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2580) 大学の講義が始まった 不動産鑑定評価とはどういうものか学生に話す

 2023年度の新学期・前期授業が始まった。

 担当する不動産鑑定の講義が、2023年4月20日から始まった。

 講義時間は105分、1時間45分である。週1回の講義で前期13回、後期13回の講義である。前期は価格について、後期は賃料について講義する予定である。

 不動産鑑定についての知識が全く無い学生に、不動産鑑定評価を教える訳であるから、不動産鑑定評価とはどういうものか。不動産鑑定評価の対象となる不動産とはどういうものかから説明して行かねばならない。

 2021年の9月に『考論 不動産鑑定評価』の著書をプログレス社より発行した。

 その著書は、大学の講義の教科書として使う為に書きあげたものであるから、昨年の講義より使用し、今年もその教科書を使って講義を行うと、学生に伝えた。

 不動産鑑定評価とはどういうものか全く知らない学生であるから、まずそれから講義する。

 『考論 不動産鑑定評価』は30編で構成されている。

 その第1編は「不動産鑑定評価とは」の課題で、5つの章で、不動産鑑定評価の基礎的概念等が述べられている。

 それ等はどういう内容か、以下に転載する。

 読めば、私がどういうことを講義で話しているかが分かるであろう。

****


1.不動産鑑定評価とは

 不動産鑑定評価とは、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる市場で形成されるであろう市場価値を判定し、これを貨幣額で表示することである。

 「現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる市場で形成されるであろう市場価値」は簡単に云えば、「経済価値」と表現される。

 それ故、不動産鑑定評価とはを別の言葉で表現すれば、「不動産の経済価値を判定し、これを貨幣額で表示することである。」と言い換えることも出来る。

2.不動産鑑定評価が何故必要か

 不動産には経済価値があり、その価値は社会、経済に無視出来ない存在の価値を有している。

 不動産の経済価値は、不動産の取引価格によって具現化する。

 その不動産の取引価格は、取引の必要に応じて個別的に形成されるのが通常である。

 社会、経済に無視出来ない存在の価値を有している不動産の価値は、適正な価格で取引されるべきであるが、個別的な要因、事情に左右されるため、一般の人には不動産の適正な価格を知る事は困難である。

 そのため、不動産の適正価格を知るために、専門家による不動産鑑定評価が必要である。

3.不動産鑑定評価はどういう所で利用されているか

 不動産鑑定評価は、人々の身近なところで利用されている。

 @ 売買

 不動産を売買する時に、適正価格を知るために不動産鑑定評価を行う。

 上場企業が、工場を建てるときとか、所有不動産を処分する時は、不動産鑑定を利用する。それは株主に対する説明責任が企業にあるためである。

 A 担保

 商売において銀行からお金を借りる場合、銀行は担保を要求する。

 その場合担保として最も有力なのが不動産である。

 その不動産が貸出金額の担保になる価値を有しているのか知るために、不動産鑑定評価が行われる。

 B 公共事業の用地買収

 道路の拡幅、小学校用地、高速道路、鉄道用地等の取得の場合、適正な対価による土地取得が法律で決められている。

 公権力による私有財産の侵害を防ぐ為である。

 その場合、不動産鑑定評価が行われる。

 この用地買収の価格の目安にするために、地価公示価格が毎年1月1時点の価格として公表されている。

 現在、東京と名古屋を結ぶJR東海のリニア中央新幹線のための用地買収が、東京〜名古屋間で行われ、この用地買収に不動産鑑定評価が行われている。

 被買収側も不動産鑑定を不動産鑑定士に依頼している。

 C 固定資産課税価格

 土地には固定資産税が毎年課税される。

 固定資産税は、地方公共団体に取っては有力な税収の1つである。

 町村に取っては税収の40〜50%を占める場合もある。

 その課税は公平でなければならない。

 その課税価格の適正さの為に不動産鑑定評価がなされている。

 D 相続財産

 親が死んだ場合、相続するには相続税が係る。

 不動産相続の場合も同じである。不動産の相続は金額がかさみむことから、あらかじめ相続税路線価が毎年発表されている。

その路線価の評価に不動産鑑定評価が使用されている。

 E 地価公示価格

 毎年3月20日頃に、国土交通省より発表される全国の地価公示価格(その年の1月1日時点の価格)は、不動産鑑定士が評価している。

 この価格は公共事業用地の買収価格の指標になる価格であり、相続税路線価の価格、固定資産税課税標準価格決定の指標になる価格である。又土地取引の際の指標になる価格である。

 F 競売

 借入金が返済出来ない場合、担保提供していた不動産を処分して、債権債務を精算する。

 それは、債権者の抵当権の実行として担保不動産は、裁判所で競売に付される。

 この競売の最低競売価格を決める為に不動産鑑定評価が行われる。

 G 会社更生法、民事再生法による企業再生

 企業が事業に行き詰まり裁判所によって企業再生する場合、再生企業の所有する全不動差の価格が、不動産鑑定士によって評価される。

 本社、支所、営業所、工場、倉庫、社宅等日本全国にある全所有土地建物の価格が評価される。

 H 裁判での不動産価格、地代、家賃の争い

 裁判所での相続財産の配分に伴う親族の争い、地代の増減額の争い、家賃の増減額の争いにおいて、適正価格、適正地代、適正家賃の評価は、裁判所の指定鑑定人不動産鑑定士が行っている。

