○鑑定コラム
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平成23年12月9日に最高裁は、ゴルフ場のクラブハウス・寄宿舎の建物の固定資産税課税評価額は時価をオーバーしているとして、需給事情による価格修正58%を行った一審判決、それを支持した二審の判決を支持し、上告を棄却した。
これにより、一審、二審の判決は確定した。
二審は、一審の判決を全面的に支持した。
最高裁は二審の判決を支持したことから、一審の考え方を最高裁は認めたということである。
案件は、島根県にあるゴルフ場の土地建物の固定資産税評価額が高すぎると言って、ゴルフ場会社が固定資産税を課税する町を訴えた事件である。
判決は、土地の固定資産税課税評価額は適正な時価をオーバしていないから、土地の課税は適正であるとしたが、ゴルフクラブハウス、寄宿舎の建物の課税評価額は適正な時価をオーバーしており、オーバーしている部分の課税は違法であるとしたものである。
事件番号等は、次の通りである。
一審 松江地裁 平成22年4月26日判決 事件番号平成18年(行ウ)第12号
二審 広島高裁松江支部 平成23年1月26日判決 事件番号平成22年(行コ)第3号
三審 最高裁第二小法廷 平成23年12月9日
事件番号 平成23年(行ツ)第164号 棄却
事件番号 平成23年(行ツ)第165号 棄却
事件番号 平成23年(行ヒ)第167号 不受理
裁判長裁判官 竹内行夫
裁判官 須藤正彦
裁判官 千葉勝美
訴訟の請求内容、判決の詳細は、省略する。
上記事件番号等を記したことから、それから判決文を取得することが出来るであろう。判決文は各自で読まれたい。
私が重要と思った点のみ採りあげて論ずる。
固定資産税の課税評価基準は、需給事情による減点補正の算出方法を、
「需給事情による減点補正率は、建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋等について、その減少する価額の範囲において求めるものとする」
と定めている。
そして、その需給事情による減点補正が行える建物の条件として、下記の3つを挙げている。
@ 草葺の家屋、旧式のれんが造の家屋、その他間取り、通風、採光、設備の施工等の状況からみて、最近の建築様式に適応しない家屋で、その価額が減少すると認められるもの。
A 不良住宅地域、低湿地域、環境不良地域その他当該地域の事情により当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋。
B 交通の便否、人口密度、宅地価格の状況等を総合的に考慮した場合において、当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋。
課税行政体の町は、本件建物は上記いずれの条件にも該当しないことから需給事情による減点補正は必要ないと主張した。
しかし判決は、町が本件建物に需給事情による減点補正を行っていないとして、需給事情による減点補正は行うべしとする。
そして需給事情による減点補正率は、積算価格の58%であると判示する。
判決が云う本件建物の需給事情による減点補正はどういうものなのか。
ゴルフ場クラブハウスの需給事情による減点補正については、裁判所鑑定人の鑑定書に依拠して、次のごとく述べる。
「<1> 本件クラブハウスは、本件ゴルフ場と一体利用されて初めて機能性を発揮することが出来る建物であり、ゴルフ場から分離した場合には利用者が極めて少なく、他の転用の可能性が考えられないため、市場性は低く、需要はゴルフ場の需給動向に大きく左右されること、
<2> 本件ゴルフ場は、島根県の山間部にあり、冬場の1月から2月には閉鎖期間となり、12月でも積雪が多い場合は閉鎖されること、
<3> 本件ゴルフ場の付近に、集客力のある著名な観光施設は少なく、都心部からの距離からしても集客力が弱いことがそれぞれ認められ、これらによれば、本件クラブハウスは、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋に該当し、需給事情による減点補正を行う必要があるというべきである」
という。
また寄宿舎の建物についても、裁判所鑑定人の鑑定書に依拠して、次のごとく述べる。
「<1> 本件寄宿舎は、ゴルフ場の従業員寄宿舎として使用されているところ、本件寄宿舎の需要はゴルフ場の需給動向に大きく左右されるが、本件ゴルフ場の利用者は標準値よりも少なく、冬季の閉鎖期間があるなど、ゴルフ場としての需要が高いとは言えないこと、
