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366)宇土市はどこにある

 宇土という名前の都市に行ってきた。
 宇土は「うと」と読む。

 私は宇土市という都市の名前も、どこに所在する都市なのか全く知らなかった。

 宇土市は熊本県にある都市で、熊本市の南側に隣接する市であった。
 人口は約3.8万人と小さい都市である。

 地方都市の多くが、人口減少、世帯数の減少に悩んでいるのであるが、この宇土市は逆に人口・世帯数が共に増えているのである。

 熊本市に隣接し、熊本市の中心部に車で20分程度で行けるという交通の便の良さによって、熊本市から宇土市に移り住む人々が多くいる為であろうか。

 宇土市に何故行ったのか。
 観光で行ったのでは無い。不動産鑑定の仕事があって訪れたのである。

 宇土市の住宅地の土地価格は、国交省が発表している2007年1月1日現在の地価公示価格によれば、公示価格は4つしか無いが、下記の通りである。

    宇土市門内町    u当り 48,000円
    宇土市境目町    u当り 35,300円
    宇土市栄町     u当り 41,000円
    宇土市走潟町    u当り 17,700円

 住宅地の平均価格は、u当り35,500円である。
 その4つのデータの宇土駅からの平均距離は2,650mである。

 4つのデータの標準偏差というのも妙なものであるが、標準偏差は11,200(円)である。

 標準偏差の1倍の間に68%のデータが存在するというのが、統計学の正規分布の法則である。

 このことから、宇土市の良好な環境、交通利便性の良い住宅地の価格は、
      35,500円+11,200円=47,700円
と推定される。

 逆に、駅から遠く、或いは居住環境のあまり良くない住宅地の価格は、
      35,500円−11,200円=23,300円
ということになる。
 宇土市の環境の良い住宅地、環境のあまり良くない住宅地がどこなのか私には分からないが、上記で推定される価格は、宇土市の現実のそうした環境の住宅地の価格に当たらず遠からずか。或いは全く的はずれの価格か。

 もう一つ上記分析から一つのヒントが得られる。
 宇土市の人口は3.8万人である。
 その住宅地の平均価格は、u当り35,500円と求められた。

 人口の多い都市は土地需要が多く、住宅地の価格は高いであろうと推測がつく。
 では、住宅地の価格と都市人口との間に、どの様な相関関係があるのか分析して、土地価格の現象を検討することも面白い。

 人口が減少すると、地価はどれ程下がるのかということも、逆に分かろう。

 宇土市に工業団地がある。
 宇土市の土地開発公社が分譲販売している。

 一つの工業団地は完売したという。その分譲価格はu当り14,800円程度である。
 もう一つの工業団地は現在売り出し中で、土地価格はu当り12,000円程度である。

 宇土市の二つの工業団地価格から、工業地の土地価格を平均値をとって、u当り13,400円とする。

 工業団地の価格と住宅地の価格の割合関係は、
      13,400円÷35,500円=0.377≒0.35
工場地の価格は、住宅地の価格の35%の水準と言うことか。
 或いは、住宅地の品等の良くない住宅地の価格から見ると、
      13,400円÷23,300円=0.575≒0.6
程度の割合関係と言うことであろうか。

 宇土市は、工業団地進出の企業への特別優遇措置として、固定資産税の3年間の免除等を行うと言っている。
 工業団地を分譲する宇土市土地開発公社及び宇土市は、固定資産税の3年間の免除をすれば、工業団地を購入する或いは進出する民間企業があると、どうも考えているようである。

 企業が工場地購入の限界土地価格は、工業生産性から考えてu当り20,000円である。

 宇土市の分譲土地価格はそれ以下であり、工場地の価格水準としては高い価格とは思われず、購入する企業は充分あると思われる。

 しかし、今一度工業団地築造の原点に返って考えてみると、何故、農免道路沿の土地を工業団地にしたのか。

 それは、市民の雇用の機会の確保及びその増大、進出企業の事業所得による税収では無いのか。

 一方、進出しようとする企業にとっては、固定資産税の3年間の免除は、免除の無い条件に比すれば有り難いことである。
 しかし、固定資産税が3年間免除されるから、企業進出しょうとする程 、企業は甘い考えなど持っていない。

