側で東京駅を背にして立てば、左側の方向である。本『鑑定コラム』172)
「駅の左か、右か」
で述べた駅前立地論で行けば、「左」に位置する。
そして、その先には日本橋の商業地が有る。
八重洲プロジェクト事業の中心となるのは、三井不動産である。
ビル建設を請け負うのは、鹿島建設を中心にして4〜7社の建設会社のJVである。
鹿島建設の増資の金は、この大規模な八重洲プロジェクトや、これに続く日本橋の三井不動産の再開発事業への参加を目的にした資本増加ではなかったのではなかろうか。
八重洲プロジェクトは、のべ床面積356,711uの超高層ツインタワービルを造る事業である。
総事業費1300億円(土地代を除く)である。
東京駅丸の内駅舎上の容積率を移転して、1604%の容積率のビルと言う。
ビルの竣工は2007年10月を予定しているという。
東京駅丸の内駅舎上の容積率の移転とは、エアライト(空中権)の売買が行われたということである。
八重洲プロジェクトは、前国際観光会館のあつた場所である。
この場所の容積率は900%である。
1604%−900% = 704%
およそ704%のエアライト(空中権)の売買が行われたということになる。
これで、東京駅丸の内駅舎の高層化は無くなった。
八重洲プロジェクトの建築工事費は、
1300億円÷356,711u ≒ 36.5万円/u
u当り36.5万円である。
三菱地所の新丸の内ビルの総事業費は、本『鑑定コラム』6)
「丸の内土地還元利回り」
で述べたが、土地代を除いて650億円、延べ床面積約160,000uである。
建築工事費は、
650億円÷160,000u ≒ 40.6万円/u
建築面積u当り40.6万円である。
森ビルの六本木ヒルズの総事業費は、土地代を除いて2700億円、延べ床面積724,524uである。
建築工事費は、
2700億円÷724,524u ≒ 37.3万円/u
建築面積u当り37.3万円である。
これらより大規模プロジェクトの建築工事費は、u当り36万円〜40万円程度のようである。
この金額は、大規模プロジェクト建物の不動産鑑定評価の一つの尺度になるのでは無かろうか。但し、ビルの中に入る店舗、ホテルの個別店舗の内装費は、この金額には含まれないと考えられる。
新丸の内ビルでは三菱地所に、六本木ヒルズでは森ビルに名を挙げさせてしまった。
日本の不動産ビル業界のドンを自負する三井不動産にとっては、これらのことは我慢ならないことであったろう。
八重洲プロジェクトは、三井不動産の逆襲と受け取れそうだ。
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