<2> 本件寄宿舎について地元企業等の従業員宿舎としての利用を考えたばあいにおいても、A町(注 筆者がA町と変換する。以下同じ) においては、従業員宿舎を購入して従業員を増加する見込みのある地元企業の存在が多いとはいえず、また、本件寄宿舎の位置する島根県A町においては、人口、世帯数ともに減少傾向にある過疎地であり、商業、工業ともに事業所数、商品販売額、製品出荷額は少なく、全般的に減少傾向を示しており、今後も大幅な増加を見込むことは難しいことからすると、町外からA町への企業進出が増加することも期待出来ないこと、
<3> A町内に民間アパートも見受けられず、賃貸住宅への入居者は極めて少ない地域であり、一般の賃貸用アパートとしての利用も考えにくいこと、の事実が認められ、以上の認定事実を総合すると、本件寄宿舎の需要は、本件ゴルフ場の経営企業を除き極めて少ないと云うべきであり、本件寄宿舎は、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋に該当し、需給事情による減点補正を行う必要があるというべきであり」
と言う。
こうした理由から、判決は、裁判所鑑定人不動産鑑定士が判断した需給修正率58%を了とし、積算価格にその割合を乗じた価格が建物価格の時価であるとする。
ではこの58%の修正割合は、どのようにして求められたのか。
判決文を読んでも、私には、どうして58%なのか分からない。
58%はどのようにして求められたのか、私にはさっぱり分からない。
判決文に出て来る修正率として、次のものがある。
「当審鑑定は、上記事情を踏まえた上、減価修正として、建付減価、物理的減価28%、機能的減価20%、経済的減価30%を認め、本件各土地の積算価格を8億6802万8529円、取引事例比較法及び収益還元法(直接還元法、DCF法)で算定される評価額を鑑み、原価法による積算価格に調整率58%を乗じた鑑定評価額5億0345万6548円としており、合理性が認められる。」
と述べている。
58%はここで出て来る。
と言うことは、ここで58%は求められているのであろうか。
建付減価、物理的減価 28%
機能的減価 20%
経済的減価 30%
より求められたと考えられる。
この数値を使うと、
(1−0.28)×(1-0.2)×(1-0.3)=0.4032=40.32%
と求められる。58%にはならない。
裁判所鑑定人の鑑定書を見ることが出来ないことから、私には58%がどうして求められたのか、再現検証することが出来ない。
そもそも、土地価格に上記3つの減価が発生するのであろうかと云う疑問が私には生じ、かつ理解しがたい。
建付減価とは、建物が建っていることによって、土地価格の価値が下がるということであるが、ゴルフ場の建物と云えば、クラブハウス、倉庫、寄宿舎等であるが、それが存在することがゴルフ場の土地価格にマイナスの影響が出るとは信じがたい考え方である。
ゴルフ場にクラブハウスは、必要無いと云うのでもあろうか。
物理的減価とは何か。
土地の物理的減価は、土砂崩れや池の水の溢水によって地盤がゆるんでいるとかゴルフ場の破損等による減価であろうが、当該ゴルフ場にその様な破損が生じているのか。
生じておれば、ゴルフ場としての営業は出来ないであろう。
機能的減価とは、ゴルフ場として使い勝手が悪く、プレーに支障が出るとか、費用がかかり過ぎるということになるが、当該ゴルフ場は20%の減価になるような機能的減価があるのであろうか。
土地の経済的減価とは何か。
これら減価によって需給事情の減点修正が必要であり、それが0.58であるようだ。
土地にかかるこの需給事情の減点修正が、建物にも同様に影響を与え、クラブハウス、寄宿舎にも行われている。
7億2026万8997円×0.58=4億1775万6018円
7億2026万8997円は、A町のクラブハウス建物の課税評価額である。
0.58は、具体的算出根拠がさっぱり分からない需給事情の減点修正率である。
4億1775万6018円がクラブハウスの適正時価であり、この価格をオーバした部分が違法と判決は云う。
違法な金額は、
417,756,018円−720,268,997円=▲302,512,979円
である。
この金額に、固定資産税率1.4%を乗じた金額の何年分かを、町はゴルフ場会社に返さなければならない。
民事の損害賠償では利子が付くが、本件にも利子が付くのでは無かろうかと思うが、それについては、私ははっきりとは分からない。
需給事情の減点修正率58%は、上記した建付減価、物理的減価28%、機能的減価20%、経済的減価30%より求められているとすると、それは建物価格の減価修正の二重減価でないのかという疑問が生じる。
