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1392) 丸ビルの賃料、還元利回りの分析を終えて

 丸ビルの賃料は、坪当り59,000円、還元利回りは2.55%と分析した。

 およそ2ヶ月の時間を費やしたが、日本の一等地の事務所ビルの還元利回りは、2.55%と分かった。

 これは、丸ビルの賃料が分かっていれば、何も苦労することは無い。

 2ヶ月の時間をかける必要も無い。

 賃料等がオープンにされていなく、全く分からない為に、時間も掛かり、苦労したのである。

 丸の内の事務所の平均賃料は、u当り10,956円(坪当り換算36,218円)の数値を知り、これから丸ビルの賃料、還元利回りがどれ程か求めることができないものかと考えた時から、苦労が始まった。

 それを求める過程において、どの様に逡巡したかについて述べる。

 丸ビルは、丸の内にあって一等のビルである。

 最初に、正規分布Z値を利用すれば、一等のビルの要因は説明出来るだろうと判断した。

 Z値を使うには、標準偏差が必要である。

 標準偏差を求めるには、多くの賃料データが無ければ求められない。

 その賃料データも、丸の内にある事務所賃料データで無ければならない。

 丸の内は三菱村と云われるごとく、三菱地所の所有ビルばかりである。

 その三菱地所が、ビル賃料を一切公開していない。

 それ故、丸の内に所在する事務所賃料のデータそのものが無い。

 これでは、標準偏差など求めようとしても、データそのものが無いことから求められない。

 何か違う方法で、丸の内の事務所賃料の標準偏差を求める方法は無いものかと模索した。

 丸の内は千代田区内にある。

 とすると、千代田区内の事務所賃料の標準偏差を採用すれば良いではないかと、その分析に掛かった。

 賃料データは、シービー・リチャード・エリス(CBRE)が、公表している事務所募集データによることにした。

 千代田区内の事務所の平均賃料、標準偏差を求めたが、平均賃料の水準が丸の内の平均賃料と余りにも違い過ぎる。

 その賃料の違いは、万円単位の違いがある。

 千代田区の事務所賃料の平均は、丸の内の半値程度である。

 丸の内の事務所賃料は、それだけ高い。

 千代田区の中にあって、群を抜いている。

 これでは、求められた標準偏差を丸の内賃料の標準偏差としては使えない。使用をあきらめた。

 次に考えたのは、千代田区には多くの町名がある。

 丸の内も町名の一つである。

 同じ町名を冠として、丁目が5つか6つ付いている。

 同一町名の地区は、地域として同質的な要因を持っていることから同一町名を冠にしているだろうと解釈できる。

 とすると、丸の内の賃料水準と同じくする町名地区があるのではないか。

 あれば、その標準偏差が利用出来るであろうと判断した。

 同一町名の地区の事務所賃料の平均、標準偏差を求めてみた。

 結果は、ダメであった。

 丸の内の賃料水準に匹敵する賃料水準を持つ同一町名地区はなかった。

 どうしたらよいものか。

 ここで壁にぶっかった。

 しばらく時間の経過が必要であった。

 ほかの鑑定の仕事をしながら、時々、丸の内の賃料の件を思い出しながら、解法は無いものかと考えていた。

 そうした中、日本経済新聞が、年2回、オフイスビル賃料を調査して、発表していることが浮かんで来た。

 その中で、丸の内・大手町地区の賃料が、ゾーンで発表されている事を思い出した。
 

                    坪20千円 〜 55千円

が、丸の内・大手町地区の賃料である。

 坪20千円は低値、坪55千円が高値の賃料である。

 このゾーンの賃料をジッとみつめていた。

 20千円〜55千円は、丸の内の賃料を確実に反映しているものである。

 これと千代田区の賃料とを結び付けることは出来無いものか、と考えた。

 千代田区の町名地区の賃料の最低と最高の賃料比較を試みたが、これも上手く行かない。

 何か良い方法は無いものか。思案した。

 高値を低値で割った倍率(賃料倍率と呼ぶ)は、賃料の巾の大きさを示している。
 2.75倍と云っても、一つだけでは無い。高値坪2.75万円、低値坪1.0万円でも2.75倍である。沢山存在する。

 しかし、その場合、それぞれの賃料グループの平均賃料が異なる。

 平均賃料と関係あるのは変動係数である。

 変動係数も賃料の巾を示すものである。

 とすると、変動係数と賃料倍率とは、深い関係があるハズだ。

 千代田区町名地区の最高賃料を最低賃料で割って、町名地区の賃料倍数を全部求め、その町名地区の変動係数との関係を分析した。

 両者の間には、80%以上の相関関係があると分かった。

 これだけの相関関係があれば、理論的にも大丈夫であろう。

 賃料倍率と変動係数の関係式を使えば、丸の内の標準偏差が求められそうだ。

 やっと、解法が見つかった。

 こうして丸の内の賃料倍率2.75倍の変動係数は0.322と分かった。

        標準偏差
             ─────── = 変動係数                            
                平均賃料

の関係がある。

 丸の内の平均賃料は坪当り換算36,218円、変動係数は0.322と分かった。

 これから、丸の内の標準偏差は、11,662と求められる。

 標準偏差が求められれば、丸ビルは100のビルの中で2.5棟に入るビルに相当すると云う判断から、Z値は1.96となる。

 そうすれば、あとは容易く求められる。

  平均賃料36,218円+標準偏差11,662×Z値1.96 = 59,075≒59,000円

 丸ビルの賃料は、坪当り5.9万円と求められる。

 還元利回りを求めるには、今迄に身につけた知識をフル出動すれば、それ程難しくなく、2.55%と求められた。

 振り返って見れば、賃料倍率と変動係数の関係を見つけ出すことが、一番難しかったということになる。

 その関係を見つけ出せなかったら、丸ビルの賃料を合理的に導き出すことは出来なかった。

 その点で、日本経済新聞が発表しているオフィス賃料データの存在は大きかった。大変役にたった。


  鑑定コラム1364)
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