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1106)丸の内のビル賃料は土地価格と4年のタイムラグ

 東京丸の内地区の貸ビルの大所有者である三菱地所の平成25年3月期短期決算書に附属するデータ分析説明書(FACT BOOK)によれば、同決算期末の丸の内地区の貸ビル賃料は、

      u当り 10,331円

である。

 この賃料は、新規賃料、継続賃料を含めた賃料である。

 前掲書に次のごとく数値の記載があった。

 (丸の内データ 三菱地所単体)
      延床面積       2,758千u 
            貸付有効面積     1,626千u
            事務所空室率            3.66%
            ビル賃貸売上高        194,203百万円

 この数値より

       ビル賃貸売上高
           ─────────  =空室率を考慮しないu当り賃料       
              貸付有効面積

が求められる。

 以前鑑定コラム830)「丸の内のビル賃料は坪当り3.5万円」の記事で求めている賃料は、上記の賃料である。

 空室率が1%前後の場合は、上記の求め方でもよいが、空室率が大きくなると、貸している部分の正確な賃料が必要となる。

 空室率を考慮した貸している部分の賃料を、下記の算式より求める。

         ビル賃貸売上高÷12
            ────────────────                        
            貸付有効面積×(1−空室率)

 2013年3月期の賃料を、上記式に代入して求めると、

              194,203,000,000÷12
          ───────────────                            
             1,626,000×(1−0.0366)

16,183,583,333 = ────────── 1,566,488
= 10,331円

である。

 丸の内地区の賃料がu10,331円と求められたが、この分析賃料は大変価値ある賃料と私は思う。

 何故かならば、丸の内地区のビルの賃料は、募集賃料ですら非公開であり、賃料水準がどれ程であるのか部外者には知ることが出来ないのが現実である。知ることが出来なかった丸の内地区のビル賃料が、FACT BOOKで公開されたデータより分析して知ることが出来たのである。

 2013年3月期と同様にして、2002年3月期〜2012年3月期までの賃料を求めると、下記である。

 
        2002年3月     u当り 10,447円
        2003年3月     u当り 10,570円
        2004年3月     u当り  9,979円
        2005年3月     u当り  8,968円
        2006年3月     u当り  9,502円
        2007年3月     u当り  9,845円

        2008年3月     u当り  9,791円         2009年3月     u当り 10,283円         2010年3月     u当り 10,542円         2011年3月     u当り 11,738円         2012年3月     u当り 10,467円         2013年3月     u当り 10,331円

 丸の内のビル賃料は、2005年3月が底である。
 それ以降上昇する。
 2011年3月が上昇のピークである。
 2011年3月以降値下がりしている。
 2011年3月のピークより、現在は、

           10,331
                  ────── = 0.880                            
                      11,738

▲12%の下落にある。

 不動産フアンドバブルのピークは2007年(平成19年)7月で、土地価格が高騰しピークを付けた。その後地価は下落している。

 三菱地所の丸の内のビル賃料は、土地価格とは4年のタイムラグがあるようだ。

 鑑定コラム830)は、空室率を考えていない賃料であるから、空室率を考えた賃料にするには、(1−空室率)で除せばよい。

 例えば2008年3月の空室率は、0.19%である。
 空室率を考慮しない賃料はu当り9,772円である。

     9,772円÷(1−0.0019)≒9,791円

 空室率を考えた場合の賃料は、u当り9,791円と求められる。下記一覧表の2008年3月期の賃料を見れば、その賃料と同じである。

 次にレンタブル比について考える。

 上記データで、

      延床面積       2,758千u 
            貸付有効面積     1,626千u

とある。

 貸付有効面積率は、

            1,626千u
                  ───────   =0.59                         
                     2,758千u

0.59である。

 この数値がレンタブル比と呼ばれる割合である。

 一般的なビルの場合は、70%前後であるが、三菱地所の丸の内のビルはレンタブル比が60%を切っている。
 それだけ、玄関ホール、廊下、階段、トイレ等に多くの面積が割かれていると云うことになる。

 貸付有効面積以外の部分、即ち上記で述べた玄関ホール、廊下等の部分で、建物全体の41%の面積を占める部分は、共用部分と呼ばれる。

 共用部分を維持管理する費用、即ち清掃費、廊下・エレベータの電気代等は、共益費と呼ばれている。

 この共益費が無ければ、ビルの廊下は埃まみれになり、電気も無いビルとなり、エレベータも動かなく、当該ビルは事務所ビルの躰をなさないものとなってしまう。

 この様な状態の賃貸ビルを貸して賃料を得る事は出来ない。

 ビルの維持管理には共益費と言うものは絶対必要なものである。

 その共益費は支払賃料に含まれて授受されている場合と、支払賃料とは別に授受されている場合がある。

 支払賃料に共益費が含まれている場合は、使用している部屋の室料部分と共益費の金額の境は曖昧である。
 曖昧であることは別に隠していることでも、悪いことでもない。
 共益費はビルの維持管理費を構成するものであることから、賃料に当然に含まれるものであり、それを明確にする必要も無いと云う考えによるものである。

 つまりこの考え方は、共益費は賃料に含まれる、賃料を形成しているということを現実に示しているのである。

 賃料(家賃)とは、賃貸建物を借りている賃借人が、建物使用の対価として、賃貸人に支払う全ての経済的対価をいうことから、賃借人が支払う共益費或いは管理費という名目の金銭は、賃料を形成するものである。

 この賃料概念が分からず、「共益費は実質賃料を形成しない」という考えでおかしな判決を下した裁判官がいたが。

 三菱地所の決算書附属説明資料からの丸の内地区賃料の一覧表を下記に記す。u当り計算は田原による。  丸の内のビルの賃貸売上高は、ここ2年2000億円を切って減少している。


年月 貸付有効面積u 空室率 ビル賃貸売上高円 u当り円
         
2002年3月 1042000 4.00% 125405000000 10447
2003年3月 1063000 6.06% 126666000000 10570
2004年3月 1140000 4.36% 130558000000 9979
2005年3月 1281000 1.74% 135454000000 8968
2006年3月 1308000 2.77% 145005000000 9502
2007年3月 1246000 0.55% 146399000000 9845
2008年3月 1415000 0.19% 165928000000 9791
2009年3月 1477000 1.09% 180265000000 10283
2010年3月 1614000 2.42% 199230000000 10542
2011年3月 1582000 2.26% 217796000000 11738
2012年3月 1605000 2.42% 196710000000 10467
2013年3月 1626000 3.66% 194203000000 10331


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