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2614) 土地公租公課より見た晴海選手村土地価格の異常安

1.東京都側鑑定会社算出の土地公租公課

@ 都側鑑定会社の5-3街区、5-7街区の開発法は鑑定基準違反である

 東京オリンピック晴海選手村土地不当廉売事件(以下「晴海選手村土地事件」と呼ぶ)は、現在東京高裁で争われている。

 東京都側鑑定会社(以下「都側鑑定会社」と呼ぶ)は、晴海選手村土地13.39万uの内の2街区の5-3街区、5-7街区で、開発法の分譲マンション価格を収益還元法で求めた収益価格を採用して、開発法価格を求めている。

 開発法は、分譲マンション価格を基本価格にして求める鑑定手法である。

 基本価格に収益還元法による収益価格を採用することは、鑑定評価基準は認めておらず、鑑定基準違反である。

 晴海選手村土地事件の1審裁判官は、都側鑑定会社の開発法が鑑定基準違反の求め方である事を見抜く事が出来ず、都側鑑定評価額は適正と判決する。

 東京都という大きな役所は悪いことをしない。大きい会社・組織は間違った事をしないという予断を持って、盲目的に都側鑑定は適正であるとする忖度も甚だしい1審判決である。

 判決の判断が間違っていること、都側鑑定の開発法価格は間違っているということを、異なった面から分析立証する。

A 都側鑑定会社の算出した土地の公租公課

 都側鑑定会社は、5-3街区、5-7街区の土地価格を開発法で求めているが、開発法価格を求める際の基本価格は分譲マンション価格で無ければならないが、その分譲価格を収益還元法によって求めた収益価格を採用している。

 その主張は賃貸建物の想定であるから、分譲マンション価格は求めることは出来ないから、収益価格を分譲マンション価格相当と判断して採用したというようである。

 それでは、収益価格を求めているのであるから、土地残余法で土地価格は求められるのであり、その土地残余法価格を5-3街区、5-7街区の土地価格とすればよいのである。

 求めた収益価格から開発法を適用して土地価格を求める必要性は無い。

 収益価格を求めるためには必要諸経費を求めなければならない。必要諸経費の中には、土地の固定資産税・都市計画税という公租公課がある。

 対象地は都有地であり、土地の公租公課は課せられていないが、都有地であるからと云って、賃貸マンションの土地の公租公課を〇円とすることは出来ない。

 周辺の民有地と同じく、土地の公租公課を必要諸経費として計上しなければならない。

 都側鑑定会社は、「周辺の固定資産税路線価を参考に査定」と記して、土地の公租公課を計上している。

 その金額は、下記である。

  イ、5-3街区   土地面積 26,300.14u
                     土地公租公課 36,600,000円(u当り1,392円)

  ロ、5-7街区   土地面積 11,355.86u
                     土地公租公課 67,830,000円(u当り5,973円)

2.土地公租公課と土地価格の関係

@ 地価の高い土地の公租公課は高い

 土地公租公課と土地価格の間には、強い相関関係がある。

 土地価格の高い土地の公租公課は高いという関係がある。

 これは、経済経験則が作りあげた経済市場原則である。

A データ分析による立証

 上記の「地価の高い土地の公租公課は高い」という経済市場原則を立証する。

 分析データの信用性から、データは地価公示価格を採用する。

 土地価格は、地価公示価格を採用し、土地公租公課は、平成31年から地価公示価格の鑑定書が公開され、収益還元法を行っている地価公示価格の鑑定書には、最有効使用の賃貸建物を想定した収益価格が求められている。

 収益還元法には必要諸経費が必要であることは前記した。地価公示価格公開鑑定書には、収益還元法に使用する必要諸経費の金額が記されている。土地の公租公課が記されている。この土地公租公課を採用する。

