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1391) 丸ビルの減価償却後還元利回り

 丸ビルの還元利回りは、2.55%と求められた。

 この還元利回りは、キャシューフロー(現金の出入りによる会計手法、減価償却費は現金が出入りしないから非キャッシューフロー)の場合の還元利回りである。この還元利回りを、「減価償却前還元利回り」と云う。略して「償却前利回り」と呼ばれている。

 今は、この還元利回りによる不動産価格の求め方が、主流になっている。

 以前、平成バブル崩壊まで使用していた還元利回りは、減価償却前還元利回りではなかった。

 その頃まで使用していた還元利回りは、「減価償却後還元利回り」(略して償却後利回りと呼ぶ)であった。

 その還元利回りは、減価償却費を必要諸経費に入れて、純収益を求めていた。

 純収益には、減価償却費を入れていなかった。

 つまり、純収益は、減価償却後のものであった。

 こうした内容の純収益を還元するのであるから、その還元利回りは「減価償却後還元利回り」の利回りとなり、そう呼ばれていた。

 減価償却前還元利回りの対象となる純収益は、その中に減価償却費相当が利益として入っていることになる。

 土地・建物の価格は、減価償却前還元利回りでも減価償却後還元利回りで求めても、変わりが無いはずである。

 そうすると、2つの還元利回りを比較すると、同じ価格になるには、還元利回りが違うことになる。

 減価償却費相当を利益に入れている純収益は、入れていない純収益より高い。

 土地建物の価格は同じであるとすれば、純収益が高い場合の還元利回りは高くなり、純収益の低い還元利回りは低い値とならざるを得ない。

       減価償却前還元利回り> 減価償却後還元利回り

である。

 不動産の価格を、キャシューフローの場合の還元利回り、即ち減価償却前還元利回りで求める様になったのは、平成バブル崩壊後に日本に上陸してきたいわゆる禿鷹ファンドと呼ばれるアメリカを中心にした商業投資銀行が導入していた為、それに右倣えしたものである。

 日本に上陸した米欧の商業投資銀行は、取引事例比較法による不動産価格の把握を嫌い、DCF法による収益価格を重視して不動産価格を把握した。このDCF法で使用する還元利回りが、減価償却前還元利回りであった。

 平成バブル崩壊によって累積した不良債権を、米欧の商業投資銀行が、バルクセールで買い叩いた。

 不良債権には、不動産が抵当権の設定で担保されている不動産が多く含まれていた。その担保不動産が、不良債権を形成するものであるがために買い叩かれた。

 その際に大きな役割を果たしたのが、DCF法であり、減価償却前還元利回りで不動産価格を求めることが日本に一気に広まった。

 日本の大手不動産会社は、還元利回り4%以上の価格査定では売却しない姿勢を示したが、禿鷹ファンドは、その不動産からどれ程の利益(賃料)が上がるのかの視点で不動産価格を判定し、減価償却前還元利回り20%〜25%で不良債権の担保不動産の価格を買い上げていった。

 禿鷹ファンドの言い分は、債務者は貸金を返さないから悪い。保護する必要性はない。

 債権者の銀行には、不良債権を少々安くしてでも、早く処理しなければ、倒産してしまうであろうと半ば脅しをかける。

 そうして、担保設定時の価格の1/5〜1/6の価格で購入して行った。

 禿鷹ファンドと云われる由縁が、ここにある。

 米欧の企業と商売するには、日本流は通用しない。
 徹底的な合理主義によるビジネス感覚でなければ、負ける。

 禿鷹フアンドの不動産鑑定を多くは無いが行ったが、その時必ず問われたことは、

 「賃料はいくらですか。
 その還元利回りはどの様に求められたのですか。
 その根拠は。
 その価格で確実に買う人がいますか。」

である。

 話がだいぶ回り道した。

 丸ビルの減価償却後還元利回りを求める。

 丸ビルの減価償却費を経費に含めない必要諸経費は、

            16,006,309,391円×0.275 = 4,401,735,083円≒44.01億円

である。

 これに建物の減価償却費を加算する。

 建物価格は、462億円である。

 残存経済的耐用年数は、37年である。

 減価償却費は、

               462億円
            ───── = 12.48億円                                
                 37

12.48億円である。

 減価償却費を含めた必要諸経費は、

              44.01億円+12.48億円=56.49億円

である。

 賃料総収入に占める減価償却費を含めた必要諸経費率は、

                     56.49億円
                ──────── = 0.353                           
                    160.06億円

35.3%である。

 丸ビルの総収入は、160.06億円である。

 純収益は、

              160.06億円−56.49億円=103.57億円≒104億円

104億円である。

 丸ビルの土地・建物価格は、

       土地価格       4091億円
              建物価格               462億円
                計                  4553億円

4553億円である。

 還元利回りは、

             純賃料
        ─────────    = 還元利回り                        
          土地・建物の価格

の算式で求められる。

 純賃料は、104億円であった。

 土地建物は、上記より、4553億円である。

 算式に、純賃料、土地・建物の価格の数値を代入すれば、丸ビルの還元利回りは求められる。

 下記である。

                   104億円
               ────── =0.02284≒0.0228                       
                  4553億円

 丸ビルのの減価償却後還元利回りは、

                 2.28%

である。

 丸ビルの必要諸経費率、純収益、還元利回りをまとめると、下記である。

          減価償却費を含まない必要諸経費率     27.5%
          減価償却費を含む必要諸経費率       35.3%

     減価償却前純収益 116億円 減価償却後純収益 104億円
減価償却前還元利回り 2.55% 減価償却後還元利回り 2.28%

 償却後利回りが2%になるには、土地価格はあとどれ程値上がりすれば2%になるのか。

 値上がりする土地価格をX億円とする。

                    104
            ─────────  = 0.02                             
              (4091+X)+462

 この算式を解けば、Xの値は647億円である。

 求められた647億円を土地価格で除せば、地価変動率が求められる。

                    647億円
               ──────  = 0.158                              
                   4091億円

 土地価格が15.8%上昇すると、償却後利回りは2.0%になる。

 それ以上値上がりすると、2.0%を切る。

 償却後利回りが2.0%を切った場合、土地価格はどうなるか?

 償却後利回り2.0%以下で、果たして不動産投資の妙味があるであろうか。


  鑑定コラム1380)
「丸ビルの賃料の推測」

  鑑定コラム1386)「丸ビルの敷金の推測」

  鑑定コラム1387)「丸ビルの必要諸経費の推測」

  鑑定コラム1388)「丸ビルの建物価格」

  鑑定コラム1389)「丸ビルの土地価格」

  鑑定コラム1390)「丸ビルの還元利回り」

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  鑑定コラム1523)「丸ビルの還元利回りは2.51%(28年3月)」

  鑑定コラム1644)「丸ビルの償却後還元利回りが2%割れしそうだ」

  鑑定コラム1937)「丸ビルの土地還元利回り(償却後)は1.8%(2019年3月)」


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