 地代、家賃の増減額の争いの場合、貸主、借主双方が適正賃料の不動産鑑定を行う場合が多い。

 I 明渡立退料

 建物の建替等賃借人がいる場合の明渡立退の適正な立退料については、不動産鑑定士が行っている。

 この場合は、賃貸人、賃借人双方で鑑定評価が行われる場合が多い。

 J 企業買収

 企業が新しい分野に進出する場合、企業買収して進出する場合が多い。

 その時、買収先の所有する全不動産を鑑定評価して、資産価値を把握する。

 K 不動産の証券化

 賃貸不動産の賃料を配当原資にして、賃貸不動産を不動産投資信託にして証券を発行し、多くの投資家に証券を小口販売する事業が出現した。

 Jリートと呼ばれる証券事業である。

 その賃貸不動産の適正価値は不動産鑑定士によって全て鑑定評価されている。

 三井不動産、三菱地所等大手の不動産会社は、自社の資本支配下のリート会社を持ち、賃貸ビルの市場を拡大している。

 事務所ビルに留まらず、店舗ビル、ショッピングセンター、ホテル、マンション、倉庫、貸地等に対象は広がっている。

 L 国有地、公有地の売払

 国有地、公有地を売却する場合には、全て不動産鑑定評価して売り払いされている。

4.不動産とは

 @ 不動産とは

 不動産とは、土地及びその定着物を云う。(民法86条1項)

 A 土地の定着物とは

 土地に継続的に定着し、もしくは定着させる物とは、

 イ、その1: 石垣、門、塀、境界杭等
 ロ、その2: 土地とは別の概念のもので建物
をいう。

 B 所有権の範囲

 イ、土地の所有権は、上、下に及ぶ。(民法207条)
 ロ、上に及ぶ権利は空中権と呼ぶ。空中権として売買されている。

  東京駅は、容積率900%の地域にあるが、東京駅は駅改修にあたり3階建の建物しか今後建てないと云うことになり、上空の容積率を使用しないことから、その権利を売却する事にした。

  特例容積率適用地区制度が出来、その地域であれば、空中権の売買が出来ることになった。

  JR東日本は、東京駅の上空の利用権700%を他のビルの土地利用に売却した。

  新丸の内ビルディングなど6つのビルに空中権を売却した。

  それにより新丸の内ビルディングは、本来は30階建てまでしか建てられなかったものが38階建のビルを建てることが出来た。

  JR東日本は、東京駅の上空の利用権である空中権を売り払うことによって、東京駅の改修費用を捻出した。

 ハ、地下に及ぶ権利は、地下利用権という。

  地下利用権の制限は無かったが、「大深度の公共的使用に関する特別措置法」(2001年通称 「大深度法」と呼ばれている。)によって、地下40mを超える部分を公共的使用にする場合には、権利対価を払う必要が無いことになった。

  都営地下鉄大江戸線は、この法律を利用して造られた。最も地下鉄大江戸線を造る為に作られた法律でもある。

  現在この大深度法を利用して、JR東海が、東京と名古屋を結ぶリニア中央新幹線を築造している。

5.権利と価格

 @ 不動産とは不動産の所有権を云う

 不動産は上記のごとく物を云うが、それは所有権を云う。

 本来は不動産の所有権と云うべきであるが、所有権を省略して不動産と呼んでいるだけである。

 A 権利には価格が付着している

 所有権は所有する権利を云うが、その所有権と云う権利には、それに相応した価格が必ず付着している。

 権利と価格は、貨幣の表と裏の関係にある。両者の関係を切ることは出来ない。

 相続財産の親族間のもめ事の解決に長い時間がかかるのは、相続財産(所有権)に価格がついているため、その価格の配分の多寡によって、損する、儲けすぎの損得勘定が兄妹間に発生し、解決に時間がかかるのである。

 権利に価格が付着してなければ、紛争の解決は早い。

****


 地価公示価格については、2023年1月1日の日本最高価格は、東京銀座4丁目の山野楽器店の土地価格で、1u当り5380万円であることを付け加え、所有権が及ぶ範囲の地下の話では、地下47メートルを掘削していて地上の地盤陥没事故を引きおこした外環道の調布住宅地の例を説明し、現在はどういう状況であるか等を付け加えて話した。

 不動産鑑定評価が使われている箇所で記述洩れた部分を話した。

 例えば、上場企業が賃貸ビルを持ち賃貸収入がある場合、その賃貸ビルの時価評価を決算期には行わなければならず、その為の不動産鑑定評価を不動産鑑定士が行っている等を付け加えて話した。

 「不動産の経済価値は社会、経済に無視出来ない存在の価値を有している」と云うことに付いては、平成バブル崩壊は不動産価格の暴落によって引きおこされ、その不動産価格暴落に拠って日本経済がどういう状態になり、「失われた20年」或いは「失われた30年」としてその影響が現在にも及んでいることを話し、不動産の重要性を説明した。

 第1回の講義は,『考論 不動産鑑定評価』の第1編を話すことで終了した。

 著書『考論 不動産鑑定評価』は、どういうことが書かれているかということで、第1編を転載した。

 不動産鑑定評価に興味を持たれた方、不動産鑑定評価を基礎からしっかりと勉強したい人は、購入されて熟読されることを勧める。
 
 発行はプログレス社(電話 03-3341-6573) 、頒価は税別で4,000円である。

 不動産鑑定士で、価格評価で使用する還元利回り、地代・家賃評価で使用する期待利回りの求め方を知らず、分かっていなく、まともに還元利回り、期待利回りを求めることが出来ない不動産鑑定士が少なく無く、そうした不動産鑑定書が堂々と大手を振って罷り通って、物議を醸しているのが不動産鑑定業界の現状である。

 『考論 不動産鑑定評価』には、還元利回り、期待利回りの求め方が、論理的に説明して記述してある。


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