 晴海選手村土地は、東京都中央区に所在する。このことから、中央区の地価公示価格のデータを採用する。

 令和2年の地価公示価格のデータ採用する。

 地価公示価格は、2人の不動産鑑定士が評価している。A鑑定、B鑑定と呼ばれる。

 A鑑定の鑑定書のデータを採用する。

B 採用データの一覧

 東京中央区の令和2年の地価公示価格で収益還元法が求められている商業地、住宅地の全ての地価公示地の土地価格総額と土地公租公課総額を求める。

 例えば、中央5-1(銀座2-16-12)の地価公示地の場合、公示価格はu当り3,200千円であり、公示地の土地面積は340uである。

 公示地中央5-1の土地価格は、
       3,200千円×340u=1,111,800千円
である。

 その土地の公租公課は、5,789千円である。

 同様にして、中央区の商業地、住宅地の地価公示地の土地価格総額とその土地の公租公課総額の一覧を記すと、下記である。 


東京都中央区          
公示番号 所在 公示価格千円/u 土地面積u 土地総額 千円 土地公租公課 千円
           
中央5-1 銀座2-16-12 3270 340 1111800 5789
中央5-2 銀座6-8-3 32200 360 11592000 32705
中央5-3 京橋1-15-1 7740 1375 10642500 62102
中央5-4 銀座3-7-1 17600 290 5104000 22962
中央5-5 京橋1-1-1 22900 1948 44609200 285406
中央5-6 日本橋久松町12−8 2080 379 788320 4175
中央5-7 八重洲1-5-9 8810 316 2783960 15287
中央5-8 日本橋3-11-1 8170 1376 11241920 67201
中央5-9 日本橋人形町1-19-8 3180 121 384780 2048
中央5-10 築地5-3-3 2700 2543 6866100 33336
中央5-11 日本橋兜町13-1 5660 1105 6254300 36698
中央5-12 日本橋小伝馬町12-2 3080 149 458920 2522
中央5-13 勝どき4-2-14 2070 471 974970 1402
中央5-14 新富1-9-1 2300 207 476100 2483
中央5-15 日本橋蛎殻町1-16-11 2450 275 673750 3478
中央5-16 日本橋本町4-1-11 5900 330 1947000 11545
中央5-17 新川1-17-27 2460 195 479700 2526
中央5-18 銀座4-2-15 31000 829 25699000 116111
中央5-19 築地2-12-11 2280 340 775200 4072
中央5-20 日本橋人形町2-21-10 1890 147 277830 1416
中央5-21 新川2-12-15 2320 458 1062560 5677
中央5-22 銀座4-5-6 57700 454 26195800 115941
中央5-23 銀座7-9-19 42700 426 18190200 78614
中央5-24 日本橋茅場町2-4-6 2310 148 341880 1826
中央5-25 日本橋富沢町7-15 1600 111 177600 935
中央5-26 八丁堀1-9-7 4680 296 1385280 8191
中央5-27 銀座2-3-18 6080 105 638400 2934
中央5-28 八重洲2-10-17 13400 1724 23101600 133027
中央5-29 銀座2-6-7 43300 353 15284900 60558
中央5-30 新川1-11-5 1140 138 157320 826
中央5-31 月島3-9-10 1520 74 112480 162
中央5-32 入船3-1-13 2480 478 1185440 6086
中央5-33 京橋1-6-1 17500 2237 39147500 246428
中央5-34 日本橋人形町1-5-15 1290 107 138030 730
中央5-35 日本橋2-1-10 21500 2222 47773000 271610
中央5-36 日本橋馬喰町2-6-11 1270 128 162560 843
中央5-37 日本橋蛎殻町2-13-9 1120 140 156800 497
中央5-38 八丁堀4-8-1 3140 172 540080 2873
中央5-39 日本橋室町1-11-8 3090 297 917730 4803
中央5-40 日本橋箱崎町20-1 1280 226 289280 377
中央5-41 銀座5-4-3 49700 435 21619500 98328
中央5-42 築地4-7-5 4040 1461 5902440 30456
中央5-43 八重洲1-5-20 23400 623 14578200 88392
中央5-44 銀座5-13-16 9570 660 6316200 37240
中央5-45 日本橋室町4-2-14 2340 123 287820 1505
中央5-46 日本橋茅場町3-2-12 2870 336 964320 5168
中央5-47 築地3-12-5 1340 225 301500 410
中央5-48 入船3-8-9 1470 162 238140 305
中央5-49 日本橋本町3-2-13 3000 575 1725000 9129
中央5-50 日本橋3-2-14 6110 220 1344200 7472
中央5-51 日本橋本町4-4-2 7510 1131 8493810 50417
中央5-52 晴海2-1-40 2000 7250 14500000 77939
中央5-53 銀座8-6-20 16400 181 2968400 14350
中央 1 月島2−16−9 975 82 79950 134
中央 2 明石町5−19 1690 435 735150 1078
中央 3 勝ちどき3−4−18 1320 799 1054680 1621
中央 4 月島3−25−3 1300 558 725400 1296
中央 5 佃3−11−13 870 59 51330 83
中央 7 佃2−12−12 1280 742 949760 1464