このことに関して、原告側(ゴルフ場の会社)は控訴審の控訴理由として次のごとく云う。
「原判決は、原審鑑定には合理性があるとしているが、原審鑑定は観察減点法で既に「市場性の減退による経済的減価」を減価率に反映しているのに、同一事実を再度「需給事情による減点補正」の対象としている。すなわち、原審鑑定は、同一の事実を二重に減価するという誤りをしている。」
と主張している。
私は原審鑑定書を見ることは出来ないが、その鑑定書を見ている代理人弁護士が上記主張をしていることから、原審鑑定書は同一事実について二重減価をしているようである。
建物価格は積算価格では、
再調達原価−減価修正=建物価格
と求める。
この減価修正は、物理的減価、経済的減価、機能的減価、観察減価の各要因修正によって行う。
再調達原価から、上記要因の減価修正額を減額したものが、価格時点の建物価格である。
本件の建物価格はそうして求められており、その金額が720,268,997円である。
それに、建付減価、物理的減価28%、機能的減価20%、経済的減価30%を根拠にした需給事情の減点修正率58%を乗じることは、正に二重減価そのものではなかろうか。
本件の裁判では3つの不動産鑑定書が提出されている。
原告側、被告側そして裁判所鑑定人の鑑定書である。
この中で、裁判所は裁判所鑑定人の鑑定書のみ信用し、その鑑定を疑うことも無く、判決に採用している。
3人の不動産鑑定士の力量の違いはあるとしても、裁判所鑑定のみ全面的に信用する裁判官の姿勢には、私は異議を申し立てる。
3つの不動産鑑定書を読み比べてみて、その中から最も信頼出来る鑑定書を採用すべきであろう。
裁判所鑑定が間違っていたら、それに依拠している判決も間違っているということになってくる。
私も裁判所の鑑定人として多くの鑑定書を裁判所に提出して来た。
また、裁判所鑑定人の鑑定書も多く見てきた。
裁判所鑑定人の鑑定だから全て適正であるとは言えない。
適正で無い鑑定書も多く見てきた。
裁判官は、不動産鑑定書の内容をよく吟味する必要があると私は思う。
判決は、裁判所鑑定の積算価格が、ゴルフ場の客観的な交換価値を把握する方法として合理性を有しているとして、この価格を採用する。
そして他の鑑定書が採用している取引事例比較法、収益還元法の価格を否定する。
取引事例比較法(比準価格)は、取引に係る主観的・特殊的な事情を排除することが難しいと云って否定する。
収益還元法(収益価格)は、ゴルフ場経営者の能力如何で価格の変動を生じる可能性があることから、原価法(積算価格)に比較して価格の信頼性は低いという。
本件原告が強く主張し、原告側鑑定が採用した取引事例比較法の取引事例は、原告が行った対象ゴルフ場会社の株式売買による事例であり、取引事例としては不適切であると私は思う。
ゴルフ会社の株式の売買による取引事例で無く、ゴルフ場不動産の第3者の売買による取引事例は、事例としての信頼性は高く、不動産市場を反映した価格であると言える。
そうした取引事例の比較による比準価格を否定するものでは無い。
判決は、ゴルフ場の収益価格を、
「ゴルフ場経営者の能力如何で土地の価格に変動を生じる可能性のあることから、人的事情を捨象することが難しく、原価法と比較して想定要素が多いことからしても、土地の客観的な交換価値を把握する方法として適切であるとはいえない。」
と云って否定する。
しかし、この裁判官の判断は、誤解も甚だしい。
価格の発生そのものを考えれば、収益あっての価格である。
極端なことを云えば、収益が発生しないところに価格は発生しない。
固定資産税は、土地の担税力に注目する。
このことから考えれば、収益還元法による土地価格こそが、土地の担税力がどれ程あるのか知ることが出来る価格であり、且つ担税力を担保する価格である。
ゴルフ場の収益還元法を否定する裁判官の考え方は、固定資産税のいう土地の担税力を否定しかねないものであり、根本的に間違っている。
ゴルフ場の鑑定評価においては、積算価格は一応求めるが、積算価格は価格決定には全く採用されない。
収益還元法の価格が、ゴルフ場の鑑定評価額の中心であり、ほぼその価格が鑑定評価額となる。
ゴルフ場の取引も、収益価格を中心にして取引される。
積算価格でゴルフ場を購入する企業人はいない。
積算価格でゴルフ場経営会社に、ゴルフ場を担保にしてお金を融資する銀行はない。
そうした現実を全く無視して、積算価格がゴルフ場の適正価格であると信じ込んで、ゴルフ場の積算価格が正しいといくら主張しても、その主張は経済合理性を持たず、説得力も信頼性も無い。
