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2485) 収益価格を蔑ろにしているのでは無いのか 23区東西南北の4区公示住宅地の比準価格と収益価格の関係分析を終えて

1.はじめに

 23区の公示住宅地の分析として、23区の東西南北にある江戸川区、世田谷区、大田区、板橋区の4区を選び、その区の住宅地の地価公示価格の比準価格と収益価格の関係を分析した。

 不動産が持つ特性に伴う3つの価格である積算価格、比準価格、収益価格は、理論的には一致すると云われる。

 しかし現実には、資料不足等で一致することが困難と云われているが、とはいえ、一致するのが理論的とはいえ原則であるから、3つの価格に価格差があっても、その差は、合理的な一定の範囲に収まるのでは無かろうか。そうでなければ上記理論は成り立たなくなる。

 3つの価格を求めるのは、その側面から成り立っている不動産の価格を互いに担保し、求められた価格の適正さを証明担保するためでもある。

 既成市街地にあっては、積算価格は求めることは出来ない事から、比準価格と収益価格の間のことになる。

 そうした考えより、資料としての信頼性が高いと判断される地価公示価格の鑑定書が公開されたことによって、その公開鑑定書より、比準価格と収益価格の関係を分析して見た。

 採用した地価公示価格は、令和4年1月1日時点の地価公示価格で、データ資料は、その公示価格鑑定書である。公示価格鑑定書は、A鑑定書、B鑑定書の2つあるが、最初のA鑑定書のみの分析とする。

 公示鑑定書に分析記載されている比準価格、収益価格は専門家の不動産鑑定士が鑑定した価格であるから適正であることを前提にしている。

 比準価格/収益価格の割合の分析より、公示価格の適正さの程度も分析、証明することが出来る。

2.分析結果

@ 平均割合値、標準偏差等

 比準価格/収益価格の割合の23区の東西南北に位置する4区の住宅地の平均値、標準偏差等の一覧は、下記である。


区名 公示地数 最低割合 最高割合 平均値 標準偏差 変動係数
世田谷区 103 1.261 2.521 1.878 0.280 0.149
大田区 52 1.180 2.160 1.637 0.298 0.182
江戸川区 67 1.213 2.172 1.691 0.193 0.114
板橋区 45 1.132 2.118 1.512 0.194 0.128
合計又は平均 267 1.197 2.243 1.680 0.241 0.143


 23区の東西南北に位置する4区の住宅地の各割合の平均は、

      平均最低割合    1.197
      平均最高割合    2.243
      平均平均値割合   1.680
      平均標準偏差       0.241
            平均変動係数    0.143
である。

 各区の最低、最高割合について、世田谷区で云えば比準価格/収益価格の割合が1.261の公示地価格がある一方、2.521の公示地価格もある。その様な開差があるのはおかしいと思わないか。

 比準価格と収益価格の2つを求めるのは何故かと云えば、前記したごとく互いの価格によって適正さを担保し、2つの価格から求められた鑑定評価額の適正さを担保するためであろう。

 本来は一致するはずの比準価格と収益価格の間に2.521もの開差があって、互いの価格が適正であると云うことが担保出来るのであろうか。

 その様な開差があるのを、互いの価格が適正であることを担保していると云うことは不可能であろう。

 専門家の集団として、世田谷区の2.521、大田区の2.160、江戸川区の2.172、板橋区の2.118の開差、4区平均では2.243のごとくの開差が生じること自体おかしな現象である。

A 出現率5%、31.74%の価格割合と公示価格鑑定の件数

 23区の東西南北に位置する4区の住宅地の比準価格/収益価格の割合が、出現率5%、31.74%の公示価格鑑定の件数一覧は下記である。


区名 公示地数 出現率5%の割合 出現件数 出現率31.74%の割合 出現件数 総件数
世田谷区 103 2.427 5 2.158 11 16
大田区 52 2.222 0 1.935 11 11
江戸川区 67 2.069 2 1.884 6 8
板橋区 45 1.892 3 1.706 3 6
合計又は平均 267 2.153 10 1.921 31 41


 統計学上の許容される有意水準は、5%以上の出現率である。その5%を切るデータは、データとして否定される。

 23区の東西南北に位置する4区の住宅地の地価公示価格の鑑定評価にあって、データとして否定されるものが267地点の価格のうち10件ある。この事実は由々しきことである。

 出現率31.74%は、10人中3人が出現すると云うことである。

 不動産鑑定の専門家としては、10人中3人が算定する価格では無く、10人中7人が算定する価格を求めるべきでは無かろうか。

 10人中3人が算定する程度の地価公示価格の鑑定評価が、23区の東西南北に位置する4区の住宅地で31件ある。10人中7人の専門家は算定しないと云う価格が267地点の価格の内31件もあると云うことは、恥ずべきことでは無かろうか。