B 回帰式

 上記データから、
      Y: 公示地土地総額 千円
      X: その土地の公租公課総額 千円
として、XYの関係式を求めると、下記である。
              Y=613720.75+171.25X ・・・・@式
                    r=0.986

 相関係数は0.986である。両者の関係は非常に高い。

 グラフに上記で求められた数値をプロットし、回帰式をグラフに書けば、下記のグラフである。



晴海2



3.都側鑑定会社の評価額の異常安

@ 土地公租公課額から求められる5-3街区、5-7街区の土地価格

 イ、5-3街区

 都側鑑定会社は、5-3街区の土地の公租公課を「周辺の固定資産税路線価を参考に査定」と云って、36,600千円と求める。

 上記@式のXに、36,600千円を代入すると、その土地価格総額が求められる。

         Y=613720.75+171.25*36,600
           =6,881,471.75千円
           =68億8147万円

 土地の価格は68億8147万円と求められる。

 ロ、5-7街区

 都側鑑定会社は、5-7街区の土地の公租公課を「周辺の固定資産税路線価を参考に査定」と云って、67,830千円と求める。

 上記@式のXに、67,830千円を代入すると、その土地価格総額が求められる。

         Y=613720.75+171.25*67,830
           =12,229,608.25千円
           =122億2960万円

 土地の価格は122億2960万円と求められる。

A 都側鑑定会社の評価額の異常安

 都側鑑定会社は、開発法のみの手法によって、5-3街区、5-7街区の土地価格を下記のごとく査定する。

     5-3街区    710,000千円  (7億1000万円)
     5-7街区     950,000千円  (9億5000万円)

 土地公租公課額から求められた土地価格と対比すると、下記である。
                        都側鑑定         公租公課税額からの土地価格
     5-3街区   7億1000万円              68億8147万円
     5-7街区    9億5000万円             122億2960万円

 都側鑑定会社の土地価格は、土地公租公課から求められた価格に対して、
     5-3街区   0.103 (7.1000÷68.8147=0.103)
     5-7街区   0.078 (9.5000÷122.2960=0.078)
である。

 両価格の間に著しい開差が生じている。

 この様な著しく低額な都側鑑定評価額が出現することは、作為的に土地価格を低く求めようとして求めない限り、あり得ないことである。

 土地公租公課と土地価格の間には、密接な関係(相関関係0.986)がある事が立証されている。その立証分析に使用した数値データは、中央区の地価公示価格とその収益還元法に使用されている土地公租公課の数値によって立証されたものであるから信頼度は高い。

 当該地の土地公租公課は、都側鑑定会社が自ら当該地の土地公租公課を求めている

 その額を求めるに際し、調査報告書に「周辺の固定資産税路線価を参考に査定」と明記していることから、調査報告書を書いた不動産鑑定士は、当該地の土地公租公課の求め方を知っている