 3年過ぎた4年以降はどうなるのと軽くいなされる内容である。

 企業にとって工場を造るには、土地購入費、工場建物の建築費、設備機械装置の購入等多くの資本投下する金が必要である。

 工場建物の建設費、設備機械の購入はともかくとして、土地購入に多額の費用を投下することは出来ない。

 その原因の一つに、建物・機械装置は減価償却費として投下資本を回収出来る方法があるが、土地には減価償却というものが無い。
 土地に投下した費用を資本回収するには、極端なことを言えば、土地を売却しなければ、投下資本の回収は出来ないのである。

 土地への投下資本の回収は、購入した土地を売却する以外に方法が無いとすれば、企業経営者は土地購入して工場建設に積極的に動くであろうか。
 土地投下資本の長期凍結状態を経営者は嫌うのである。

 土地投下資本が長期凍結しなく、工場を建てる方法が無いのか。
 それがある。

 土地の事業用定期借地権制度による工場建設である。
 この制度を利用すれば、工場建設企業は土地を購入する必要が無い。
 つまり、工場用地を取得購入するために、銀行より土地購入資金を借り入れる必要が無い。

 土地利用の為には、定期借地権の地代を支払えば良い。
 地代は経費計上でき、費用として処理出来る。

 土地所有者にとっては、土地を事業用定期借地権にすることによって、期間到来すれば、土地は更地として戻って来る。
 そしてその間は、一般の借地権の地代よりも高い地代が入ってくる。

 宇土市土地開発公社の場合、土地売却額と固定資産税収入という、自分達にとっては甚だ都合のよい条件での土地利用計画に固守することなく、土地利用者の立場で、土地の有効利用を考えて見ることだ。

 事業用定期借地権では、土地売却額も固定資産税も入って来なくて、市側は不利で損だと考えがちであるが、その考えに固守して、5年、10年も土地購入者が現れない場合の損得はどうであろうか。

 いつまで更地で放置しているのであろうか。

 事業用定期借地権であったとしても、市側に不利になるものでは無い。
 定期借地権地代として、得べかりし土地売却額及び固定資産税相当以上の金銭を、土地利用する企業から、長期間かかるが受け取ることが出来るのである。

 もっとも、土地を借りる企業が倒産しないしっかりした経営を行う企業に貸すことが、大前提であるが。

 企業は生じっか土地を所有すると、減損会計によるオフバランス・オンバランスを考えなければならない。

 企業は土地を購入する資金が長期間凍結することよりも、土地購入資金相当が、地代と言う経費で処理出来る方法の方を選択する。そして土地購入資金相当を他の投資にまわして、資金の回転を多くして利益を多く稼ぎ出そうと考える。

 この企業側の経済行為の考え方を、宇土市に限らず、売れなくて売れ残っている開発工場用地を抱え込んで赤字状態になっている他の土地開発公社は、もっと考えてもよいでは無かろうか。

 最後に一つ。これは宇土市には関係無いが、熊本空港が熊本市中心部より遠すぎる。
 新しい空港であるが、熊本中心部より空港まで行くのに1時間を超える。

 空港というものは、都市の近くにあってこそ存在価値が高まるのであり、都市中心より車で1時間近くかかっては、空港の存在意義が薄れる。

 誰が空港建設の位置を決めたか知らないが、空港設置選定の思想がどういう理論的合理性に裏付けられた思想なのか、そもそもしっかりした思想そのものがあるのかと思われ、私には甚だ疑問符がつけられる。

 広島の新空港も広島中心部から遠いが、熊本空港はそれ以上の遠さである。


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