3.終わりに

@ 収益価格を少し蔑ろにしているのではなかろうか

 比準価格/収益価格の割合が出現率5%以下という鑑定評価など、とんでもない鑑定であり、専門家と自負する人が行うべきものでは無い。

 不動産鑑定評価の専門家であれば、少なくとも10人中7人以上が算定する出現率68.26%以上の鑑定評価をするべきであろう。

 比準価格/収益価格の割合が出現率5%以下、31.47%以下の合計件数が、267地価公示価格のうち41件ある。
            41÷267=0.154
 総件数の内15.4%を占める。

 専門家であれば、本来求めるべきでない価格データであるものが、総件数の15.4%もあると云うことは、地価公示評価員の不動産鑑定士の方々の中には、収益価格を少し蔑ろにしている不動産鑑定士がおられるのでは無かろうかと思わざるを得ない。

 収益価格を蔑ろにしてはいけないと何故云うのかと云えば、鑑定評価額を担保する役目があるという事の他に、現実の問題として、収益価格を求めるに際して使用する賃料、還元利回りが、鑑定書の公開によって利用される可能性があるためでもある。

 特に賃料は、賃料増減額請求事件の訴訟に利用される可能性が高い。

 それは、地価公示価格が、地価公示法で規程されている適正価格であるとして、適正土地価格の判断指標にされていることと同じ理由による。

 裁判官は、不動産価格・賃料についての知識は殆ど無いに等しい。

 鑑定書の土地評価額が、地価公示価格と同額であることは要求しないが、著しくかけ離れている場合には、かけ離れた鑑定書の土地価格評価に疑問を呈する。

 同じことが賃料にも全く云える。

 代理人弁護士が、地価公示価格の鑑定書に記載されている収益還元法に使われているu当り賃料が、地価公示価格の鑑定書が採用していることから、その賃料は、地域の適正な賃料水準であると判断主張して、そのu当り賃料との開差が大きいことを持って、当該賃料訴訟の適正賃料の証明として提出された賃料鑑定書を攻撃、批判してくる。

 代理人弁護士が、地価公示価格の鑑定書の収益還元法採用の新規賃料を取り上げて弁論し始めれば、裁判官は地価公示価格鑑定書記載の新規賃料を無視することは出来なくなる。

 裁判官は、賃料訴訟の賃料鑑定書の新規賃料が、地価公示価格の鑑定書の収益還元法採用の新規賃料と同額である事は要求しないが、著しくかけ離れた賃料鑑定書の新規賃料の場合には、疑問を呈することになる。

 そうした無駄と思われる弁論の攻防を避ける為には、収益還元法の採用するu当り賃料は、その地域の適正賃料水準にある賃料であって欲しいと私は願うのである。

 比準価格/収益価格の割合を私が分析し、見直し云々と主張しているのは、上記のごとくの賃料増減額訴訟に、地価公示価格の収益還元法の賃料が利用される可能性があるためである。

 収益価格が比準価格よりも著しく低く求められることは、賃料が適正水準であっても還元利回りが高い場合にも生じる。その他に、建物配分利益が大きくて、土地配分利益(土地残余利益)が少ない場合にも収益価格が低く求められる。賃料の他にも、これらにも留意が必要であるが。

 地価公示価格の鑑定書が公開されたことによって、それまでは発表土地価格の適正さのみ考えていればよかったのであるが、公示鑑定書の公開によって、新たな検討問題が出て来たのである。

A 収益価格は比準価格よりも低額はおかしい

 23区の東西南北に位置する4区の公示住宅地の価格検討で、公示住宅地で収益還元法を行っているのは267地点あった。

 その公示鑑定書(A鑑定書のみである)の土地価格の比準価格と収益価格を全て見たが、267地点の全てが、比準価格>収益価格である。

 1件として収益価格>比準価格は無かった。これはいささかおかしいことではないのか。

 収益価格が比準価格よりも高い価格があってもよく、又、有り得る。

 23区の東西南北に位置する4区の住宅地の収益還元法を行っている公示地の全地点の土地価格(単価)は、比準価格が収益価格よりも高い価格であると云うことは、おかしい。

 それら土地に賃貸建物を建てている。その複合不動産の収益価格は、土地建物の積算価格よりも高い価格である事は、あるのでは無かろうか。

 その複合不動産の収益価格から、部分鑑定評価として土地・建物の価格割合より土地価格を求め、その土地価格の単価を求めると、比準土地価格の単価よりも高くなることもある。

 土地比準価格が土地収益価格より、収益還元法を行った全ての地点で高いという23区の東西南北に位置する4区の公示住宅地の現象は、少しおかしいでは無かろうか。

 この価格現象は、都心5区公示商業地・住宅地でも見られたが、住宅地、商業地全てで収益価格が比準価格よりも安いということは、私には全く理解し難い現象である。

 上記のことは、Jリートの価格評価を考えれば、おかしいと思わないであろうか。


  鑑定コラム2476)
「都心5区公示住宅地の比準価格と収益価格の関係分析を終えて」

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