 23区商業地の固定資産税の求め方の計算式は、東京都主税局のホームページ(https://www.tax.metoro.tokyo.lg.jp)によれば、原則として下記である。

   課税標準額  ×  税率  = 税額
      (価格×70%)

 上記を分かり易く書き直せば、
  固定資産税路線価(地価公示価格×0.7が原則)×土地面積×1.4%(税率)
 =税額

である。

 都市計画税は、税率は0.3%であるから、上記固定資産税の算式の税率を0.3%にすれば、求められる。

 画地の個別的要因や特例を考え無ければ、原則として土地公租公課の税額の求め方は、上記の算式である。

 都側鑑定会社は、5-3街区の土地公租公課を3660万円、5-7街区の土地公租公課を6783万円と求めていることから、当該地の更地価格(固定資産税路線価を0.7で除せば更地単価が求められる)がどれ程かおおよそ知っていたと充分推測される

 都側鑑定会社が求めた5-3街区、5-7街区の土地公租公課の金額を、前記回帰式に代入して求められた上記両街区の適正土地価格は、5-3街区が68.8億円余、5-7街区が122.2億円余である。

 これら適正土地価格が算出される事が、自らが土地公租公課を算出していることから、充分推測される状態において、都側鑑定会社が、5-3街区の土地価格を7.1億円、5-7街区の土地価格を9.5億円と評価した行為は、不動産鑑定評価を冒とくする行為であり、不動産鑑定士の地位と名誉を甚だしく傷付け、貶めるものである

 加えて、土地調査報告書(実質的には不動産鑑定書)を利用する人、読む人を著しく欺く行為である

 この行為は専門職業家として許されざる行為である。

 都側鑑定会社は、開差の原因は「オリンピック要因」によるものであり、求めた土地価格は適正であると、当然、反論主張して来るだろうが、その「オリンピック要因」というものが甚だ胡散くさいものである。

 オリンピック終了後に、オリンピックと全く関係無い50階建マンション2棟(1453戸)が建つことをオリンピック選手村要因と主張する論理は、論理として通用しない。

 この様な、東京都及び都側鑑定会社の主張するオリンピック選手村要因の存在で土地価格が著しく低くなるという主張の正当性など全く無い。

 東京都及び都鑑定会社が主張する「オリンピック要因」は、建物に関するものであり、土地価格に減額影響するものではない。

 5-3街区、5-7街区の土地価格が、土地公租公課より求められる適正土地価格の0.103、0.078の価格になる事などあり得ない。この事については、鑑定コラム2148)の最後の方で記した。

 都側鑑定会社の土地評価額は失当も甚だしい。

 晴海選手村土地事件の1審判決の裁判官は、不動産鑑定評価の知識が全く無く、見事に都側鑑定会社の鑑定に騙されて、「求めるべき価格は正常価格であることは出来ない」(判決文P83)とか、「鑑定評価基準に定める4種類の価格のいずれにも当たらない価格を求めるべきものである」(判決文P84)と、とんでもない事を判決に書いている。これらの判示は取り消されるべきものである。

 晴海選手村土地事件の1審判決は失当も甚だしい。


  鑑定コラム2148)「土地価格総額と土地公租公課総額との相関関係は大変高い」

  鑑定コラム2587)「晴海選手村土地控訴審採用意見書の『中古マンション値づけ法』の駅距離修正率への激しい批判について」

  鑑定コラム2611)「(開発法価格+家賃=鑑定評価額)という不動産鑑定評価額は無い」

  鑑定コラム2613)「家賃が土地価格だとした誤りになぜ気づかなかったのか」西田紘一氏寄稿」

  鑑定コラム2153)「東京都敗訴の固定資産税の最高裁判決」

  鑑定コラム2616)「晴海選手村の市街地再開発事業には都市再開発法108条2項は適用出来ない」

  鑑定コラム2621)「資産評価政策学会 2023年度シンポジュウムの論者の一人として参加して」


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