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268)定期借地権の地代

 東京の超高級住宅地の土地を売却するのでなく、定期借地権を設定して賃貸借する場合の地代の評価依頼があった。

 定期借地権とはどういうものか。
 簡単に言えば、借地契約した土地が借地期間が到来したら更地にして返すことを約束した借地権である。
 一般定期借地権とか事業用定期借地権などがある。公正証書による契約が成立条件である。その他成立するためにはいろいろな条件が決まっているが、それらについては専門的に解説する書物があるから、そちらに譲る。

 依頼案件は、企業の減損会計に対応するものであった。
 オフバランスにするか。オンバランスにするか。
 どちらにするか 、企業の内部で検討した結果、売却せずに定期借地権の設定によって資産の活用を選択したようである。

 恐らく企業の経理部、総務部、財産管理部、或いは経営企画部の人々が討議を重ね、外部の公認会計士等の意見も聞いて決断したものと思われる。

 超高級住宅地の土地は、一度手放してしまったら二度と手に入れることは出来ないという思惑も絡んだものと思う。

 自らが資金を提供して賃貸マンション等を建てることは、新たな資金の借り入れを伴い、借入金を減らしたい企業に取っては、更に借入金のリスクを増やしたくない。

 定期借地権の設定にすれば、リスクは定期借地権者が背負い、土地所有権者はリスクゼロである。
 土地所有権者にとっては土地使用料として地代が確実に入ってくる。そして定期借地権の期間が満了すれば、土地は更地として戻ってくる。

 これらを充分考えて定期借地権設定による土地活用の選択に、土地所有権者は踏み切ったものと思われる。

 一方、定期借地権者にとっては、土地購入による莫大な資金の必要が無く土地利用が出来る。投下資本は建物建設費のみで済む。

 土地購入による借入金の返済、金利負担を全く考える必要が無く、都心の高級住宅地の家賃は高いから、採算は充分合うことになる。
 家賃は、定期借地権という借地の上に建つ建物であるからと云って、所有権の土地上に建つ建物の家賃より安いということは無い。
 家賃は、土地が定期借地権だろうが所有権であろうが同じである。

 もっとも、以前都内のある借地上に建つ貸ビルの家賃評価で、借地権上の上に建つ建物の賃料は、所有権の上に建つ建物の賃料より安くなるという妙ちくりんな信じがたい理論構成をして賃料鑑定した地裁の鑑定人不動産鑑定士が書いた不動産鑑定書があったが。

 定期借地権者は土地価格がどれ程高かろうが、それを心配する必要はない。
 せいぜい、支払地代が事業収益を著しく圧迫しなければ良いのである。

 定期借地権者は土地価格を考える必要はないかもしれないが、定期借地権の地代を評価する立場としては、やはり、土地価格は地代算出に絶対必要なものであり、地代算出の基礎となるものであるから、土地価格を鑑定評価しなければならない。

 土地価格、固定資産税、都市計画税、建物建築費、建物建築費の借入金返済額と支払金利、建物の賃料収入、必要諸経費、プロパティマネジメントフィー、建物所有権者の利益・投下資本の回収等を考えて定期借地権の地代を評価せざるを得ない。

 案件は保証金等の一時金は一切授受しないという条件の定期借地権であった。

 求められた地代を、土地価格を尺度として土地価格に対する割合を計算すると、即ち地代利回りは、


                 定期借地権地代×12
               ──────────  = 0.016                       
                  更地価格
1.6%であった。

 土地公租公課の倍率を計算すると、公租公課の6.5倍の地代であった。

 その後、私の鑑定評価額に基づいて定期借地権での土地賃貸借契約が締結されたと聞く。

 上記割合が、他の土地の定期借地権地代にも適用出来る普遍性のある妥当な割合かどうか分からないが、定期借地権の地代を求める時の一つの参考になるであろう。

 その後数ヶ月した今年(2006年)3月、霞ヶ関にある政府刊行物センターの書棚を見ていたら、気になる名前の本があったから購入した。
 本の題名は『中小企業事業再生アドバイス事例集』(企業再建コンサルタント協同組合編著 銀行研修社 平成16年3月)であった。2年前の発売の本である。版元に返品されずによくぞ本屋の棚に並んでいたと感心する。

 著者は、同組合の18名の企業再建コンサルタントの方々が、企業再建の事例を各自が述べた18の論文を一冊の本にしたものであった。
 この組合には、不動産鑑定評価に対して先見の明がある不動産鑑定士の幾人かが参加されており、不産鑑定鑑定の知識を企業再建に応用されて事業評価の実績を挙げられている。

 その事例論文の中の一つに、九州の福岡で不動産鑑定のほか、手広く不動産のコンサルタント等を行われている不動産鑑定士の江見博氏が、土地の「所有」から「利用」への発想転換を内容とする論文、「定期借地権事業方式を活用した不動産による資金調達」という論文を発表されていた。

 その論文(p26)で具体的事案を公開されている。
 その中で、定期借地権者の地主に支払う地代は、「路線価格の2%」としている記述を見つけた。

 路線価は、相続税課税評価の価格であり、地価公示価格の0.8ということになっている。地価公示価格が時価を表していると考えると、
        0.8×2% = 1.6%
の地代になる。

 1.6%と、奇しくも私が求めた1.6%の数値と一致することになった。
 偶然の一致か。


 定期借地権に関する鑑定コラムは、下記にもあります。
  鑑定コラム326)「ある地方都市の工場地の事業用定期借地権」

  鑑定コラム366)「宇土市はどこにある」

  鑑定コラム369)「定期借地権に借地権価格は発生するのか」

  鑑定コラム63)「年収倍率5.34倍のマンション価格」

  鑑定コラム599)「鑑定コラムで読まれている記事上位10(2009年10月1日)」


  鑑定コラム612)「価格5割引の神戸市の工場土地分譲」

  鑑定コラム631)「戸建住宅定期借地権の地代はu当り138円」

  鑑定コラム812)「定期借地権付戸建住宅の地代は地価の1.2%(国交省調査)」

  鑑定コラム848)「家賃利回りを超える地代利回りの地代鑑定に驚愕」


  鑑定コラム884)「定期借地権の地代は、公租公課の7倍前後」

  鑑定コラム963)「琴浦町の定期借地権地代利回りは1.1%」

  鑑定コラム1890)「近親者の関係が無くなった場合の地代の東京高裁判決文(平成12年7月18日)」


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