小規模人数に依るセミナー形式を含めて、ゴルフ場の不動産鑑定評価についての講演の講師を、今迄に6回行ってきた。
最初は100人規模のセミナーであったが、講演を聞きたいという人が五月雨的にあり、12〜15人前後のセミナーを5回開いてきた。
2004年4月21日に、7回目のセミナーを開きたいと開催者のプログレスの担当者はいう。そのセミナー募集をしたところ定員がオーバーしてしまい、そのため、オーバーした人達のために5月にも開きたいという。結局2004年5月13日に8回目のゴルフ場のセミナーを開くことになってしまった。
テキストは1回目と2回目以降は異なるが、話す内容は殆ど同じである。
参加者は不動産鑑定士が多いが、回を重ねるにつれ、それぞれ違う業種の人々の参加が増えてきた。ゴルフ場を造った大手建設会社の担当者、建設に金を出した都市銀行の人々、競売でゴルフ場を買った人、民事再生法でゴルフ場を買った企業の人、ゴルフ場の売買依頼を受けている不動産会社の人、投資コンサルタント、ゴルフ場を所有している上場会社で減損会計に直面している経理担当等の人達である。
セミナーを終えて、名詞交換して、質問や互いの意見の交換の時間を設けているが、その時の質問する人はゴルフ場を造った人、それに金を貸した人、ゴルフ場を運営している人、売ろうとしている人達で、いわばゴルフ場のプロの人々である。その人々が悩んでいる問題の質問である。
講師の私の方が返答するにたじたじとなる内容ばかりである。それぞれに満足出来る回答が出来ない始末である。
200億円近くの金でゴルフ場建設工事をした土木技術者にとって、そのゴルフ場が20億円にも満たない市場価値しか無いと聞けば、頭を抱え込まざるを得ないであろう。
当然、本当にそんな価値しか無いのかという、半端自らを納得させる質問が来る。造成計画を立て、土量の計算、修景、設計図通りに造る為に工事を指揮監督した当人にとっては、それら造成工事費を全く無視し、ゴルフ場の売上高のみによって決められるDCF法の収益価格には同意しかねるであろう。
しかし、かかった費用200億円で、現在そのゴルフ場を買う人がいるのかとなると、100%の確率でいないことが、自身も分かっており、売上高によるDCF法によって形成される市場価格を認めざるを得なくなる。
落胆した顔を見るのは気の毒である。
不動産鑑定士の中で、なかなか理解してもらえないのが、ゴルフ場の純収益の全てが不動産に属するものでなく、その幾ばくかが経営に属するものであるという考え方である。
ゴルフ場の収益価格のもとになっている数字は、プレー代等の売上高である。これはゴルフ場経営という企業収入である。
その収入から、コース整備費等の諸経費を差し引いて、純収益を求めるのであるが、その純収益は企業収益である。
その企業収益のうち、不動産に配分される収益を求めて、それを資本還元してゴルフ場の土地建物の価格を求めるのが不動産鑑定である。
企業収益をそのまま資本還元して得られた価格は、ゴルフ場を経営する企業の価格である。それは公認会計士の求める範囲のものであり、不動産鑑定士は企業の所有する土地建物(不動産)の価格を求めるものである。公認会計士の求める価格とは性質を異にしている。
こうした考えを持てば、企業の純収益から経営に属する利益を控除しなければならないと思うのだが。
ゴルフ場を一つだけでなく、二つも三つも持って経営しているゴルフ会社があるとすると、その経営者報酬及び本社の経費はどこから出てくるのか。
それぞれのゴルフ場の純収益の全てが、それぞれの当該ゴルフ場に全て属しているとなってしまったら、経営者報酬及び本社経費は一体どこから出てくるのか。経営者及び本社そのものが存在し得なくなる。
経営者報酬及び本社の存在を考えれば、各ゴルフ場の純収益より経営に配分される利益を認め無ければならない。それが複数のゴルフ場を持つ企業の経営者報酬及び本社経費になるのである。
こうした点から、ゴルフ場の売上高からの純収益より経営に属する利益を控除しなければならないと説明するのだが、初めてこうした分析方法を聞く不動産鑑定士が多いためか、なかなか理解してくれない。
「その様な求め方の不動産鑑定書なぞ見たことがない。
ゴルフ場企業の純収益をそのまま資本還元して、ゴルフ場の収益価格を求めるのが一般的な求め方である。そのようにして収益価格を求めている鑑定書が殆どであるし、鑑定の実例を掲載している書物も、その様な求め方の鑑定実例を載せている。
田原氏のいう経営配分した純収益を資本還元して、ゴルフ場の価格を求めることなど誰も行っていない。田原氏の求め方こそ間違っている求め方だ」
と反論してくる不動産鑑定士もいる。
新しい求め方だからこそ、誰もやっていないのである。
誰もやっていないから間違いであるという論理は通用しないのでは無かろうか。その論理が罷り通ると、いつまで経っても不動産鑑定の進歩が無い。
進歩すると云うことは、新しい求め方に進むと言うことであり、当然その時には誰もやっていないのである。ゴルフ場の経営配分利益を控除して求める価格の求め方は、まさにその状態に有るのである。
仕方が無いから、ゴルフ場を賃貸する例を出す。現実にゴルフ場を賃借して経営しているゴルフ場も有る。
その賃料収入の場合なら、経営に配分する必要は無いと説明すると、その考え方は、賃貸ビル、賃貸マンションで行っているため、不動産鑑定士はすぐ理解する。
「ゴルフ場の賃貸収入とゴルフ場のプレー収入と同質ですか」
と問いかけ、考えさせると、収益の違いに気づき、やっと経営配分利益の必要性に理解を示してくれる。しかし、それも渋々である。
それでも尚、経営利益配分をする必要性は無いと主張する不動産鑑定士は中にはいる。
企業の収益分析から不動産の価格を求めるということを全く行ってこなく、その分析手法の研究、ノウハウの蓄積を怠ってきた現在の不動産鑑定士のもろさと底の浅さをまざまざと見せつけさせられる。
その実情の姿に付いて、本『鑑定コラム』2)の
「利益の10%の賃料という面白い賃貸契約の事例」
の中で少し述べている。
又、その記事に関連して同17)
「洞察力に脱帽・不動産配分利益」
の記事もある。この記事を読むと不動産鑑定士の中には、優れた判断力を身につけている人がいるものだと頭が下がってくる。
なおゴルフ場に関する記事の鑑定コラムには次のものがあります。
鑑定コラム 29)
「川奈ゴルフ場の価格」
鑑定コラム 62)
「ゴルフ場の減損会計」
鑑定コラム 91)
「日本のゴルフ場数は2067ヶ所」
鑑定コラム 129)
「本間ゴルフ場の阿蘇のゴルフ場売却」
鑑定コラム 167)
「ゴルフ場の取得価格と予想売上高」
鑑定コラム 174)
「ゴルフ場の固定資産税は高すぎる」
鑑定コラム 198)
「ゴルフ場の売却が続く大手不動産会社」