そうした現実の市場の価格形成を反映していなく、信頼性の乏しい積算価格に、需給事情による減点補正をどれ程行っても、求められた価格が市場を反映した適正な時価であると云うことにはなり得ない。
繰り返すが、市場で取引され、価格形成されるゴルフ場の価格は、収益価格を中心にした価格である。
より分かり安くゴルフ場の価格形成を云えば、売上高の2倍前後がゴルフ場の取引価格である。
本件のゴルフクラブの直近3年間の利用者は、
平成16年 11,854人
平成17年 21,370人
平成18年 23,129人
平均 18,784人
である。
一人当りの利用料金を、食事代も入れて6,000円とすれば、収入は、
6,000円×18,784人=112,704,000円
である。
収入の2倍をゴルフ場の市場価格とすれば、
112,704,000円×2=225,408,000円≒230,000,000円
2.3億円が対象ゴルフ場の現実の市場価格である。
ゴルフ場の市場価格が2.3億円であるのに、土地の価格が8.6億円で需給事情による減点補正0.58をした5.0億円が土地の適正時価だとか、建物の価格が7.2億円で需給事情による減点補正0.58をした4.1億円が建物の適正時価だと云っていることなど、何をトンチンカンなことを論じているのかと云えよう。
ゴルフ場の収益価格がゴルフ場の市場価格を形成するのであり、積算価格はゴルフ場の市場価格を形成する価格にはなり得ない。
ゴルフ場の市場価格が2.3億円であることを知って、収益価格と積算価格の乖離がどれ程あるのかを知れば、積算価格に0.58の修正をして求められたのが、適正な時価であるという判断など、現実から遊離した机上の空論的な判断であり、ナンセンスな判断であると分かるであろう。
ゴルフ場の土地建物の課税評価額の決定基準方針は、根本的に考え直すべき時期にあると私は思う。
(追記) 平成25年10月6日 アクセスから見る固定税への不信
アクセス記事の殆どが過去数年前の記事であるが、最近の記事でアクセスが多いのは、固定資産税に関するもので、「車返団地事件」と、「需給事情」に関する記事であった。鑑定コラム1101)、1103)、933)である。
「需給事情」の関心に伴ったのか9年前の2004年1月に発表した建物価格の課税価格に関する鑑定コラム142)と、ゴルフ場の固定資産税に関する鑑定コラム174)のアクセスも目立った。
固定資産税納税者は勿論のこと、課税する側の各市町村の固定資産税税務課も興味を持ったことからアクセスが増えたのか。
これら固定資産税に関する記事へのアクセス傾向から判断すると、人々の固定資産税への厳しい目が、課税する役所側に注がれつつあるのではなかろうかと思われる。
固定資産税に関する訴訟を2件税務課が抱えたら、税務課はまず間違い無くパンクし、税務の事務は確実に滞り、税務課員の増員が必ず必要になる。
裁判関係の為の訴訟の書類造りは、半端な仕事ではない。
課員からは、何のためにこんな仕事に時間を割かなければならないのかという不満が必ず発生する。
増員の課員の給料はどこから?
代理人弁護士の費用はどこから?
訴訟関係の出費は大変な金額になる。
それが3〜4年続く。
それらの費用は、全部税金である。市民、町民は怒るであろう。
「車返団地事件」については、不動産鑑定士の責任は重く、深く反省し、不動産鑑定士は専門家として襟をただす必要があろう。
俺には関係ないょとせせら笑っていると、納税者住民から不当鑑定で国交省に措置請求されることになりかねないょ。
( 鑑定コラム1125)から一部転載)
鑑定コラム174) 「ゴルフ場の固定資産税は高すぎる」
鑑定コラム62) 「ゴルフ場の減損会計」
鑑定コラム142) 「固定資産税建物基準で求められた建物価格は本当の適正な時価か」
鑑定コラム934) 「東日本大震災で業績悪化 ゴルフ場売却」
鑑定コラム435) 「3つのゴルフ場の売買価格」
鑑定コラム463)「ゴルフ場の鑑定評価に、収益還元法は昭和53年に既に使用されていた」
鑑定コラム464) 「ゴルフ場の売上高を還元利回りで除すとゴルフ場の収益価格が求られるのか」
鑑定コラム940) 「ゴルフ場が所在する市町の税務課がアクセスしているのであろうか」
鑑定コラム951) 「ゴルフ場利用者は5月が最も多い」
鑑定コラム1101)「破棄差戻 春名鑑定士よくやった」
鑑定コラム1103)「市町村税務課で今何が起こっているのか」
鑑定コラム129)「本間ゴルフの阿蘇のゴルフ場売却」
鑑定コラム1989)「ゴルフ場売買例」
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