民事再生法申請に伴う病院の不動産鑑定を行った。
病院の経営の行き詰まりが増えつつあるようだ。
民事再生法申請のほか、不良債権処理のための不動産鑑定評価などでは、債権の早期取立て、或いは債務の早期返済のために、担保の不動産を早期に売却し、その売却金額で債権・債務関係を清算してしまおうとする場合の評価依頼がある。そうした場合、即時売却、3ヶ月以内に売却、或いは6ヶ月以内に売却できる不動産価格を要求されるのが多い。
不動産鑑定評価基準は正常価格の概念が中心として理論構成されているが、ではその正常価格での売却期間はどれ程かということには全く触れていない。
不動産鑑定評価基準は、平成15年1月に改正された。その改正後の不動産鑑定評価基準は、盛んに「市場性、市場性」といい、市場性の分析の大切さを説く。
市場性を考えるということは、当該不動産の売買市場の存在を考えていることである。売却を前提に価格の把握を行うのである。
ならば、売買成立する為の当該不動産の市場滞留期間は如何ほどなのか。
どれ程の時間があれば、正常価格での売買価格は成立するのか。
悲しいかな、現在の不動産鑑定評価基準には、売買価格成立のために必要とする「市場の時間」という概念が全く抜けている。
それが必要という考え方・主張も論文等に現れない。
国民・消費者から、不動産鑑定士は一体何を考えて不動産の価格を求めているのかという疑問が湧いてくるのでは無かろうか。
正常価格で当該不動産がどれ程の時間で売買成立するのかということは、さっぱり分からない。
それ故、通常の不動産鑑定で求めている価格は、ある程度の売却期間を持って不動産市場で売却する価格を考えている。
売却期間は甚だ曖昧な「ある程度」という期間である。
その期間は3ヶ月とか6ヶ月という期間での売買成立と決めてはいない。
といって無期限という訳でもなさそうである。
価格が「売却期間という要因によって影響を受けない範囲の期間」という解釈である。
そうした「ある程度の売却期間」で売買成立する価格を正常価格と認識している。
甚だ曖昧な「ある程度の売却期間」で成立する正常価格に対して、3ヶ月もしくは6ヶ月に必ず売却出来る価格という制約がついた場合、その価格を正常価格といってよいであろうか。それは区別しなければならないであろう。
早期売却という特定の条件の付いた価格であり、正常価格と区別する必要がある。
早期売却価格とは、そうした特定の目的・条件が付いて、早期に売却しなければならない価格のことを言う。
早期売却価格とは、卸売り価格であるという人がいるが、そうした要因を含むことは否定しないが、その要因だけで早期売却価格は形成されない。それ以外の価格形成要因もある。
早期売却という特定の条件の付いた価格で、条件は売却期間のみであっても、早期売却価格を取引事例比較法等より直接求めることは困難である。
正常価格を求め正常価格に対して、早期売却という特定の条件のついた要因の価格修正を行って求める方が、価格を求めやすい。
この正常価格に、早期売却という特定条件の要因の修正を行う割合数値が、早期売却価格修正率である。
民事再生法申請で要求される不動産鑑定評価額は、早期売却を条件にした価格である場合が多い。
早期売却という要因の早期売却価格修正率については、『民事再生法と資産評価』(田原ほか共著、山岸洋弁護士監修 清文社、2001年6月発行)のP199〜214の「早期売却価格修正率」の課題で、私が分析論述した論文がある。
分譲マンションの売買事例を分析して、1年間以上経っても売れ残っている分譲マンションの割合を、正規分布を使った確率論で分析してみた。
その分析によって、一つの早期売却価格修正割合を理論的に求めている。
それによれば、正常価格に対する早期売却価格修正割合は、
即時売却 0.64 3ヶ月以内 0.65 6ヶ月以内 0.67 12ヶ月以内 0.69である。